第190話
「待ちなさい、スカール!!」
唐突な部下からの電話に出ながら階段の方へ向かっていき、そのまま降りていったスカールを追いかける。
「お、おい待てよフォルテシア!」
それまでこちらの話を聞いていた蔭山をはじめとした残りも後を追ってくるようだった。今は彼を追うのが先だ。
戦闘でむき出しになった階段を降りた先でスカールはスマホで、通話をしながら窓の前に立っていた。
「……そうか、交戦中か! 相手は?」
「どんな奴だ? ……答えは一つだな。なに、お前がそれを知る必要はない」
「そいつはカヴラ達が当初ここで合流するはずの、裏で繋がってた援軍だ」
「もうカヴラはいねえよ。その大元に呼ばれたのか、単独で渋谷に向かった」
「今は時間を稼げ。ホテルに奴らを絶対入れるな! 死守しつつ各自撤退だ! 死ななかったらまた会おう……」
残酷な挨拶で通話を終えてスマホをしまった。それはここからの事実上の撤退命令であった。
「今の電話はなんですか?」
近づいて尋ねる。
「外で待機している俺の部下が、このホテル正面に現れた謎の軍勢と交戦中だ」
スカールはこちらを振り向かずそう言った。
「今さっき名前が出た越田組だろうよ。カヴラの言った通りだな」
救援の兵隊はこっちに送ってくれると──カヴラは戦いの最中にかかってきた電話に対してそう返していた。
そこに後ろから蔭山、シーザー、石動も足早に階段を降りてやってきた。
「おいおい! ビルの下で戦いが起こってるぞ!」
屋上から真下を見たのだろう、シーザーが慌てながらそれを知らせた。
「知っています」
「分かっている。黙ってろシーザー」
言葉が重なり合う。もう先にスカールから聞いたばかりだ。シーザーもスカールとは面識はあるのだろう。緊張感もなく普通に会話している様子だ。
このままでは逃げ場がなくなってしまう。
「正面から突破するのは愚策です」
──それに激しい戦闘となれば異人ではない蔭山警部にも危険が及ぶ。
「まったくだ。お前と俺、石動が稀異人とはいえ、数で消耗させられれば押されて逃げられなくなる……!」
敵はどんな布陣かも読めない。スカールもスケルトン人間だが、弱点を突かれればそれまで。
だが、嫌な予感がする。数だけではない――――
ドガアアアアアアアアアアアアアアドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
――――!?
突如、下からの連続した凄まじい爆発音とともに建物が揺れる。ここは7階、こんなにも響く爆発音はその威力を物語る。その爆発によって建物の外壁が崩れる音だけでなく、いくつかの苦しい断末魔が響き渡った。
「チッ、連中、思ったより本気のようだな。これはえらい砲撃だ」
スカールの言う通り、敵は高威力の手榴弾かバズーカ砲の類でも持っているのだろうか。建物を壊してでも目的を完遂しようとしているようだ。
「お二人とも、時間は残されていないようです。早く決断を」
石動が急かす。先ほどの話の説明をしてる時間もなさそうだ。
くそっ……とスカールが唇を噛み、出口に向かって小走りした後、
「生き延びたいならば俺についてこい!! 裏口行くぞ!! ここで死にてえ奴は勝手に死ね!!」
一足先にスカールは全力で今降りてきた階段とは反対側の方角へ向かった。
「行きましょう!!」
自分だけ先に抜け駆けしようとした姑息な彼の背中を追いかける。
「スカールさん、置いてかないでくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
シーザーの悲痛な叫びとともにその後を蔭山達も追いかけてくる。
今降りてきた階段から下のフロアへずっと降りていくとそこはホテルのエントランスに近い位置に降りる。が、そこはもう恐らく敵が攻め込んできて制圧されている可能性が高い。
それをスカールも分かっているのか、向かった先はこのホテルの裏側にある別の階段だった。火災や地震などの際に逃げられるように必ず存在する地上へ続く出口。
────そう、非常階段だ。
ドア頭上に非常口と書かれたお馴染みの緑色の看板が目に映り、真っ先に駆けこんだ先にあるそのドアをスカールが大きく開けると、外の冷たい空気が入り込んでくる。
建物外に取り付けられた鉄骨による非常階段を高速で駆け下りていく彼の後ろ姿を見つけ、その後を追いかける。
上からは蔭山達も後を追いかけてくる鉄骨が響く足音や息づかいがする。
階段を降りきった先はホテルのちょうど裏側。誰もおらず殺気こそ感じないが、このホテルのビルを挟んだ向こう側より、集団がなだれ込む気配がする。
スカールは一目散にホテルを離れていく。
「スカール! どこへ行くのですか!?」
「決まってんだろ、滝沢邸だ! さっきの渋谷の爆弾の話から先を聞いてない! 安全な場所へ行くぞ! 状況が状況だ、今、車を出すから他の奴らも特別に乗せてやる!」
後であの女に色々と文句言われたくねえからな、と早口なスカール。
さしずめ、二次団体が起こしたこの抗争の裏で翡翠に親組織として責任を問われたからだろう。
ひとまず非常階段の手前で待つことにした。だが警戒を緩めてはいけない。ホテル正面からなだれ込んだ敵が屋上に誰もいないと踏めば、次には裏口にも捜索にやってくるだろう。
そこに遅れて蔭山達も降りてくる。
「聞こえたぞ、車出してくれるんだってな」
「はい。滝沢邸に行くようなので、ここは乗せてもらいましょう」
「渡りに船、だな」
皮肉にもその通りとしか言いようがない。スカール達が先に攻め込んでいなければ車を出すこともできなかっただろう。そうなっていたら、ここから走って逃げる他ない。犯罪組織の車なのは気になるが、今は追っ手から逃げ切るのが先決だ。
非常階段付近は向かい側のビルの影もあり薄暗く静寂に満ちている。ホテルの壁の向こうからは慌ただしい気配がする。今も大人数がホテル内の廊下を徘徊しているのが伝わってくる。既にホテル内は交戦の痕跡もあるのでここもいつ見つかってもおかしくない。
そこに一台の黒塗り車が向こうから高速で走ってくる。準備が思ったより早いのに感心する。運転席から顔を出したのはハンドルを握る彼であった。
「全員いるなー? 乗れ!!」
スカールの声が響く。
「ではその隣、失礼しますよ」
運転する彼の隣である助手席に一番に乗り込んだ。その後に蔭山、シーザー、石動はドアが開いた後方座席へと乗り込む。中は犯罪組織の車にしては綺麗に整えられていた。
「飛ばすぞ!! 掴まってろよ!!」
その運転は予告通り逃げることに特化して荒々しかった。アクセルを踏み、ハンドルを切るとそれは猛スピードで加速し、ホテルを離れていく。
大通りに出て窓から見えたのは、白や黒など多数の車に濃い金髪に着崩したスーツにサングラスをかけたいかにもな荒々しい集団。それに銀色のトラックまで。重火器でも積んでいるのだろうか。
やはり正面から突破は厳しかった。先ほど爆破を起こした武器も異原石を利用した異能が宿ったものの可能性があるからだ。
今はまだ敵に気づかれていない。このまま滝沢邸まで行ってしまえば、追っては来ないだろう────。
読んで頂きありがとうございました!
3月12日に高熱を発症し、そこから3月19日まで休載させて頂いていた関係で遅れました。
申し訳ありません。
本当に突然やってきたという感じで前日の3月11日にXで「今年は零の年になる」と決意表明した矢先のことでした。
12日の早朝に目が覚めた時には既に体が熱っぽい状態になっていて熱はそこから次第に高くなっていきました。
このようなことになってしまったため、今月は予定が一週間分ずれ込んでしまうことを先に報告します。
療養していた関係で執筆も全くといっていいほど進んでいないので、今月は一話完結短編以外は全て予定の立て直しを余儀なくされてしまいますね汗
仕方がありません。
次回は久しぶりに諒花が登場し、いよいよこの第三部が大詰めとなります。




