第181話
「シャーッ……リングの上で殴り合い、熱き拳を突き上げながら、てめえの采配に常々思ってた!! だいたい岩龍会に取って代わったオレ達は関東で最強なんだ!! 新たなキングダムの強さを岩龍会以上に見せつけてやれば、周りの奴はそれに怖気づいて何も出来なくなるだろォ!!!」
そう豪語した後、蛇拳王は不死王を仕留めるべく跳びかかる。その姿はまるで蛇というよりも獲物に素早く飛びかかって八つ裂きにしようとする獰猛な豹。
────コイツは本気を出せば凄まじいパワーを発揮する。
筋骨隆々で背の高い巨漢の見た目だが、そんなもの序の口だ。跳びかかってくるその全身に押し倒されぬよう横に避け、素早く太い腕から連続して繰り出される剛腕ジャブに対し、後ろに一歩下がりながら懐からアレを取り出す。
ここまで、最期までコイツに与した奴らを断罪してきた影双像。先端部分を光らせながら、影の鎧を纏う感覚で無数の影分身を作りながら四方八方に動き回って攪乱しつつ近づき、こちらをキョロキョロと目で追うための首以外の動作が止まった所に一閃を食らわせた。
「ぐううううああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
残像とともに真っすぐな斬撃を描きながら突撃し、それが奴を斬ると多量の生き血が辺りに飛び散り、断末魔をあげて体制が一瞬だけよろける。
が、手をつく様子も、倒れこむ様子がない。平然と立ち尽くしている。
「シャーッ……! それはレカの武器じゃねえか。初月諒花がレカを倒した所にでもいたのか?」
「まぁな。ちょいと色々あって俺が持っている」
その長い舌を垂らす蛇らしい顔はまさしく野獣。分かっていた。コイツのタフさと生命力はこの程度で尽きるものではない。稀異人であり、かつ常に鍛え抜かれたコイツの体は非常に頑丈だ。銃で撃たれようが斬られようがそこらの異人以上にタフだ。だからこそワイルドコブラのボスに相応しい。
「逆に訊くが、あのダーガンと手を組んだのも鬱憤からか?」
死んだはずのあの蛸とどう繋がったのかは気になる。穴掘りをしていたら、決して掘り起こしてはいけないゾンビを掘り当てたとでも言うのか。
「そうさ。あの野郎はお前に不満を抱くオレの前にある日現れた!! 多くの野郎どもから慕われた名誉や威厳、プライド!! そういうのを捨てて頭下げて取引したことで、資金援助によって莫大なカネと後ろ盾を手に入れた!!」
「だからスカール、お前からプロジェクトの話を聞いて思った。初月諒花ごと、ぶっ壊す時だってな!!」
溜まりに溜まっていた不満を全て爆発させるように激しく語るカヴラ。常日頃、こちらのやり方に不満を内心抱いていたカヴラをたぶらかせ、悪い意味で覚醒させたのは、死んだはずの化蛸だろう。
奴との間でどんな取引を交わしたのかは今は訊いた所で吐いちゃくれないだろう。最も、その後ろ盾、ダーガンを送り込んだのも思い返せばだいたい推測がつく。
それは中郷だ。カヴラが中郷と組んでいることは滝沢邸で既に黒條零のパソコンを通して突き止めていた翡翠から聞いている。なのでダーガンも必然的に中郷の手先だったと合点がいく。
同時に、プロジェクトがカヴラを通して中郷に知られている可能性については今は置いておこう。実際の中郷との関係性について確かめる時で良い。さて。
「何も知らないんだな」
「あぁ?」
不機嫌な不良のような返事をするカヴラ。反撃を許さないように、一歩距離をとって先ほどの話の続きをする。
「本当にバカだ。ただ暴れたい、その強さを誇示したい、そんな承認欲求だけでやっていけるほど甘くはないぞ」
岩龍会が23区外にも勢力を拡大し関東最大組織として君臨していた背景には、ただ力任せの武力による制圧だけではない。
拡大した土地で確実に稼げるように緻密な計画を立て、その中で協力者や敵対する者関係なく利用する。
そういう経営手腕や知略があってこそ、武力行使が光る。稼いで潤えば、それで武力や組織を強化する。長い時の中で稼いで強くしての繰り返しの積み重ねの結果だ。
「バカなのはてめえだろうがスカール! オレがこんなにも愛した組織を、オレの納得しない方向で采配した挙句、中郷を倒すプロジェクトのためにせっかく築き上げた組織を一度崩す……? アホの極みだ!!」
「だがそうしなければこの組織に潜む反乱分子を排除できない」
そのためにレーツァンが死んだことを餌に内紛を起こさせた。
「そんなことをしなくても、力でねじ伏せて、服従させりゃいいだろ!」
実にコイツらしい。昔から脳筋だがそれを通り越して無能の極みだ。まだまだカヴラは文句をぶつけてくる。
「プロジェクトが全て終わった後、一度崩した組織は終わってから立て直せば良い? 楽天すぎるだろ??」
カヴラも打倒中郷のプロジェクトの内容は知っている。だが、それを知ったのはレーツァンが先月19日に死んで計画通りに内紛を起こさせ、反乱分子との交戦が始まった後とつい最近のことで原因はそれ以前の度重なるミーティング欠席によるもので、唯一参画者で大幅に遅れて知ることになった。
これまでのミーティングに参加していなかったために状況が飲み込めないカヴラはまずレーツァンの死の真相を訊いてきた。それで説明したことで逆上し、今回の抗争は起きた。
反乱分子達に内紛を起こし、ダークメアという組織を崩すこと。これは面従腹背していた奴らとの戦争。それまで兵力も戦力もそれ込みで成り立っていたのだから崩すに他ならない。
元岩龍会や行き場を失くした者が与しているのもあり、一枚岩ではない。そのため後顧の憂いをなくすための打倒中郷前の大洗浄なのだが、組織を崩すことにカヴラは真っ向から反対している。
目的である中郷の手の者がいる可能性は勿論、好機を伺う他勢力と繋がる内通者が潜んでいる可能性もあるからこそ、プロジェクトを実行するにあたり、不安要素を一掃するためだ。
そもそもこのプロジェクトはダークメアという組織を一度洗浄した後、レーツァンを倒した初月諒花を利用し、打倒中郷を目指すのが目的だ。
そのため、初月諒花に倒されたレーツァンは今――――。
カヴラとしてはここまで築き上げてきた組織を積み木崩しすること、プロジェクトが終わればまた組織を再建するというのが納得がいかないという状況だ。
「ふざけんな、スカール!!!」
激昂とともに神速でカヴラの毒液を纏った正拳突きが炸裂し、拳が胸部にぶっ刺さった。が、すかさず防御するようにスケルトンになった体に毒は通じない。通常であれば毒を纏った拳は喰らえば、そこから侵食して相手を弱らせる。
「レーツァンのことも正直信じられねえ!! 崩すくらいならオレにダークメアという組織を預けやがれ!! オレがボスになってあとはお前らで勝手にやりやがれよ!!!」
「お前に舵取りを預ければ、どうせさっき掲げたマニフェスト通り侵攻に乗り出すだろうが」
お返しに語気にも気合を込めて、その蛇ヅラをぶん殴り、ふっ飛ばして距離を作った。得物の鎖を取り出し、仰向けに倒れている巨体に鞭のように叩きつける。
「ぐはあっ……!!」
「カヴラ。中郷は果てしなく強大な存在だ。話聞いたなら分かるだろ? 組織崩すのも含め、プロジェクトの話聞いた脳筋なお前でも」
「レーツァンは前々から俺に入念に極秘に準備するように指示をしていて、俺はそれを汲んで政治をしてきただけだ」
「どっかから沸いて出たダーガンと組み、初月諒花に手を出して、しかも滝沢家も巻き込んで、事態をグチャグチャにややこしいことにしてるのは全部お前だ! ……分かるか?」
プロジェクトはコイツが余計なことをしなければ、
内紛を起こして組織内の不安要素を掃除後、
死んだレーツァンからの号令が来る時をひたすら待つだけだった。
それなのに……
読んで頂きありがとうございました!
前回の第180話の加仁野組の部分をメンテして追記させて頂きました。




