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第185話

 立ちふさがる黒スーツ姿のダークメア構成員達を退けて二人は先へと進む。


 彼らは最高幹部の一角にして事実上のトップ、スカール率いる本家の構成員達だが、異能を帯びた強力な装備は持っておらず、どれも常人相手向けのものばかり。

 二次団体ワイルドコブラ残党との戦いを想定か、それともやはり組織内で起こっている内紛処理にリソースを割いているからだろうか。


 この装備で異人ゼノ、ましてや稀異人ラルム・ゼノであるこちら側を迎え撃つこと自体が無謀だ。


 現にスカールの右腕、レイヴンの降らせた黒い雨によってこの下っ端達はワイルドコブラと交戦することなく辺りを制圧しているのだから。


 ホテルの入口の警備も手薄であり、屋上の様子が気になって下っ端達が立ち尽くして見上げている中、それを尻目にホテルの入口を目指す。


 だが、ホテルの前には既に二人の人影があった。茶色いトレンチコートと赤いバンダナを巻いた男。

 馴染みのあるそのトレンチコートの名前を呼んだ。


「蔭山警部!!」


「おお、フォルテシア! さっきの騒ぎはあんただったか」


 振り向いた茶色いトレンチコートはよく仕事でやりとりをする警視庁の蔭山だ。こちら側、XIEDシードにとっては警察側への窓口であり、事件の度に世話になる刑事である。渋谷では狭い場所で喫煙していた者を殺して回った犯人でもある化蛸を追っている。


「警部を足止めしていた連中も引きつける結果となったようですね」


「急に見張りが持ち場離れてくもんだからな。俺はコイツもいてくれたから、見張りの数も減った所をここまで来れたってとこだ」


 そう言って蔭山はもう一人の赤いバンダナ男に視線を向けて紹介した。彼のことは知っている――確か彼は――、


「大バサミのシーザー。あなたもここにいましたか。色々詮索したい所ですが、今は置いておきましょう」


「げっ、フォルテシア!! ここでオレを倒すってんならオレにも考えがあるぜ」

「今はそれどころではありません」


 当人はこちらを見て怯えている。本来ならばXIED(シード)の捜査官と裏社会で名を上げた異人ゼノ、敵同士。成敗されると思っているのだろう。


 きっと同胞がこちら側に倒されたり捕縛された噂を耳にしているからだろう、その怯え様は。だが、この場で不要な戦いをするつもりはない。


 大バサミのシーザー。その異名通り、両手を大きなハサミに変えて獲物を切り刻む残虐で好戦的な男。現代の切り裂きジャックとも呼ばれる。近年、名を上げた異人ゼノだが噂は耳にしていた。


 そういえばあの初月諒花はこのシーザーと死神の樫木麻彩に先月、相次いで勝利していた。そして彼女の傍らにはこちらも捜している黒條零もいた。きっと二人とやり合ったに違いない。だが、今はこの事態だ、やめておこう。


 裏社会で暴れ回って強者として名を上げたさすがのシーザーも昨日、あの化蛸のダーガンには敵わず病院送りにされた。そんな彼のもとへ蔭山が取り調べに行ったが、どうやら無事に回復したようである。


「ここからは四人で屋上を目指すことになりそうですね」

「ええ」


 石動の言う通り蔭山も目的は一緒なのでそうなる――とはいえ、シーザーがここにいるのは謎でしかない。化蛸の手掛かりを求めて彼の取り調べに行った蔭山に同行とはどういう風の吹き回しなのか。


 だが、怯えている彼に敵意はない。一応、戦力として見込めるだろう。


「フォルテシアに滝沢家の執事までいてくれるのは助かるな。俺は異人ゼノじゃねえから、後ろから慎重に着いていかせてもらうぞ」


「刑事さん! 傍に来た敵は任せてくれ! あんたには借りがあるからな!」

 

 どうやらシーザーは彼を慕っているようだ。刑事とはいえ、蔭山の下っ端の相手は荷が重いので、彼がボディーガードに最適か。そういう人柄ではないように見えたが意外に人情はあるようだ、この男。


 眼前の道は自分達で切り開く――――!



 そうして乗り込んだホテルの中は至る所に、スカールに連れられて乗り込んだダークメアの構成員達が邪魔者を排除すべく待ち受けていた。だが、それよりも上から頻繁に激しく響いてくる地響き。


 突如、建物が震動するこの現象に下っ端達も気が気じゃないようで、遭遇してもすぐに戦闘態勢をとれない。


「うわあああスカールさん大丈夫かなあ」

「レイヴンさんも戦ってるんだろう」


 下っ端達の様々な声が聞こえる。一足先に前へと進み、それでも立ち塞がる下っ端は一撃で仕留めて道を手早く切り開く。抵抗し銃の引き金を引く者は投げナイフ一発で黙らせ、立ちふさがる相手は素手で黙らせ、進路の安全を確保する。


「上では何が起こってるってんだこりゃ……尋常じゃねえぞこの揺れ。建物が崩壊しちまう」


 油断せず慎重に進みながらそうこぼした蔭山に大バサミの彼が反応する。


「暴れてるんだろうなぁ、スカールさん。相手は同じ最高幹部のカヴラだからな」


 建物も不安定なこの状況では閉じ込められるリスクがある。エレベーターは使わない。ホテルの奥にあった階段で最上階を目指して上がっていく。


「ダークメアは総帥で裏社会の帝王レーツァン、不死王スカール、蛇拳王カヴラ、千影王タランティーノ。さながら四天王の如く君臨している奴同士が戦うんだ、この地響きもおかしくねえよ」


 道化、骸骨、大蛇、蜘蛛。


 彼らのその様はまさに今の裏社会、東京23区に蔓延っている様々な異人ゼノの中でも恐るべき怪人たちだ。


 階を上がれば上がるほど、上から起こさせる震動が強くなっていく。それぐらい激しい戦いが起こっているのだろう。


 いざ、気を引き締めて最上階へ歩を進める──────。




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