第192話
始まりは突然だった。だが今思えば、タイミングが良すぎる出会いだったと感じてしまう────。
4年前の2020年4月。
人狼少女、初月諒花はこの春、小学四年生に進級したが、その前は年が明けて三年生の終わりとなる三学期をとても無気力に過ごしていた。学校には毎日通うものの、心にはぽっかりと大きな穴が空いていた。クラスメートが休み時間にくだらない話で騒いでいても、その輪に入ることもなく一人、机で頬杖をついて浮かない顔をしていた。
新年度が始まり、新一年生の入学式と迎える会と始業式が行われて、下級生から見て高学年の先輩という立場になってもどこか陰りがある人狼少女。
「やっと終わった……式なんてめんどくせえな……」
怠く、やる気もない彼女。四か月前のことを未だに引きずっていた。他のクラスメートが諒花を遊びに誘っても、彼女は常にどこか違う方向を向いていた。小学一年の頃からの幼馴染の歩美は去年、実家のある関西に引っ越したためいない。年が明けてからの学校での彼女はいつも一人だった。
同学年で同じクラスであり、恋人であった存在、野崎始。小学一年から同じクラスで知り合った彼とはよく空手ごっこをして遊んでいた。おっちょこちょいでよく振り回されたが、戦いの時は熱い真剣さを持つ男であった。
幼い頃から異人であることを医師に診断されていた諒花は、野崎が同じ異人であることを知り、異性なのも込みでとても親近感を抱いた。友達として接していたが実際は初恋であった。苦しいのは自分だけじゃないんだと。それまでの、両親を失ったことによる心の中の孤独が溶けていった。
異人同士で力比べもした。野崎もまた、異性で同じ異人である諒花のことを好いていた。
────お前、女のくせに男勝りだよな、そういうの好きだぜ。
ある日、寒い冬にいつもの空手ごっこという名の力比べをした後、来年の2020年に東京オリンピックが開かれるから一緒に観に行こう。
それを話した矢先に悲劇が襲いかかる。
2019年12月。野崎は自宅のあるアパート火災で家族ともども死亡した。しかも原因はストーブの不始末によるものであった。
あまりにもあっけなく、あっさりであった。炎が二度、諒花の大切な人を奪った瞬間であった。
────ウソだろ、なんでアイツがこんなことで死ぬんだよぉ……!
事実が信じられずただ呆然とした。
両親を幼い頃に高速道路での交通事故で亡くしたことで、死の概念を理解していた。大粒の涙を流し、とても深く悲しんだ。
命というのは死んだらそれまで。義母である花予のやっているゲームのような、復活の呪文や蘇らせるための薬草とか、そんなものはない。
リセットを押してゲームを最初からやり直すか、直前でセーブした所まで戻れば、死んだ者が生き返るなんてものもない。
リセットボタンもセーブポイントもこの世には存在しないのだ。
9歳の彼女の生きがいの半分以上は一緒に遊び、話していた彼によって満たされていた。その半分以上が炎に焼かれて失われた。学校で授業を受けて家に帰って宿題をやる。今まではその日常の合間合間で野崎がいてくれたが、それがなくなってしまった。
うつ病の可能性もあるので病院に行った方が良いと学校から心配されたこともあるが、それを拒否した。
両親を亡くして事故に巻き込まれた反動でアスファルトが赤く燃える光景と暫く入院していた頃がフラッシュバックした。病院は嫌いではないが、行きたくない。野崎失って悲しいのにあの頃を思い出してしまうから。
彼女が赤く燃える炎が嫌いで苦手な理由は、両親だけでなく恋人も奪っていったものであるからだ。そのトラウマは二つの悲劇によって四年生になった後も確かなものになっていた。
大切な人を失った。野崎はもういない。四年生になったにも関わらず、初月諒花は乗り越えられていなかった。そんな時。
始業式や新しい教科書、時間割などの説明といった新しい学級での初々しい濃い初日を終えた次の朝のホームルームのことである。
この春から担任になった先生からサプライズがあった。
「ええー、皆さん四年生になって今日で二日目になりますが、このクラスに転入することになりました、新しい仲間を紹介します!」
先生のにこやかな爆弾発言の直後、クラス中が驚きと同時に「誰だろうー?」「楽しみだなあ」とざわざわとする。驚きとワクワクに満ちたような雰囲気。
「どうぞ! 入って!」
先生の呼びかけによって右側のドアを開けて入ってきたのは女子だった。
太陽の光で白く輝く銀髪のショートヘアーに、右目を黒い眼帯で覆い隠し、白い肌。その佇まいはとても落ち着いていた。灰色の上着に黒いシャツ。それに紺色のミニスカート。
その美しく整った綺麗な容姿に、見る者は心を奪われる。
「では、黒板に名前を書いて自己紹介をして下さい」
「はい」
返事をした彼女はチョークを手に自らの名を黒板に縦書きで書いてみせた。
黒條 零 と。
読んで頂きありがとうございました!
インフルエンザB型で一週間延期を経ての再開となります。ご心配おかけしてすみませんでした。
第四部は2024年11月から4年前に遡って2020年4月の諒花と零の出会いの物語から始まります。
現実だとコロナ渦で緊急事態宣言が出ていて外出自粛が呼びかけられていた頃ですが、この世界ではコロナ渦は起こらず東京五輪も予定通り開催されています汗
ちょうどリアルのこの時期、4月26日に前作の人狼少女1の連載を開始したのですが、あれから6年になろうとしてる時に作中で2020年の話をやるのも一つの節目かもしれません。
一話完結短編だと2020年の話もありますが人狼少女でやるのはこれが初となります。
4年前なので諒花と零と歩美は小学四年生、10歳にあたります。
他のキャラ達も4年前は何をしていたのかを当時の年齢(数え年)とともにこの過去編の中で後書きで紹介していこうと思います。
笹城歩美(10歳) 小学三年に家の都合で実家のある大阪に引っ越しており東京を離れている。小学五年になり諒花、花予と再会、零と初めて出会う。
初月花予(35歳) 亡き姉夫婦に代わって、外国にいるフィアンセの支援も込みで諒花を育てている。秋葉原の突然閉店したレトロゲーム店「レトロディア」を気にしている。
蔭山貴三郎(43歳)窓際刑事として警視庁とXIEDの橋渡し役に従事、初月家にも客人としてやってくる。フォルテシアとは顔見知り。
フォルテシア(21歳)XIEDの捜査員として裏社会の様々な脅威と戦っている。蔭山とは顔見知り。この頃から零を気にかけている。
レーツァン(37歳)犯罪組織ダークメア総帥。実は野崎家を殺した張本人。諒花を遠くから傍観し策謀を巡らす一方で、裏で中郷を倒すためにスカールに手を回させている。
スカール(37歳)多忙なレーツァンに代わってダークメアを仕切る最高幹部で苦労人。時折マイクを手にステージに立ち、部下達が熱狂するゲリラライブを行う。




