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15 デスプライズ

 私は追加で3回死ぬことになった。


 密室に、乾いた銃声が断続的に鳴り響く。

 床に転がる死体が増えていく。


 シキが集めた3つの死体。

 今さっき増えた1つの死体。

 そして、たった今増やした3つの死体。


 用済みとなった私は倉庫に走り、シキが拾い集めた銃と弾薬を集めた。

 銃の量によってはもっと私の死体が必要になると思われたが、杞憂に終わった。


 そして倉庫を出る直前、

 いつか食べた毒草がここに保管されていることに私は気がついた。

 水分が飛んだのか、以前見た時よりも体積が少ない。


 何かに使えるか?



       ○



 部屋には、少女が一人、死体が複数。


 シキは死体の一つに、

 前頭部から後頭部まで覆い尽くすヘルメットのようなものを取り付けた。

 ネジを回してヘルメットの大きさを調整し、

 取り付けられた複数の電極の先端が頭皮に接するようにする。

 電極に繋がるコードは束ねられ、

 タイプライターが付属している大きな機械式計算機に繋がっている。


 本棚から一冊の本を取り出し、

 中に付録してある樹脂製のカートリッジを機械に差し込んだ。

 トグルスイッチを上げる。

 計器の針がわずかに揺れ、みるみるうちに右に触れていく。


 シキはタイプライターの前に座り、

 ノートを参照しながら恐る恐るキーを打ち込んでいく。


 棚に置いてある薬品の入った瓶と注射器を取り出す。

 シリンジの中を薬液で満たし、死体に注入する。


 シキは機械の側面についたレバーを下ろした。

 ヘルメットの内側に紫電の閃光が走り、火花を散らした。

 死体が叩かれたように、一瞬だけ体を揺らす。


 シキは手のひらに極小さな火の玉を浮かべた。

 出力を変え火の玉をごく短時間のうちに何度も大小させる。

 彼女は、魔術の出力のコントロールが錆びついていないことを確認した。


 この先は、魔術の出番だ。

 画一化のされていない針の意図を通すような職人技になる。


 呼吸を整え、死体の胸に手を置く。

 使うのは先祖から口伝された魔術だ。

 その全ては、シキの頭にしか残されていない。


 祈りをささげる司祭のように、シキは死体に向けて意識を集中させる。


「お願い……成功して……っ」


 その時、彼女の願いを聞き届けたかのように、死体の目蓋が開いた。



       ○



 リロードを終えた十数個のリボルバーを部屋の前に持っていく。


 集中力を乱すなと言われたので私は部屋に入ることができない。

 かと言って、外に出ていけば扉を開けることになるし、どうせそのまま返り討ちにあって無駄死にする。


 ひっそりと玄関の扉に近寄ると、鋼鉄一枚隔てた向こう側でなにやら人が動いているのが音でわかった。

 扉の周りの壁に、何やら打撃を加えているようだ。


 さて、どうしたらいい?

 ここで銃声を鳴らせば、何か警戒して立ち去っていくかもしれない。

 しかしそれはダメだ。

 この場所を知られた以上、生かしておくわけにはいかない。


 もしツルハシや爆薬を持ち出されれば、すぐさま強盗が押し入ってくるだろう。


 よし、ここで待機だ。


 銃を扉に向けながら待機していると、脳に直接シキの声が届いた。


 ――ソラ。終わったよ


 魔術?

 お前そんな隠し玉持っていたのか……。



       ○



 部屋に戻ると、7人の私が並び立っていた。

 始めの私は首に乾いた血を付けていて、

 毒死した私は外傷のない綺麗な格好で、

 三人目の私は脳を露出したままの格好で、

 それ以外の4人は心臓のある左胸を血で染めていた。

 扉の向こうにもう一つ、右手のない私の死体が転がっていると思うと目頭が熱くなる。


 汗を顎先から滴らせ、息を荒くしているシキが言った。


「……どう、……すごいでしょ、私。……見直した?」


 私は、差し出されたシキの手を優しく握りしめた。


「頑張ったな」


 私の言葉に、シキは惚れてしまうほど嬉しそうな表情で答えた。

 しかし、隣に並び立つ私の死体のおかげで、ムードもへったくれもありはしない。


「……こいつら俺のこと襲ったりしないよな」

「するわけないでしょ、私が作ったんだから」


 するわけないらしい。

 今こうして目の前にいても襲われないのが、証拠か。


「さあ、最後に一仕事残ってるぞ。終わらせようか」

「……まだ私の仕事、あるの……!?」


 シキは珍しく大きな声を出した。


 私は整列しているゾンビたちに、一つ一つリボルバーを手渡していく。

 ゾンビの私は、しっかりと銃を保持し、何も言わずとも撃鉄を起こしトリガーに指をかけた。


 思った通りの反応だ。


「その前に、何個か質問に正直に答えてくれ。まず、シキってゾンビのことを操ったりできるよな?」


 私はシキに質問を浴びせた。


 これは私が推測していた、シキの隠している情報を確定させる質問だ。


 まずは、初対面で気を失った私を誰がここに運んだのか、という疑問があった。

 運んだのはたぶんゾンビだ。シキがそう命令した。


「あと一つ。この家に、別の出入り口が何個かあるだろ?」


 シキに追い出されたとき、玄関前にいた私に出会うことなく彼女は外に出ていった出来事があった。


 それに、この家の構造。

 オニヅカという村に非常に酷似している。

 恐らくは、廃村のようなところに勝手に住み着いているのだろう。

 あちらにも出入り口が複数あった以上、ここにも出入り口が複数あると考えるのが当然だ。


 どちらにもシキは自信なさげに「うん」と答えた。



       ○



 ネクロマンスは、死者をゾンビとして蘇らせることができる技術だ。

 知能のない低性能のゾンビから、恐らくは人間とほぼ変わらないゾンビまで作ることができる。


 例えば人間を蘇らせることができるなら、人々はどうするか?

 失った恋人を蘇らせる? 死別した両親を蘇らせる?

 どれも素晴らしいが、それだけがすべてではない。


 ハイヴもそうしている。

 ネクロマンスは、軍事利用こそが最も効力を発揮してしまう技術だ。



       ○



 出入り口は2つあるそうだ。

 ならばゾンビは3体と3体に分けて、挟撃にする。

 一体は護衛にすることにした。


 小声で隣にいるシキに語りかける。


「ゾンビが位置に付いたら、玄関から俺と脳みその俺が出ていく。シキは玄関に鍵をかけて、内側でゾンビたちに指示を送ってくれ」


 ハンドガンはシキに預け、古びたリボルバーを一丁握る。


「全部終わったら連絡する」


 シキは頷いた。


 じっとりと手のひらが汗で濡れていた。

 撃鉄を引く。

 深呼吸で呼吸を整える。スマホを取り出し、現在時刻を心の中で唱える。

 心と体を落ち着ける、おまじないだ。

 効果のほどは分からない。だけど、おまじないなんてそんなものだ

 時間は私が学校から帰ってきた時刻を示している。


 前の扉を見つめる。

 すぐ先に、他人の気配がある。

 ここを空けたら、戦いの始まりだ。


 シキが肩を二回叩いた。

 ゾンビが配置についた合図。


(……よしっ!)


 誰しも聞こえない小さな声で、気合いを入れる。


 ゾンビに鍵を開けさせる。

 リボルバーを構え、私は扉を蹴り開けた!


 玄関の近くに立っていたやせ細った無法者と目が合う。

 考える時間もなく反射的に銃撃する。二発の銃弾が男のどてっ腹を貫いた。

 鮮血が雪に舞う。目の前の男は痛みに気を失った。


 背中側で扉が閉まる音。

 隣の脳みそむき出しが、倒れた無法者の男の頭を正確に撃ち、とどめを刺した。


「……くそっ!」

「殺せ! あのガキを撃て!」


 誰かが遠くで叫んだ。

 鈍い銃声が響き、背後にしている玄関の建材が弾ける。


 射線に晒され、私は頭を真っ白にして脳みそゾンビの背後に情けなく隠れた。

 ゾンビは遠くに見える無法者を一発で撃ちぬいていく。


 目に見えない場所にいた無法者の悲鳴と、銃声が聞こえた。



 ゾンビは夜に活性化する、とサクラに教えられた。

 なぜそうなのだろうと考えてもいまいち理由は分からなかったが、今こうして運用する側になると、簡単に理解ができた。


 常人は知覚情報の八割以上を視覚から得ている。

 ゆえに夜の闇は人間にとって、厄介極まりないものとなる。


 しかし、ゾンビは視覚を情報収集の主な手段としない。

 他の五感を駆使して外界を察知するゾンビにとっては、昼も夜も同じ。

 ゾンビの主戦場は、夜だ。


 夜の帳に溶け込んだ、死人が歩く。

 挟撃が始まった。

 誰かが叫んだ。


「……ゾンビだ! ゾンビがいる! 囲まれてるぞ!」

「嘘だろ!?」

「周りのゾンビはさっき片づ――」


 銃声が鳴り響く。誰かの声が途切れた。

 暗闇に潜ったゾンビの一体一体は、ぎこちない動きで銃を構えた。

 ゾンビの目はほとんど見えない。

 使えるのは、大半が聴覚と嗅覚と触覚。

 だがそれで全てが視えた。

 夜に溶け込んだまま、堂々と狙いを定める。

 模範的な力の入れ方でトリガーが引かれる。

 発砲音。血しぶきが上がり、無法者の男がもう一人が倒れた。


 人は簡単に死んでいく。


 だが、無法者とて無能ではない。

 ゾンビの闊歩する外で生き抜いてきた力と経験があった。


 一瞬見えたマズルフラッシュを目印に鉛玉を撃ち返した。

 男の耳に肉体に着弾した音が聞こえる。

 だが、相手は痛みを感じぬゾンビだ。

 頭を貫かれない限り、動きを止めることはない。


 ゾンビが撃ち返す。




 そして、やがて銃声は聞こえなくなった。



       ○



 不死の力で無限に生まれる死体と、ネクロマンス技術が組み合わさった結果は、言うまでもないだろう。


 シキが作ったゾンビは、もう直立不動で待機状態に移行していた。

 索敵をやめた?

 私はおっかなびっくり雪の上を歩き、無法者たちの状態を確かめに行った。


 遭遇する無法者の死体の数々。

 それらはすべて、ヘッドショットを受け絶命していた。

 鬼のようなエイミングだ。絶対に敵対したくないと感じた。


 戦いが終わりゾンビの2体が膝をついたまま、眠るように倒れた。

 見たところ、村に出かけに行く前に死んだ私をベースに作ったゾンビのようだ。

 もう、機械のような薄気味悪さは感じない。

 ……電池切れみたいなものか?


 見回りを終えた私は、シキの元に戻っていった。

 脳みそを空気にさらしていたゾンビが、頭を砕かれ倒れていた。

 閉められていたはずの玄関は開いている。


「シキ! 終わったぞ! 今どこにいるんだ!?」


 叫んでも返事はない。

 玄関から一番近い部屋に行くと、床に足跡が残っていた。

 足跡の大きさは成人男性で間違いなくシキではない。

 誰かが入ってきた?


 鈴の音に似た音が聞こえた。

 見ると足元にハンドガンの薬莢が転がっていた。弾痕が天井に開いている。

 シキが愛用しているリュックは、廊下に投げ捨てられていた。


 一つの足跡が部屋から出て、どこかに続いていっていた。


 誘拐の二文字が、頭をよぎる。


「ふざけんな!! 誰だ!! 誰がやった!!」


 怒髪天を衝くように私は吠えた。


 足跡を追いかけ、部屋を飛び出した。

 走った。通路の向こうから冷たい風が流れてくる。

 今になって疲れが押し寄せてる。しかし、ここで諦めたら手遅れになる。


 たどり着いた場所は、この家のもう一つの出入り口だった。

 扉は開け放たれている。


 出入り口から飛び出ると、体力の足跡が雪原に刻まれていた。

 ここから無法者が入ってきた? 足跡は3体のゾンビが残していったものか? 大量に残された痕跡に、頭の中がこんがらがっていく。


「あぁ……あああああ……」


 これでは、もう後をたどることはできない……。


 足も限界が近づいてきている。

 疲れた。頭もうまく働かない。


 私は足を止めてしまった。

 もう、しばらくは走れそうにない。


(……)


 息を大きく吸い込むと、ほんの少しだけ、頭に冷静さが戻ってくる。


 賭けだ。


 右手を失った体で死んだとき、何故か距離の少し離れたシキの近くにリスポーンした。

 原因は不明だ。

 根拠もない。

 観測したのは一度きり。


 だがもしも再現性のある現象ならば、

 死ねば、シキの元に飛べるはず。


 躊躇。


 ……何をいまさら迷っている?

 そもそも私がよみがえる現象にも、何も根拠なんて無い。

 考えもなしに何回も死んで来たじゃないか。


 持っているリボルバーを真正面からのぞき込む。

 もう弾は入っていない。


 できることなら、楽に死にたかった。


 ポケットを探ると、お菓子のような小さな丸い玉が何個かある。

 包み紙を破くと深緑色になった草の塊が顔を出す。


 何かあった時のために用意しておいたが、こんな使い方をすることになるなんて、思いもしなかった。

 得体のしれない山菜を食べないと誓ったあの時のことを思い出す。

 これは、あの毒草を丸めたものだ。


 躊躇なく飲み込む。一つでは致死量には全然足りない。

 もう後には引けない。

 私は、次々に毒草の塊を胃の中に入れていった。


 死神が、痺れという形で体の内側から襲い掛かってくる。




 命が、刈り取られる。

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