ウルバンの正体
ウルバンこと松田健は兵器マニアだった。幼少期から飛行機や軍艦のプラモが大好きだったし、ゲームもロールプレイングやアクションよりも戦略ゲームを好んだ。
趣味は更に高じて兵器が実際に使われた戦場にまで関心は広がり、大学では戦国武将から近代戦の将軍の戦記まで暇を見つけては読み漁り、文学部の卒論ではクラセヴィッツの戦争論をテーマにしたほどだ。
そんな彼が心臓発作で突然死し、転生を遂げたのは大学の卒業式での会場。
彼を転生させた神は「ゴディメント」と名乗った。
「ゴディメント……? 僕に何の用だ」
「まずはワガハイの話を、聞くのだ」
ゴディメントと名乗った神は、果ての見えない雲の上のような空間で訥々と語りだす。
「この世界には、かつて神はいなかった」
だが初めて神と言うべき存在が現れたのは、ディオスだという。
ディオス教がいつ始まったのか、正確な年は誰も知らない。
神であるディオスは荒れ野をさまよっていた人を憐れんで言葉を与え、後に火をおこす方法と水を得る方法を授けたと言われる。
言葉と火と水を得た人は次第に数を増やし、畑と町を作って発展していった。
初めイタリアーナ北の山脈に起こったこの宗教は、土着の習俗や信仰を取り入れながら北の大陸一帯に広まっていった。
教義の不一致や各国の利害を背景にいくつかの宗派に分裂はしたものの、北の大陸の人口の大半は今もディオス教徒である。
「へー」
ゴディメントの話を松田健は耳をほじりながら聞いていた。宗教戦争に興味はあるが宗教の内容にはあまり関心がない。
だが空気を読まないゴディメントは、話を続けていく。
大きな変化が訪れたのは約百年前。
北の大陸の東、砂漠が国土の大半を占める国トルティーア。
この地にもディオス教は広まっていた。だが人が増え経済が発展すると必ず起こる身分と貧富の差は、宗教の力をもってしてもいかんともしがたかった。
民衆の不満に答えるかのようにこの地に新しく現れた新興宗教、タンジュ教。
金持ちを殺してでも財産を平等に配分する教義は瞬く間にトルティーアじゅうに広まり、ディオス教徒はタンジュ教への改宗を強制され、従わない者は奴隷とされた。
ディオス教徒には平等に財産は配分されなかった。平等なのはあくまでタンジュ教徒のみなのだから。
「それで? そのディオスとタンジュっていうのが何の関係があるの?」
イライラを隠そうともせず問いかける松田健に、ゴディメントは淡々と答える。
「実はワガハイは…… かつてディオスに負けて封印されたのだ。考えが享楽的すぎる、と言われてな。だが新たに現れたタンジュという神の対応のため封印が弱まった」
ゴディメントの手に光が宿り、松田健の額に触れる。彼は暖かな存在で体を満たされたのを感じた。
「これは?」
「ディオスの神が与えたのと同じ、『秘蹟』だ。ワガハイからの贈り物だ」
「チートってやつじゃん!」
松田健はこの場に呼びだされ、はじめて高揚した。
「今度は、タンジュ教について少し話そう」
タンジュの過激な思想は他国にも波及し、西の国境にあったグレイチャという国にまずその手は伸びた。トルティーアの勢いの前に次々に領地を失うグレイチャではディオスに救いを求めるものと蔑むものに別れ、対立。
すすんでタンジュ教に改宗してトルティーアの庇護を受けようとする者までが現れた。
だがそれでは終わらなかった。
グレイチャだけでなく南の大陸の北岸一帯を植民地と化したトルティーアは、海伝いにシュパーニエンとイタリアーナ、グレイチャへの侵略を開始したのである。
南の大陸との距離が近いシュパーニエンでの被害は特に甚大で、あっという間に本土に上陸され次々と領地が侵された。
祈っていても助けてくれない。
人々に広がるその思いと共にディオス教の威信が地に落ちかけた時、ディオスの神は言葉と水と火に次ぐあらたな力を授けた。
それが「秘跡」。トルティーアと国境を接するイタリアーナとシュパーニエン、グレイチャの王族が得た力。秘蹟によってシュパーニエンは反撃を開始し、イタリアーナは陸中海の制海権を回復し、グレイチャは首都近郊の領土を守り続けた。
「そこでワガハイは命じる。ディオス、タンジュの信徒どもにワガハイの力を見せつけてほしい」
松田健は自分が所有する秘蹟の力を確認しながら、兵器と戦記の知識を総動員して必死にどうするべきか考える。
(そもそもコイツに従って大丈夫なのか? でも下手したらこの場で殺されるかも。とりあえずは協力するか。となると、一番わかりやすいのは)
「とりあえずグレイチャって国の首都を落とす。でかい城壁だし、僕のチートも活かせそうだ」
「おお、ぐっどあいでぃあだ。さすがワガハイが選んだ男」
ゴディメントが手配してくれたのか、トルティーアの王宮でスムーズにマホメッド十七世に謁見できた松田はウルバンと名乗って自分の新兵器のデモンストレーションを行った。さらに同型の大砲を生産できると知ったマホメッド十七世は狂喜し、あっという間に彼の寵愛を得るに至ったウルバンはコンスタンティノーポリ戦に参加した。
そこで火を噴いた彼の大砲。
敵の抵抗も激しかったが、不落の要塞を謳われたコンスタンティノーポリを陥落させることとなる。




