68ページ目 菫さんでも勝てるゲームがあるようです
公ヶ谷祭の打ち上げが終わった二日後の水曜日。今日はノー部活デーなので、全ての授業が終わった後は皆せっせと帰り支度をしている。そもそも帰宅部の菫ももちろんその中の一人で、教科書をスクールバッグの中に入れていた。
「なぁ、今日これからジム行って筋トレしねぇか?」
「いいさぁ〜、部活ない時だってしっかり鍛えたいばーよ」
「だな〜(少しでも鍛えて伊藤さんにいいとこ見せたいし)」
強豪運動部員である成一・日向・雅哉はこれから皆でジムへ行き、汗を流すようだ。だが成一達と仲の良い聡太郎だけは呆れ顔になっている。
「ジムなんか打ち上げの後にも行っただろ! そんなしょっちゅう行ってて筋肉痛にならないのか?」
聡太郎がツッコミを入れるも、三人とも本気でジムに行きたいようだ。
(よく頑張るわね〜。せっかくのノー部活デーだってのに)
菫もよくやるわね……と思いながら成一達を一瞥する。が、その中に日向もいるので……菫は彼を見る目が変わったと同時に気まずくもなる。何せ、あの打ち上げで……同じ3組の萌と仲睦まじそうにしている様子を見てしまったから。
が……今日、日向と萌があの時のように親密そうにしているのはおろか、二人が話しているところすら菫は見ていない。というより、そもそも日向と萌が話すところ自体最近見ていない。新学期が始まる数日前のカラオケの時も偶然鉢合わせたが、二人は目すら合わせていなかった。
それらを踏まえると恐らく他の皆はまだ知らないうえ、もしかすると二人も秘密にしているのかもしれない。
(クラスの皆に黙って恋愛……か。……少女漫画でありそうな展開じゃない! そういえば……今川さんは伊豆の水族館で誰かと電話してたわね。もしかしたら上原君かしら?)
気まずい反面こんなことも考えてしまい、菫は人知れす笑みを浮かべる。ちょうどその時……
「すー様〜、今日暇〜?」
「!!」
いきなり声を掛けられ、菫は思わずビクッとした。咄嗟に横を向くと、いつの間にかめぐるが立っている。菫が目をぱちくりさせる一方、こんなリアクションをされためぐるも不思議そうな顔をしている。
「ど……どうしたのすー様? そんなビックリして……」
「あ……ちょっと考え事してたのよ……」
「なになに? 何のこと考えてたの〜?」
菫はもちろん本当のことを言えず……すかさずでまかせを言った。
「あ、あの……昨日テレビでやってたお笑い番組のこと思い出してたの。久しぶりにゲッツー板野が出てて……」
「そんなのやってたんだ〜! 私は昨日ずっと野球中継観てたわ。で、今日はすー様これから予定ある?」
「いえ、特にないわよ」
菫が正直に話すと、めぐるは嬉しそうに顔をパッと明るくする。
「じゃあこれからうちで遊ばない!? ちょっと前に新しいゲーム買って昨日届いたの!」
「えっ! ……お邪魔させてもらってもいいの?」
まさかの「友達の家に遊びに行く」イベントに、菫は思わず聞き返す。そんな菫の反応とは裏腹に、めぐるはニッコリ笑って「ぜーんぜん!」と言ってのける。
「今日は誰も家にいないし、お母さんに友達呼んでもいいって聞いたらいいよって言ってくれたの。女子だったら……って言ってたけど(笑)だからすー様は大丈夫だよ!」
「本当? ……で、どんなゲーム買ったの?」
せっかくのお誘いなのだから乗りたいのは山々だが……遊ぶ内容がゲームなので、菫は一瞬躊躇してしまう。そもそも菫は操作の難しいゲームが苦手だ。元同僚かつゲーマーである瑠奈と何度か一緒にゲームをしたことはあるが、ほぼ毎回負けっぱなしである。特にアクションゲームやレースゲームの腕前は壊滅的で、菫はめぐるの買ったゲームがその二つ以外のジャンルでありますように……と祈っていた。
そんな菫をよそに、めぐるはそのゲームのタイトルを教えてくれた。
「『金太郎バス』だよ! 最近新作が出たばっかりだから」
「『金太郎バス』……あぁ! 確かすごろくみたいなやつよね?」
そのタイトルを聞いて、菫はハッとした。菫はその『金太郎バス』のプレイ経験こそないが、何度もCMで見たことがある。しかもその内容もCMのおかげで何となくわかっている。
「そうそう! バス会社の社長になって、サイコロ降って目的地まで行くんだよ! で、行った先の物件買って総資産を増やして一番多い人が優勝ね」
めぐるがざっとルールを説明してくれたところで、菫は念の為に聞いてみた。
「私『金太郎バス』やったことないんだけど……できるかしら? 難しい操作とかない?」
恐る恐る聞いてみるが……めぐるは笑いながら首を横に振る。
「大丈夫大丈夫! 金バスそこまで難しくないから。それに……」
そう言いながら、めぐるがある人物に向かって手を振ると、その彼女も手を振り返しながら近付いてくる。その姿を見るなり、菫は再び心の中でドキッとした。
「もえぽんも来てくれるし、わかんないことは聞いてくれたらいいよ!」
「金バスなら任せてー! 私全シリーズ持ってるし、最新のやつも発売日に買ってからしょっちゅうやってるの! 配信しながらね」
めぐるに続き、萌も自信満々に豪語した。日向と同じく普段通りに振る舞っている萌は、あの打ち上げでの様子を菫に見られているとは知る由もないのだろう。
「そ……そうなのね。今川さんも一緒なら安心だわ」
菫が再び気まずくなりながらも何とか平静を装ったところで、今度は沙希・遥・真二が食いついてきた。
「なになに金バス?」
「めめちゃん買ったの?」
「俺もやってみてぇ!」
だが、めぐるは真二にだけギロリと冷たい視線を送る。
「そうそう買ったんだよね……悪いけどナラッチはダメだよ。お母さんが女子だけって言ったから」
「なーんだつまんねぇの〜」
めぐるにハッキリと断られ、真二は不服そうに拗ねてその場を離れていった。
★
菫・萌・遥・沙希が山﨑家にお邪魔させてもらうや否や、飼い犬のキャンディとクッキーは嬉しそうに出迎えてくれた。小さいクッキーはまだしも、キャンディはかなり大きいので、飛びついてこられると結構な迫力がある。2匹と前にも会ったことのある菫や背の高い沙希は平気だったが、萌と遥は大型犬に馴染みがないのか少々怖がっていた。
めぐるがテレビとゲームの電源をつけると……すぐにオープニングに入り、画面いっぱいにメインキャラ達とタイトルが出てくる。そのタイトル通り、真ん中にいるのはおかっぱ頭に「金」と書いた赤い腹掛けを着ているキャラで、このキャラがゲームの進行を務めるのだとか。この金太郎のキャラも菫はCMで何度も見たことがある。
「へぇ〜、こんな感じなのね」
「面白そ〜!」
リビングのソファに座らせてもらい、早速面白そうに眺めている菫と遥の横で、萌はスクールバッグの中からタブレットを取り出した。
「皆先やってて。私ちょっと別のゲームしながら見てるから」
「えっ、いいの?」
どうやら萌はせっかく来たものの、タブレットで別のゲームをするつもりのようだ。それでいいのかと聞き返す遥に、萌は笑いながら頷く。
「てか金バスは遊べるの四人までだよ。私何回もプレイしてるしさ」
「あっ……そっか!」
「ありがと、今川さん。……ところで何のゲームするの?」
よく見ると、確かに『金太郎バス』のパッケージにはプレイ人数が1〜4人と書いてある。遥と共に納得すると同時に、菫は萌に聞いてみた。……本当は他にもっと聞きたいことが山ほどあるのだが、もちろん今は聞かない。
「『信玄の野望』だよ! これも時々配信してんの」
萌が見せてくれたタブレット端末の画面には、戦国時代と思われる日本の街並みのCGが写っている。菫はそのゲームのプレイ経験こそないものの、タイトルは聞いたことがある。確か瑠奈もプレイしたことがあると言っていた。
「てゆーかもえぽん、タブレット持ってたんだね」
「あぁコレ? 誕生日プレゼントに買って貰ったの」
遥と萌が話しているところで、ゲームを起動してから暫くの間リビングを離れていためぐると沙希が「お待たせ〜」と言って戻ってきた。めぐるは人数分の麦茶をのせたお盆、沙希はアイスキャンディの箱を持って。
こうしておやつも用意し準備できたところなので、めぐる・菫・沙希・遥はソファに座ってそれぞれジョイコンを持つ。その横で萌は時々タブレットを覗きながらテレビの画面を見ている。ゲームが始まる前にプレイ年数を3年、ターンの順番は先述した通り、ゲームの舞台は今いる場所と同じく東日本で設定した。
「よーし! 負けねぇぞー!」
「頑張ろーぜ!」
「ビリだけはなりたくないな〜」
沙希・めぐる・遥が張り切る中、菫はドキドキしながらジョイコンを両手に握っている。初めてプレイするゲームなので上手くできるのか楽しみ半分、また上手く操作できずに苦戦するのではないかとの不安半分で。
(まぁでも今一緒にやってる三人は今川さんほどゲームに精通してる訳じゃなさそうだし……瑠奈ちゃんとやるよりかは気が楽ね。それに……)
いよいよゲームの幕開けとなるところで……菫の中では不安よりも楽しみの方が勝ってきた。ジョイコンを握っているうちに、いつの間にか菫は少しばかりニヤけている。
(放課後に皆で集まってテレビゲームってのも……青春っぽいわね! 1回目の高校生活でもやったことないけど……)
ちょうどその時、進行を務める金太郎のキャラクターと、アシスタントと思われるウサギの着ぐるみを着た女性キャラが画面に出てきた。それと同時に次の通りに字幕が表示される。
“では、ゲームを始める前に最初の目的地をルーレットで決めます。社長さん達を代表して、めめ社長!Aボタンを押してルーレットを止めてください”
「あそっか、先に行き先決めなきゃだもんな」
「そーそー、四人で遊ぶ時は最初はトップバッターの人がルーレット止めて行き先決めるの」
萌が経験者らしく得意げに解説する横で、めぐるは「えいっ」と掛け声を掛けながらAボタンを押す。ルーレットが止まったのは……。
“今回の目的地は…………北海道の稚内です! では社長の皆さん、稚内バス停を目指して頑張りましょう!”
「……えっ、北海道!?」
「いきなり!?」
「てか北海道のどこよ……ちないって」
スタート地点は東京なので……初回からまさかの北海道に決まってしまい、めぐると遥は目を疑う。沙希に至っては「稚内」の読み方すら間違えている。
「「わっかない」ね。北海道の中でもいっちばん北のところよ」
「そーそー。めめちゃんったら……初っ端から持ってるね〜」
稚内の場所を知っていた菫が冷静に解説し、萌は笑いながらめぐるをそのように評した。そのめぐるはというと、先程までのやる気はどこへやら、げんなりした様子で「ええ〜」と漏らしている。
★
だがそれでも決まったものは仕方がないので、まずは4人で稚内を目指すことになった。トップバッターのめぐるはまずサイコロを振る。もちろん「6」が出るように祈りながら。しかし……
「2かよ〜! 全然進めないじゃん」
出た目は2で、めぐるはブツクサ言いながら北東へと移動する。めぐるが止まったマスは黄色いマスだ。右も左もわからない菫は、何のマスなのかとりあえず萌に訊く。
「今川さん、このマスは何かしら?」
「カード停留所だよ。ここに着くとルーレットで引いたカードが貰えるの」
「カード?」
「カードの大半は使うか持ってるだけでゲームを有利に進められるんだよね。例えば「高速バスカード」使えばサイコロを一気に3個振れるし」
「そうなのね! ラッキーなマスじゃない」
目を輝かせる菫だったが……それとは裏腹に、萌は一瞬だけ苦笑いする。
「ただ……持ってたら不利になるカードもあるの。お金取られたりとかね。ごく少数だけど……」
「あらら……」
ちょうどその頃、めぐるがルーレットを止めたところにあったカードは……「とにかく北へ!」カードだった。萌によると、このカードを使うと辿り着く場所こそランダムだが、その名の通り遥か北へと進むのだとか。これを引いためぐるは大喜びする。
「よっしゃ! 次のターンこれ使お!」
「え〜! めめちゃんズルい!」
「抜け駆けするんじゃねーよ!」
当然ながら遥と沙希は文句を言う。が、めぐるはそんな反応も何のそので、得意げな顔でニヤニヤしている。
「いや〜、これはラッキーだな! 日頃の行いがいいのかも!」
そればかりか自画自賛してくるめぐるを遥と沙希は悔しそうに睨みつける中、菫のターンは回ってきた。遂に私の番ね……と思いながら菫はサイコロを振る。
出た目は……6だ。
「よしっ! 次のめめちゃんほどじゃないけど結構進めるわね!」
遥と沙希が更に羨ましそうにアイスキャンディを齧る中、菫が辿り着いたマスは青いマスだ。
「今度は青いマスね。これは……」
「プラス停留所だよ。ここに着いたらルーレットで出た分のお金が貰えるの」
「おっ! やったじゃない!」
萌から教えてもらって、喜びながらルーレットを回した結果、菫は300万円を手にした。初めての金バスながら幸先の良いスタートを切れた……と思ったその時だった。
次の沙希のターンに切り替わるかと思いきや、なぜか別の映像に切り替わった。その映像はというと、バスの中に老婆が一人立っている。
この時点で萌は何かを察したのか、あっ……と口走った。
“あらあらごめんねぇ、席を譲ってくれて。
それにしても……社長さんがこんなにたくさんお金持ってちゃダメよ〜”
「……え?」
その台詞が出てきた時点で、菫は漸く目を疑った。程なくしてその老婆の姿がゆっくりと変わり……唐草模様のほっかむりを被った、目つきの悪い男の姿になる。
“バスの客のお婆さんは……泥棒の銀平の変装した姿だった!
すみれ社長は持ち金をぜ〜んぶ盗られてしまった!”
「………………」
菫は暫くの間絶句すると同時に、呆然と固まっていた。そう言われた通り、菫の持ち金の欄には「0円」とバッチリ書かれている。そんな菫の横にいつの間にかクッキーが来て、慰めるかのようにペロリと頬を舐めてくれた。
「すー様……初っ端から泥棒の銀平が出たか……」
「まぁまだ最初の方でよかったじゃ〜ん」
「てかすー様だって持ってるよな!」
沙希・遥・めぐるが大笑いする中、萌は先程の泥棒らしきキャラについて菫に説明する。
「あれは……「泥棒の銀平」だね。時々何の前触れもなく出てきて、持ち金の4分の1か半分、最悪全部盗ってくんだよ〜。なかなかウザいっしょ?」
アイスキャンディを舐めながら言う萌に……菫は物凄い勢いで何度も首を縦に振ってから、憎々しげに愚痴をこぼした。
「……せっかくお金貰えたのに何なのよ〜〜!」
「……まぁ泥棒の銀平を撃退する方法は「ポリスカード」持っとくぐらいしかないからね〜。しかも神出鬼没で出てくるし。めめちゃん達も他人事じゃないよ〜?」
今までずっと笑っていた他の三人は、萌のその台詞を聞いてギクッとした。
★
結局ゴールの稚内停留所に真っ先に辿り着いたのは……やはりめぐるであった。「とにかく北へ!」カードの恩恵もあり、他の三人がまだ関東圏を地道に進む中でダントツの早さであった。一番乗りで到着した者には地元からの援助金と称して億単位の大金が貰えるが、一番距離の遠い者には……。
“さっきー社長! ワイは疫病神でっせ。社長のお役に立てますように頑張りまっせ〜。
……てなわけで、ギャラを1200万頂きますぜ〜!”
「頼んでねーわ! つーかギャラって何だよ、勝手に持ってくんじゃねー!」
今度は沙希がテレビ画面に向かって文句を言った。めぐる以外の三人が全員関東圏にいる中、沙希が若干稚内から一番遠いところにいたため……疫病神がついてくることになったのだ。萌によると、この疫病神はありとあらゆる災難を持ち込んでくるらしく、沙希に取り付くや否やいきなりこれだ。
“さっきー社長、大変でっせ! ここから先はバスがありまへんわ……。なんで、こっから歩いていかんとあきまへんで~”
この台詞と同時に出てきたのは……
“さっきー社長は暫くの間サイコロを振っても1か2の目しか出ない!”
という説明文で、それを見た沙希は舌打ちをした。
「そーゆーことかよクソっ……」
「まぁまぁさっきー、現時点で一番近いじゃん」
遥がそうなだめた通り、めぐるがルーレットで決めた次の目的地は下呂温泉と、1回目の稚内よりもかなり西寄りとなっている。これに気付いた沙希はすぐに機嫌を直し、反対に真っ先に稚内へゴールインしためぐるはムッとする。
「ま、確かに近いよな~、稚内と違って。さっき高速バスカード貰ったし、コレ使ってさっさと行こっ」
「くっ……。何だよせっかく稚内まで行ったのに次のゴールは下呂温泉とか離れすぎだろ……」
「仕方ねぇだろ、自分で決めたんだから」
「自分でって……ルーレットで当てただけですけど~?」
めぐると沙希が言い合う中、またも菫のターンが来た。所持金は少し前に泥棒の銀平に盗まれたっきりで、青いマスにも止まっていないので相変わらず0円のままだ。すると、サイコロを振る前にまたも画面が切り替わった。
(……え!? また……泥棒の銀平!?)
嫌な予感がした菫だったが、姿を現したのは泥棒の銀平ではなく……戦隊もののような赤いスーツを着た男だ。
“ハッハッハ! 私は一攫千金マンだ。これからすみれ社長にはルーレットをしてもらって、1と5が出たら2億円、それ以外の数字が出たら2000万授けよう”
「えっ……ラッキー! 絶対1か5出すんだから!」
2億円を貰えるように菫は念じながら……Aボタンを押した。すると、出た目は……。
「やったーーー! 5!! 2億!!」
たかがゲームだというのに、菫は年甲斐もなく大喜びした。流石にずっと所持金0円では物件を買えず、物件を買えないことには総資産も増えず、総資産が増えないということは……他の三人に負けるということになる。なので、2億円もの臨時収入は菫にとって喜ばしいことこの上ない。2億を手にした後も、菫は興奮冷めやらず喜びっぱなしだ。
「これでやっと0円旅から脱出できる~! 次に物件マスに止まったら物件買えるだけ買ってやるんだから!」
テンション高めに言い張る菫に、めぐるは笑いながらこう言った。
「すー様めっちゃハマってるじゃ~ん! 金バスに」
ここで菫はハッとして我に返り、急に恥ずかしくなってきた。ゲームが進むうちに、いつの間にかここまで夢中になっていたなんて……。そもそも菫は皆で対戦するようなテレビゲームにあまり興味がなく、瑠奈との対戦も付き合いでやっていたほどだ。それでもある程度は熱中していたが、今ほどではない。菫にとってこの金太郎バスは……結構面白く思えている。めぐるの言った通り、今のところ苦手な難しい操作がほどんどないこともあって。
気が付くとめぐる以外の三人も熱中している様子の菫を見て笑っている。
「確かに面白いもんね~」
「そりゃ何作も出てるシリーズ物で人気もあるからな~。すー様も金バス買っちゃう?」
「いや~、まずナンテンドースウォッチ買わないと遊べないし……。まぁコレは難しい操作がないから」
同調する遥とソフトを買うよう勧める沙希だが、宮西家にゲーム機がないうえ葵もそこまでゲームに興味がないので、菫は難色を示す。また、菫がハマった理由に萌は理解を示している。
「確かに金バスはそこまで難しくないよね〜。だから初心者でもとっつきやすいし、それも人気の理由かも。すー様みたいにハマる人もいるし」
「そうなのね!」
納得しながら菫はサイコロを振ったマスへと歩を進め、期待通り物件マスへと辿り着いた。宣言した通り、有り金を使えるだけ使って物件を買っていく。もしこの後で泥棒の銀平に出くわしてもダメージが少なくなるように。
★
こうしてゲームはどんどん進み、いつの間にか残りのターンは5回となっていた。その後もところどころで泥棒の銀平や一攫千金マンが現れ、疫病神がより損害の少ないベビー疫病神に変わったり、その疫病神の居場所も何回も変わったりし、その度に嬉しい悲鳴も普通の悲鳴も上がった。また台風直撃やら大雪でバスが運休したり物件が破壊されたりと、現実世界で起こりうるハプニングもあった。
今のところ……1位からめぐる、遥、沙希、菫という順位になっている。やはりめぐるは最初のスタートダッシュに成功したのが大きいのだろう。
しかし、沙希には再び疫病神がついてしまったうえ、その疫病神がよりによって一番多く大災難を持ち込んでくる「MAXヤクビョー」に姿を変えてしまい……あっという間に沙希の資産は減少し借金生活になってしまう。そして遥もあと2ターンというところで、あろうことか泥棒の銀平に出くわしてしまい無一文に。
「これは……めめちゃんとすー様の一騎打ちになりそー」
ずっとゲームの様子を見ていた萌は、キャンディとクッキーと遊びながら呟いた。もう既に「信玄の野暮」はキリのいいところで終わらせたのか、タブレット端末は鞄にしまってある。この萌の一言に、めぐるは菫にチラッと一瞥し……
「すー様……負けねぇからな」
とだけ言った。ああ言ったものの……めぐるの現在の所持金は7億はあり、所有する物件数も菫よりもだいぶ多い。菫も「こちらこそ!」とは言ったものの……既に勝負はついてるんじゃないかしらと内心思っている。が、そんな菫の気持ちを知ってか知らずか、萌は横から意味深なことを言ってきた。
「いや〜、本当に最後までわかんないんだよね金バスは。もしかすると最後の最後に大どんでん返しがあるかもわかんないし……」
「え?」
菫が萌にどういうことなのか訊こうとしたところで、めぐるはカード停留所に止まった。例によってルーレットを回す。
「いいカード出てこーい!」
そう言いながら、めぐるはルーレットを止めた。すると、出てきたカードは……。
“エビスの悪魔の微笑みカード”
このカード名が出ると共に……画面が暗転し、その中の通りどこか不気味な微笑みを浮かべた老人の顔が浮かび上がった。
「……何コレ?」
「エビス?」
「悪魔の微笑みって……」
めぐるはもちろん、沙希と遥も呆然とする。今までこのカードは出たことがなく、何のカードなのか全く理解が追いつかないからだ。しかし、萌だけはこのカードの効果を知っているようで、「あちゃ〜……」とだけ呟いて頭を抱えた。
(あら……これはあんまりいいカードじゃなさそうね……)
萌のリアクションと、そもそもこのギミックからして……このカードは何か悪いことが起こるのではないかと菫は察した。そしてその予感は……やはり的中する。
“このカードを引いためめ社長さんは……エビスの呪いにより重度のギャンブル依存症になってしまった! これから暫くの間、サイコロ5個振って出た数×1億円を失ってしまう!”
「…………はぁ!?」
めぐるが度肝を抜かれるのも束の間、画面にはすぐにサイコロが5個出てくる。埒が明かないのでAボタンを押すと、サイコロのうちの3つが4、残りは2と6の目が出た。
“サイコロの目の合計は20! めめ社長はギャンブルにスってしまい20億円失ってしまった!”
「いやいやちょっと待って嘘でしょ!?!?」
7億あっためぐるの所持金は瞬く間に0円になってしまった。ひどく狼狽するめぐるに追い討ちをかけるように、金が足りないため物件を売却せざるを得ず、泣く泣く全ての物件を手放す羽目になってしまった。しかもそれでも足りず、めぐるは一瞬にして借金5億円を抱えてしまった。
「あ゙ーーーー!! せっかくあれだけ頑張ったのにぃ!!」
案の定慟哭するめぐるに、菫・遥・沙希は「エビスの悪魔の微笑みカード」の恐ろしさに呆気に取られてしまう。
(うわぁ……そりゃあ泣きたくもなるわよね。ここまでダントツのトップだったのに突然一気に転落して……)
菫がそう思う一方で、萌だけはただため息をつくだけだった。
「こういうのがあるから金バスって最後までわかんないんだよね〜。だから怖いのよ」
その後も「エビスの悪魔の微笑みカード」のせいでめぐるの借金が果てしなく膨らんでいく中、全てのターンが終了した。ここで結果発表となり、1位に輝いたのは……
「……えっ、私? ……やったー!! こういう対戦するゲームで勝つの初めてなんだけど!」
まさかの初挑戦の菫だった。菫はまたしても年甲斐もなく喜んで小躍りする。最初こそ泥棒の銀平に全額盗まれ、その後も何度か金を盗られたものの、最後の最後の大どんでん返しでめぐるが大損害を被ったのが大きかったのだろう。
「凄いじゃんすー様、初めてで優勝って」
「おめでと〜!」
こうして大歓喜する菫に、沙希と遥は誉めそやして拍手までしていた。その傍らで、負け方が負け方なこともあり、めぐるだけは少し悔しそうにしている。
「……まぁ私があのエビスのカード引いたおかげだけどね〜」
「それを言っちゃあおしまいよ、めめちゃん」
負け惜しみを言うめぐるに萌がツッコミを入れる中、菫はあることを思いついてニヤリとした。
(これは……瑠奈ちゃんに報告しなきゃね! 私でも勝てるゲームがあるってことを……)
菫は家に帰った後すぐに瑠奈に電話し、早速今日のことを報告した。瑠奈はちょうど仕事前だったが、少しだけなら……と快く付き合ってくれた。
「菫ちゃんおめでとう〜。嬉しかったでしょ? 珍しく勝てて」
「ありがと〜! 本当それよ! いつも瑠奈ちゃんに負かされてるから……」
嬉しい気持ちを素直に話す菫だったが……瑠奈はズバリと言う。
「でも金バスって正直運ゲーだし、誰でも勝てるからね〜。確かに菫ちゃんが優勝したのも、お友達が「エビスの悪魔の微笑みカード」引いたおかげだし」
「…………そうよね」
薄々わかってはいたが……実力云々ではなく運が勝敗を左右することをハッキリと突きつけられ、菫は思わず苦笑いした。そんな菫の気も知らず、瑠奈は例によってあるゲームを一緒にしないかとまた誘ってくる。
「じゃあ菫ちゃん、また今度来てくれたら一緒にやろうよ! 浦島太郎汽船で!」
「う……浦島太郎汽船!? 何なのよそれは?」
「金バスのスピンオフでね、汽船会社の社長になって船旅しながら総資産を増やすゲームなの」




