第184話
不死王スカールと蛇拳王カヴラ。両者が激しい戦闘を繰り広げるグランフォール恵比寿での抗争。
少しだけ時を遡る――――ホテル屋上が爆破した直後。
「あれは……!」
抗争が始まっているホテル最上階部分が突如豪快に爆発した。晴れない煙に覆われ、思わずフォルテシア・クランバートルは声をこぼした。
ここはダークメアとワイルドコブラの抗争が始まっているホテル、グランフォール恵比寿から数メートル近くのビル屋上。この位置からだと件のホテルの様子を俯瞰して見ることができる。
XIEDのフォルテシアと滝沢家執事の石動千破矢は、化蛸のダーガンを追ってともにそこからホテルの様子を伺っていた。
地上は既にスカールとレイヴンが引き連れた着崩したスーツ集団、つまりはダークメアの兵隊どもが徘徊し、中では今まさに交戦が始まっていることだろう。
ホテル屋上の立ちのぼる煙の中から聞こえてくるのは怪獣のような咆哮であった。
「この声は……! 中で激しい戦闘が繰り広げられているようですね」
「石動。私にも聞こえました」
その声はともに聞き覚えがある。ワイルドコブラのトップである蛇拳王カヴラだ。奴は蛇人間の能力を持ち、大男の上半身が大蛇の胴体と化し、背後には蛇の長い尻尾が伸びる戦闘形態を持っている。
間近で見ると見上げるほど大きい常人の身長の三倍はある巨体と高い身体能力、口から毒液を吐くその姿はしなやかに動く蛇というよりも竜人に近い。
カヴラも稀異人だけあり、その姿になっても制御しきれず飲まれることなく扱えるほどの技量がある男だ。
強力なチカラも扱えなければ本人にとっても災いでしかないのだから。
だが、奴がこのとても人間離れした姿を見せたということは本気を出したことに他ならない。
見物している場合ではない。勝敗に関係なく、あの姿で暴れまわられてはホテルだけでなくこの一帯が取り返しのつかない状態と化してしまうだろう。
「石動、行きましょう。カヴラを止めに行くのです」
ここは13階ビルの屋上。エレベーターから降りている時間はない。
慣れた手つきで飛び降りた。そしてビルの壁を蹴って下へと重心を上手くコントロールし、綺麗に歩道へと着地した。
石動もその横に同じように着地し、左右と正面に大きく道が広がっている。ダークメアが徘徊しているためか、通行中の車両も極めて少ない。
空いた道路の真ん中を走って抜けた先には、ホテルに続くビルとビルの間に挟まれた影で薄暗い道がある。だがそこには不良のようにたむろする着崩したスーツを着たダークメアの構成員、つまりは下っ端達が占拠していた。足元にはカラスの羽が散らばっているがこれは黒い雨を降らせたあの男の仕業だ。
「おう、XIEDか。何があってもスカールさんからこの先には通すなって言われてるんだ」
「通るってんなら――ぐあああああああああああああああああああああっ!!」
喋り終わる前に、その間も足を止めないフォルテシアの神速の手刀が炸裂し、下っ端が倒れ込み、他の下っ端達も唖然として足止めどころではなくなる。その真っすぐな指四本が男の腹にぶっ刺さった。出血はないが、その場で意識を失わせる。
「新米!! くそっ、この野郎!!!」
だがそんな状況でも臆せず、与えられた足止めの任を果たそうと、鉄パイプを振り下ろしてくる下っ端達。
その先端を掴んで反対側の方向に放り投げ、後ろから後頭部を狙って拳銃の引き金を引かれても、岩石の盾を出現させた石動によって防がれる。
「こ、コイツら、フォルテシアと滝沢家の石動千破矢だぁ!!!! 応援を呼べ!!!」
向こうの守備が崩れて道ができれば、この場にいる怖気づいた下っ端達を突っ切って先に進む。全て倒している時間はない。
その間に後ろの石動が追っ手に対して両手を広げるとコンクリートをぶち破り、岩石の尖った巨塔が壁となって彼らを阻み、ちょうど真上にいた者を突き刺して吹っ飛ばす。
二人はホテルを目指し、先を急ぐ────運命の刻が近づいているとは知らずに。




