第180話
腹の底から笑った後、呆れながらもスカールは強気でカヴラを睨む。その視線の先にいるカヴラは、
「ああ、そうさ! オレは岩龍会みてえなことがしたかったんだよ!! この東京23区に限らず外部への侵略をよ!!」
呆れてものも言えない。蛇拳王は力説する。
「東京23区の裏社会を支配下に置ける規模の勢力を手にしたのならば、23区外の西東京やその先、周辺の埼玉や神奈川や千葉の侵略だって余裕なはずなんだ! 数の暴力でひねり潰せるんだからよ! かつての岩龍会は西東京にも末端の組が進出していたぞ!」
捻り潰せるかは後に置いといて、外部への侵略に関してはそうだ。本質は置いといて。
現にかつての岩龍会の時代、2016年に滅ぶことで終焉を迎えたあの時代は、岩龍会が関東最大組織として23区外にも広く勢力を拡大していた。区外に進出していたうち、シノギを上手くやれていた組を思い出す。
人攫いと人身売買で名を馳せたが2013年にXIEDによって壊滅させられたあの越田組に至っては、23区外である国分寺に事務所を構えていた。
攫ってきた人を岩龍会が買うことで水面下で行われていた、ナチスさながらの倫理を嘲笑った人体実験。そのための素材の提供も捗り、軍事力と科学力の向上に繋がった。
代表的なのが異源素を異人ではない、攫ってきた通常の人間や野良犬などの生き物に注入する実験だ。
異人から採取した異源素を注入すれば生物兵器を作れると、道を外した科学者は熱心に研究を進めていた。
だが、運悪く越田組に目をつけられたせいで連れて来られた、元から適性もない奴に、異源素というカタギから見れば魔法同然の強大なエネルギーを注入すれば大半がどうなるか、それはもう口に出すまでもないだろう────ある意味、越田組のシノギの犠牲だ。
また、横浜にも岩龍会系の有名どころで加仁野組という賭博を仕切る組があった。
金に困った貧乏人や金が欲しい若いのに声をかけて賭博に引きずり込み、最初はわざと勝たせて慢心させた後に負けさせて絞りとる。場合によっては警察に賭博罪として情報を流し、逮捕させる。賭博の売上で岩龍会の懐事情を支えていた。
どうやって警察を都合よく使っているのかは謎だった。運営する自分達までお縄についてもおかしくないだろうに。
シノギの犠牲として、賭博にハマってやめられなくなるギャンブル依存症患者も数多く生み出した。向こうとしては表向きにはギャンブルを取り締まる呼びかけの材料になって良いのかもしれない。そうやって表沙汰にすれば自ずと何も知らないカタギへの抑止力にもなる。
噂では横浜のある中小企業のパートで同僚達に毎晩、メシを奢っていた行き過ぎた聖人ともいうべき奴が加仁野組の賭博の沼にハマり後に賭博罪で逮捕されたという。
働いていたパートは皆、そいつに毎晩奢ってもらう事が日常的になっていたことから以降、その企業のパート面から著しく衰退したという。賭博によって生まれた、まさに泡のように消えた甘い幻想。
このように、岩龍会は23区の支配を維持しつつ、支配領域外の周辺地域にも系列の団体が進出して確実にシノギを成功させ、勢力を拡大し、大元である組織にも寄与していた。
が、これらを実現したのは目の前の敵をただひたすらに飲み込んでいく数の暴力ではない。実行前から練られていただろう、確かな戦略があったからこそだ。
カヴラは続ける。
「それに対して今の状況見てみろよ!! 23区内では各地でオレ達に歯向かおうとしてる奴らとは睨み合いや交戦が続き、23区内なのに手薄な場所だってある」
それもその通りだ。意外に的確な指摘じゃないかと少しだけ感心する。渋谷区、世田谷区なんかが特にそうだ。23区外にも隣接する最前線基地である新宿区のちょうど南にある渋谷区は手薄だ。
渋谷に関しては更にレーツァンからの要請で意図的に手薄になるような配置にしている。あの人狼姫が渋谷に住んでいるため、レーツァンのプランを狂わせないように。何かあっても新宿区という砦もある。原宿と渋谷は通り道に等しい。
後者の世田谷区は渋谷区と隣接しているが違う理由だ。そこに本校を構える志刃舘の学生連中。異人じゃなくても異能の剣とかを扱えたりするのがいたりする。
あの学校は卒業生として公務員を数多く輩出しているが、裏でXIEDとも繋がりがあり、所詮は学校と侮ってはいけない。お陰で睨み合いや交戦続き。今、頑張って潰しても禍根を残す。メリットは微塵もない。
よって、カヴラの言っていることを聞き入れる価値はない。ただの思い上がりだ。無駄な話をするだけ時間と体力を浪費する。
自分の意見と拳をぶつけてくるこの野郎を早く黙らせなければ────。




