第7話:甘い罠、あるいは情報の檻
険悪な空気が流れる居間で、九条さんが静かに
カップを置き、私の方へ優しく身を乗り出した。
「麗さん。……今、街を歩いていて
自分の顔を見ないことはないわよね?」
図星を突かれ、私は言葉に詰まった。
さっき見てきた、勝手に使われている広告の数々。
「これはあなたの為でもあるのよ。もしあなたが
政府に協力してくれるなら、私たちは国家の全力をもって
徹底的な情報規制を行うわ」
情報規制……? 聞き慣れない言葉に、私は首を傾げる。
「ネット上の動画や、街に溢れるあなたの写真……。
それらを全て『国家機密』として削除し、
二度と表に出ないように封じ込めるの。そうすれば、
これ以上あなたが有名になることはないわ」
九条さんの言葉は、今の私にとって
何よりも甘い誘惑として響いた。
「本当に? 本当に全部、消してくれるの?」
「ええ。ただし、そのためにはあなたがガソタムの
『教育係』として、公的に私たちの管理下に
入ってもらう必要があるの。……悪い話ではないはずよ」
九条さんは、ホログラムで浮かぶバロを鋭く見据えた。
「……もちろん。そこにいるバロさんにも、
技術アドバイザーとして御協力頂きますけどね」
その瞬間、バロの光がびくんと跳ねた。
自由を手に入れるために、自由を売る。
私は、目の前に差し出された「毒入りの林檎」を
見つめたまま、逃げ場のない選択を迫られていた。




