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第179話

「捜したぜ、カヴラ。もうお前は終わりだ」



 そう挨拶して部屋の中に足を踏み入れる不死王。


 ドアを開けた先で王のようにソファーに座っている男。彼こそがこの抗争の最重要人物、同じ犯罪組織ダークメア最高幹部の一角、蛇拳王カヴラである。


「一人か。お前と組んでいるあの死んだはずの蛸はどこにいる?」


「ふっ、ここにはいねえよ。留守を任されてるんだ。攻めてくるお前らを迎え撃つためにな!」


「なに……!」


 予測の範囲外だった。奇襲を狙っていると思いきや。ブラフの可能性もあるか。いや、これは何かある。


 籠城している立場なのにカヴラを置いて一人だけ抜け出して本陣を空けるとはどんな魂胆なのか。そのまま逃げ出してもいいだろうに。カヴラを見捨てたか?


「どこへ行った!!」


 するとカヴラは歯を見せてにっと笑い、


「言えねえな、ダーガンはオレのビジネスパートナーだ。知りたいなら、オレとここでサシで勝負してみるかぁ、スカール!!」


「いいだろう、望む所だ。そういうことならば、これで交わすしかねえよな、カヴラ!!」


 不死王スカールと蛇拳王カヴラ。ダークメアの二大最高幹部それぞれから湧き上がり、燃える異源素ゼレメンタル


 スカールは青白く、カヴラは緑色のオーラをそれぞれ放ち、燃え上がっていざ最高幹部同士の対決が始まる。


「てめえなんかバキバキに砕いてやるよ!!」


 先行で突っ込んできたのはカヴラだった。キングコブラの蛇人間であるその能力チカラ以外にも鍛え上げた自慢の筋肉と巨体が武器だ。


 ダークメア最高幹部で一番の巨漢であり、剛を担う者。パワーにかけてはカヴラの右に出る者はいない。巨体による突進とともに繰り出された太い剛腕によるパンチを臆することなく受ける。


「ハッ、砕くだと? 俺の能力チカラをお前も知っているだろう? ただのパンチで勝とうなど無駄だ!」


 パンチと言っても常人を遥かに凌ぐ。だがスケルトン人間はそんなダメージを受けても体を骨から再生させることができる。殴られる以外にも刃物で斬られようが銃で撃たれても受けられる。どうせ再生してダメージなんか忘れてしまうのだから。


「そりゃ知ってるとも。さすがレーツァンから後を任されるだけあるよな。けどよ――オレは、そんなお前が大嫌いだったんだよ!!!!」


 するとカヴラは口から大量の紫色の液体をブレスのように吐き出す。


 これは毒液だ。ネバネバしていて動きを鈍らせ、被弾した相手の体をジワジワと弱らせる代物。動きと体力を失った獲物はその毒牙の餌食となる。


 スケルトン人間といえども、骨化する前の状態の体で毒を受ければ、そこから毒が入り込み、影響は内部から蓄積されていく。毒による破壊と能力による体の再生が同時並行してジリ貧だ。しかし――!


「血肉も血管もないこの骨の体になっちまえば、体内で毒が循環する道もなくなる。いくらでも受けられるわ!」


 ここは全身を一瞬だけ骨化して受け止める。これがスケルトンコートだ。


 着ている服、ゴーグルやカツラはそのままに体だけを一時的に骨化して攻撃を受ける。折れたり砕けた骨もまた再生する。異源素ゼレメンタルが許す限り。異源素ゼレメンタルは時間が経てば回復する。なくなってきたら、攻撃を凌ぐにはチカラに頼らず避ければ良いだけのこと。


 先ほどのブレスで大量に飛び散った毒液が部屋中を一気に汚染する。壁や床も腐っていく。カヴラの武器はパワーだけではない。蛇人間であり、キングコブラならではの強力な毒もその一つだ。


 拳一つでコンクリートにヒビを入れて直接破壊するだけでなく、建物の壁や柱も弱らせて破壊できる。

 ここは最上階なので心配はないがもし、途中の階ならば柱の強度を失った建物が崩落し、上から瓦礫が降り注いで下敷きとなる。


「俺のことが嫌い……か。そう言われるのは慣れてる。いくらでも言え。だがな……まさか長年同じ肩並べてる奴から言われるとはな!!!」


「うるせえ!! プロジェクトの話が始まった時からハブられたオレの意見も確認しようとしねえで勝手に進めやがって。あのプロジェクトも、お前のこの組織の舵取りも全部――!」


 怒りを燃やす蛇拳王。だがそれは違う。ハブられたというのは。


「あれはお前が関西との勝手な商談とかで外出したり、コロナ発症してミーティングを休んだからだろうが!!!」 


「そこを上手く調整するのがリーダーってもんだろ!!」

「くっ……!」


 ……そこは確かにそうだ。


 お陰で最終的にこの抗争は起きた。コイツの部下によって被害を受けた翡翠にも代わりに頭を下げるハメになった。注意深く、もっと事前にどうにかしてこの抗争を止められていれば、滝沢家も巻き込んだこんな大事には至らなかった。カヴラは続ける。

 

「てめえのこの組織の舵取りも、なんで岩龍会に代わって東京23区の裏社会を手中に収めたのに、東京の西側とかよその土地に攻めこんだり面白いことしねえんだよ!!」


 だがそれを剛腕とともにブチまけられた瞬間、バラバラになって修復に向かう自身の体とともに思わず失笑しそうになった。


 やはりコイツは経営というのを、分かっていないからだ。


「侵攻を行わないから不満だ? そんなの簡単な話さ。余計なドンパチは生まれる必要のない因縁を生む。ただ目的の邪魔になるだけなんだよ!!」


 無論、やろうと思えば東京23区だけでなく、そこから外に位置する西東京や千葉、神奈川、埼玉とかだって侵攻して手中にできる。


 ただそこに至るにはXIEDシードも含めてそれを阻もうとする、多くの障害となる敵と戦う必要がある。



 そもそも元を辿れば、レーツァンによる打倒中郷プロジェクトの話を当人からカヴラとタランティーノよりも先に、最高幹部の中で初めて最初に聞かされた。


 岩龍会が滅び、ダークメアがそれに取って代わったため、忙しいレーツァンに代わって組織の舵取りを任されたからだ。事実上のトップとして。


 だから中郷を倒すためには、一線を越えた侵略戦争をやれない、というか出来ない。


 第一、中郷とレーツァンは手を組んでる関係なのだから。


 一線を越えれば中郷との関係が揺らぎ、極秘裏に進めている計画プロジェクトが最悪破綻する。


 レーツァンは裏で中郷さえも倒そうとしている。あの正体不明の長官を。その過程で欲望むき出しに余計な戦争を起こして台無しにするわけにはいかない。



「スカール、お前はいつもそうだ。慎重すぎるんだよ。もっと大胆に、オレ達のキングダムの名を外に轟かしたくねえか? 岩龍会みたいによ!」


 もはや反論するのも疲れた。言わせておけばいい。


「……? なんだ、なんか言えよスカール!!!」


「クッ……フフフフフ……ハハハハハハハハハハハハハ!!」


 脳筋には体で教えてやらねばなるまい。高らかな笑い声で笑うしかリアクションが浮かばなかった。


「……お前、こうして成り上がる前から岩龍会のようなことをしたかったのか? そのために化蛸と組んだのか? 困ったもんだ……」


 コイツは岩龍会の遺産で強力なキングダム、つまり強力な勢力さえ作り上げれば、中郷もXIEDシードもそのパワーで倒せると思っている。


 だが自惚れてはいけない、甘すぎる……




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