第62話:断たれた絆、あるいは盲目の巨人
「……でも待って。男の人じゃ、
ガソタムを動かすことはできないんじゃ?」
走行する車内で、私はスマホに向かって
素朴な疑問を投げかけた。バロはどこか
苦々しい電子音を響かせて答えた。
『レイ様。あのスーツを着用してさえいれば、
例え男であろうとも機体の起動は可能です。
……ただし、私の補助が一切受けられませんがな』
おじいちゃんの「私情」による拒絶。
けれど、それはただの「嫌がらせ」以上の
深刻な事態を招いていた。
「じゃあ、バロが今すぐガソタムを止めてよ!
あんたの体なんだから、できるでしょ!?」
私の叫びに、バロはかつてないほど
焦燥に満ちた声を返した。
『それが……不可能なのでございます。
無理やり操縦系を奪おうとした尾田曹長により、
現在、機体側のAI回路が物理的に破壊されました』
「えっ……!? 壊されたの?」
『はい。アクセスも、現在地の特定も不能。
今、あの子は目隠しをされたまま
暴走する、ただの巨大な暴力と化しております』
私のスマホの中にいるバロは、
言わば魂だけの存在。肉体との繋がりを絶たれ、
「本物」はどこへ向かうかも分からぬまま、
春の空へと消えてしまった。
おじいちゃんの遺した最強の矛が、
誰の手にも負えない怪物として放たれたのだ。
私は窓の外を見上げ、見えない巨人の影を
探して震えることしかできなかった。




