第44話:執事の指先、あるいは新春の紅
結局、ナノマシンの変身は断固拒否して、
実体のある本物の振袖を着せてもらうことにした。
『やれやれ。レイ様は心配性でございますな。
では、こちらのアームで着付けをいたします』
壁から伸びてきた精密な極細アームが、
私の体に滑らかな手つきで布を当てていく。
長襦袢から始まり、帯の締め上げに至るまで、
その動きには一切の迷いも、無駄もない。
「……ねえ、おじいちゃん。なんでこんな
プロ級の着付けの方法なんて知ってるの?」
思わずバロを通して、空の向こうへ問いかける。
『さあ……。源造様は「女性を最も美しく見せる
黄金比は、和装にこそ宿る」と、
心血を注いでプログラムを組んでおられました』
「……本当、ろくなことに心血注がないんだから」
呆れながらも、鏡の中に映し出される自分に、
私は思わず言葉を失った。
苦しくないのに、一分の隙もなく整えられた着姿。
桃色の生地に描かれた瑞祥の柄が、
私の肌を驚くほど白く、美しく引き立てている。
『……実に見事な出来栄えにございます、レイ様。
今日ばかりは、わ……私も見惚れてしまいますな』
バロの声が、一瞬だけおじいちゃんの
優しいトーンに重なったような気がした。
疑問は尽きないけれど、仕上がりは文句なし。
私は小さな巾着を手に、
軽やかな足取りで初詣へと出かけることにした。




