凱旋
う広場は興奮した市民たちで埋め尽くされていた。
白亜のプエルト宮殿の中では、ディオス教の神父の中でも地位が高い大司教の前で、新郎新婦が誓いの言葉を読み上げていく。
「新郎カルロス・シュパーニエン。あなたは健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、妻を愛し、敬い、いつくしむことを神の前で誓いますか?」
「誓う」
カルロスは鷲のように鋭い目を閉じ、厳かにうなずく。
「あなたは健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、妻を愛し、敬い、いつくしむことを神の前で誓いますか? 新婦エカチェリーナ・ルス」
「はい、誓ゔだ」
トルティーアの船から助け出されたエカチェリーナは碧の瞳を伏せ、下ろされた銀髪を頭の左右に垂らしながら同じようにうなずく。
式場にひるがえるのは二枚の旗。
王冠が描かれたシュパーニエンの国旗と、ライ麦が描かれたルスの国旗。
「カルロスの結婚式って、ルスの王女とだったのか」
「そうね、パウロ。わたくしもびっくりしたわ」
二人の誓いの口づけを、参列席に座ったパウロとクリスティーナが拍手しながら見守っている。
パウロは以前プエルト宮殿に来た時と同じ、肩口から編み上げた紐を下げ、胸に勲章を飾った礼装姿。
クリスティーナは深紅のビロードの生地に銀糸のふち飾りのついた衣装。あたたかい色調の金髪は何本かの三つ編みに編みこまれた後に真珠の連をからませながら結いあげている。右の手首には白金の細工にサファイアが並ぶ腕輪がはめられていた。
いつの日か想い人との夢が叶った時に身に着けようと思っていたとっておきだったが、王族の結婚式ということではめてきた。
それに礼服を着て隣に座るパウロの存在を感じていると、夢に見ないことはないその日が近づいてくるようにすら感じられる。
「……お二人ともお綺麗ですね、兄君」
パウロの左隣に座ったデスピナがそう語りかけてくる。
撤退後、彼女はコンスタンティノーポリに近いイタリアーナにとどまることになった。
初めの頃こそツンケンとしていたが、立ち寄ったマルタ島の激戦の痕を目の当たりにし、戦に向けて次々に建造・修理される造船所を見学し、パウロの戦いぶりと剣の冴えを見るにつれ今ではすっかり彼に心酔していた。
剣の稽古をつけてもらっていることもあり、今ではパウロを義理の兄のように慕っている。
やがて披露宴の時間となり、聖堂から場を移して会食の時間となった。
花嫁を連れたカルロスがイタリアーナ諸侯が座る席に挨拶に着て、握手と言葉を交わしていく。
エカチェリーナの表情は幸せそのもので、会う人会う人にのろけていた。
「好色と聞いていたが素晴らしい方だっただ。奴隷船から助けだじでくれだ時は、まるで物語の王様みだいにみえで、本当の王様だと知っだ時は、さらにびっくりしただ」
「彼が今回の縁談の相手だと知っで、運命としか思えなかっただ」
「だども、現実はすべて物語みだいに、うまぐはいがねえだな」
エカチェリーナの視線が、窓の外に向けられる。
「死んでいっだ家臣だぢは、もう戻るごとはねえ」




