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64ページ目 菫さん、文化祭まであと三日


 文化祭本番まではあと三日。もう既に割り箸鉄砲は30丁ほど作り置きしているし、狙う景品を置く台も完成している。この台は三段になっており、上段に皆でそれぞれ持ち寄った景品、下段にお菓子、中段にその両方を置くつもりだ。

 

 そしてこの日、3組の面々はその「景品」を遂に持ってきていた。LHRの時間に、成り行きでリーダー及び副リーダーになった菫とめぐるが音頭を取り、それぞれ持ってきた景品を見せ合う。菫が持ってきたのは家にあったぬいぐるみと未開封のマニキュア数本で、めぐるは未使用品のポーチと弁当箱だ。皆で持ち寄った景品の中でとりわけ多かったのが、未使用品のコップやマグカップ、ルービックキューブやミニカーなどのおもちゃ、菫やめぐると同様ぬいぐるみやポーチあたりである。

 中には、それぞれの個性が光る景品もあり……。


「おーりん…………何これ?」


 オリビアが持ってきたのは……手のひらサイズの置物だ。それは黒っぽい茶色に、大きな目と人のような形をしている。それを見ためぐるが首を傾げる一方、なぜか萌も食いついてくる。


「あ! 私これ『アニマルタウン』で見たことあるー! 彫刻だよね?」


 菫も何となくこの置物を見たことがあったが……萌のその発言で完全にピンと来て、つい大きな声を出してしまう。


「あ、そうそう! 私も『アニマルタウン』で見たわ! 『古き良き彫刻』だっけ?」


 萌と菫がガッツリ反応してくれたことに、オリビアは嬉しそうかつ得意げにこの景品について説明する。


「すー様ももえぽんもよぐ知ってらね〜! これは遮光器土偶だじゃ! 大昔にうぢの地元の遺跡がら出でぎだの。……まぁ本物でねぐでフィギュアだげど」


「ど、土偶かぁ……好きな人は好きなんじゃね?」


「なになに、置物がー? 置物なら俺も持ってきたばーよ!」


 めぐるが苦笑いしていると、そこに日向も近付いてきた。どうやら日向も置物を持ってきたらしく、やはりドヤ顔で菫達に見せつける。


「こ、これは……シーサー?」


 菫が思わず呟いた通り、日向が持ってきたのは陶器でできたシーサーの小さな置物だ。ただ、このシーサーのデザインはかなり本格的かつ厳つく、こちらに向かって牙を向いていて今にも噛みついてきそうだ。そのシーサーの顔に、オリビアは少しばかり怯えた表情になってしまう。


「このシーサーわんつかおっかねえよ。もっとあるごった? 沖縄土産で売ってらようなめごいやづ」


「……何言ってるさー?」


「このシーサー怖いんだって」


 自分も方言を使うというのに、オリビアの使う方言の意味がわからずポカーンとする日向に、めぐるが簡単に通訳して伝える。すると、日向はすぐさま納得いかなさそうな顔になる。


「怖くなんかねぇばーよ! こーゆーウチナー本場のシーサーこそデージカッコいいわけさー! おーりんの土偶の方が可愛くねぇさー」


「何言ってんだじゃ! 土偶の方がこのシーサーよりもめごいども!」


「二人ともやめなさいよ!」


「も〜、地方組同士仲良くしなって!」


 危うく日向とオリビアが小競り合いになりそうなところ、菫とめぐるが止めに入った。その中でただ一人、萌だけはこの光景を黙って眺めていた。


 家庭科部に所属する来美が持ってきた景品に、菫もめぐるも思わず笑いそうになってしまったが、何とか堪えた。それはふわふわしていて一見ウサギの形の小さなぬいぐるみに見えなくもないが……どういう訳か手足が異常に長い。どう見ても耳よりも手足の方が長く見える。しかも黒い目と顔の間には糸が出ていて、目が飛び出しそうになっている。


「くっ、くるりんも…………こ、コレ何?」


 尚も笑いを必死で押し殺しながら訊くめぐるに、来美は恥ずかしそうに苦笑いしながら答える。


「これは……羊毛フェルトのぬいぐるみなの。部活で作ったんだけど……ちょっと失敗しちゃって」


 来美がおずおずと言ったところで、菫はネットで似たような失敗作の画像をいくつも見かけたのを思い出した。


(そういえば羊毛フェルトは難しいって聞いたことあるわ。でもこれ……「ちょっと」っていうレベルかしら?)


 菫は内心そう思ったが、来美には言わなかった。後者は言ってしまうとショックを受けられるかもしれないし、それでも何とかウサギの形にはなってはいるので。



 2次元女子が好きな聡太郎・野球部エースの雅哉・美術部の佳之が持ってきたのは漫画だ。聡太郎が『ツインテール忍者の小梅ちゃん』、雅哉が『神のカットボール』、佳之が『魔法少年とエイリアン』というタイトルである。いずれも大してヒットせずに打ち切られたらしく、全2巻または3巻だが。

 

 文芸部の直が持ってきたのは、『ズッコケカルテット』なる有名な子供向けの小説だ。このシリーズは菫も小学校の時に読んだことがあり、懐かしくなったのは言うまでもない。その菫の反応に、やはり直は嬉しそうにしていた。

 

 数日前からめぐるにAVなど18禁なものを持ってくるなと散々釘を刺されていた知輝は、自信満々にあるものを見せつけてきた。


「なぁコレなら大丈夫だろぉ?」


 確かに18禁なものとは言えないが……それを見て菫とめぐるはやはり険しい顔になってしまう。知輝が持ってきたのは……とあるアニメの美少女キャラのフィギュアだ。流石に服は着ているものの、知輝好みの巨乳で胸元の大きく開いた服を着ているうえ、ポーズと短いスカートのせいでその中身が見えそうだ。というより後ろからはガッツリ見えている。

 それでも得意げな顔をする知輝に、めぐるは文句を言う。


「いい訳ねぇだろ! こんなエロい服着てるしパンチラしてんじゃん!」


 怒るめぐるの横で、菫は難しい顔をしながらも渋々OKを出す。


「……まぁいいんじゃない? 一応服は着てるしAVよりかはマシよね……」


「まぁそうだけど〜」


「だろ〜? コレ結構高かったんだぞ〜。邪魔になるから捨てろって母ちゃんが言うから、仕方なく今日持ってきたんだよ〜」


 聞いてもいないのに、知輝はこのフィギュアを持ってきた理由をベラベラと話し、菫とめぐるはため息をついた。

 そんな知輝達の会話を聞いて心からホッとしたのは……聡太郎だ。


(よかった……いらないフィギュア持ってこなくて。もし持ってきてたら……根本にも引かれてたかも……)


 実は聡太郎もフィギュアと漫画で迷った結果、漫画を選んでいた。その栞里はというと、聡太郎がこんなことを考えているとは知る由もなく、菫とめぐるに景品として少女漫画を見せていたが。


 

 そして極め付けは……龍星が持ってきた景品だ。これには知輝のフィギュアとは比べ物にならないほど、菫もめぐるもドン引きした。


「ちょっとカネリュウ…………アンタ自分の写真を景品にするとかどういう神経してんの!?」


 めぐるが不快そうに言った通り……龍星の景品はなんと自分の生写真だ。しかも上半身裸のウエストショット、笑顔のアップ、目だけのクローズアップショットの3枚セットである。わかりやすく引いている菫とめぐるをよそに、龍星はパーマのかかった黒髪をかき上げ、やはりドヤ顔でこれらの写真について語り出す。


「どれもよく撮れてるだろ〜? このふつくしい俺の生写真こそ景品にピッタリだぜ。きっと子猫ちゃん達はこの写真目当てに輪ゴムを飛ばしてくるんじゃね?」


「なーに言ってんの。だーれがアンタの写真なんか欲しがんだよ」


「流石にこれはちょっと……ねぇ……」


 明らかに拒否反応を示しているめぐると菫に、龍星はカチンときたのか「はぁ!?」と口走って二人を睨みつける。するとそこに筋肉自慢の成一が寄ってきて、龍星の上半身裸の写真をまじまじと見るなり鼻で笑い、こう呟いた。


「いや〜、ちゃんちゃらおかしいぜ。こんな貧相な体でよく脱いで写真撮れるな〜」


 これに龍星はカチンときたどころかカッとなり、先程よりもキツい視線で成一にガンを飛ばして言い返す。


「どこが貧相だよ! お前が筋肉つきすぎなだけじゃねーか!」


「はいはい、だから喧嘩はやめって!」


「とりあえず金村君の写真はボツね。これは金村君のファンにでも渡してちょうだい」


 今度は龍星と成一が一触即発になりそうなところをめぐるが止め、菫はその写真を龍星に突き返した。


 中には景品にしては高価なものを持ってきた者もいて……。


「えっ! こんなの景品にしていいのもえぽん?」


 萌が持ってきたのは……ゲームソフトだ。少々マイナーなゲームなのか、菫もめぐるもゲームの名前は聞いたことはないのだが。ただ、ナンテンドースウォッチⅡという一番メジャーなゲーム機に対応するので、誰でも遊べそうではある。


「あぁ、もうこのゲームしないからね。元々売るつもりだったし(それに思ってたよりクソゲーだったし……)」


 めぐるの心配をよそに、萌はあっさりと言い切った。と、そこに少し前の日向と同じように真二も口を挟んでくる。


「ゲームなら俺も持ってきたぜ! ほら!」


 真二が持ってきたものを見た瞬間……菫はまたも一気に懐かしくなり思わず「おぉっ!」と目を見張った。真二が持っている箱に載っているのは、樽の中に入っている眼帯を着けた海賊風の男と、カラフルな色の剣。そう、真二が持ってきたのは『顎ひげ危機一髪』だ。


(えっ、懐かしい!! 今時の高校生でも『顎ひげ危機一髪』やるのねー!)


 そんなことを考えながら視線を送る菫に、真二もニヤッとする。


「おっ、すー様もコレやったことあんのか〜?」


「あるわよ! 小さい頃よくやったわ、友達の家で……お、お姉ちゃんと……」


 ついうっかり葵と……と口走りかけたが、菫は何とか飲み込んでお茶を濁した。だが真二はおろか、めぐるや萌もそのまま聞き逃していて、事なきを得たが。



 他にも、恭平が3千円はするであろうCDアルバム、成一が本格的な筋トレグッズを持ってきた中、莉麻はいかにもキラキラ女子らしい香水を持ってきていた。


「これって……エンジェルガール!?」


 赤色でハート型の瓶に、真ん中に筆記体で「Angel Girl」と書かれたその香水にも、菫は大いに見覚えがあった。というよりこれは10年ぐらい前に流行っていた香水の1つで、菫も昔持っていた。


「あっ、コレ見たことあるー! 平成のモテ香水なんだよなー?」


 菫に続いてめぐるも食いついてきた。そんな二人に莉麻はニッコリ笑う。


「そ。平成のモテ香水ってあったから、どんないい香りなのかなって買ってみたの。……でもあんまり好みじゃなくて2、3回しか使ってないんだよね」


「あはは! 香水だとあるあるだよな! いくらネットで調べても自分で匂い嗅がないとわかんないし〜」


 盛り上がっている莉麻とめぐるを、菫は複雑な表情で眺めていた。そこに、今度は女好きの貴大が割り込んできて……


「香水なら俺も持ってきたよ!」


 莉麻と同様、香水を見せつけた。その香水は男子が使うもの……には到底見えず、透明に赤いハートが書かれた瓶で、どこからどう見ても女性用だ。これを見た菫とめぐるは莉麻の時とは打って変わって、ゲンナリした表情になる。


「コレは……男の人あんまり使わなさそうね」


「……どーせ一緒に遊んだ女のやつだろ」


 冷ややかな反応を見せるめぐると菫だが、貴大はあっけらかんと答えた。


「まぁそうだね! なんか気付いたら家に置いてあったんだよ。……たぶんうちにお泊まりした時に忘れてったんだろな〜」


「お……お泊まりって……」


「何やってんだよ……」


 菫とめぐるが心底呆れ返る横で、莉麻も冷たい視線を貴大へと向けている。その後で莉麻は貴大にこう言い放った。


「てゆーかターちん、いつも香水臭いんだけど。一体どれだけ遊んでんのよ」


「…………り、リリには関係ないだろ〜」


 そう言い返した貴大は……苦笑いし、声は少し上擦っていた。どうやら遊んでいるのは事実でも、学園のマドンナである莉麻に指摘されるのは嫌だったようだ。


 そして、クラス一の富豪である寛斗が持ってきたものには……菫もめぐるも一番驚愕させられた。


「る…………ルイ・ヴェトンじゃない!」


「い、いいの!? きよみー……」


 寛斗が持ってきたのは……茶色地に特徴的なモノグラム柄の入った、高級ブランドの小さなポーチだ。ポーチ本体だけでなく、ブランド名のガッツリ書かれた箱まである。3組の皆が持ち込んだ景品の中で、このポーチが最高額なのは間違いないだろう。思わず本当に景品にして大丈夫なのか訊くめぐるに、寛斗は二つ返事で快諾する。


「いいよ。コレ本当はうちの姉さんのものだけど、いらないから持って行けば?って」


「いやいやルイ・ヴェトンなのに!」


(清宮君のお姉さんも案外庶民派なのかしら……)


 更に驚くめぐるの横で、菫はそう勘繰っていた。




 そんなこんなでクラス全員が持ってきた景品は遂に出揃った。早速台を机の上に置いて、赤い布を敷いた上に景品を置いていく。寛斗のポーチや萌のゲームソフトなど高価なものは、一番難しくなるよう上の段に置く。それから予定通り下段にはお菓子だけを置き、中段にはお菓子とそこまで高価でない景品を置いた。

 端から端まで景品がズラリと台に並べられ、載せられるギリギリまで載せたところで、3組の面々は「おお〜!」と声を上げた。ダンボールで作られた台ではあるが、こうして賞品を載せてみると、不思議とどんどん縁日や射的場のように見えてくる。めぐるもこの本格的な射的を満足そうに眺めている。


「……うん! なかなかいい感じじゃん!」


「ねぇ。これは大人から子供まで楽しめるんじゃない?」


「てか私既にやってみたいんだけど! なぁ、試し撃ちしよーぜ!」


 遥がめぐるに同調し、沙希が早々に試し打ちを提案する。試し打ちをすることには皆賛成したが……


「ここは……リーダーのすー様に撃ってもらおう!」


「ぇえ!?」


 リーダーというだけで、寛斗に試し撃ちに指名され……菫はビックリして変な声が出てしまう。しかし、他の皆は賛成するばかりか菫を囃し立ててくる。


「よっ! リーダー!」


「カッコよく撃ってくれー!」


「すー様撃て撃てーー!」


「が……頑張るわ……」


 皆が盛り上げてくるので……断るにも断れない空気になってしまう。歓声が上がる中、菫は渋々前に出て割り箸鉄砲を一丁手に取る。この鉄砲で撃つのも約17年振りなので、全くと言っていいほど自信はないが。


「すー様、どれ狙うのー?」


 遥に聞かれ、菫はニヤリと笑いながら……上段の一番右端に置いてある寛斗のポーチを指差した。


「やっぱ狙うんなら……コレでしょ!」


 大っぴらに宣言したうえで、菫は割り箸鉄砲に輪ゴムの弾をセットする。皆が再び「おお〜!」と言う中、めぐるが冷静にツッコミを入れる。


「すー様……もし撃てたとしてもそれ貰えないからね。本番のための景品なんだから」


「わ……わかってるわよ!」


 教室内がドッと湧く間、菫はめぐるに言い返すとすぐに左目を閉じ、右目でお目当てのポーチをまっすぐ見つめる。その状態のまま、銃を構えて狙いを定める。


「すー様頑張ってー!」


「リーダー頑張れー!」


「宮西さんなら絶対撃てますよー!」


 沙希・真二・直が声援を送ってくれて、他のクラスメイト達も応援してくれている中で……菫は「ここだ!」と思いながら引き金を引いた。



 菫が引き金を引いた瞬間、パチンッ!と小気味いい音が鳴った。それと同時に…………飛ばした輪ゴムが寛斗のポーチの真上の壁にぶつかって、そのまま真下に落ちた。


「………………」


 ここなら絶対に当たる。そう思って撃ったが、まさかの結果に……菫は思わず絶句してしまう。当然、教室内も興醒めしたかのようにシーンと静まり返る。そればかりか、ため息をついたり「あ〜」とガッカリしている声すら聞こえてくる。

 こんな状況だが、菫は敢えて笑い出し……




「あ…………当たったわよっ!」

 



 ハッキリとこう言った。が、言うまでもなくクラスの皆は唖然とし、菫にツッコミを入れたりヤジを飛ばしたりする。


「どこがだよすー様!」


「全然当たってないじゃん!」


「かすってすらいなかったじゃねーか!」


「思いっくそ壁に当たってたよ〜?」


 寛斗・彩矢音・恭平・遥がそう言っても菫は意に介さず、冷や汗をかきながらもシラを切る。


「い、いやいや……よく見えてないだけで当たったのよ! は、早すぎてきっと見えなかったのね〜」


 もちろん、菫もあのポーチにかすってもいなかったことはわかっている。だが、それでも敢えて菫は当たったと言い張って譲らない。あれだけ期待されていたのにノーコンなのが恥ずかしいのと、自分のせいで静まり返った空気を変えるために。尚もヤジが飛んでくる中、菫はしれっとめぐるに割り箸鉄砲を渡す。


「さ、次は副リーダーの番よ、めめちゃん」


「…………」


 シラを切った菫から半ば無理矢理割り箸鉄砲を渡され、めぐるも納得いかない顔をするのであった。




 そんな3組の様子を……今日も例によって廊下側の窓からあの男が眺めている。あの男、もとい丈一郎はワイワイしている3組を恨めしそうに見つめているが、3組の面々は試し撃ちに盛り上がっていて、誰も彼の存在に気付いていない。丈一郎の視線の先にあるのは、中段に置かれている知輝のあのフィギュアだ。


(あのかわゆい女の子のフィギュア…………欲しいぜ!! なんで堀なんかがあんなフィギュア持ってんだよ~。アレを手に入れるには撃たないと……いやいや! にっくき3組の出し物だかんなぁ~)

 

 知輝のフィギュアが欲しい気持ちと3組の売り上げに貢献したくない気持ちで、丈一郎は葛藤していた。


 



 

 この日の放課後も、3組の面々で残れる者は残って準備を進めていた。景品を乗せる台と割り箸鉄砲はでき上がっているので、次に取り掛かっているのは教室の飾りつけと看板作りだ。飾りつけには折り紙を使い、細く折りたたんだ蛇の目傘のような飾りと、細く切って輪っかつなぎにした飾りを作っている。看板にはダンボールを使い、教室の中に貼り出すものと教室の戸の前に置く立て看板を作っている。


「ねぇめめちゃん、一応注意書きも作った方がいいんじゃない? 「人に向けて撃ってはいけません」って感じで」


「あ、それいいかも!」

 

 菫とめぐるが話し合っているすぐ後ろで……未だに試し撃ちをしている者が二名。颯と和馬だ。颯が自分で作った割り箸鉄砲の引き金を引き、LHRの時の菫と同じようにパチンッ!と音を鳴らす。


「よっしゃ! 当たったぜ!」


 どうやら優香子が持ってきた未使用品のマグカップに命中したようで、颯は喜ぶものの……和馬は首を傾げている。


「え、マジ? 全然わかんねぇよ。……パイセンも嘘ついてんじゃねーのか?」


「はぁ!? 当てたっつーの!」


 当たった・当たってないで小競り合いになる颯と和馬に、めぐるはイラっとしてすぐに注意する。


「ちょっと! 喧嘩してる暇があるんなら手伝えよ!」


 しかし、今度はめぐるの物言いに和馬がカチンときたのか、あろうことか言い返す。


「手伝えよって……命令してくんなよ! 副リーダーだからって偉そうに」


「は!? アンタがやらねぇからだろ?」


「ちょっとめめちゃん、喧嘩してる暇ないんでしょ? だからやめて!」


 更に和馬に食ってかかるめぐるに、菫は慌てて止めに入る。そんなめぐる達を尻目に、いつの間にか落ち着いていた颯は、景品が置かれた台を黙ってじーっと眺めている。すると、これまたいつの間にか凜が颯の隣に来ており、台の上に置かれた景品の中でもマグカップや香水など、とりわけ重そうなものを凝視している。それから、凜は菫達の方を見てこう言った。



 

「コレ……もっと倒れやすい的にした方がいいんじゃね?」


 


 菫やめぐるはもちろん、教室で作業をしていた全員が一斉に凜と景品の台に視線を移す。すぐ隣で聞いていた颯は真っ先に「あ~」と呟いた。


「確かに……景品が的じゃちょっとわかりにくいよな。当たったか当たってねぇのか。重いものに当てても倒れねぇし……」


 納得した様子で顎に指を当てて話す颯に、凜は表情を変えないまま頷いた後で話を続ける。


「だから当たってねぇのに当たったって言う奴が出てくるかもしれねーぜ。お前や宮西みてぇに」


「いや俺は当たったから! 宮西と一緒にすんじゃねーよ!」


「…………」


 凜と颯が言い合う横で菫は苦笑いしてしまう。だが、それと同時に……凜や颯の言ったことも正しいと思った。確かに的がしっかり倒れる方が、当たったのか当たってないのかがわかりやすい。なので、菫も鼻と口の間に指をつけて考え込んでしまう。和馬との喧嘩をやめてすっかり落ち着いためぐるも、菫の様子を見て心配そうに言う。


「どうしようすー様……」


「そうねぇ…………今からでも的作ってみる? 明日からでもまだあと二日あるんだし……」


 めぐるの横で菫は冷静にスマホを取り出し、「割り箸鉄砲 的」で検索した。



 翌日、菫達は朝早くから学校に来て、早速的作りに取り掛かっていた。用意した紙コップを逆さに向け、側面にイラストを描いていく。そう、菫が色々と調べた結果……紙コップを的として使うことに決めた。そのため昨日の帰り道で菫は100円ショップに寄り、紙コップを沢山買っていたのだ。


 側面に書かれるイラストはお化け・宇宙人・鬼の三種類。それぞれ点数が違い、お化けが1点、宇宙人が3点、鬼が5点で、得点はイラストの下に書かれており、この得点によって景品が選べるというルールに変更した。また、上から鬼・宇宙人・お化けの順に台の上に置くつもりでいる。


「すー様あったまいい〜! 確かにこっちの方が倒れやすいしわかりやすいよな!」


「スマホで調べてたまたま見つけただけよ」


 紙コップにどんどん描いている時もめぐるに褒めちぎられたが、菫は謙遜した。本当にただ画像検索して、最初にヒットしたうえ調達しやすいのが紙コップだったというだけなので。


「宮西さん山﨑さん! こんなのはどうでしょう?」


 話している菫とめぐるに、直が駆け寄ってくる。彼は所属する文芸部の作品作りに忙しく、これまでLHRの時以外3組の準備にはなかなか参加できなかった。が、今日はひと段落ついたのか朝早くから参加してくれている。その直も紙コップにイラストを描いてくれており、菫とめぐるに見せてくれた。直の紙コップを見るなり……二人は目を見張った。


「ば、ばったん……めっちゃ上手くない!?」


「本当……凄いわ」


 直が書いてくれた鬼・宇宙人・お化けは……かなりリアルな仕上がりだ。まるでオカルト本の挿絵か芸術作品のようで、最早イラストとは呼べないほど。一番簡単に描けるお化けですら、目と口が黒一色で書かれ、本物の布のような質感からして怖く見える。めぐると菫に褒められた直は、照れ臭そうに笑みを浮かべた。


「いや〜、こういう絵は本で時々見ますからね〜」


「俺もカッケー鬼描いてやったぞ!」


 すると、直に続いて知輝も自信作だという鬼の絵を見せつけてきた。しかし知輝の態度とは裏腹に、その絵を見た菫・めぐる・直は……唖然とするだけだった。その紙コップに描かれた鬼は角がなくて棍棒すら持っておらず……どういう訳か赤い髪に全身に縞模様の入った人のような姿である。一見、あまり鬼らしくないのだが……。


(もしかして……コレ……あの漫画の……)


 菫は知輝が何を描いたのか何となくわかったが、めぐるはそうでなく、難しい顔で知輝に質問する。


「ホリトモ……コレ鬼なの?」


「えっ! 鬼に決まってんだろ! てか今一番有名な鬼じゃねーか!」


「ホリトモ君……もしかしてアガサですか? 『鬼滅の刀』の」


 断固として鬼だと主張する知輝に、直はとあるキャラクターではないかと訊く。


(ばったん! やっぱりそうよね!)


 直と全く同じことを考えていた菫は思わずニヤリとする。そして当の知輝はパッと顔を明るくする。


「ばったん正解だぜ! アガサだよ、よくわかったな!」


「やっぱりそうですよね! この縞模様でなんとなくわかりました」


「私もなんとなくアガサだって思ってたわ」


 菫も同じように推測していたとわかり、直は嬉しそうにニッコリと笑う。


「宮西さんもそう思ってたんですね〜。流石です!」


 ただ菫と直には何とか理解できたものの……知輝が描いたアガサはいかんせん原作と全く似ても似つかない。何も考えずにパッと見ただけでは、ただの赤髪に縞模様で気味の悪い人型の何かにしか見えない。なので、めぐるは呆れた顔で知輝に釘を刺す。


「……あのね〜、漫画のキャラ描きたいんならもっと上手く描いてくれない? 私全然わかんなかったんだけど」


「え〜、俺にしては上手く描けたぜ? 山﨑がわかんな……」


「おっはよー!」


 知輝がそう言っている途中で……教室の戸がガラッと開いた。入ってきたのは、栞里だ。今日の栞里はいつもよりどこかテンションが高いうえ、急いで来たのか息を弾ませている。まだチャイムが鳴るまでだいぶ時間があるというのに。手には大きな紙袋が握られていて、栞里は教卓の上にそれを置く。


「おはよーネモちゃん。それ何?」


 めぐるが訊くと、栞里はよくぞ聞いてくれたとでも言いたげにニッコリ笑う。


「うふふ……クラスTシャツだよ! 昨日家に届いたの!」


 栞里がそう言った瞬間、教室内は一気に盛り上がり、そこにいた全員が作業している手を止め、前へと駆け寄った。栞里はまず一枚手に取って、皆に表側を見せる。そのTシャツは前に見せてもらったデザイン画に忠実に作られており、クラス全員の名前も一切抜け漏れなく書かれている。むしろこうして実際に見るとデザイン画よりもオシャレに見え、クラス全員が思わず舌を巻いた。


 が、それよりも気になるのは……背番号の上に書かれた、栞里考案のキャッチコピーだ。栞里からそれぞれ自分のTシャツを渡された時、皆真っ先に裏の自分のキャッチコピーを確認する。


「「3組女子の頼れるリーダー」だって〜!」


「めめちゃんピッタリじゃん! 私は「ハチミツレモンは私に任せて」って」


「はるる部活でよく作ってるからな〜。私は「男前盛り上げ番長」だってさ!」


 めぐる・遥・沙希が盛り上がっている中、菫も自分のキャッチフレーズを見るべく、畳まれたTシャツをゆっくり開く。


(一体なんて書いてくれたのかしら……根本さん)


 ワクワクする半分、ドキドキしながら見てみたところ、そこに書かれていたのは……「3組の小さな巨人でご意見番」だった。これを見た菫は……正直目を疑った。


(…………ご、ご意見番って!! なんかかなり偉そうな立場になってるんですけど!!)


「「3組の小さな巨人でご意見番」ですか……宮西さんにピッタリじゃないですか」


「ば、ばったん! いつの間に……」


 いつの間にか直が隣に来ていて、菫は驚いてビクッとした。どうやら直には菫のそのキャッチコピーはピッタリだと思っているらしい。そして菫もすかさず直のTシャツを見て思わず納得し、こう言った。


「ばったんだってピッタリじゃない……。「本と囲碁将棋とお祖父様大好き」って」




 その一方でクラス一ドキドキしながらTシャツを受け取ったのは……聡太郎だ。どうしても栞里が自分のことを何と思っているのか気になって仕方がない。心臓がバクバク鳴る中、聡太郎も畳まれているTシャツを震える手でゆっくりと開き、血走った目でTシャツの裏に視線を送る。


 聡太郎のキャッチコピーは……「恋に恋する剣士」だ。それを見た瞬間、聡太郎は思わず吹き出してしまった。


(いやいや……俺が恋してるのは…………)


 と思いながら、聡太郎は皆にTシャツを渡している栞里を悩ましげな表情で一瞥した。


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