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イタリアファンタジー戦史   作者:


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35/42

婚約者

 先手を打ったのはトルティーア。

 新式のウルバン砲が、長い射程を活かしてイタリアーナ・シュパーニエン連合軍の船に一撃を浴びせる。

「打て打て、この無能ども! マルタ島だけが僕の戦いじゃないって、教えてやれ!」

 低い鼻に平たい顔立ちのウルバンが、叱咤しながら砲兵を指揮する。マルタ島での戦いでは移動が困難で真価を発揮できなかった巨砲は、船という移動式の砲台に据えられることでいかんなくその猛威を振るっていた。

 当たればコンスタンティノーポリの城壁を破壊するほどの大砲である。

 小型のガレー船は一撃で大破し、帆柱が折れ船尾が大きく傾いた。

 大型のガレー船は沈みはしないもののその進路を大きく乱された。

 だが直撃をまぬがれた船は横腹から突き出た櫂を百足の足のように動かしながら突っ込んでくる。

「お返しだ! 陸中海最強の海軍がどの国なのか教えてやれ!」

 イタリアーナの巨船、ガレアッツアから反撃の火花が放たれる。

 射程は劣るものの兵の錬度は劣らない。トルティーアの船が次々に火の手をあげ、歩みを止める。

 結果的にウルバン砲以上の損害を敵に与えることに成功した。

 だが海戦は砲の打ち合いだけで決まるものではない。

 互いの顔が見えるほどの距離に近づいた両軍の船からは矢が次々に放たれ、甲板の兵を串刺しにしていく。

 それでも互いの船の歩みは止まらない。特にイタリアーナ海軍の動きは巧みで、漕ぎ手が巧みに櫂を操りながら敵の背後に回り込み、矢を放つ。

 トルティーアの甲板に立つ兵の数が立て続けの悲鳴と共に青い海面に落ちていく。さらに火矢で帆が燃え、帆柱や帆桁に火が回って炎上する船も見える。

「いまだ! シュパーニエンの兵の勇猛さを教えてやれ!」

 カルロスの号令一下、船の漕ぎ手が狂ったように櫂を漕いでいく。

 船団が入り乱れ波立つ海を進み、船の側面が擦れるほどに近づいた。お互いの船を操縦する櫂がかみ合って動きが止まる。

「行け!」

 漕ぎ手の頭越しに槍や剣を手にした将兵が敵の船に次々と乗り移っていく。

 甲冑を着こんだ騎士が甲板から跳び、敵の漕ぎ手を一刀の下に切り捨てる。ほぼ同時、ターバンを巻いた兵の半月刀が背後から襲ってくる。

 血で血を洗う生身の兵同士のぶつかり合いが、始まった。



 旗艦に控えていたクリスティーナの周りにも、砲撃をくぐりぬけたトルティーアの船が近づきつつあった。

 帆柱も櫂までも深紅に塗られた旗艦は、敵味方入り乱れる船上にあってもとりわけ目だつ。だが旗艦が怯えて引っ込んでいては将兵を勇気づけることなどできはしない。

 勝利とは、リスクを背負って初めて得られるものなのだ。

「フォーコ・フリーチャ」

 愛用の弓から放たれた神の秘蹟が、トルティーアの大型ガレー船に突き刺さる。数百の矢と火矢により兵が斃れ、船が火に包まれても兵の迅速な入れ替えと見事な消火作業で、旗艦の目と鼻の先にまで接近してきた数少ない船だ。

 それが矢羽までも深紅に塗られたたった一本の矢で、一瞬のうちに火だるまと化した。

「ぎゃあっ!」

「あつい、あつい!」

「助けてくれ!」

 帆も甲板も業火に包まれたガレー船から、次々と将兵や船乗りたちが海に飛び込んでいく。

 これがイタリアーナがディオスの神から与えられた秘蹟。

 異教徒との闘いの中のみで発動する、神の火。

 だが今回はシッタ・デ・マーリでのデモンストレーションとは違い多くの生きた人間が船に乗っていた。

 ほとんどは海に飛び込んで難を逃れたようだが、数多くの者が全身を焼かれ、のたうち回るのが見えた。

「女王陛下、これを」

 戦場でもメイド服に身を包んだヨハンネは、顔色一つ変えず二の矢をクリスティーナに手渡す。それを弓につがえるクリスティーナの手にためらいはなかった。

 やらなければやられる。すべての人を救いたいという甘い考えは、コンスタンティノーポリが陥落した際にすべて捨てた。

 悲鳴をできるだけ聞かないようにしながら、クリスティーナは二発目を放った。

 赤地に半月の旗を掲げた船は次々と炎上していくが、それでも漕ぎ手が船の横腹から突き出た櫂を操る手はとまることはない。

 手を止めれば櫂の漕ぎ手を打つ鞭が剣となって首に振り下ろされるのだ。トルティーアの船を進ませる漕ぎ手たちは皆、奴隷だった。

 海戦に慣れないはずのトルティーアの軍の中で、見事な操舵と櫂の操作でフォーコ・フリーチャの秘蹟とガレアッツアからの砲撃を巧みにかいくぐる船が数隻あった。

「あの深紅の船だ! 進め進め! ひるむものは斬り捨てろ!」

 その中の一隻に乗るのがトルティーアの将軍、イザク・パシャだった。

 マルタ島での敗北の責任を追及されはしなかったものの、他の将軍たちが自分を見る目が冷たくなっていることは事実で。

 この戦いで汚名を返上しなければ現在の地位が危うい。

 櫂を漕ぐ奴隷たちの背中に鞭を振り下ろさせながら、必死にクリスティーナの乗る船へと近づいていく。

 他の船が盾となり、運よく櫂がかみ合う位置にまで接近した。

 弓を引くクリスティーナを間近で見据えたイザク・パシャは、半月刀を握る手に力を込める。

「あの女を捕らえれば」

 同時に、むき出しになった二の腕と肩、弓を持つ左腕の脇に視線が吸い寄せられる。


「わが婚約者に対しずいぶんと無礼な振る舞いだな!」


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