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イタリアファンタジー戦史   作者:


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28/40

暑さ

 翌日もその翌日も攻撃は行われたが、マルタ島の要塞はなかなか落ちなかった。

「くそ、くそっ!」

 初日の敗北では冷静だったイザク・パシャも、徐々に怒りの声を表すことが増えていく。

 マルタ島に張られた日差しを遮る天幕の中で、兵や愛妾たちに当たり散らしていた。

「コンスタンティノーポリの城壁を破壊したウルバン砲さえあれば、とっくにあんな要塞など陥落させていたというのに……」

 マルタの将兵たちが最も恐れていたのは、『カステッロ』で守られたコンスタンティノーポリの城壁すら破ったと言われる新兵器である。

 だが城壁から見える大砲は、いずれも小型の旧式のものばかりだった。

 城壁を軽く削りはするもののコンスタンティノーポリのように木っ端みじんというわけにはいかず、大砲の飛んでこない夜に城壁を応急処置するだけのゆとりは十分にあった。

 それはマルタ島の地形に原因があった。大砲が威力を発揮するにはそれを固定する地盤が強固であることが条件。だがマルタ島は平地がほとんどない岩石地帯で足場も不安定になる。

 城壁を狙ってくる砲弾もほとんどは狙いが不正確で、発射時の反動で砲身がぶれるのが城壁の上からもはっきりと見て取れた。

 そこに城壁からの大砲が反撃する。数は少ないが強固な足場に支えられており、狙いの正確さは比べ物にならない。

「ええい! この新兵器、ウルバン砲はまだ運べないのか!」

 新兵器をトルティーアに持ち込んだ張本人、ウルバンが苛立たし気に砲兵たちを叱咤する。

 細い目に低い鼻という独特の風貌は兵たちに混じっても良く目立つ。

 以前の軍議で戦場に出たことがほとんどない、と言われたことが腹に据えかね、砲兵士官としてマルタ島にやってきていた。

「無理ですよ、こんな重いものをこんな場所に持ち込むのは…… いったい他の大砲の何倍あるんですか」

 だが牛を操る兵の一人が愚痴る。汗が額や腕からしたたり、岩石の地面にいくつもの染みを作っていた。

 新兵器ウルバン砲の砲身は他の大砲の数倍、重量は十倍という巨砲である。

 特注の台車に乗せて牛に曳かせても、凸凹が多く岩石だらけのマルタ島ではすぐに立ち往生してしまい、とても大砲の射程内にまで移送できない。

 結局要塞の攻撃に参加できたのは比較的軽い旧式の大砲だけだった。

 さらに、彼らの敵は兵だけではなかった。

「あっちい……」

「死ぬう……」

 照りつける日差しの中、トルティーアの兵たちの愚痴が響く。

 当初は将たちが注意していたものの、すぐに彼らも愚痴をこぼす側へとまわった。

 砂漠育ちで暑さに慣れているトルティーアの兵でさえ、マルタ島の気候には病人が続出している。

 今日も病人のための天幕がまた一つ増やされていた。

 おまけに島内にあった井戸は侵攻前に全て潰され、水の補給にも事欠く有り様。

 全土がはげ山に近いマルタ島では、食料の現地調達も至難。

 トルティーアの兵たちは渇きと飢え、それに暑さと戦わねばならなかった。

 無論海路で食料は輸送しているが、陸中海最強の海軍と言われるイタリアーナの船にかかってはそのほとんどが沈められてしまう。

 普通の戦ならば脱走兵が続出するところだが、逃げ出そうにもマルタ島は孤島。船には半月刀をちらつかせた精鋭部隊が見張りに立っており、近づく兵は容赦なく首が飛んだ。

 一方、イザク・パシャは天幕内で果物の搾り汁を注がせながら爪を噛んでいる。

 空の盃にお代わりを注ぐのは、体の線が透けるほどの薄い衣をまとった女児。イザク・パシャの寵姫となったことで入浴や化粧が許可され、特徴的な蒼い髪にも艶が出てきた。

「遅い!」

 だがイザク・パシャの気まぐれで怒鳴りつけられるたびに体を震わせ、その目に涙がにじむ。だがその姿は彼の情欲を大いに刺激した。

 女児の腕を強引に取り、自分の胸元へと引き寄せる。数か月前から彼女は抵抗しなくなった。

 一方、要塞内。海風が吹きつけるため岩石からの照り返しにさらされるトルティーアの兵よりは幾分か快適だったが、徐々に士気は低下し始めていた。

 返り血に染まった甲冑をまとい、負傷した足を引きずって弩を構える兵。五体満足な兵は崩れかけた城壁の修復にまわっていた。

 立っている兵はまだマシな方で、多数が武器を握ったまま座り込んでいる。

 増え続ける死傷者に、乾いたパンとチーズを水か葡萄酒で流し込むだけの食事。

 戦場ではたとえ優勢でも自分たちが不利だと思い込んでしまうことは多い。見渡す限りが敵になる要塞の防御では特にそうだ。

「見て。トルティーアの兵だって負傷してる」

「あ、あそこの兵、逃げ出そうとしてる。撤退が近いかもね」

 士気の低下に対応するため、パウロは頻繁に兵たちを鼓舞していく。

 時には兵と共に城壁から見下ろしながら、時には城塞の一室に集められた負傷者の手を取って言葉をかけていく。

「名誉の負傷だ。勇敢な将兵がいればイタリアーナの未来は明るい」

 パウロも王族であり、王族直々に手を取って言葉を賜る栄誉に末端の兵たちは涙を流す者さえいた。

 クリスティーナやヨハンネから教わったことだ。


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