第76話:選ばれし波形、あるいは未完のデータ
コクピットの感触を確かめ、地上に降りた私。
入れ替わるように真砂さんがバロの元へ歩み寄り、
切実な表情で願い出た。
「……バロ殿。私の精神波形を登録して、
このゼットに乗れるようにしてもらえませんか?」
その言葉に、バロは無機質なレンズを向け、
静かに、けれど断固として首を横に振った。
『真砂様。それは……不可能ですな』
「……なぜです! 私はMk-IIでも訓練を積み、
適合率も悪くないはずです!」
『特殊な精神波形を正確に読み取る装置は、
あのプロトタイプにしか搭載されておりません。
本来、波形の解析には膨大な時間が必要なのです』
バロは空間に、不完全な波形データを映し出す。
『真砂様がシミュレーターを使用中、
私も密かに計測を続けてはおりましたが、
残念ながら、データが圧倒的に不十分です』
真砂さんは唇を噛み、悔しげに拳を握った。
あの子……プロトタイプが奪われたことは、
単に戦力を失った以上の意味を持っていたのだ。
『このゼットを動かせるのは、
プロトタイプで完璧な波形を記録できた
レイ様、ただお一人にございます』
「……。つまり、私しかいないってことなのね」
真砂さんの肩に置かれた重圧が、
そのまま私の背中へと移ってきた気がした。
世界でたった一人。私がやらなければ、
この「ゼット」はただの鉄の塊でしかない。




