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63ページ目 菫さんは文化祭の出し物決めで名案を出すようです


 いつの間にやら、二学期が始まってから早くも一週間が経過していた。今日も未だに暑くて強い日差しが2-3の教室にも降り注いでいる。そんな2-3には新たに颯も加わり、この晴天にピッタリ合うような賑わいを見せている。

 その3組は今ちょうどLHRの時間で、前には学級委員の寛斗と優香子、そして担任の杉谷が立っている。


「では……今日はお待ちかねの文化祭の出し物を決めるぞ!」


「……じゃ、何かこれがいいっていうのがあったら、挙手して!」


 杉谷が開会宣言し、寛斗が手を挙げながらクラス全員に呼び掛けたが……誰も挙手する気配はない。皆うーんと考え込んでいる。こんな状況に、杉谷はわかりやすくガッカリする。


「……なんだよ皆考えてきてねぇの? 先生、昨日の帰りのSHRで言っただろ〜? 出し物何か考えてきてって〜」


(別に誰も待ってないわよ。お待ちかねなのは公ヶ谷祭本番でしょーが……)


 嘆いている杉谷に。菫は頭の中でツッコミを入れていた。




 公ヶ谷高校の2年生の二学期は忙しく、大きな行事が3つもある。11月頭には皆がより待ちに待っているであろう修学旅行、10月半ばには学芸会、そして9月23日に『公ヶ谷祭』なる文化祭が開催される。

 この公ヶ谷祭では各クラスでの出し物があり、ステージでの発表か教室での模擬店または展示の、いずれかを選ばなければならない。今、3組はそれを決めている真っ最中である。が、確かに杉谷は出し物を考えてくるよう皆に言ったのだが……この有様だ。それどころか「忘れてた〜」と呟く声すら聞こえてくる。


「おいおい、忘れてたとか冗談じゃないよ〜。準備もあるから今日中には決めないとダメなのに〜」


 頭を抱えてしまう杉谷に……見かねた恭平がとりあえず案を出す。


「やっぱり……お化け屋敷とかカフェとかじゃね?」


(……どっちも定番中の定番ね。前の高校でもどこかしらのクラスでやってたわ)


 菫だけでなく他のクラスメイト達もそう思ったのか、教室中から「あ〜」と声が漏れる。とりあえず案が出たので、寛斗は恭平に礼を言うかのように目配せし、優香子が黒板にその2つを書く。だがその傍ら、杉谷は難しい顔をしている。

 

「お化け屋敷にカフェか〜。……ちょっとベタすぎやしないか? それじゃ他のクラスと被っちゃうかもしれないぞ〜」


 そう言い放った杉谷を、寛斗は間髪入れずに睨みつけて反論する。


「なんでそうやってすぐ文句言うんですか。 せっかく恭平が言ってくれたのに」


「だ、だって……」


 まさか異議を唱えられるとは思わず怯む杉谷だったが……寛斗と同じ考えの者は他にもいるらしく、次々とヤジが飛んでくる。


「きよみーの言う通りだよー!」


「ブツクサ言うんじゃねーよ〜!」


「別に他のクラスと被ってたっていいじゃ〜ん!」


「てか文句あるんならお杉が案出せー〜!」


 悠太、真二、沙希、日向にブーイングされ、杉谷はオロオロする。生徒達に混じって副担任の栗山も険しい顔で首を横に振っている。


「ええ〜! だ、だってそういうのって皆で話し合って決めるんじゃないか。や、やるのは俺じゃなくて君達生徒なんだから、先生の出る幕はないっていうか……ねぇ。だから俺は何にも考えて……」


 色々と御託を並べる杉谷に、更に非難の声が殺到する。


「じゃあ最初から口出すなよ〜!」


「出る幕ないって言ったじゃねーか」


「やっさーやっさー!!」


 真二・恭平・日向が更にヤジを飛ばす中、一部のクラスメイトはお化け屋敷かカフェで勝手に話を進めている。


「お化け屋敷いいじゃねーか。……真っ暗で何か起こりそうだし……グヘヘ」


「何ニヤけてんのよ。キモい声出すなって」


 お化け屋敷によからぬ妄想をする知輝に、隣の席の彩矢音がツッコミを入れる。一方、廊下側の席では花恋が目を輝かせている。


「ねぇ、カフェにするんならメイドカフェにしな〜い? 花恋メイド服着たいのぉ〜」


 席が離れているにも関わらず、花恋が猫撫で声で言ったのを雅哉は聞き逃さず、凄い勢いで彼女がいる方へと振り向く。そして花恋のメイド服姿を妄想し、先程の知輝と同じようにニヤニヤする。しかし……花恋の前後の席にいる萌とオリビアは首を横に振る。


「え〜、メイド服着んの? 恥ずかしいんだけど」


「私じゃたぶん似合わねじゃ〜」


「そんなことないよぉ〜、もえぽんもおーりんもきっと似合うんだからぁ〜」


 それでも花恋は二人を説得しにかかる。彼女らだけでなく他の生徒も口々に何かしら言っており、教室内はより一層騒がしくなる。


「コラ、皆静かにしなさい!」


 どんどんうるさくなってきたので、副担任の栗山が手をパンパン叩きながら一喝する。そのおかげで教室は一気にシーンと静まり返った。

 そこに……これ幸いと言わんばかりに、ある生徒が口を挟んできた。




「……杉ちゃんの言ってることも一理あるんじゃない?」

 




 そう発言したのは……莉麻だ。当の杉谷がおっ!と言わんばかりにニヤリと笑う。クラスのほぼ全員から一斉に視線が刺さる中、莉麻はそう思った理由を淡々と述べる。


「お化け屋敷とかカフェって確かに他のクラスでもやりそうだし……お客さん取られちゃいそうな気がするわ。やっぱりやるからには大盛況で終えたいじゃない?」


 莉麻のその意見は皆によく効いたようで……これにはノリノリだった知輝や花恋を含むクラス全員が黙り込んだ。逆に杉谷はよくぞ言ってくれたとでも言うかのように、満足げに頷く。そして栗山も少し考えてから莉麻の意見に納得したようだ。


「確かに齋藤さんの言う通りかもしれないなぁ。お化け屋敷やカフェが複数あったとて、お客さんはどれか1つしか行かないかもしれないからね。それにせっかくなら他のクラスとできるだけ被ってない、この2-3じゃないとできないような出し物にしたくないか?」


「くっ、栗山先生の言う通りだよ! 俺もどうせならオリジナリティのあるものがいいなって思ったんだよ。だからベタすぎるって言ったんだ。……齋藤も話がわかってるじゃないか」


 端的に意見を言う栗山に続き、杉谷も便乗して主張しだ後で最後に莉麻を褒めた。それに対し、頬杖をついている菫は呆れ顔でため息をつく。


(だったら最初からそう言えばいいじゃない。ベタすぎるって言い方が悪いのよ……)


 頭の中で杉谷を批判する一方、菫は莉麻の言ったことも尤もだと思っている。


(でも確かに齋藤さんの言うことも正しいわよね……お化け屋敷やカフェがいくつあっても全部回る人は少ないだろうし、せっかく出し物してもお客さんが来ないとつまんないし……。でも……他のクラスと被らない出し物って何があるかしら……)


 頬杖をついたまま菫も考え込むが……なかなかパッと思いつかない。ちなみに菫の一度目の高校時代の文化祭ではダンスを披露したが……ダンスなんぞもうやりたくないので提案するつもりは毛頭ない。

 そんな中……珍しく今までほとんど意見を言っていない、ある人物が漸く挙手をした。寛斗が嬉しそうにその彼女を当てる。


「ん、なんかいいの思いついたのか? めめちゃん」


 そのめぐるはというと、「まぁね〜」と言いながら得意系な顔をしている。どうやら他のクラスと被っていなさそうな出し物を思いついたらしい。


(めめちゃん……! どんな企画思いついたのかしら?)


 菫もそんなめぐるの様子につい期待し、彼女の席の方をじっと見てしまう。皆の注目を浴びる中、めぐるは咳払いをしてから、ある出し物を提案した。




「あのさ……射的とかどうだろ? 他のクラスやらなさそうだし、大人から子供まで楽しめるっしょ?」




 今まで出てこなかった射的という意見に、クラスの皆は「おお〜!」と声を上げる。


「なるほど! 射的いいんじゃね?」

 

「面白そう! てか私がやってみたい!」


「人少なくてもできそうですもんね〜」


「俺いつも夏祭りの縁日で射的やってるさぁー!」


 真二・萌・直・日向が口々に肯定意見を出し、他のクラスメイト達も概ね好意的な反応を見せている。菫もその一人で、早速日向の言った夏祭りの縁日を思い浮かべてみる。


(射的ねぇ……確かに他と被らなさそうだしお客さん来てくれそうね。あんまり学校の文化祭のイメージないし、今まで生きてきて何回も夏祭りに行ったけどいつも人気だったし。私も小さい頃やったことあるけどノーコンで全然ダメだったわ……)


 生徒だけでなく杉谷と栗山もめぐるの意見に賛成しており、杉谷に至っては恭平が提案した時とは真逆の反応を見せ、ニッコリ笑っている。


「良さそうなの言ってくれたじゃないか山﨑〜! で、景品はどうするつもりなんだ?」


 褒めながらも素朴な質問をする杉谷に、めぐるは想定内とでも言わんばかりに笑いながら即答する。


「景品は皆でお菓子買ったり、いらないおもちゃとか持ってきたりしよっかなって」


「ほう……それだとコストもそこまでかからなさそうだな!」


 更なるめぐるの案に、杉谷は更に満足そうに何度も頷く。

 こうして幸先よく2-3の出し物が決まろうとしていたが……ここで遥が振り向いて、めぐるに別の質問をする。


「でもめめちゃん……銃はどこで用意するの? どっかで貸して貰えるのかな?」


「…………あっ!」


 めぐるは思わずハッと息を飲んだ。これまで自信満々な態度だったが、ここに来てめぐるは顎に指を当てて考え込んでしまう。どうやら肝心の銃の調達方法までは考えていなかったらしい。

 これにはめぐるだけでなく、他の生徒も考え始める。


「確かに……ああいう銃ってどこで借りるんだろ」


「ねぇ。お祭りでよく見るけど、どこって言われたらねぇ……」


 学級委員の寛斗と優香子も頭を働かせる中、他の生徒達からも意見が飛び交う。


「てかああいう銃借りるのにも金かかりそうじゃね?」


「確かにな〜。結構本格的だし……」


 和馬と龍星がそう言う一方で、雅哉が野球部かつピッチャーらしい案を編み出す。


「じゃあこんなのはどうだろ? ボール投げて景品に当てるってのは」


 しかし、即座に近くの席のつばさと彩矢音に反対される。


「……それってもはや射的じゃないよな?」


「それにボールだと跳ね返ってくるし危なくない?」


 そう言われると……雅哉は返す言葉が思い浮かばずに黙ってしまう。

 せっかく決まりかけていたのに振り出しに戻りそうなこの状況に……もちろん菫もなんとかならないか考えを巡らせている。


(めめちゃん、銃をどこで用意するかまでは考えてなかったのね……。うーん……確かに射的用の銃ってどこに行けば貸してもらえるのかしら? それにいくらかかるのかもわからないし……


 …………


 ………………そうだわ!!)


 頭をフル回転させているうちに……菫はあるアイデアが閃いた。遠い昔、菫が小学校に通っていた時にそれで遊んだ記憶をヒントにして。それだと射的用の銃を調達する必要もなくなり、コストもかなり抑えられるのではないかと。ただどうしても手間はかかってしまうが、まだ本番までは時間があるので大して問題はなさそうだ。

 ということで、再び教室内がうるさくなってきた中、菫は堂々と挙手をする。


「あ、すー様! ……もしかしてなんか思いついちゃった?」


 ここでずっと黙っていた菫が手を挙げたのに対し、寛斗は期待を込めてニヤリと笑いながら訊く。射的を提案しためぐるも目を輝かせながら菫を見てくる。菫ならきっと良い案を出してくれる……と言いたげに。

 皆から視線を向けられる中、菫は一回だけ深呼吸し……閃いたアイデアをそのまま言った。




「あのね…………銃を私達で作るのはどうかしら?」





 それから数日後……3組の一部の生徒達は早速準備に取り掛かっていた。必要なものは沢山の割り箸に輪ゴム、それとダンボールに飾り付け用の折り紙だ。まずは力自慢の成一と寛斗が美術室から借りた糸ノコギリで割り箸を切断する。それから他の生徒達が輪ゴムで箸と箸を何度か縛り、鉄砲の形にしていく。めぐるがたちまち一丁作り上げると、何度も引き金を引きながら、ご満悦な様子で完成品を眺めている。


「ヤバくない!? 割り箸がこんな銃っぽくなるなんて。 さっすがすー様!」


「まぁ小学校の時によく作ったからね〜」


 褒めちぎってくるめぐるに、菫は照れ臭くなりながらも割り箸鉄砲作りに取り掛かっていた。

 そう、菫が先程提案したのは射的の銃を割り箸鉄砲にする、ということである。これなら割り箸と輪ゴムさえ手に入れば作れるし、いずれも100円ショップで手に入るのでコストを抑えられそうだから。流石に割り箸鉄砲の作り方まで菫は覚えていなかったものの、ネットで調べると簡単に出てくるし、輪ゴムで縛るだけなのでそこまで大変な作業でもない。なので、教師二人を含む皆も賛成してくれた。


「なぁ宮西! こんな銃なんかどうだ!? めっちゃカッケーんだけど!」


 集中しながら黙々と割り箸鉄砲を作る菫に、知輝がスマホを片手に近付いてきた。よっぽどカッコいい割り箸鉄砲を見つけたのか、ニヤニヤ笑みを浮かべながら。


「えっ、なになに……」


 とりあえず知輝にスマホを見せてもらうと……そこには立派かつリアルな拳銃の形の割り箸鉄砲があった。恐らく、この銃には割り箸数十本は使われているうえ、それ以外の木材も使用されているようだ。

 これを見た菫は……正直コメントに困って黙ってしまう。


(……カッコいいのかしらコレ。てゆーか流石にコレは作るの大変でしょ。割り箸たくさん使うだろうし……)


 すると、いつの間にか菫の両隣にめぐると沙希がいて、二人とも渋い顔をしている。


「わーすごーい……」


「本物の銃みてーだな……」


 めぐるも沙希も棒読みで言ったのに、なぜか二人が本気でそう思っていると思い込む知輝は、得意げな顔で鼻の下をこする。


「やっぱりお前らもそう思うだろ〜。俺この銃作ってみよっかな〜」


 尚も惚れ惚れしている様子でその拳銃の画像を眺める知輝に、菫は笑顔で釘を刺す。


「堀君……そこまで作りたいんなら自分で割り箸と輪ゴム買ってくれない? その銃作るんなら足りなくなっちゃうから」


「はぁー!? なんでだよー?」


「なんでって……今文化祭のためにこの銃作ってるんでしょ! できるだけたくさん……最低でも30丁は作っておきたいし。だから堀君の趣味に付き合ってる余裕はないの」


 納得いかない顔をする知輝に、菫は却下の理由をハッキリと伝える。それからすぐ、知輝に更なる反論の余地も与えずに沙希とめぐるも加勢する。


「文句言うんじゃねーよホリトモ! 普通の割り箸鉄砲でいいだろ、ちゃんと撃てるんだから」


「そうだよ! てかこんな銃がいいとか……中二病かよ」


「………………」


 めぐるから中二病と指摘されてショックだったのか、知輝は何も言い返せず沈黙してしまう。そしてどんどん顔が赤くなっていった後、知輝は「ケッ!」と捨て台詞を吐いて去って行った。そんな知輝に、菫・めぐる・沙希は大きなため息をつく。


「全くもう……凄い割り箸鉄砲を作るためにやってるんじゃないのよ」


「ホントそれ!」


「射的なんだから撃てたらどんなんだっていいじゃんなぁ」


 愚痴っている菫達三人に、寛斗が短くカットした箸を持ってくる。


「凄いじゃん、すー様。ホリトモにしっかり注意できるなんて」


 そのついでに寛斗は菫を褒めてくれた。まさかただ却下しただけでそう言って貰えるとは思わず、菫は目をぱちくりさせる。


「……え? ただダメなものをダメだって言っただけよ?」


 菫はあっさりと言ってのけたが、あろうことかめぐると沙希も寛斗に賛同する。


「でもすー様最近強くなったと思うよ~。初めて会った時、すー様って大人しくて嫌なことを嫌って言えなさそうだと思ってた」


「私もそう思う! 前のすー様ならしょうがないな……って許してそう」


「あ~、確かに!」


 めぐると沙希がそう言ったのに対し、寛斗もうんうんと頷く。まさか初期の頃と比べてこんなに変わったと思われていたなんて……と菫は意表をつかれた。そう言われてよくよく思い出してみると、最初の宿泊研修の騎馬戦で知輝達の不正を糾弾して知輝からチビ呼ばわりされた時、菫はイラっとはしたものの言い返せなかった。確かに今なら……「堀君に言われたくないわよ」ぐらいはやり返しているかもしれない。


(なんか……この高校に来てから私、気が強くなってきたかもしれないわね。やっぱりこのクラスは陽キャと気の強い人が多いから……感化されちゃったのかも)

 

 そんなことを考えながら菫はふふっと笑い……三人にこう言った。


「……まぁこのクラスにも慣れてきたからじゃないかしら……」


「そういえばすー様がここに来たのも2年からだったもんな~。あ、そうだ! この割り箸鉄砲の射的、すー様が考えてくれたんだから……すー様がリーダーってことでいいよな?」


「…………え?」


 まさかのリーダーへの指名に……菫は呆気に取られた。確かに発案者は完全に自分なのだが、菫は今までに学校はおろかバイトや夜職時代ですら「リーダー」と呼ばれる立場になったことは一切ない。なので「リーダー」と聞くだけでプレッシャーを感じてしまい、この射的を成功させられるのか一気に不安になってしまう。教室内は冷房が効いているというのに、汗が吹き出して菫が着ているシャツはじっとり濡れてしまう。

 こんな反応の菫をよそに、めぐると沙希はまたも寛斗に賛成する。


「いいじゃん! すー様がリーダーで!」


「すー様ならきっとやってくれるって!」


 しかし、まだイマイチ自信のない菫は首を縦に振れず……


「……いやいや! 私がリーダーなんて……てゆーかめめちゃんが射的にしようって言ったんじゃない! 私よりも先に!」


 最初に射的を提案したのはめぐるだと主張する。すると……


「……まぁそうだね。じゃあ、すー様がリーダーで私が副リーダーやろうか?」

 

 めぐるはあっさりそれを認めたうえ、自ら副リーダーに立候補した。その瞬間、菫はたちまち安堵して目をキラキラさせる。ただ一人リーダーとして孤軍奮闘するよりも、普段から仲の良いめぐるが副リーダーになってくれる方がどれだけ心強いか……。そう思うと、今度は首を縦に振らざるを得ない。


「……いいの!? めめちゃんが副リーダーなんて百人力なんだけど!」


「百人力って(笑) まぁ確かにすー様一人だと大変だもん。ここは言い出しっぺ同士で頑張ろーよ!」


「ありがと、めめちゃん!」


 かくして菫とめぐるがそれぞれリーダーと副リーダーに決まり、一緒にいた寛斗と沙希はもちろん、今教室にいる他のクラスメイト達まで拍手をした。そればかりか「よっ、リーダーに副リーダー!」「これからよろしく~」などと掛け声まで聞こえてきた。


「お~いリーダー、鉄砲10丁できたぞ~!」


「えっ、もう10丁も出来たの? ……万波君」


 しかもこうして決まった傍から、颯が早速完成した銃を持ってきた。しかもあっという間に10丁と、割り箸鉄砲作りの担当者の中では最速である。そもそも菫も担当者の中の一人なのだが、知輝に邪魔をされたりめぐる達と話したりして手が止まってしまい、未だに1丁も出来上がっていない。更に颯の作った銃にはトゲが一切ないうえ綺麗に輪ゴムが巻かれており、とても丁寧な仕上がりになっている。この颯の銃には他の面々もつい見とれてしまう。


「……これ本当にパイセンが作ったの!?」


 思わず寛斗が訊くと、颯は大きく頷いてから得意げな顔でくっくっと笑う。


「あぁ。まぁ俺……手先が器用だってたまに言われるし~」


(あら意外ね……万波君が手先器用なんて)


 元水泳部のエースかつ元ヤンである颯にそんなイメージが湧かず、菫は目を丸くした。そして凜も同じことを思ったらしく……


「へぇ……びっくりしたぜ。お前みてぇな荒くれ者だった奴がこんなの作れ……」


「ちょっ、凜!」


 本来は先輩であるにも関わらず、平然とそう言おうとして寛斗に止められた。菫達も焦る中、颯は苦笑いしながら凜に言い返す。


「お、お前……なかなか言ってくれるじゃねーか。……いやいいんだぜ? 俺も生田目も2年だし……」


 そう言ったものの……颯の目は笑っていなかった。当の凜は全くと言っていいほど気に留めていないが。



 危うく凜と颯が一触即発モードになりかけたものの、なんとか寛斗が間に入ってくれたので喧嘩にならずに済んだ。この後も3組の面々は集中して作業を続け、サクサクと順調に進んでいく。そもそも部活との兼ね合いもあって、今教室にいるのはクラスの半数ほどだ。特に文化部員はほぼ全員、運動部員も一部が部活でも出し物があって、何人かは部活の方に行ってしまっている。それでも特に颯の健闘もあり、割り箸鉄砲以外の台や看板、飾り付け作りも含めて何とか進められている。


 そこに、部活組の中の一人が教室に戻ってきた。空いている廊下側の窓から、彼女はひょっこりと姿を見せる。


「皆お疲れ様ー! 準備進んでる?」


「あっ、ネモちゃん!」


 栞里の姿に気付いためぐるは大きく手を振る。戻ってきたのが栞里だとわかるや否や、飾り付けを作っていた聡太郎はドキッとして手が止まり、顔を赤らめる。


「ごめんねー、今日は手伝えなくて……」


「ううん全然」


「気にしなくていいぜ。他にも何人か部活の方に行ってるし、俺も明日からは部活の方行かなきゃダメだから」


「心配しなくてもだいぶ進んでるわよ。銃なんかもうすぐノルマの30丁できるし……」


 所属しているイラスト部にも作品の展示があって栞里はそちらの方を優先しており、申し訳なさそうに謝る。しかし、副リーダーのめぐると学級委員の寛斗、そしてリーダーの菫は首を横に振る。


「えっ、早くない!? でも良かった〜、結構進んでて」


 菫から進捗状況を聞いた栞里は驚くと同時にホッとする。遠くから聡太郎がチラチラ見ていることには気付かずに。


「で、どうしたのネモちゃん。戻ってきて」


「あ、そうそう! 実は皆に見て欲しいものがあって……」


 めぐるになぜ教室に戻ってきたのか聞かれると、栞里は手に持っていた紙を出して、三人に見せた。




「これ…………実はクラスTシャツ作りたいなって思ってて、ちょっとデザイン考えてみたの!」


 


 その紙には……Tシャツのデザイン画が描かれていた。クラスカラーの水色のTシャツに、胸元に大きく「2-3」、その下に「Sugiya & Kuriyama Class」と筆記体で書かれ、両サイドには「(*´∀`)♪」と「(((o(*゜▽゜*)o)))」の顔文字が描かれている。また、その下にはクラス全員の名前が筆記体で名簿順に書かれている。新参者の颯の名前も当然ある。

 どうやらイラスト部の栞里が本領発揮し、人知れず考えてくれていたらしい。


「えっ……これ根本さんが考えたの? (クラスTシャツって……文化祭あるあるじゃない! やっぱり今時の高校生でも皆着るのね〜!)」


「めっちゃオシャレじゃん! 顔文字も可愛いし!」


「皆ー! 根本さんがクラスTシャツのデザイン考えてくれたって!」


 このデザイン画を見るや否や菫とめぐるは早速食いつき、目が釘付けになってしまう。菫に至っては頭の中で大興奮している。そして寛斗は他のメンバーにも見てもらうべく、皆を呼び出した。聡太郎を筆頭に、今教室にいる全員が廊下側の窓まで寄ってくる。


「え〜、いいじゃん!」


「皆の名前入ってるのエモいよね!」


「コレにしよーぜ!!」


「ネモちゃん考えてくれてありがとう!」


 菫とめぐるだけでなく、クラスの皆が栞里のデザインを口々に絶賛する。沙希に至っては拍手までしており、聡太郎は顔を赤らめたままじーっとデザイン画を眺めている。皆から称賛された栞里は嬉しそうにしながら、デザイン画をもう一枚出した。


「実は……裏のデザインもあるの!」


 そこには一枚目と同様水色のTシャツに、「21」とスポーツのユニフォームの背番号の如くデカデカと載っている。その上にはユニフォームと同じく名前……ではなく、なぜか「絶賛彼氏募集中!」と書いてある。


「えっ……ネモちゃんこれ……」


「ここは皆それぞれの出席番号とキャッチコピーを書くの! コレは私のよ。キャッチコピーは私がピッタリなの考えるからね!」


 背番号はともかく、その上のキャッチコピーにめぐるは目をぱちくりさせる。だが栞里は意に介さず、皆に褒められて自信がついたのか、したり顔で堂々と話す。

 ただ……「絶賛彼氏募集中!」が気に障ったのか、聡太郎だけは明らかに面白くなさそうな顔になってしまう。栞里はそれに気付き……


「ん、どうしたの淺間君? ……このデザイン嫌?」


 少しだけ顔を曇らせ、名指しで聡太郎に訊く。それと同時に聡太郎はハッと我に返り、ものすごい勢いで首を横に振る。


「ち、違う!! お、俺は……このデザインいいと思いけど……」


 聡太郎がそう返すと、栞里は再びパッと笑顔に戻り「よかった〜」と言うのだった。その様子を、菫とめぐるは微笑ましげにニヤニヤと眺めていた。




 そして栞里が部活に戻った後……招かれざる客まで顔を出してきた。恰幅の良いその男は3組の面々が頑張って作業しているのを廊下側の窓から一瞥し、小馬鹿にしているかのようにプッと笑う。


「やぁ、皆頑張ってるじゃないか〜。そんな安っぽい割り箸の銃とセットなんか作っちゃって〜」


「……ぁあ?」


 例によってつっかかってくる丈一郎に、ほぼ全員がいかにも鬱陶しそうにため息をつく。ただ、彼のことをよく知らない颯だけ反応してしまう。そんな颯に和馬が距離を詰めて耳打ちする。


「相手にしねぇ方がいいぞ万波。あのライオン寺の奴いつもウゼェんだから」


「ラ、ライオン……?」


 何のことやらと困惑する颯に丈一郎は早速興味を示し、やはり絡んでくる。


「おっ、去年まで学園のスターだった万波先輩じゃないですか〜。今俺らと同じ2年になっちゃってどんな気分ですか〜?」


 嘲笑しながら訊いてくる丈一郎だったが……颯は怒ることなくあっさりと答えた。


「どんな気分って……普通に居心地いいぜ。うちのクラスはてめぇみてーな奴がいねーしな」


「…………ケッ!」


 颯の反応が期待通りでなく、丈一郎は不機嫌そうに吐き捨てた。そこに知輝と寛斗がとどめを刺す。


「お前何しに来たんだよ〜? そんなに割り箸鉄砲やりてーのか?」


「ライオン寺ごめーん、今俺ら忙しくて構ってる暇ないんだよ」


 知輝は一応チラリと丈一郎を見たものの、寛斗は作業の手を止めないどころか一切顔も見ずに言ってのけた。これには丈一郎も更にムカついたのか、「フン!」と言いながらそっぽを向く。それからすぐに長い捨て台詞を吐き捨て、つかつかと去っていった。


「……別にやりたくもないよそんなちゃちな射的なんて! それに俺ら1組だって忙しいんだぞ! これから音楽室借りて合唱の練習するんだから!」


 ドスドスと足音を立てて丈一郎が去っていく中、知輝はボソッと呟いた。


「……1組の出し物って合唱なのか?」


「……ぽいな。でもライオン寺は合唱部員だし部活の発表でも歌うんじゃない? しかも今年の学芸会って確か合唱だよな」


「あれだけ歌ったら喉壊れるんじゃね?」


「いやでもそこは合唱部員だし……いやいっそ壊してくれた方が静かになりそうだけど(笑)」


 寛斗が知輝の発言に反応したうえ、沙希とめぐるもそう言う中、菫は学芸会のことが気になってしまう。尤も、学芸会の存在とそれが10月半ばに行われることは菫も知っていたが、明確に何をするのかまでは知らなかった。


「が、学芸会って……よくわかんないけど合唱やるの?」


 思わず菫が訊くと、めぐるが詳しいことを教えてくれた。


「そーそー、今年はね。毎年ダンスか合唱か演劇のどれかがローテーションで回ってくる感じで。去年がダンスで今年が合唱だから……来年は演劇っぽいな」


「……そうなのね!」


 それを聞いた菫は顔をパッと明るくさせた。なぜなら……その中で一番不得手なダンスをやる可能性が完全になくなったからだ。


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