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第195話

 そうして、学校からの帰り道を転校してきたばかりの彼女と、初めて一緒に並んで歩くことになった。


 一人というのを見抜かれたこと、彼女も孤独であることに気づいたから。


 桜の花びらが落ち、春風にそっと髪をなでられる。彼女の銀髪も綺麗に波を描いて同じように。すると彼女は歩きながら来た道の方向を一瞥する。


「どうしたんだ?」

「誰か見てないかと思って」


「あのミーハーな奴らのことか?」


 彼女は静かに頷いた。


 やはり転校初日から急に大勢に囲まれるのは良い気がしないようだ。最初の休み時間に昼休み、人気を集めていたのだから。放課後になって急に姿を消したのもそのためだろう。


「転校してきて早々、大変だよな……」


 全部が全部、自分のクラスではないが、たとえ隣のクラスだろうと転校生が来た時はとにかく話題を集める。そして担ぎ上げられて騒がれる。

 それは時折、理不尽に映ることもある。親の都合とかで転校してきただけなのに、来てすぐに周りから注目を集める。それは彼女も良くは思わないようだ。


「私に集まってくる人はどうでもいい。敵を作らないように、角を立てないように振る舞うだけ。面倒だからあの時は無難な答えで返した」


 内側に溜まっていたことを吐露する彼女。日中、あんなに凄く見えた優等生の意外な苦悩が聞けてホッとした。それはそうだろう。


 ────どんなに周りの連中にはない特別な才能、あるいはチカラがあっても、それが幸せとは呼べないように。


「あなたは私のやり方をどう思う?」


「良いと思うぜ。だって勝手に集まってくるのは向こうだからな」


「……そうね」


 人気を集めてスターになりたいとか、そういう目立ちたがりとは彼女は違う。来て間もない転校生という立場は、まるでなんだか異人ゼノじゃなくて、普通の人間だったらこんなことにはならなかったのかもしれないという思いに少し似ているかもしれない。転校生は時間が過ぎれば落ち着くけれども。


 異人ゼノとしてのチカラも特別な才能のようなもので、たとえ小学生という立場でも事件が起きてしまう。野崎が実際にそうだった。よくアイツが引き金で騒動に巻き込まれて、野崎がいなくても近くで事件が起こったりする。こちらを狙ってくることもある。

 彼女の場合も、転校生という立場と、その容姿やキャラが特別な才能に見える。だからこんな理不尽が出来上がるのかもしれない。


 そんな話をしていると住宅街の中の横断歩道の前まで来た。もうすぐ家が近い。赤信号の前で二人で立つ。念の為言っておくか。


「アタシの家はここ渡った先を右に曲がるんだ」


「ありがとう、初月。私はこの先を左に曲がる」


 それにしても。


 何だか彼女から苗字で呼ばれるのはどうもしっくりこない。壁というか圧がある。


 逆にこちらも黒條と呼ぼうにもなんだかこない。良い正拳突きが出ないような。だからここまで彼女の名前を口に出して呼べていない。


 一応、野崎からは初月と苗字で呼ばれていた。受け入れていたがそれは相手が野崎だからだ。同じように受け入れろというのは無理だった。花予が焼いてくれるハンバーグとファミレスのハンバーグの味が違うように。


 ここで彼女との一日が終わりそうなので今のうちにハッキリ言っておく。


「……なあ」


「……なに?」


「アタシのことさ、諒花って呼んでくれないか? アタシもお前のことは零って呼ぶから」


「……そ、そう」

 少しだけ戸惑っているようだった。


 言葉が出ないまま信号が青になり、彼女は黙ったまま口を開かない。この日は結局、名前で呼んでくれることはなかった。それでも。



「じゃあ、また明日な。零!」



 彼女の背中に元気を込めてそう言ったが、首をこくりとする程度だった。





 ――こうして、アタシと零の最初の一日が終わった。


 野崎のことは下の名前ではなく、突然やってきた最期の悲劇まで苗字で呼んでいた。野崎も初月って呼んでいたからその返しだった。


 小学一年の時からそれが当たり前だった。当時から野崎と同じく付き合いがある歩美のことは最初から歩美と呼んでいた。笹城と呼ぶと歩美の姉で親代わりとも言える湖都美ことみと被るからだ。


 野崎は最期まで苗字呼びだった。はじめと下の名前呼びをしなかったのはこちらも恥ずかしいからだ。だが亡くなってから初めて、痛いほど感じた後悔がある。


 それは、はじめって下の名前で一度も呼べなかったこと。


 そう呼んだら野崎も諒花って呼んでくれたのか。それはもう永遠に分からない。


 だが、この時、転校してきて初めて会ったばかりの彼女の名前を呼びたくなった時、この後悔がある思いへと変わった。


 仲良くなりたい、親しみやすさを表すならば、名前で呼んだ方が良いって。


 野崎を失った喪失感を抱えて四か月。転校してきた零がまさか異人ゼノだって、最初はこれっぽっちも思わなかった。それよりも独特なオーラで優等生なのと転校生ゆえの悩みがあることばっかり考えていて。鈍感なだけかもしれないが。



 ――今思えば、この出会いから全ては始まっていた。


 だが、この時点で、零を送り込んだ中郷の手のひらの上でまさか踊らされていたなんて、思いもしなかった。それを知る由もない。




読んで頂きありがとうございました!


4年前の諒花と零は小学四年生、10歳。

他のキャラ達は4年前何をしていたのかを当時の年齢(数え年)とともに紹介。第四弾です。

今回は人狼少女2のヴィランズ達。カヴラを除いて4年後に諒花と戦うわけですが、

諒花が戦った相手の大半は年上の大人ばかりですw

なお、主要キャラのうち、ハインだけは意図的に取り上げていません。彼女は年齢や戦闘力含め、イラストあるキャラで一番謎が多いキャラゆえ。しかし4年前の時点で暗躍しているのは確かです。


カヴラ(36歳) ダークメア最高幹部の一人。この時はまだスカールのやり方に不満爆発はなく、地下闘技場を盛り上げる

ダーガン(36歳) 表向きは死んだ扱いにされ、カトルズ(中郷)のオーダーのままに殺しを行う、つまらない仕事の日々

ビーネット(22歳)  航空自衛隊に入りたがったが夢破れる。しかし裏社会で最高飛行速度を持つ新星として騒がれている

スコルビオン(23歳) 工事現場で働きながら裏社会で屈強で頑丈な体を持つ猛者として騒がれている

コカトリーニョ(33歳)怪鶏であり関東最強のストライカー。地下闘技場ではカヴラと渡り合い、観客を沸かせている

レカドール(34歳) 裏社会で自ら店を開くバーテンダーで隠れた実力者。閉店時に新カクテルの開発を行っているという


※ビーネットとスコルビオンはまだワイルドコブラに入る前で売り出し中


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