第79話:崇高な覚悟、あるいは歪んだロマン
「……バロ殿。もし、移送を許可して頂けるなら、
私の体を、好きにして頂いても構いません」
沈黙を破り、真砂さんが決然と言い放った。
あまりに衝撃的な発言に、居間の空気が凍りつく。
「ええっ!? 真砂さん、何を言って……!」
「麗さん、私は本気です。日本の防衛のため、
この『ゼット』を確実に管理下へ置けるなら、
私は、自分の身を惜しむつもりはありません」
軍人としての気高い覚悟。仲間のため、
国のためなら辱めすら厭わないというその姿に、
私は不覚にも感動して、目頭が熱くなった。
『断る!! 断じて断る!!』
だが、バロが絶叫にも似た拒絶の声を上げる。
『真砂様、貴女は分かっておられない!
そんな「取引」で得た映像に何の価値がある!
それは単なる記録。ロマンが欠片もありませぬ!』
「……ロマン?」
真砂さんが呆然と呟くと、バロのホログラムが
どこか遠くを見つめるように輝いた。
『本人が無自覚なところで、日常の中に潜む
至高の一瞬をじっくりと記録する……。
それこそが芸術! それこそがロマンなんじゃ!』
「……。」
私は、これ以上ないほど白い目でバロを見た。
さっきの真砂さんの美しい覚悟を、
一瞬でドブに捨てた変態AI。
「真砂さん……。感動して損した。
こいつ、ただの救いようのない変質者だよ」
自衛隊のエリートが必死に差し出した忠誠心は、
おじいちゃんの歪んだこだわりの前に
虚しく砕け散った。




