第182話
スカールにお返しと言わんばかりに殴り飛ばされ、倒れ込んだカヴラ。
「いてえっ!!」
続けて追い打ちと言わんばかりに、懐から取り出された鎖がムチのように体を叩きつけられると、逃げるように素早く立ち上がった。ファイティングポーズで構えながら舌をすする。
「シャーッ……スカール、全部俺のせいにしたいんだろ?」
「ワイルドコブラのボス、即ちトップはお前だからな。組織で何かを起こせばケツを拭くのはお前だ、分かるだろ?」
「言ってくれるじゃねえか。やることだけ進めておいてよ、崩した後のケツを拭く算段も考えてねえ奴がよ!!!」
面倒と分かっていても戦っていて自然と口喧嘩に発展してしまう。カヴラの太い右手の平に紫色の毒液がジワジワと集まり出す。やがてそれを思い切って、力強く振り下ろす。ピッチャーのように投げられたそれは野球ボールぐらいの大きさの毒液の塊だった。
その塊が高速でスカールに迫る。ただの塊としての火力だけでなく、思い切り投げるために使った腕力によるパワーも乗っかっている。毒液とはいえ、液体。水と同じでただぶつけられるのとはワケが違う。常人なら腹は吹き飛び、頭は消し飛んでしまうだろう。
「全て終わったらそんなもん、いくらでも拭いてやる。覚悟は承知の上だ!!」
――中郷を放置したままではいかない。それを排除した代償は後でいくらでも……!
持っている鎖を回転させ、その先を投げつけ、向かってくる毒液の塊の軌道をそらし、斜めに打ち返した。
「この組織、ダークメア内の反乱分子を排除し、洗浄をした後、中郷を倒す計画も全てレーツァンの計画だからな。訊くが、仮にお前がこの組織を掌握したとして、中郷という癌細胞のことはどうでも良いのか? 奴はレーツァン亡き今、どこにあるのか分からない本拠地から初月諒花を狙って仕掛けてくるぞ?」
中郷がワイルドコブラを動かせるという発言が見つかり、中郷とワイルドコブラの繋がりが滝沢邸で判明した黒條零のパソコン。そのワイルドコブラを暴れさせて今回の抗争は起きた。この盤面を奴は今も見ているだろう。そしてこの抗争が終われば奴は次の手に乗り出してくるはず――!
「本拠地? ああ、レムリアのことか」
その名前はプロジェクトに関わる、口外禁止の最高機密だった。二人だけなので大目に見るとする。
「お前は知ってるのかよ? レムリアの場所」
「いいや、名前しか知らねえ」
首を横に振るカヴラ。直球でコイツで中郷と組んでることを突きつけるのはやめておこう。地雷を踏むかもしれない。ワイルドコブラの本部をガサ入れした時、レムリアに関する手掛かりが見つかったという報告はなかったが。
「そりゃ、お前もプロジェクトのこと話した時に知ったからな」
その発言がウソかというのは100パー保証できない。
まず前提として中郷は表向きは千葉の美浜にあるXIED東日本支部を本拠地としている。実際そこが日本のXIEDをまとめる総本部にあたる。
XIEDそのものはアメリカに総本部があり、中郷は日本のXIEDの現トップにすぎない。日本にXIEDが創設されたのも勿論、アメリカの手助けがあったからであるが、その歴史は今はいい。
千葉の美浜。そこには中郷がいないことは過去に指揮したスパイ活動によって検証されている。ここからはプロジェクトの内容を知る者には周知済みの真実だ。
実はレーツァンは長年、中郷と組むことでその後、隠された奴の真の本拠地の存在をおよそ突き止めることに成功している。
それが何なのかは名前以外まだ詳しく聞かされていないが、中郷が構える本拠地を指して、レーツァンはそれをREMURIAと呼んでいる。
由来はオカルト界隈で有名な、あのかつては高度な文明を築いていたが沈んでしまった伝説の大陸だ。インド洋にあるとされ、猿の研究をしていた学者の提唱が起源。なのだが、近年は色々あって太平洋にあるとされている。
だがその太平洋にはかつてレムリア同様に文明を築いたものの沈んだ厶ー大陸があるというオカルトもある。ところが。
『スカール。中郷の本拠地はレムリア。今言えることはそれだけだ。だがこの名前をよく覚えておけ』
レーツァンはムーではなく、一貫して中郷がいるその本拠地の名をそう呼んでいる。本拠地を指したこの名を使ったということは、そこにいる中郷の正体はやはりただの只者ではないのだろう。
レムリアは掘り起こしたらヤバい代物なのだという。今はその時ではないと場所は明かされていない。
そう、内紛を起こし、反乱分子を排除した後に、ひたすら時を待つというのは、その時のことである。死んだレーツァンが号令を出す時を────。
この打倒中郷プロジェクトはレムリアを見つけ出さなければ始まらないので、名付けるならば実質プロジェクトレムリアなのだが、その名前と存在自体を伏せるためそう名付けられてはいない。だが隠すだけの理由があるのだろう。
そのレーツァンも初月諒花によって倒されて死んだ。REMURIAへの道は表向き途絶えてしまった……
が、それは表向きの話。中郷は今頃、この事実を鵜呑みにしているに違いない。
「中郷がいる場所がレムリアっていうんだからそりゃ海の中にあるんだろう。オレがトップになった暁には、簡単な話。潜水艇をXIEDの基地なりから奪うか、岩龍会の遺産をやりくりして開発しちまえば良い! それだけだ」
「やっぱ脳筋のお前はそれしか言えないか……」
呆れて首を左右に振る。話を聞く様子もない。
岩龍会は裏社会制覇のために裏では独自の軍事力、科学力も持っていた。滅亡後に残されたそれら研究成果と開発された遺産は概ねダークメアが回収した。中には手が行き届かず、その他組織に渡ったものも多いが。
潜水艇の開発は小さいものならば余裕だろう。かつて関東最大組織、岩龍会をもってしても、東京の中で小笠原諸島だけは進出できなかった。
けれども正規のアクセス以外でどうにか進出しようと、水面下で低コストで小型潜水艇の開発を進めていたのだから。
だが、それももし、SF映画の宇宙戦艦の戦闘さながらの海中戦が起きたとして、制することができるほどの性能があるようには見えなかった。せいぜい海中航行のみ。
小笠原諸島進出よりも、陸の蹂躙と支配にコストを割いている関係で開発資金が回せなかったのだろう。
コイツの主張する、西側や東京23区外への進出なんかしていれば当然、潜水艇なんか二の次だ。
「やはりお前はここで動けないくらいに始末しとかないとな。このどこまでも行っても単細胞の脳筋が!!」
寒気がするほど青く、けれども黒く燃えるオーラが不死王から湧き上がる。生者を喰らう、骸骨の怨霊を想起させる。
「上等だぜ!! 打倒中郷を目指す大冒険とオレの掲げるキングダム、どっちが大事か、そろそろ決めようぜ!! オレもそろそろ本気を出すか――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
────来る……!
激しい唸る咆哮とともに蛇拳王の異名の所以である、コイツの戦いの中での真の姿――、奴の体が眩い、野生的なジャングルを彷彿とさせるカクタス色に燃えるオーラに覆われていく。
元から一回り大きい巨漢である図体が更にデカくなる。その自慢の体躯が二倍三倍にも膨れ上がる。
顔の形が爬虫類らしい長い顔へと変化し、蛇の胴体を長身の人間の上半身にしたようなその姿や後ろに長く伸びる尻尾とまさに蛇人間そのものであり、より太くなった剛腕の破壊力や身体能力は先ほどまでを遥かに凌ぐ。
多くの異人から尊敬を集めるほどのカヴラの強さの秘訣は、攻守ともに鍛え上げた逞しい肉体と、キングコブラのチカラが合わさったこのパワフル溢れる形態ゆえである。




