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イタリアファンタジー戦史   作者:


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働きたくないでござる

「うう…… もう働きたくありません……」

「女王陛下、お茶にするっすか? 眠気を覚ますハーブティーっすよ」

 羽ペンを投げやりにインク壺に差し、胸がつぶれるのも構わずオーク材の机に突っ伏す。そんなクリスティーナを付き人のヨハンネがなだめていた。

 マルタ島から帰ってきてからのクリスティーナの日々は多忙を極めている。

 戦争とは兵がぶつかり合う戦闘だけを指すのではない。後方での書類仕事も立派な戦争だ。

 シュパーニエンとは別の、北の山脈を越えた国々への同盟もしくは中立の要請。

 トルティーアに忍ばせてある諜報員からの報告書の閲覧。

 首都や近隣の街を回っての国民の鼓舞など、女王たるクリスティーナにしかできない仕事はいくらでもあった。

 ヨハンネもこう見えて高い位の貴族の出なので手伝えるところは手伝っているが、それでもクリスティーナの多忙は変わらない。

「おおお、女王陛下、報告書です……」

「どうもありがとう、アバンディオ。下がっていいわ」

 前宰相の息子であり役職は一等書記官のアバンディオが抱えてきた書類の束にヨハンネが素早く目を通し、まとめられるところを要約して伝える。

「他国との同盟は、やはり色よい返事は難しそうですね」

「そうっすね。トルティーアの台頭と侵略に対し大変憂慮しているだの、無難な言葉ばかりで肝心の援軍は送らない、と」

「国境の遠い国々にとっては対岸の火事というところなのですね……」

 北方の山脈を隔てた神聖国とは教義の違いで関係が悪化している。

 東方のトルティーアは言わずもがな。

 南方には陸中海を隔てて広大な大陸が広がっているものの、大陸の北岸一帯は近年トルティーアの植民地となってしまった。

 残るは。

「トルティーアの北国のルス王国はどうっすか? トルティーアと南部で国境を接しています」

 ルス王国はトルティーアの北方にある大国で、冬の間は国土の大半が雪と氷に閉ざされる。だが春になると白い大地は数日で緑におおわれ、寒冷な地方でも育つライ麦の栽培が盛んになる。

 イタリアーナとはライ麦とイタリアーナ特産のガラスや上質の葡萄酒を取引する貿易相手国ではあるが、距離が離れ利害が一致しにくいこともあって友好国ではない。

「距離も遠いため、まだ返事がきません。途中で使者がトルティーアの兵に捕捉された可能性もありますが…… 国政に大きな影響を持つと言われるルス王国の第一王女は温和な性格で争いを好まないとも聞きますから、そのせいかもしれません」

 それを聞いてヨハンネは天を仰いだ。

「マルタ島の戦局はどう考えても不利。数の不利を覆すためのさらなる同盟も難しい。おまけにクリスティーナ様は遠くにお嫁に行かれる……」

 主の顔が曇ったことに気づき、ヨハンネは言葉を止めた。

「申し訳ありません、女王陛下」

 エプロンドレスの前で手を組み、深々と頭を下げる。その堂に入った振る舞いは普段のそれとはまるで別人だ。

「いつも通りでいいのよ、ヨハンネ。わたくしに自然体で接してくれる数少ない人の一人なのだから」

 明るい金髪の下で輝く、いまだにあどけなさを残した笑顔。

 このイタリアーナを背負って立つ、まだ十代の若き女王。

 そんな彼女の美しさを見ていると、出会った時のことがヨハンネの脳裏によみがえってくる。


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