第78話:移送の拒否、あるいは執事の士気
「麗さん。まだ確定ではありませんが、
このゼットは後ほど基地へ移送することになります」
真砂さんは手帳を閉じ、真剣な面持ちで
今後の見通しを口にした。
「これほどの機体を、民間人が所持し続けるのは
法の観点からも認められませんから」
「……そうですよね。家の地下にマッハ10も出る
凄い乗り物があるなんて、やっぱり異常だし」
私が納得しかけたその時、空中に浮かぶバロが
「カチッ」と異音を立てて激しく拒絶した。
『断固反対いたします! ゼットを基地へ
持っていくなど、言語道断にございますぞ!』
「なっ、何故ですかバロ殿。
自衛隊の管理下にある方が安全でしょう?」
『安全など二の次です! 基地に持っていけば、
レイ様のあの「至高の着替えシーン」を
記録できなくなるではありませんか!』
バロのホログラムが、怒りで真っ赤に明滅する。
『記録ができないとなれば、私の士気は著しく低下。
それはゼットの演算能力の低下、ひいては
機体性能の大幅なダウンを招きますぞ!』
「……。つまり、自分の趣味が満たされないと、
まともに動いてやらないってこと?」
あまりに身勝手で変態的な言い分に、
真砂さんは口をあんぐりと開けて固まった。
国家の安全保障よりも、孫娘の記録。
おじいちゃんの「私情」は、この実用機において
さらに最悪な形で強化されていた。




