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51ページ目 菫さんの伊豆の別荘旅 ⑥水族館に恋花火、そして……


「あっ! ウミガメがいるー!」


「おー、でけぇな!」


「私達でも背中に乗れそうじゃない?」


「乗ったら竜宮城に連れてってくれそう!」


「浦島太郎かよ〜」


 チャボテン動植物園を出て、鍵谷の運転するバスで1時間半ほど。水族館に入った菫達別荘組を真っ先に出迎えたのはウミガメだ。大きな水槽の中を悠然と泳ぐウミガメを、栞里・沙希・千穂・萌・彩矢音はじーっと眺めている。また、少し離れたところにも巨大な水槽が置かれている。そこにいるのは……。


「あれは……おにぎり君?」


「おにぎりの奴なら今頃自主トレでもやってるんじゃねーか? カオルンじゃね?」


「カオルンはこんなとこじゃなくて保健室にいるんじゃねーの? あの巨体はライオン寺だろたぶん」


「……いやセイウチだから! 身近なデブの奴と一緒にすんじゃねーよ」


 まるで大喜利のように次々とボケていくめぐる・真二・知輝に、恭平はツッコミを入れる。その横で寛斗は大笑いし、同じくセイウチを見ていた菫もププッと笑った。近くにいる龍星と和馬も笑っている中、凜だけは唯一冷ややかな視線を送っている。巨漢に例えられているとは知る由もなく、セイウチは後ろ足を上手に振りながら、スーッと皆の前を颯爽と泳いでいく。


「うーん、あのデカさは……中村先生かしら」


 泳ぐセイウチを眺めながら、菫はめぐる達が挙げた三人の中で誰が一番似ているのか、敢えて真面目に考えていた。


「……宮西さんもそう思います?」


 すると、いつの間にか直が菫の隣に来ていた。


「……ばったんもそう思う?」


「ええ。この三人の中じゃ一番中村先生が大きいじゃないですか。いつものジャージもあれ特注っぽいですし……」


 自分と同じく真面目に考えていた直に、菫は思わず吹き出した。


「ふふっ……流石に中島君や西園寺君はここまでじゃないような気がするわ」


「ですよねぇ〜」


 こうして二人で笑い合っている菫と直は、全く気付いていない。ある人物から視線を送られていることを。


「……と」


「…………」


「……おい! 寛斗!」


「……あ! ごめん」


 寛斗はハッと我に返った。声の聞こえた方に振り向くと、凜がすぐ側にいてうんざりした顔をしている。どうやら何回も声を掛けてくれていたらしい。正直、寛斗は今まで心ここにあらずの状態で全く気付けなかったが。


「……せっかく水族館にいるんだからセイウチ見てろよ。……ばっかり見てねぇでさ」


「……!!」


 耳元で凜に囁かれ……図星だったのか、寛斗は少しだけ顔を赤らめた。




 最初こそは皆揃ってウミガメやセイウチを見ていたものの、暫くすると別荘組はバラけて皆見たいところへと自由に回っている。チャボテン動植物園にいた時と同様に。


 彩矢音・萌・千穂が次に入ったのは、クラゲの展示室だ。このエリアは照明が落とされ暗くなっており、何匹ものクラゲがネオンのように光っている。


「わー! クラゲってこんなに綺麗なんだ!」


「なんか幻想的だねー」


「海で泳いでいる時にいたらテンション下がるのにね〜」


「……それはまた別のクラゲじゃない?」


 萌に彩矢音がツッコミを入れ、それを見ている千穂はクスクス笑う。こうして三人でワイワイ話しながらクラゲを見ていたところ……


(……あ!!)


 千穂は突如赤面し、もじもじし始めた。自分達に続いて、ある人物が入ってきたからだ。それには彩矢音と萌も一足遅れて気付き、ニヤニヤする。


「あっ、きたろーじゃ〜ん!」


「クラゲ見にきたのー? てか鍵谷さんも一緒?」


 鍵谷も恭平に続いてクラゲの展示室に入ってきた。だが二人とも首を横に振っているので、あくまでタイミングが同じだっただけらしい。


「いや〜、適当に回ってるだけだぜ。魚とかよく知らねーし」


「私も左様でございます。寛斗坊ちゃんが外に出られたので……」


 恭平と鍵谷が話している時、彩矢音と萌はバレない程度でニヤニヤし、彩矢音に至っては肘で千穂の腕を小突く。その千穂はというと未だに顔を赤らめたまま、もじもじしている。が、千穂は一旦深呼吸した後、想い人をじっと見て……


「ね、ねぇ北山君! クラゲ凄い綺麗だよ! ぜひ見てみて!」


 目の前のクラゲを指差し、勇気を振り絞って勧めると……恭平はあっさり見てくれた。


「本当だ、マジ綺麗じゃん。イルミネーションみたいじゃね?」


「……でしょー!?」


 まさかここまですんなり見てくれるとは思わず、千穂は咄嗟に口走った。そればかりかクラゲの美しさに目を奪われたのか、恭平は水槽の前まで近付いてじーっと眺めている。千穂は「今だ!」と言わんばかりに恭平の隣に来て、同じようにクラゲの水槽を眺める。


「クラゲって暗えとこだとこうやって光るんだな……。海で見るやつは透明だし刺してくるのによ」


「ふっ、不思議だよね〜。そ、そういえば萌ちゃんもさっき似たようなこと言ってたな〜。ねぇ、萌ちゃん……」


 そう言いながら振り向いた瞬間……千穂は言葉を失った。


「って…………ぇえっ!! 皆どっか行っちゃった!?」


 つい先ほどまでいたはずの、彩矢音・萌・鍵谷が忽然と姿を消したからだ。そのせいで、他の客を除けば恭平と二人っきりである。

 続いて恭平も振り向き、千穂よりも一歩遅れて彩矢音達が去って行ったことに気付いたようだ。


「あ、確かにいねぇな。どっか別のとこ行ったんじゃね」

 

 まさかの予定外の二人きりになってしまい、頭の中が真っ白になる千穂とは裏腹に、恭平は淡々とそれだけ言う。尤も、千穂はなぜこうなったのか薄々予想はついていたが。


(もしかして……二人っきりにしてくれたのかな? それなら……チャンスね!)


 そう推測した千穂は……思い切って更なる行動に出る。


「き、北山君! あっちのクラゲも綺麗よ。今見てるのよりも大きくて足も長いし。……もっと近くで見てみない?」


「おう、行ってみっか」


 ドキドキしながら誘う千穂に、恭平はついて行ってくれた。



 その頃、千穂と恭平に黙ってクラゲの展示室を後にした三人は既に外に出ていた。


「いや〜、ありがとうございます!」


「まさか私達と一緒に行ってくれるなんて〜」


 彩矢音と萌はニコニコ……というよりもニヤニヤ笑い、かなり上機嫌な様子だ。それもそのはず、自分達の思惑通り、千穂と恭平を二人きりにすることに成功したからだ。実はその二人が並んでクラゲを見ていた時、彩矢音と萌は「鍵谷さん、一緒にカワウソでも見に行きましょうよ〜」と誘い出していた。もちろん鍵谷は千穂の想いについては知らず、単純に誘いに乗っただけだが。


「いえいえ、こちらこそビックリですよ。まさかお坊ちゃまと同い年の女性からお誘い頂くとは……」


 ただ千穂と恭平を二人きりにするためだとは知る由もなく、鍵谷は少しばかり照れ臭そうに言う。


「いや〜、せっかくなんで〜……ちょっとお話ししたいな〜って思ってたんです」


「ねぇ、お盆はずっと仕事なんですか〜? 今だって仕事のうちですよね?」


「いえ、別荘に行くまでは暫くお休み頂いておりましたよ。三日ほどですかね……」


「えー! 短くないですかー?」


 二人の持ち前のコミュニケーション能力のおかげで会話を弾ませながら、彩矢音と萌は鍵谷と共にカワウソの展示場へと向かう。

 すると、カワウソを見ていた先客が既にいた。


「……あれっ! ネモちゃんじゃん!」


 彩矢音の声に、栞里はすぐに振り向いた。しかし、その顔は水族館にいるとは思えないほど曇っている。


「どうしたのネモちゃん…………あっ」


 萌も声を掛けたが、あることに気付いて思わず口籠もり……同時に少し気まずくもなった。彩矢音と鍵谷もそれを見て、つい黙り込んでしまう。


 栞里の視線の先には、カワウソが二匹いる。一匹の上にもう一匹が覆い被さって腰を振り……交尾をしていた。それを一人で見ていた栞里は伏し目になり、大きなため息をつく。


「ねっ、ネモちゃん……なんちゅーもん見てんのよ……ホリトモじゃないんだから……」


 まさか栞里がこんな愛の営みを眺めているなんて微塵も思わず、彩矢音がそう訊くと……栞里は力なく笑い、もう一度大きなため息をついてから答えた。


「いや〜、今年の夏も碌に恋愛できなかったな〜ってね……。カワウソですら相手見つけてさ、こういうことしてるのに人間の私は好きな人すらいないから……。夏は恋の季節だって言うのにさぁ」


 そう言われてみると……彩矢音はなんとなく栞里の気持ちがわかり、「あ〜」と納得せざるを得なくなってしまう。その一方、鍵谷は真面目な顔になり……


「でも根本さんはまだまだ若いじゃないですか。そんなに焦らなくても」


「え?」


 数少ない成人らしく、しっかりとアドバイスした。まさかこうして真面目に助言されるとは思わずポカーンとする栞里に、鍵谷は話を続ける。


「お坊ちゃまと同級生なら……今16か17歳ですよね? まだまだ若いですし出会いなんかいくらでもあるじゃないですか。もしかしたらそう遠くないうちに、好みの人に出会えるかもわかりませんよ」


 鍵谷の話に耳を傾けていた栞里は、暫くの間目をぱちくりさせて黙っていたものの……すぐにパッと笑顔になった。


「……そうですよね! ありがとうございます、鍵谷さん」


「いえいえ」


 礼を言われた鍵谷に続き、萌も両手でガッツポーズをしながら励ましの言葉をかける。


「そうだよ! ネモちゃんにもきっといい出会いがあるって。もしかしたら明日かもしれないし明後日……ん?」


 萌が言い終わる前に、スマホの着信音が鳴った。鍵谷を含め四人全員が一斉に自分のスマホを確認したところ……


「あっ、私だわ。ちょっとごめん……」


 鳴っていたのは萌のスマホで、萌は一言断ってからその場を離れた。こうして三人になったところで、栞里は今度はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。その笑みが向けられたのは……鍵谷だ。


「ところで鍵谷さん……」


「……どうしましたか? 何かありましたら遠慮なくおっしゃってくださいね」


「じゃあ…………彼女いるんですか!?」


「……ぇええ!?」


 遠慮なくと言われ、栞里はこれ幸いと言わんばかりに、彼女がいるか否かを単刀直入に訊く。これに対し、彩矢音は思わず吹き出してしまう。


「ネモちゃん! 鍵谷さんぐらいの年なら結婚しててもおかしくないでしょが!」


「あっ、そっか! じゃあ結婚は……?」


「い、いえ……してないですけど……」


「じゃあ彼女、いるんですか?」


 これまでとは一転、急にしどろもどろになる鍵谷に、栞里と彩矢音はジリジリと迫ってくる。鍵谷がたじろいでも、栞里と彩矢音は教えてくれるまで離れないと言わんばかりに距離を詰めて行った。




 一方、萌は人通りの少ない場所で電話に出ていた。


「うん、今皆で水族館行ってるとこ。

 ……はぁ!? 今更行きたいって……行きゃよかったじゃん、……も。てか部活の大会があるんでしょ〜?」


 スマホを耳に当てがって話す萌のすぐ横を、菫と直が通りかかる。


「あれっ、今川さんじゃないですか」


「あっ、本当ね。でも電話してるみたいだし、行きま……」


 二人が何事もなく萌の横を通過しようとした、ちょうどその時……




「うん、わかったって……。え? 大丈夫だって〜、まだ誰も知らないから……私達が付き合ってること」


「…………!」




 まずいと思い、菫と直はその場から逃げるようにそそくさと去って行った。萌の姿が完全に見えなくなったところで、直が顔を赤らめて小声で囁く。


「い、いいい今川さん……彼氏いるんでしょうか……?」


「そうみたいね(最初の女子会の時はいないって言ってたけど、できたのかしら? この夏休みで……)」


「!! し、知ってたんですか!?」


「いや〜、初めて聞いたわよ。もしかしたら、今川さんの彼氏……このクラスの中にいたりして」


 菫がニヤリと不敵な笑みを浮かべる横で、直は驚いたと同時に羨ましくもなった。



 萌の電話現場を目撃した後、菫と直はイルカショーの観覧席に座っていた。本日最後のショーが始めるまではあと10分ほど。もちろん、菫はこのようなショーを観るのも十数年振りだ。


「あのボールみたいなやつがあるってことは……あそこまでジャンプするんですかね!? あんな高いところまで」


 天井にぶら下げられている赤いボールのようなものを、直は興味津々な様子で眺めている。


「そうじゃないかしら?イルカって結構高いところまで跳ぶものね」


「いや〜、楽しみですね〜(宮西さんと観るのがですけど……)」


 ショーが始まるまで座って待っている菫と直に……別の二人組が近付いてくる。


「あれっ、すー様にばったんじゃん!」


「あっ、これはこれは……清宮君と生田目君じゃないですか」


 その二人組とは、寛斗と凜であった。凜はいつものように無表情のままだが、寛斗は驚いたようなショックを受けたような複雑な表情になっている。菫はもちろんそれに気付き……


「あらどうしたの清宮君。そんなビックリして……」


「あ、いや……その……」


 そう訊くと、寛斗は口篭った。すると、隣にいる凜はハッキリと言う。


「今日はずっと一緒にいるじゃねーか、宮西と上川畑」


 凜にズバリと指摘され、直は冷や汗を垂らしてドキッとする。そして凜の援護射撃のおかげで、寛斗もおずおずとだが単刀直入に訊く。


「いやもしかして……すー様とばったん付き合ってんのかなって思ってさ……」


 そう訊かれた瞬間、菫は思い切り吹き出した。無論、菫はそんなつもりではないし、成り行きで一緒にいただけに過ぎない。隣にいる直も笑っているものの……菫と比べるとどこか力なく笑っており、むしろ苦笑いに近い。


「違うわよ〜! たまたま一緒に回ってただけなんだから」


「そ、そうですよ〜(……というより僕が勝手について行ってるだけですから)」


 菫も直も口を揃えて否定したので、寛斗はホッとしたような表情を見せた。そんな寛斗を、凜はやれやれとでも言いたげに横目で見ている。


「……そっか。あっ、この後ろの席って空いてる?」


「うん、空いてるわよ。座ったら?」


「きよみー君と生田目君もイルカ観ましょうよ〜」


「ありがと! 凜、座ろうぜ」


 菫と直に勧められるがまま、寛斗と凜も二人の後ろの席に座った。




 その頃、めぐると沙希も外に出ていて、海のすぐ側にある飼育場の前にいた。そこにはアシカにアザラシ、オットセイと海獣が何頭もいて、泳いでいる者もいれば砂浜で日向ぼっこしている者もいる。めぐると沙希はカピバラを見ていた時と同じように、アシカ達に向かってスマホを構えて撮影している。


「……ねぇさっきー」


「めめちゃんどした?」


「アシカってさ……犬に似てない?」


 藪から棒にそんなことを聞かれ、沙希は思わず動画を撮るのを一旦やめ、アシカをじっと見つめる。だがどれだけ見てもピンと来ず、首を傾げる。


「……そんな似てるか〜?」


「似てるって〜。うちの隣の家にゴールデンレトリバーがいるんだけど、その子にそっくりだよ。特に横顔が」


「あー、ゴールデンレトリバーな。言われてみりゃ似てるかも……」


 沙希が漸く納得し出したところ、すぐ近くから聞き覚えのある声が二人の耳に入ってきた。


「なぁ……何が違うんだ? アシカとアザラシとオットセイって……」


「さぁ……棲んでる場所が違うんじゃね? ペンギンとシロクマみてぇに」


 海獣達をまじまじと見ながら真二が呟く横で、和馬が適当に答える。沙希とめぐるは一旦撮影をやめて、彼らの話に加わる。


「なーに面白い話してるんだよー!」


「おっ、お前らいつの間に……」


「てか今一緒に棲んでるからそれはないっしょ〜」


 めぐるに笑われ、和馬は少しだけムッとする。


「……じゃあ山﨑は知ってんのかよ? アシカとアザラシとオットセイの違いを」


「ううん、わかんない」


 まさかのめぐるの即答に、真二と和馬は軽くコケる。


「めめちゃんだって知らねーじゃねーか!」


「だって考えたことねぇし」

 

「てか区別もついてねぇのに撮ってたのかよ」


「別にいいじゃ〜ん。どれも可愛いんだから」


 真二・和馬とめぐるが言い合う中、沙希はあることを思いついた。


「そういうのはさ、ぽそのに聞けば教えてくれるんじゃね? クイズ部員なんだしそれぐらい知ってそう」


「あ〜、ぽそのか……」


 難しい顔で難色を示す和馬とは違い、真二はすぐにスマホを取り出してLIMEを立ち上げる。


「よーし! 早速聞いてみるぞ」


「え〜、アイツ面倒くせーじゃねーか。いちいち知識をひけらかしやがるし」


「別にいいぜ、それでも気になるから」


 反対する和馬を振り切って真二は慶吾にLIMEを送り、アシカとアザラシとオットセイの違いについて聞いてみた。

 暫くすると、慶吾から返信が届いた。真二はスマホの画面を見るなりギョッとする。


「な……なんだよコレ……」


 めぐる・沙希・和馬が真二のスマホを覗いてみると……やはり三人とも絶句してしまう。送られてきた返信が、超ド級と言ってもいいほどの長文だったからだ。


“なかなかいい質問じゃないか〜。

 このクイズ研究会会長の僕が教えてしんぜよう!

 まずアシカとオットセイがアシカ科で、アザラシはアザラシ科だ。アシカ科は前脚が長くて上半身を起こせるけど、アザラシは前脚が短いから起き上がったり地べたを歩くことはできない。その代わり、アザラシは後ろ脚が発達していて泳ぐのは大得意だよ。

 で、アシカとオットセイはまず毛が違うんだ。アシカは毛がつるっとしてるけど、オットセイはアシカよりも毛深いんだよね。それと耳はオットセイの方が大きいかな。あとは足のヒレ先に違いがあって……”


「さっすがぽその……なっげーなぁ〜」


 全て読み終わるのを待たずして、めぐるは呆れたように呟いた。



 そして彩矢音と萌の計らいによって二人きりになった千穂と恭平は、川魚の展示室にいた。そこではザリガニ釣りの体験コーナーがあり、恭平はそれにチャレンジしている。


「あっ北山君! 挟んだ挟んだ!」


「うわマジじゃん! 早く上げねぇと……」


「頑張ってーー! もうちょっと!」


 狙い通りザリガニが餌を掴んだので、恭平はゆっくりと竿を上げていく。隣で見ている千穂は全力で応援する。慎重に慎重に竿を持ち上げていったものの……


「あ゛っ!!」


「うそ〜!」


 その途中で餌からハサミが離れ、ザリガニは真っ逆さまに水槽へ落ちて行った。千穂が悲鳴を上げる横で、恭平は悔しそうに歯を食い縛る。


「クッソー! あともうちょいだったじゃねーか!」


「惜しかったね〜……」


 そう言った後で千穂はハッとし、なぜか一気に顔色が悪くなる。その変貌ぶりに、恭平は不思議そうな顔をする。


「? どうしたんだよ阪口……?」


「も、もしかして私がうるさかったから、ザリガニがビックリして離したのかも……ごめん!」


 千穂は謝ったが……当の恭平は思いっきり吹き出した。


「アハハ、そこまでうるさくねーよ! それにたかがザリガニ釣りじゃねーか」


 面白そうに笑っている恭平につい見惚れながらも、千穂はほっとする。ひとしきり笑った後、恭平はまるで本物の川のように砂が敷かれ、草が植えられた釣り堀を懐かしそうに眺めている。


「まさかこの年でザリガニ釣りするなんてな〜。小学校の時以来だぜ」


「北山君、小学校の時もザリガニ釣ってたの?」


「おう、弟と時たま近所の川に行ってたんだよ。……いつも全然釣れなかったけどな」


 今度は千穂の方がふふっと笑う。だがこうして笑いつつも……千穂は虎視眈々と狙っている。どうしても恭平に伝えたいことがあり、それを伝える機会を。これまでは緊張したうえ、なかなか良いタイミングを掴めなかった。水族館にいる時間もどんどん少なくなっているので、せっかくのチャンスを活かすべく恭平がザリガニ釣りを終えたタイミングで、千穂は口を開く。


「あの……北山君、」


「おーいお前ら何やってんだよ〜」


「てかお前らも……デェト?」


 しかし……ここで邪魔が入ってしまった。知輝と龍星が二人を見つけ、声を掛けたのだ。しかも、龍星に至ってはニヤニヤ笑い冷やかしてくる。それでも恭平は龍星を軽く睨んでから言い返す。


「バーカ、そんなんじゃねぇよ」


「そ、そうだよ! ……ねぇ、ザリガニ釣り楽しいみたいだよ! 堀君と金村君もやってみたら?」


 千穂も恭平に同調すると同時に、知輝・龍星にザリガニ釣りを勧めた。




(……全くもう! 堀君も金村君も無粋なんだから! そんなんだから女の子にモテなかったりドン引きされたりするのよ……)


 思わぬ邪魔が入り、千穂はイライラしていた。ただ、それでも千穂は諦めずにまだ恭平と二人でいる。知輝と龍星がザリガニ釣りに熱中し出したのをいいことに、「お土産でも見ない?」と言ってこっそりと釣り堀を抜け出していたのだ。なんとしてでも、今のうちに恭平に伝えておきたいことがあるから。


「俺、コレ買おっかな〜」


 二人が今いるのは、売店のクラゲコーナーだ。よっぽどクラゲの美しさに魅了されたのか、恭平は他のお土産は適当に見ていたのに、ここでは立ち止まってじーっと眺めている。


「……北山君、ボールペン欲しいの?」


「いや、俺のじゃなくて弟の。お土産買ってこいってうるせぇから」


 恭平の話を聞きつつ、千穂は怪しまれない程度で辺りをキョロキョロ見回す。まだ自分達以外の別荘組は魚や動物を観ているのか、売店の中で知っている人の姿はない。が、水族館を出発する時間は刻一刻と迫っているので、他の誰かが来るのも時間の問題だろう。


(たぶん……今が最後のチャンスね!)


 そう確信した千穂は……


「じゃ、俺コレ買って……」


「ま、待って! 北山君……」


 クラゲの絵が描いたボールペンを持って、レジに行こうとする恭平を引き留める。すると、恭平は嫌な顔せず普通に止まってくれた。


「ん? どうした?」


「あのね、北山君……


 ……明日の朝、当番だよね? 朝ごはん作るの」


「おう、そうだけど」


 あっさりと頷く恭平に、千穂は数回深呼吸し……小さな声でしどろもどろになりながらも、こう言った。




「あの……朝早くに申し訳ないけど……朝ごはん作る前、ちょっといいかな? あ……会って話したいことがあるの」


(言っちゃった〜! ……いや、本番は明日の朝なんだけど……)




 何とか言葉を振り絞った千穂は、本番さながらに顔はおろか身体まで熱くなった。しかし、ドキドキしながら返事を待つ間もなく……恭平はすぐに返答する。


「……いいけど。何時ぐらいに行きゃいい?」



 水族館を出た後、一行は途中でとある港町の飲食店街にて夕食を済ませた後、別荘に戻った。別荘に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。そのうえ昨日と同じく夜空は澄み切って、いくつもの星がキラキラと輝いている。このような天気なので……絶好の花火日和であるのは言うまでもない。


 昨日とは全く雰囲気の違う砂浜の上に、沢山の手持ち花火を寛斗と凜が広げていく。


「うわー! いっぱいあるじゃん!」


「早くやろ〜ぜ!」


 めぐると真二が急かすも、寛斗は待ったをかける。


「まぁそう慌てんなって。今鍵谷さんがバケツに水入れてくれてるから。……あっ、こっちこっちー!」


 寛斗が手招きしたところ、鍵谷は防火用の赤いバケツを持ってこちらへと向かってくる。鍵谷は適当なところにバケツを置き、次に蝋燭立てと蝋燭とチャッカマンを出して火をつけた。

 そんな鍵谷の様子を……どういうわけか彩矢音・萌・栞里の三人はニヤニヤと笑みを浮かべながら見ている。日頃からめざといめぐるはそんな状況にいち早く気付き……


「なーに笑ってんだよ? あやっぺももえぽんもネモちゃんも」


 早速首を突っ込んだ。すると、なぜか鍵谷も反応して顔を赤らめる。いつも何事にも動じず冷静なのに、珍しく。


「……え? 鍵谷さんまでどうしたんですか?」


 もちろんめぐるは鍵谷の様子にも気付いた。いつにない態度の鍵谷に、例の三人は尚もニヤニヤしながらチラリと見てくる。彩矢音と萌に至っては煽ってくる。


「鍵谷さ〜ん、今日私達だけに教えてくれましたよね〜?」


「皆も気になるよね〜? 鍵谷さんのひ・み・つ」


「!!!」


 鍵谷は顔を更に紅潮させるどころか耳まで赤くなってしまう。それとは裏腹に、寛斗を除いた別荘組の面々は興味津々な様子で鍵谷に迫ってくる。


「えっ! 秘密ってなんですか〜?」


「めっちゃ気になるんですけどー!」


「僕達にも教えてくださいよー。山本さん達だけじゃずるいですよー」


(鍵谷さんの秘密……? ……お酒飲めないってことかしら?)


 皆が鍵谷に一斉に訊く中、菫は冷静にどんな秘密なのかを予測していた。そんな鍵谷はというと、いつの間にか隣に来ていた寛斗に肘で小突かれ、照れながらも渋々話すことにした。鍵谷はため息をつくと、重い口を開く。




「実は私…………彼女がいるんです。寛斗坊ちゃまは既に知っているのですが……」




 これには当然皆がワーキャー騒いだうえ、鍵谷が恋人について質問責めに遭ったのは言うまでもない。こうして鍵谷の恋人の話で大いに盛り上がる中、花火はスタートした。真二が両手に花火を持ってぐるぐる回すわ、知輝が花火を持ったまま走り回ったり、龍星が花火を上に向けて振ったりと、少々危ない持ち方の者もいたが。

 もちろん、菫も十数年振りの手持ち花火を楽しんでおり、めぐる達と写真も何枚も撮ったが……ふとある人物のことが気になり、バレないようチラリと一瞥する。


(やっぱり今のうちから緊張するわよね〜。だって明日……だもの。眠れるかしら、今日の夜……)


 一瞬だけ菫の視線の先に映ったのは……千穂だ。ほぼ全員ワイワイと花火を満喫している中、彼女のみどこかソワソワし、落ち着かない様子で花火を持っていた。











 菫に心配されていた通り、千穂はこの日の夜あまりよく眠れなかった。寝過ごすことなく予定の時間に起きることはできたが……千穂は正直焦りながら鏡を見る。あまり寝られなかったので、目の下に隈ができていないか心配だったのだが、幸いできていなかった。安堵した千穂は他の女性陣がまだ寝息を立てている中、早速ワンピースに着替えて身支度をしてから、そっと部屋を後にする。


 階段を降りてきたところで、千穂は目を疑った。すぐ近くに恭平が立っていたからだ。服装こそ見覚えのあるロックなプリントのTシャツとダメージジーンズに、いつもと同じくピアスをつけているが、流石にヘッドフォンはつけていない。千穂はすぐに気を取り直し、まずは笑顔で「お、おはよう……」と挨拶する。恭平も「はよー」と返してくれた後で、二人は早朝の海へと向かった。




「わーーー! すごく綺麗!」


 ちょうど日が昇っている海を見るなり、千穂は感嘆の声を上げる。暗い青色とオレンジ色が上手く混ざり合い、とても美しいグラデーションのかかったピンク色に染まった空。もちろん海にもその色は反射している。星の降る夜の海がロマンチックなことは既に知っていたものの、菫が言った通り朝の海だってこんなにも美麗なので負けてはいない。

 千穂は一昨日のお風呂での菫のアドバイスを思い出す。


「じゃあ阪口さん、こんなのはどうかしら?

 確かに夜の海って星もいっぱい見えるしロマンチックだけど……朝の海もいいんじゃない? 海から見える日の出もきっと綺麗だし、朝焼けをバックに告白っていうのもなかなか斬新じゃないかしら?

 あと、最終日の方が万が一のことがあっても一緒にいる時間が少ないから……」


(菫ちゃんの言う通りね……。これはいいムードかも……)


 そう思いながら、千穂は少しでも緊張を解こうと深呼吸をする。


「マジで綺麗だよな〜。これだけ綺麗な景色が見れるなんて……早起きしてよかったぜ」


 恭平も朝焼けの空をじっと眺めながら、そう呟く。早くもこの景色を気に入ってくれたことに嬉しく思いながらも……千穂の心臓は早鐘を打っている。それだけでなく手も震えてくるが、千穂はその手をギュッと握りしめた。


「あ、あの……ごめんね、こんな朝早くから……。ね、眠たいでしょ?」


「いや〜、全然大丈夫だぜ。俺どっちかって言うと朝型だし」


「えっ!? そうなの?」


 恭平の意外な一面に、千穂は素直に驚いた。その風貌からして逆に夜型っぽいと思っていたのだが。


「だって一昨日も昨日も一番早く寝たのたぶん俺だし……」


「そ、そうなんだ! ちょ、ちょっと意外……北山君って夜の方が……」


「で、話したいことって何?」


 たわいのない話を続けようとする千穂に、恭平の方から話を切り出してくれた。当然、千穂は再びドキドキして言葉に詰まってしまう。その様子に、恭平は少し慌てて一言付け加える。


「あ、別に急いでる訳じゃねぇけどよ、俺今日当番だし遅れちゃダメだから……」


「そ……そうだよね! そ、その……は、話したいことっていうのはね……」


(……今だ! 北山君の方から振ってくれたんだから……ここで言わないと!)


 幸い、恭平は目の前にいる自分の目をじっと見てくれており、真剣に耳を傾けようとしてくれている。こうして背中を押されるような形で千穂は腹を括り、最後に1回だけ深呼吸をしてから口を開く。




「あ、あの…………私、き……北山君が好きなの!

 よかったら……付き合ってください!」



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