コンスタンティノーポリ2
トルティーアの王、マホメッド十七世。彼は幼い頃は父に冷遇され、権力争いに巻き込まれ、辛うじて権力を手にしたという過去があるせいか心の内を明かさない傾向があった。
二十代はじめ、ほっそりとした体つきに色白で面長な顔、鷲鼻の下には紅く薄い唇。
男色女色を問わず、年若い小姓を常に側においていた。
何を考えているかわからない色狂い、それが彼への一致した評価だった。
だがウルバンと名乗る細い目と低い鼻の男がやってきて彼は変わった。
コンスタンティノーポリの城壁を破壊できる新兵器を作ると。
コンスタンティノーポリの城壁は『カステッロ』と呼ばれる、イタリアーナの『フォーコ・フリーチャ』、シュパーニエンの『ランチャ』に並ぶディオス教の秘蹟で守られている。
『カステッロ』を破ることはタンジュの神にもできないと思われていたので、彼以外は彼の言葉を一蹴した。
だがすぐにウルバン以外の人間は小姓はおろか大臣でさえ部屋に近づけなくなり、昼も夜も何かに取りつかれたように考え込むようになった。
小姓のうなじに注いでいた熱い視線は消え失せ、線の美しかった切れ長の瞳がくぼんだまぶたの奥にぎらりと光りはじめる。
寵愛をめぐって争っていた小姓でさえ近づかなくなった。
だが瞬く間にコンスタンティノーポリを見下ろせるほどの要塞を築き、新兵器と大軍をもって神の秘蹟に守られた都を落とした。
それにより、マホメッド十七世は敵からの恐怖と味方からの畏怖を欲しいままにする。
勢いをかってさらに西へと侵略の手を伸ばそうとしたが、家臣たちが諌めたこと、海軍力の不足により断念しイタリアーナからの和平案に乗ったのである。
そして現在。
一年前に破壊した聖ソフィア大聖堂跡に建てられたモスクにて、陥落一周年を祝う式典が盛大に催されていた。
出席者の頭を例外なく覆う白いターバンには、身分の高さを示す卵大の宝石があしらわれている。
「偉大なるトルティーアの王に、祝福あれ」
宗教上の指導者が祝辞を述べると、コンスタンティノーポリを陥落させた祝いの言葉が一斉に述べられる。
だが居並ぶ文官武官たちの賛辞も、仕える小姓たちの美しさも、彼の心を動かすことはない。
彼は元々、存在の曖昧な神とやらが許せなかった。
神とやらがいるのなら、なぜ自分はあんな目にあったのか。
ディオス教の熾天使ミカエルとやらがコンスタンティノーポリを救わなかったわけは?
なぜ自分は、これだけの人間を殺したのに天罰もなく生きているのか。
「まあいい」
マホメッド十七世は、くぼんだまぶたの奥に光る切れ長の瞳をさらに細めた。
戦で勝利する時だけは、なにもかも忘れていられる。
次の狙いはイタリアーナ。
そしてシュパーニエンだ。
イタリアーナの領有する島々を奪ったら次は首都シッタ・デ・マーリだ。海の都もコンスタンティノーポリと同じ運命にしてやる。
どれだけの人間を殺し、街を破壊すれば神とやらは罰を下すのか。
その日が実に楽しみだ。




