表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/52

46ページ目 菫さんの伊豆の別荘旅 ①◯◯君、災難続きのはじまり


 清宮家の執事の鍵谷が運転するマイクロバスは、伊豆へと向かう高速道路を滞りなく走っている。既にお盆も後半戦に突入しているので、渋滞のピークは過ぎている。とっくに東京は通り過ぎたものの、まだまだ先は長く海はまだ見えてこない。それでもバスの中にいる一部の3組生徒達はワイワイ盛り上がっている。


「くっそ〜!また俺かよ!」


 一番後ろの席では真二がまたもババ抜きでビリになり、悔しそうに地団駄を踏んでいる。彼の右隣にいるめぐると、そのすぐ前の席にいる沙希、その隣にいる千穂は大爆笑している。


「またナラッチかよ〜」


「も〜、これで何回目?ババ抜き最弱王じゃん!」


 沙希とめぐるに野次を飛ばされ、左隣の恭平からはため息をつかれる。


「てかもう飽きたんだけど。ナラッチがビリなの」


「俺だっていい加減やだよ!チクショーもう一回……」


 うんざりする恭平の横で、真二はまたリベンジしようとトランプのカードを集め、再び混ぜ始める。そんな真二に、めぐるの隣に座る菫は釘を刺す。


「次こそは顔に出さないようにね。奈良間君いつも札取る度に一喜一憂するんだから」


 同じくトランプに参加し、恭平のすぐ前の一人掛け席に座る直も菫に同調する。


「ナラッチ君はあからさまですからね〜。さっきもニヤニヤしては眉間にしわ寄せてましたし。あ、今度は目出し帽でもかぶってやったら勝てるんじゃないですか?」


「め、目出し帽……」


 真二はそう聞くと一瞬だけ呆気に取られたが……すぐにニヤリと笑みを浮かべる。


「目出し帽かぁ……いいじゃん、その発想はなかったぞ!よーし、今度目出し帽見に行ってみっか!」


「いやいや本気にする!?」


「ノリノリじゃねーか……そこまでしてまで負けたくねーのかよ」


 思いの外乗り気になっている真二に、めぐると恭平はツッコミを入れた。


 一方、この旅行を発案した寛斗はトランプに参加せず、運転する鍵谷の横でサポート役に専念している。

 また、萌は移動中でもゲーム機を離さず集中しており、その横にいる彩矢音もスマホで音楽を聴きながら外を眺めている。彼女達と同じ列の通路を挟んだ一人席にいる栞里は、スマホでお気に入りのアニメを観ており、三人とも耳にはイヤホンをつけている。

 萌達のすぐ前にいるのは知輝、龍星、和馬で、この男子三人は前後に固まって座っている。居眠りしている和馬のすぐ後ろにいる知輝は、通路を挟んだ左隣の一人席を睨んだ後、右隣にいる龍星に囁く。


「……なんで生田目まで来てんだよ?」


「さぁ……アイツも海に行きてーんじゃね?」


 知輝に睨まれていることなど知らず、一人席に座る凜はまたしても激辛料理にチャレンジする動画を眺めている。


 今回、伊豆の清宮家の別荘に同行することになったのは、鍵谷と寛斗を除くと14名。菫、めぐる、沙希、恭平、真二、千穂、直、彩矢音、萌、栞里、知輝、龍星、和馬、凜、という面子だ。

 お盆なので祖父母や親戚宅に帰省する者もいれば、家族や友達同士で旅行や遊びに行く者、また部活の大会が迫っている者もいて、参加者はクラスの半数以下にとどまった。めぐると同じグループの悠太と遥もサッカー部の大会が迫っており、今回は泣く泣く不参加となっている。


 真二がトランプを混ぜ終わり再び配ろうとしたところ、助手席にいる寛斗が振り向いて参加者達に呼びかける。


「皆ー!そろそろ休憩するー?次海老名サービスエリアだし」

 

 今のところ、とある駅で集合し出発してから1時間半ほど経過したが、まだ一度も休憩をしていない。寛斗が提案すると、めぐると沙希はすぐに食いつく。


「えっ、次海老名?確かデカいサービスエリアだよなー?」


「行こ行こー!ちょっとお腹空いたし何か食べたーい!」


「行こーぜ!……そろそろ便所行きてーし」


 二人に便乗した真二は切羽詰まった顔でぽつりと言う。他の皆は爆笑するが、菫はあまり笑う気になれなかった。


(私もそろそろ行きたかったのよね〜。あとそろそろお尻と脚が痛くなってきたわ……)






 無事に間に合い、トイレを出た菫は「ん〜〜〜!」と唸りながら伸びをした。お盆真っ最中であるうえ雲一つない日本晴れなこともあり、サービスエリアは多くの人でごった返している。他の女子達は早速建物の中や外の屋台に繰り出し、トイレに行っていたのは菫だけだ。また同じようにすぐに用を足しに行った真二達男子も、既に出たのか近くに姿はない。

 1時間半ほどバスに揺られたが、菫は早速疲れを感じている。


(まだ海老名だしあと2時間弱ぐらいはかかるかしら?こんなに長いこと車に乗るのも久しぶりね……。

 それにしても大丈夫かしら鍵谷さん……長距離運転で代わりもいないし)


 ただ乗っているだけでもまぁまぁ疲れてくるというのに、運転もしなければならない鍵谷のことを菫は案じている。


(あ、噂をすれば……)


 その辺をキョロキョロ見回すと、自販機でコーヒーを買っている鍵谷の姿があった。心配した菫をよそに、鍵谷は特に疲れた様子もなく立ったままコーヒーを飲んでいる。


(まぁ大丈夫そうね…………私も見に行きましょ!ここ、確かメロンパンが有名なのよね)


 テレビでこのサービスエリアのメロンパンが取り上げられていたのを思い出し、菫は足早に建物の中に入っていった。


 

「すー様〜!甘いものばっかりじゃ〜ん!」


 買い物を終わらせバスへ戻ると、めぐる達半数ほどが既に戻って席についていた。菫の姿を見た途端、めぐるはゲラゲラと笑う。財布などを小さいリュックに入れているので、バスを降りる前までの菫は両手が空いていた。しかし今の菫はそうでなく、右手にはカップに数個入った小ぶりのメロンパン、左手には割り箸に刺さったピンク・水色・白の3色綿菓子を持っている。


「いや〜、綿あめの自販機見たら食べたくなっちゃって……」


 菫は当初は名物のメロンパンのみ買おうと思っていた。だがその帰り、いくつもの飲み物の自販機の中に綿菓子のそれが混じっていることに気が付き……菫は十数年ぶりに食べたくなったのだ。


「流石に綿あめ食べながらメロンパンは甘ったるいだろ〜」


「ゆかちゃんもこの組み合わせ好きそ〜」


「宮西さん、疲れてるんですか〜?」


 沙希と千穂と直も笑うので菫は苦笑いする中、栞里と彩矢音はそのカラフルな綿菓子を羨ましそうに眺めている。


「めっちゃ美味しそうなんだけど〜!」


「本当それ!アメリカのおやつ思い出しちゃった〜」


 食いついてきた彩矢音に、隣の席の萌は悪い笑みを浮かべて囁く。


「いいじゃん、今から買いに行けば」


「いや流石にダメだって!もうそろそろ出発しなきゃじゃん」


「え〜、でも男子まだ帰ってきてないじゃん……ナバちゃんとばったん以外」


 萌の言う通り、男子は凜と直の二人を除くとまだ誰も戻ってきていない。凜も菫の両手に花、ではなく甘いものを持っているのを見て冷ややかな視線を送り……




「……そんなに甘ったりぃのばかり食べてると太るぞ」


「…………」




 ハッキリとこう言った。もちろん、菫はカチンときた。それだけでなく、バスの中の雰囲気は一気に凍りつく。


「も〜ナバちゃん!せっかくの旅行なのにテンション下がること言うなよ」


「ていうか宮西さん太ってないじゃないですか〜」


 めぐると直が間髪入れずに言い返す一方、菫も負けてはおらず、怖い笑みを浮かべながら凜に言い返す。


「……めめちゃんの言う通りよ。別にいいでしょ、こういう時はちょっとばかり太ったって。それよりも残念だったわね、生田目君。ここだとお眼鏡に叶いそうなものがなくて。まぁ辛いものばかり食べてたらまたお腹壊すんじゃないかしら〜」


 まさかあの凜に菫が言い返すとは思わず、他の女子達は意外そうに眺めている。

 名物のメロンパンをはじめ、確かにこのサービスエリアで売られている食べ物はどちらかといえばスイーツが多い。逆に凜が好みそうな激辛料理はほとんどない。現に凜が今手に持っているものはブラックコーヒーだけである。なので菫はそう言い返したが、凜は一切表情を変えず涼しい顔だ。


「まぁ確かにあんまり面白くはねーな。辛いやつ全然ねーし。てか前の麻婆豆腐全然大丈夫だったぜ」


 ギャフンと言わせようと思った菫だが、普段通り凜に交わされ肩透かしを食らってしまった。

 しかし……


「おいおい嘘つくなよ凜。体調悪くなったって言ったじゃんか〜」


 ちょうどその時、恭平、真二と共に帰ってきた寛斗がクスクス笑いながらツッコミを入れた。

 

「えっ!ナバちゃんもお腹壊すのー!?」


「てゆーかガチで辛いもの好きなんだ」


「なんか意外〜」


(やっぱり体調崩してたのね……ていうかいいタイミングで帰ってきたわね清宮君)


 めぐる、彩矢音、栞里が早速食いつき、菫もニヤリと笑う。だがそれでも凜は表情を一切変えない。


「ちょっと頭痛くなって寝てただけだぜ」


「ほら〜!やっぱり……」


「でもすぐ治ったから全然大丈夫だけど?」


「だから頭痛くなった時点で……」


「体壊してるじゃ〜ん!」


 押し問答する凜と寛斗に真二が茶々を入れている間に、運転席のドアが開いて鍵谷が戻ってきた。


「そろそろ出発の時間ですが……皆さん戻って来られましたか?」


 鍵谷が車内を見回しながら訊くと、直がそれに答えた。


「いえ、まだ堀君達が戻っていません!」



 知輝達が戻っていないことを知るなり、寛斗はうんざりした顔をする。


「も〜!ちゃんと時間守れって言ったのに」


「なぁ。一体何やってんだよアイツら」


「早く戻ってくんないと海で遊ぶ時間なくなるじゃーん!」


 日頃の行いのせいか、心配する者は誰一人といない。もちろん菫だって「何やってるのよ……」と思っている。恭平とめぐるも文句を言っていると、窓の外を眺めていた栞里が「あっ!」と思わず言う。


「帰ってきたよ!金村君達」


 栞里が指差す方向を見ると……言った通り龍星と和馬が慌てた様子でこちらに向かって走っている。その後ろで知輝も走っているが……前の二人と違ってその顔は曇っている。


「ごめーん!」


「わりいわりい」


 ブーイングを食らいながら、龍星達はバスに乗り込んだ。三人がシートベルトを着けるのを確認し、鍵谷はエンジンをかけて漸く出発した。龍星達が少々遅れた理由を皆から問い詰められたのは、その後のこと。


「いや〜、逆ナンされちゃったんだよ〜」


 まんざらでもなさそうな顔で、龍星はそう答えた。他の皆が驚く中、前に座る和馬もうんうんと頷く一方、知輝は引き続き意気消沈している。そのうえ、知輝は隣にいる龍星を恨めしそうに睨んでいる。


「ぎゃ、逆ナンですかぁ!?」


「マジでそんなことある!?」


「女の人からしてくんのぉ!?」


「おい〜、どんな女性ひとからナンパされたんだよ〜?」


 直、めぐる、沙希が目を丸くする中、真二は冷やかし半分で訊く。すると、龍星は更にドヤ顔を見せて鼻息を荒くする。


「フッ、聞いて驚くなよ…………外国人からだぜ!」


 龍星の狙い通り、菫達は「えーーーっ!」と仰天した。彼と和馬によると、飲み物を買ってからサービスエリア周辺を散策している時、女性二人がいきなり「Hi!」と声を掛けてきたという。龍星達も反応した後、その女性達はスマホの翻訳機能を使いながら笑顔で話し、「You're good-looking!」「Do you wanna grab a tea ? 」だの口説こうとしていた。言葉の壁もあって断るのにはかなり手こずったため、バスに戻るのが遅れたそうだ。


「にしてもあの人らどこの国の人だったんだろな〜」


「え?どこの国かもわかんなかったの?」


 遠い目で和馬がそう言うので、寛斗は助手席から振り向いた状態で思わず訊いた。


「うん。英語じゃないっぽいよな?あのスマホの翻訳からして」


「英語ちょっとだけなら話せるって言ってたもんな〜。まぁどこの国かなんて正直どうでもいいよ」


 聞いてくる和馬を適当にあしらい、龍星は首を横に振ると……

 

「やっぱり俺のカッコよさは万国共通ってことだな〜!あの子猫ちゃん達見る目があるぜ!」


「………………」


 パーマのかかった黒髪をかき上げながら、目を輝かせて豪語した。それとは裏腹に他の皆はドン引きし、なぜか知輝は忌々しそうに舌打ちまでする。


「あのクソ外人達め……俺だけ無視しやがって!」


 新たな事実に、「えーーー!?」と再び驚く者もいれば、やっぱりなと言わんばかりに爆笑する者もいる。思い出しているうちに更にイラついてきたのか、知輝はヒートアップしてマシンガンの如く喋り続ける。


「カネリュウとよっしーばかり口説いてんだよアイツら!俺だけ相手にしてくれねーし、こっちから「ハウドゥユドゥ〜?」つったんだよ。そしたら「ノーノーノー!」って言いやがって!もう一人の奴はしっしっってやってきやがるし!」


(あら……なかなか悲惨ね……)


 これには流石に菫も同情したが、当の龍星はせせら笑うだけだった。


「まぁまぁドンマイ。たまたまホリトモがタイプじゃなかったってだけだろ〜」


 龍星は知輝の肩をポンと叩いて慰めたが……知輝は納得できない様子でぶーたれている。

 と、それまで黙っていた凜がここで横槍を入れた。


「まぁお前らなら簡単についてくるって思ったんじゃね?……カッコよさ云々ってより」


「は?」


 今度は龍星がイラッとした様子で、凜を睨みつけた。



 この後もサービスエリアで数回休憩を挟み、鍵谷の運転するバスは伊豆へと少しずつ向かっていく。途中のバイパスでは遂に青い海が見え、「海だーー!」と一気に盛り上がる。そんな友人達をやっぱり若いなぁと思いながら、菫はにこやかに眺めていた。




 そこから更に1時間ほど経ってから、漸く別荘に辿り着いた。その別荘を見るなり……菫達は瞠目する。


「えっ!!別荘ってこんなデカいの!?」


「すっげーーー!」


「すっごいオシャレじゃん!」


「流石清宮財閥ですねー!」


 めぐるが言った通り、清宮家の別荘は思っていたよりも遥かに大きい。菫は別荘と聞いたら木造のコテージのような家を思い浮かべていたが、全く違った。

 大きさもさることながら、外観もオレンジ色の洋瓦の屋根に明るいベージュの外壁と、まるで南国のこじんまりとした隠れ家的リゾートホテルのようである。周りには椰子のような木がたくさん植えられていることも相まって、更に都会の喧騒を忘れされてくれそうな非日常な雰囲気を醸し出している。しかも、道路を挟んだ真ん前に海水浴場があるので、海の家でシャワーを借りる必要もなさそうだ。




「おいおい冗談じゃねえぞ〜」


 既に昼食はサービスエリアで食べているため、別荘で休憩している鍵谷を除く一行はすぐに水着に着替え、ビーチへと繰り出していた。男子よりも一足遅れて到着した女子達の水着姿を見るなり、知輝はガッカリした顔をする。それに対し、当の女子達はドン引きしたり鬼の形相になっている。菫にはその理由がなんとなくわかった。


(まさか堀君……誰もビキニ着てないのが嫌なんじゃ……)


 今日の女子達の水着も水泳の時と同様、総じて露出は少なめだ。めぐるは袖のないラッシュガードにショートパンツ、沙希もショートパンツにTシャツのような水着を着ている。栞里と千穂も半袖のワンピース水着で、菫もノースリーブだがワンピースである。流石に27歳にもなってビキニなんか着る勇気はないからなのだが、年齢に関係なく他の皆もそうなのだろうか……と菫は思う。

 その一方で、彩矢音と萌はセパレート型の水着を着ており、腹部と背中に10センチほど露出があるが……それでも知輝はお気に召さないようだ。


「何だよホリトモ!ジロジロ見んじゃねーよ!」


「お前女子のビキニ姿見たかったんだろ〜」

 

 いの一番に沙希が文句を言い、真二がヤジを飛ばすと、知輝は否定も悪びれもせず女子の水着に難癖をつける。


「だって海で泳ぐんならビキニじゃねーとおもんねーだろ〜。だいたいお前らだって何だよ、男は上に何も着なくていいじゃん」


 男子達も水泳の時とほぼ変わらず、上半身にはラッシュガードを着ている。が、知輝、龍星、和馬の3人は例外で、上半身には何も着ていない。


「別にどんなの着てたっていいじゃねーか」


「そうですよ〜、僕はホリトモ君達と違って上半身裸は恥ずかしいんで〜」


 恭平が一刀両断する横で、直はもじもじしながらそう言った。バレないようにチラチラと菫の水着姿を見ながら。そして女子達も知輝に集中砲火を浴びせる。


「ビキニとか恥ずかしくて着れないんですけど〜!」


「私も〜」


「それにこっちの方が日焼けしにくいじゃん」


「ねー!」


 栞里、千穂、彩矢音、萌が口々に言い、沙希と菫も加勢する。


「てかホリトモの前でビキニなんか死んでも嫌なんだけど」


「堀君は私達のビキニ姿見に別荘に来たの?」


 本当は27歳が一人だけここにいるんだけどね……とは流石に言わないが。これに対し、知輝は少しばかりムッとはしたものの、負けじと言い返す。


「そ、そんな訳ねーよ!……てかお前らよりも齋藤さんや水谷のが見たかったな〜」


(やっぱりね……私達よりその二人の方が胸大きいもんね……)


 目を逸らして言う知輝に、菫はどうせそんなこったろうと思っていた。


「残念だったな〜、リリ達は今日4人で九十九里浜に行くってさ」


「マジか!齋藤さん達も海水浴してんのかよ」


 めぐるが今日の莉麻達の動向を明かすと、知輝はそっちに行きたかったな〜と言わんばかりに目を輝かせる。そんな知輝に、めぐるは更にキツい一言をお見舞いする。




「まぁ私的にはホリトモの水着の方がないけどね〜」


「はぁ!?」





 そういう知輝の水着はというと、他の男子同様に膝ぐらいの丈の海パンであるが……黒地にドーンとハイブランドのロゴが書かれてある、あからさまなデザインだ。


「何てこと言うんだよ!この水着高かったのに〜!」


「いくらしたんだよ?」


「うーん……確か3万ぐらいだったな」


「3万!?」


 和馬に聞かれるがまま知輝が答えると、他の皆は驚愕する。もちろん、そのデザインで3万も!?という意味で。

 しかし、知輝はこの水着に絶対的な自信があるようで……


「この日のために奮発して買ったんだぞ〜!まぁでもきよみーなら持ってるんじゃね?こういうの」


「いや〜、俺そういうの興味ないし」


「ええ〜〜!?」


 知輝に話を振られるも、寛斗は冷ややかな目で見るだけだった。別荘を持っている財閥の息子である寛斗だが、知輝ほどブランド物は好きでないようだ。現に今もその辺に売っていそうな海パンとラッシュガードを着ている。

 そっけない反応に面白くなさそうにする知輝に、真二は再びヤジを飛ばす。


「どうせモテたくてハイブランドのやつにしたんだろ〜?」


「わっ、悪いかよ!?てかどんなの着てたっていいんだろ〜?」


「はぁ!?私達の水着には文句言ってたくせに!」


 ギクっとしながら言い返す知輝にめぐるが口を挟む中……凜と直がとどめを刺した。


「まずハイブランド物着てりゃモテるって考えが間違いだろ。逆にダセェぞ、それだけロゴがデカけりゃ」


「前もデートでそういう服着てさっさと帰られましたよね〜?」


「〜〜〜〜〜!!」


 完全にカチンときたのか、顔を赤くした知輝はギューッと両手を握りしめ、ワナワナと震え出し……


「……チクショー!皆俺をバカにしやがって!フン、もういいぜ!俺はその辺の水着ギャルと遊んでくるから!」


 怒って捨て台詞を吐き、皆から離れていった。彼以外の皆はやれやれという表情でその背中を眺めている。


「その辺の水着ギャルって……」


「ナンパでもするつもりかよ。ついさっき逆ナンで嫌な思いしてたのに……」


「てかホリトモなんかについていく女性(ひと)いるんかね……」


 呆れ顔になる寛斗、恭平、真二の横で、めぐるはあることを思い出した。


「そういえば今更だけどターちん来てなくね?」


 言われてみると、普段は龍星、貴大、和馬、知輝の4人で行動を共にしているにも関わらず、今日は貴大のみ来ていない。めぐるに訊かれ、龍星は「あー……」と呟いてから答える。


「タカは今日彼女とお泊まりデートするって言ってたぜ。……何番目なのかは知らねーけど」


「何番目って……また懲りずに複数人と付き合ってんの?」


 めぐるを始め、女子達はおろか男子達までもが唖然とし、ため息をついたり苦笑いするのだった。






(クッソー!どいつもこいつもボロクソに言いやがって……)


 外国人女性達に冷たくされた時と同様、知輝はイライラしながら海岸を途方もなく歩いていた。水着ギャルと遊んでくると捨て台詞を吐いたものの……今歩いている時点で、そのような人は一人といない。その代わりにビーチにいるのはカップルや家族連ればかりで、そのせいで知輝は更に癪に触ってしまう。

 しかし、どんどん時間が経つにつれて落ち着きを取り戻し……。


(はぁ……俺何やってんだろ。せっかく皆で別荘来たのによ。確かにあわよくばビキニ姿見れたら……って思ってたけど…………ん!?)


 少し寂しさを感じたところで……知輝は何かに気付き、引き寄せられるようにぐるっと海の方を向いて食い入るように見つめる。

 知輝の目を釘付けにさせたのは……待望のビキニを着たギャル四人組だ。しかも……


「ちょっ!返してよ〜!」


「こ〜こま〜でお〜いで〜」


 キャッキャとはしゃぐ水着ギャル達の一人の手に握られているのは……ビキニトップスだ。しかも彼女を追いかけている別のギャルは、海に浸かりながら両腕で胸元を隠している。


(ちょっ!!なんちゅー遊びしてんだよ!!)


 知輝は目を疑うと共に……そのギャルに目を奪われてしまう。あの両腕の下には……と妄想するとニヤニヤが止まらない。ビキニトップスを持ったギャルに「いいぞもっとやれー!」と思うと同時に、海にも「もっと潮が引けー!」と祈ってしまう。

 が、いかんせん熱い視線で眺めているため、知輝の幸せはそれほど長くは続かず……。


「ねー、さっきからうちらのことやらしい目でジロジロ見てるよねー?」


「あー、そこのダッセェ水着の奴じゃね?」


「だから早く水着返してよ!余計見られちゃうじゃん」


「ごめんごめん、あっち行こー」


 ギャル達が疑いの目で自分を見ているのに気付き、知輝は慌てて目を逸らす。だが時すでに遅し……トップレスになっていたと思われるギャルは漸く水着を返してもらい、海に浸かりながらそれを着る。程なくしてギャル達は別のところへと去っていった。


(あーあ、バレちまったかな?まぁいいや、ちょっとでもいいもん見れたしよ)


 それでも満足している知輝の耳に、たったかたったか走る足音が入ってくる。その音はどんどん近く大きくなっていき……


「(あれ?誰か走ってんのか……)ぅわあああっ!!」


 驚いた知輝はその弾みもあり腰を抜かしてしまった。彼に向かって走ってきたのは……シェパード犬だ。大きく跳ねて飛びついたその犬は、腰を抜かした知輝の上に容赦なく乗り、ベロベロと顔を舐める。


「もー!マロン!何やってんのよ〜」


 飼い主と思われる中年女性が駆け付けたのは、それからすぐのことだった。どうやら散歩中にハーネスが抜けてしまったらしく、再び犬の体に装着してからリードを引っ張り、やっとこさ知輝から離す。


「あらあら、ごめんなさいね〜!この子女の子だし、きっとアンタみたいなイケメンさんを好きになったんだね〜」


「いえ、大丈夫っす……(犬にはモテるのかよ……俺って)」


 ベロベロ舐められた口元を腕で拭いて苦笑いする知輝を、マロンは尚も尻尾をビュンビュン振りながら、キラキラした目で眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ