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第183話

「オラァァァァァァァ!! スカール!! てめえはここで捻り潰してやるぞ!!!!」


 怒号とともに激しく吹き荒れる暴風。


 部屋と建物の内装を形作るホテルの壁と天井は怪物の本性を見せた蛇拳王の大咆哮とともに消し飛び、辺りは白い空に覆われた。

 瓦礫が散乱し、壊れかけの壁が残った空間。白く灰色の空から差す光が一斉に瓦礫とこの周辺を明るく照らす。


「なんのこれしき……!」


 この姿も何度も見ている。それに雲の壁によって遮断された、直射日光ではないこの程度の光ならばスケルトンの体はまだ耐えられる。危うく暴風でカツラが風で飛びそうになったが抑える。


 とはいえ、基本的に太陽の光はアンデッドを焦がす。このチカラを持つ誰もがというわけにもいかない。この度合いは体質や適性、練度が左右する。

 

 吹き荒れる暴風の中で微かにまぶたを開いた先には大きく開いた右足で踏み込む姿。その右足の太ももから先までがとても盛られた太い筋力が続く。その姿はズボンを履いている爬虫類レスラーの足そのものだった。


「シャァァァァーッ……!」


 先ほどまでよりも数倍長くなって胸部にもとどく長さの舌と、横から見るととても長くなった顔、口から伸びる2本の長い牙の先端からヨダレが垂れる。


 その肉体も先ほどまでの一際大きい巨漢だった身長を上回り、一回りも二回りも肩幅が広がり、長い両腕に長い両足、長い尻尾を生やし、筋肉質な腹から砂色が広がり、まさしくキングコブラ人間そのもの。両肩から両腕に彫られた緑の刺青タトゥーは蛇の鱗の模様と合わせてその不気味さを一層引き立てる。

 網状で丈夫な蛇の鱗上に人間型の時から彫ってある組み合わせたそれは姿とともに相手を威嚇するものでもある。


「親父、カヴラさんがついに本気を出してきましたねえ」


 後ろから現れたのは先ほどから部屋の前まで待機していたレイヴンだ。その部屋のドアも壁も天井もどこかにいってしまったからだ。他の連れてきた部下達も暴風と崩れた瓦礫によって潰されたりして打ちのめされている。


「ここから本番だ! そのうち変身するだろうと思っていた」

 

 これまでもずっと味方として見てきたこの姿。先ほどまでの顔だけに蛇らしさを含んだ人間型は本当の戦いの中での姿ではない。この眼前のクリーチャーこそがコイツの真の姿だ。


 キングコブラの胴体と人間を合体させた巨体と筋肉であらゆる敵を捻じ伏せ、マシンガンを持った集団相手でも勇敢に飛びかかっていき弾幕ごとふっ飛ばす。図体がでかいのとは裏腹に尻尾を使った素早い攻撃も仕掛けてくる。


 まさしくダークメアの剛であり、最初は蛇というよりヤモリ同然にしかなれないそのチカラを肉体とともに鍛え上げたのも当人ならではである。


「親父、手ぇ貸しますか?」

「お前は他の意識ある奴ら連れてここを離れてろ」

「へい」


 レイヴンが後ろに下がっていくのを見やり、先ほどまでより三倍の身長を誇るカヴラに向き直る。


 でかいが、勝機はある。


「スカール。そう来なくっちゃなあ。まだ生きてる奴はギャラリーになるのを許可してやる。てめえとサシで勝負だ!!!」


 足を蹴って先ほど以上の巨体で突っ込んでくるカヴラ。その馬鹿でかい体に似合わず、パワーだけでなく足を蹴る瞬発力も人間形態よりも格段に向上している。

 真正面から行けば、攻撃する前に吹っ飛ばされて車に跳ねられたも同然の痛みが走るだろう。


 ――最も、俺はスケルトン人間だからバラバラになるだけだが。


 突進攻撃を正面からわざと受ける。自ら骨と化してバラバラになり、着ている衣服やゴーグルや髪も散らばって木っ端微塵となって跡形もなくなる。こうなれば痛くも痒くもない。


「その死んだふりのトリックは分かっているぞ!!! ……グおァァァッ!!!」


 突如カヴラの背中に激痛が走る。


 そう、瞬時に奴の背後でこの身を完全復元させ、さながら瞬間移動のような芸当で後ろからキングコブラ特有のたくましい猫背をあるモノで突き刺したのだ。


 あの人狼姫から没収した影双像カゲソウゾウではない。

 先ほどまでの形態ならばダメージを与えられたが、この姿になるとさすがに30万の値がするコイツでもその鱗を抉ることも叶わない。浅い傷跡程度しか残せないだろう。


 肉体だけでなくチカラも鍛え抜かれたキングコブラ人間の体を出血させるにはもっと火力が必要だ。


 並みの刃物や銃弾は通らない。得物が通らず、その太い腕で鷲掴みにされるかその巨体に跳ね飛ばされるのがオチだ。


 だから、スケルトン人間のチカラを磨いて編み出したこういう時しか出さない代物。その硬い肉体をも貫く、念を込めて形作り顕現させ繰り出したこの――、


 ――――死霊の貫刃(レヴナント・グレイヴ)で。


「グエッ!!」


 背中からの激痛に倒れ込んで手を床につくカヴラの頭を踏みつけ、再び正面に降りて着地する。


 猫背を貫いた、一刀の長剣のようにも見える、見た目は骨で形成された墓場送りの青白い長槍を右手に。斬ることも刺すこともできる。


「いつの間にそんな技を持っていたのか。激務なのにしっかり鍛錬もしてるようだな!」


「フン」


 見せなかっただけだ。


「俺がレーツァンから任されて以降、ただ黙々とデスクワークと指揮をとってふんぞり返ってるだけとでも思ったか!」


「調子乗んなよこのくそったれがああああああああああああ!!!!」


 背中の痛みに耐えながら、床に両手をついたカヴラは激昂し、体を大きく振り回した。


 後ろから伸びる長い蛇の尻尾。それを前方に放つテイルアタックは辺りの瓦礫を吹き飛ばしてこの場に円を描きながらこちらを吹き飛ばさんと襲いかかる。


 だが。


 向かってきたそれを先ほど顕現させた長槍を振るい、切断。先端部分がポテリと転がり落ちた。


 時間が経てば再生するがこれで暫く尻尾は使えまい。この武器の巨大な刃にかかれば余裕だ。突き刺すランスにも獲物を両断するブレイドにもなる。


「そこだ!!!」


「なに、グォォォォォッ!」


 長槍を一旦手元から消した後、懐から鎖を取り出し、投げつけてカヴラの首に巻き付ける。一時拘束するだけならばこれで充分だ。


「くそっ、離せ……!」


 この鎖を引きちぎれないように何重も巻き付け、綱引きの要領でその蛇面を無理やり引き寄せ、その顔面を前に――――


 ん?


 ――ホテルの下からウチの奴らじゃない、誰かが上がってくる気配を感じるな。



「ぐっ…………うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 しまった、首の鎖を引きちぎった。まだ終わらなさそうだ。その姿はまさしく暴れる猛獣だ────




読んで頂きありがとうございました!

次回はスカールが気づいた、ホテルの下から上がってくる者たちについてお送りします。

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