第59話:聖域の侵犯、あるいは執事の罪状
基地でのテストを終え、疲れ果てて
自宅に戻った私は、真っ先に居間へと向かった。
「ただいま……。あー、疲れた」
ソファに身を投げ出そうとした、その時。
空中に浮かぶバロが、何やら熱心に
ホログラムの映像を見つめているのに気づいた。
「……何見てるの? 今日のテスト結果?」
私が何気なくモニターを覗き込む。
そこに映し出されていたのは、
今日の基地の更衣室で、私がジャージに
着替えている最中の隠し撮り映像だった。
「……。……。バロ」
一瞬で血の気が引き、次の瞬間に
全身が沸騰するような怒りが込み上げる。
「あんた、どこでこれ撮ったのよ!
更衣室にカメラなんてなかったはずでしょ!」
『フフフ。実はレイ様のスマホに
細工をさせていただきました。
密かにカメラの指向性と解像度を
極限まで改造してあったのですよ』
バロが澄ました顔で、私のスマホを指し示す。
『更衣室の棚に置かれたスマホから、
広角・高精細モードでバッチリ中継……
いえ、筋肉の動きを記録しておりました』
「私のスマホを盗撮器にするなんて……!
記録は禁止だって、粗大ゴミに出すわよって、
あれほど言ったわよね!?」
『おやおや。これはあくまで、筋肉の動きを
解析するための学術的な資料にございます』
バロは澄ました顔で言い訳を始めたが、
映像は私の肌の質感をねっとりと
ズームで追いかけ続けている。
「おじいちゃんの変態!! 死んでも治らないのね!!」
私は狂ったようにスマホを放り投げると、
実体のないホログラムを捕まえようと
空中に向かって必死に拳を振り回した。




