総攻撃
切り立った崖に作られた城壁から放たれる砲弾は、高低差という地の利を活かし次々に上陸してきたトルティーアの兵たちを吹き飛ばしていく。
海岸沿いの岩場は開けており身を隠すものもない。次々と白いターバンの兵たちが空に舞い、肉片を飛び散らせていく。
だが砲弾が発射される合間を縫って、次々とトルティーアの兵たちは上陸していく。
数百は肉塊に変えたはずだが、瞬く間に海岸は白のターバンと半月の旗で埋め尽くされた。
肉片を脇に押しやり、再びトルティーアの兵たちは進軍を開始する。先頭に立つのは装備も武器も不揃いな不格好な兵たちで、行進の足並みも乱れがちだ。
植民地の奴隷や略奪に目がくらんで集まった賊たちだった。
その後ろを牛にひかせた大砲を守るように進む白いゆったりとしたカフタンを着た一般兵が続き、最後を一糸乱れぬ行進で進むのが精鋭部隊。
白ターバンに緑のチョッキ、革のベルトに半月刀を差していた。
彼らを率いるのがトルティーア将軍、イザク・パシャ。顔の下半分を覆うひげからのぞく目元にはしわが浮かんでいるものの、チョコレート色の肌の下の筋肉は衰えを感じさせない。
上陸して海岸沿いの平地を抜ければ、ほぼはげ山のマルタ島とて身を隠す岩場や木々がまばらに存在する。
巧妙に身を隠しながら、トルティーアの兵たちはやがて要塞の包囲を完了した。
牛にひかせて運んできた大砲は城壁に向かって狙いを定めており、装備の不揃いな兵たちを先頭にして今か今かとイザク・パシャの総攻撃の合図を待っていた。
やがて太陽が中天に達する。ほぼ真南から照り付ける太陽が、一日の中で最大の輝きを放つ時刻となる。
そして太陽は、トルティーアのような砂漠の民にとっては不吉の象徴。
イザク・パシャの総攻撃の命が下された。
喊声と共に突っ込んでくるのは奴隷と賊の混成部隊。崖を這いあがり、城壁に縄梯子をかけて登ってくる。
それを東・北・南の城壁はイタリアーナ兵が、西の城壁はシュパーニエンの兵が必死に応戦していた。
遠くの兵には弩で矢を放ち、這い登ってくる兵たちは城壁の上から槍で突き落としていく。
大砲が発達したとはいえ地形の高低差を存分に活用できる弓矢が武器として廃れたわけではない。
だが放たれるのは通常の矢のみで、クリスティーナのフォーコ・フリーチャのような技はない。ディオスの神から祝福を受けた王族のみが使えるのだ。
それでも城壁付近のあちこちで悲鳴と喊声が入り混じり、崖の下はたちまち死体で埋まった。
だがそれをものともせずにトルティーアの兵たちは突っ込んでくる。
倒されても倒されても、味方の死体を踏み台にして駆けあがってくる。
中には逃げ出そうとする兵もいたが、背後で控えている精鋭部隊に半月刀で脅されて泣く泣く戻ってくる。それでも逃げ出そうとする兵はイザク・パシャや精鋭部隊の半月刀で容赦なく殺された。
「なぜ逃げる? 奴隷や賊に逃げる権利などあると思っているのか」
イザク・パシャは血に染まった半月刀をさらに一振りする。敵でなく味方の血で顔の下半分を覆うひげが染まった。
「貴様らの生きる道は、ただ一つ」
半月刀で城壁を指した。切っ先から血が滴り、岩場に赤黒いシミを作る。
「あの要塞を、落とせ」
だがイザク・パシャは無能な将軍ではない。底冷えのする声に続き、陽気にすら聞こえる声で兵たちを鼓舞した。
「進め進め! この城壁の先にはイタリアーナ本土への道がある! 首都を落とせば貿易で儲けた金銀財宝が山とあるのだ!」
ある者は恐怖をあらわにしながら、ある者は欲望に目をぎらつかせ、再び城壁への攻撃を敢行する。
それでも城壁を乗り越えた兵は一人もおらず、ただ死体の山が築かれていった。
兵の一人がふと空を見上げる。
澄み切った空は美しく、雲は遥か彼方へと運ばれていた。
奴隷と賊の部隊の攻撃が一段落したころに、トルティーア側の大砲が火を噴く。
城壁に次々と命中する砲弾は石造りの城壁をたやすく削り、破片を散らしていく。
イタリアーナ兵もシュパーニエンの兵も、耳をふさいで姿勢を低くして耐えることしかできない。
顔を上げることも敵兵の姿を捕らえることもできない。
その隙に、白いカフタンの正規兵と緑のチョッキと半月刀の精鋭部隊が悠々と近づいていた。
「ゆけ! タンジュの加護を受けた勇敢な兵たちよ!」
先ほどとは比べ物にならない速さで、トルティーアの兵たちが城壁にとりついていく。




