第5話:鋼鉄の拒絶、あるいは野田の告白
自宅の玄関前に立っていたのは、九条さんだけではなかった。
彼女の隣には、サイズの合った濃紺のスーツを隙なく着こなし、
きちんとセットされた髪と鋭い眼光を湛えた、
どこか軍人を思わせるような厳しい佇まいの男がいた。
その男の放つ独特の威圧感に、私は思わず気圧される。
九条さんに促され、とりあえず二人を居間へ通した。
バロが淹れた茶が卓に並ぶ。けれど、その男は一口も
手をつけようとはせず、姿勢を正したまま私を射抜くように見据えた。
「……古谷さん。今日はあなたに、どうしても
話を聞いてほしいことがあって彼を連れてきたの」
九条さんが静かに口を開くと、男は頷き、
深く、そして芯の通った響く声で自己紹介を始めた。
「初めまして。内閣府特命担当官、野田輝だ。
古谷麗さん、単刀直入に、かつ正確に現状を報告させてもらう。
まどろっこしい官僚答弁は、私の性に合わんのでな」
野田さんと名乗ったその人は、眉間に深い皺を寄せ、
苦渋を噛み潰したような表情で話を続けた。
「接収した例の機体、ガソタムのことだ。
我々は国の面目をかけて、あらゆる分野の専門家と
最新の機材を投入し、あの機体の解析を試みた。
だが……正直に認めよう。我々の完敗だ」
野田さんは一瞬、悔しげに視線を落とし、すぐにまた私を睨んだ。
「ネジ一本、装甲の剥離一枚すらできんのだ。
ドリルは折れ、レーザーは弾かれ、ハッチの電子ロックすら
掠りもしない。……あんなものは、もはや現代科学の
常識を超えたオーパーツと言わざるを得ない」
おじいちゃんの言っていたことは、ハッタリじゃなかったんだ。
あの子は、世界中の知恵を集めても壊せない「無敵の箱」。
「現在、政府内では解体を完全に断念し、方針を転換した。
あの機体をそのまま自衛隊の管理下に置き、
我が国の絶対的な防衛力として、即戦力に転用する……。
それが、上層部で閣議決定されようとしている現状だ」
野田さんの言葉は、宣告のように重く居間に響いた。
平和を願って戦ったはずのガソタムが、国の兵器に。
私は、冷めかけた湯呑みを握りしめることしかできなかった。




