第100話:策士の余韻、あるいは紅茶の香り
ようやく静まり返った居間で、私は九条さんと共に、
バロが淹れてくれた温かい紅茶を啜っていた。
「……バロ。さっきのマスコミを追い払ったあの光、
ただの目潰しじゃなかったわよね? みんな変だったわ」
私の問いに、バロのホログラムは慇懃に一礼して見せた。
口調はいつもの、澄ました執事のものに戻っている。
『お目が高い。あれはフラッシュの中に、特定の周期で
細かい点滅を混ぜ、脳へ直接働きかける
「視覚誘導型・催眠デバイス」でございます』
バロは淡々と、恐ろしい機能について説明を続ける。
『光を見た者は脳がフリーズし、暗示にかかりやすくなります。
「仕事など放り出して早く寝たい」という強い暗示を、
皆様の脳内へ丁寧に流し込ませていただきました』
「……おじいちゃん。昔より性格悪くなってない?」
九条さんも呆れ顔で、けれど楽しそうに笑う。
「あの方は昔から、科学を悪戯に使う天才だったわ。
でも、没収されたガソタムの方はどうするつもり?」
『フフフ……。あんな物、くれてやればよいのです。
ハッキングによれば、政府は手に負えず解体処分に
決めたようですが、果たしてまともに壊せますかな』
バロは皮肉な笑みを浮かべ、さらに言葉を重ねた。
『ネジの一本に至るまで、源造様が設計した特殊合金。
現在の技術では、傷をつけることすら不可能でしょう』
おじいちゃんの用意周到な意地悪さに呆れながらも、
私はようやく、肩の力を抜いて一息つくことができた。




