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11 スチール・ショット

「私がお店に行けば、その銃に使える弾がいっぱいあるかもしれません」


 私は眉間をぐりぐりともみほぐして、こう言った。


「サクラさん。それは……」

「お金なんかいいです! お願いします! 戦って、みんなを助けてくれませんか!」


 サクラの剣幕に押されて、私は考えた。


 問題は道中の距離ではなく、遭遇するであろうゾンビの数だ。

 たとえ運びきれないほどの弾薬が向こうにあったとしても、その前に死んでしまったら意味はない。


 私はいくつかの案を考えた。

 死んでも蘇ることができるという現象を利用して、死亡を覚悟の上で無理矢理走り抜ける方法。いうまでもなく最終手段だが、出番は近い。


 もう一つは、ゾンビに襲われないシキに正面から堂々と運んできてもらう方法。しかしシキがそれをやりたがるとは思えない。やはり最終手段だが、出番は近い。


 問題はサクラだ。私とシキとサクラで非戦闘員は3人に増えてしまう。部外者のサクラがいることで、身動きも取りづらくなる。

 しかし彼女抜きで押しかけたところで強盗扱いが関の山。


 シキは判断を下さない。

 私が決めるしかなかった。


「……わかった。だけど、サクラちゃんにも少しは協力してもらうけどいい?」

「はい!」


 覚悟を決めた様子でサクラが返事をした。


「シキもそれでいいな」

「……別に、いいけど」


 女の子だらけでハーレムだ。こんな状況じゃ、ありがたくもなんともない。



       ○



 サクラには私が撃ち終わったリボルバーに弾を込めてもらう作業に準じてもらった。

 彼女の小さく白い手はたちまち黒色火薬の煤で黒く汚れるが、血で汚れるよりかはマシと賢明に働いてくれた。


 主兵装がオートマチックからリボルバーになったところで、やることは結局変わらない。

 限界まで引き付けてから、ゾンビの頭めがけて鉛玉を叩き込む。


 黒色火薬独特の臭いも、低い銃声も、リボルバーのギミックも、現代だったらさぞかし魅力的な時間になっただろうが、楽しむ余裕もない。


 ゾンビがよたよた歩きで間合いを詰めてくる。

 敵は2体。距離は7mくらいか? まだ余裕はある。

 一歩踏み込めば手が届く限界ギリギリまで待ち構え、引き金を引く。

 命中した。返り血が飛沫となって顔に降り注ぐ。

 もう一体も射殺すると、サクラが抗議の声をあげた。


「ソラさん! もっと遠くにいるときに殺せないんですか!? 怖いんですけど!」

「俺には無理! 外す! 弾の無駄!」

「ひどい!」

「だって銃なんて今日初めて使ったんだもん!」

「ひどい!!」


 とはいえ、至極当然の反応だと私は思っていたので、逆に安心した。

 シキなんか、私が死んでも生き返るということを知っているから当然のごとくこの近接銃撃戦法を受け入れて、慌てる声すら出さない。

 いびつだが信頼は信頼か?

 とはいえサクラの当たり前の反応もあると賑やかだ。


「サクラちゃん! 弾切れた!」


 3丁の拳銃をローテーションさせながら、ゾンビの群れとも遭遇することなく、私たちは無事にサクラの店にたどり着いた。



       ○



 リボルバーにどこか頼りなさを感じていたおかげか、通常よりも気を張りつつかなりの急ぎ足で進んだおかげか、安全な場所にたどり着いて気が抜けたとたんにどっと疲れが噴き出した。


 サクラの店とはかなり遠い通路に一個目のバリケードは構築されていた。

 狭い通路は複数のゾンビが一気に押し寄せることを防ぎ、バリケードの内側には多くの用心棒が武器を構えられる広さがあり、目に見えて防衛側に有利な地形が組まれていた。


 少なくとも、ずぶの素人が間に合わせに構築したような布陣ではないようだ。


 1つ、2つ、3つと、複数のバリケードを通り過ぎ、3人は店の中に入っていく。

 中はかなり広く、避難してきたと思われる人たちであふれかえっていた。


 前を躊躇せずに進むサクラの後をついていくと、見知った顔がいた。

 武器商人のハルカだ。何故か黒いコートを纏っている。

 彼女は幼い商人を見るなり、暗い表情を明るくした。


「サクラ! 無事だったのか!」

「ごめんなさい! 今急いでます!」


 サクラは感動の再会もそこそこに、店の奥へと入っていった。

 すり抜け喰らったハルカを、私は哀れんだ目で見る。


「生きていたのかソラ君」

「……サクラちゃん呼んできます?」

「いや……いい」


 ハルカが大きなため息をついた。

 そこに、先行していったサクラが振り返って私を呼んだ。


「ソラさん。休んでる場合じゃないですよ! 早くしてください!」

「……なんだ。急に仲良くなったんだな」

「呼ばれたんで行ってきますね」

「いや、気になる。私もついていく」


 ハルカがゆっくりと探るようにサクラを追い、私の前を歩き出す。


「私はここで待ってるね……」


 人見知りのシキは、そう言って部屋の隅に歩いて行った。

 その後ろ姿には、疲労がにじみ出ている。


 私もいっそのこと休むか、どうにかして気力を復活させたかったが、何とか気合いを入れてハルカとサクラを追いかけることにした。


 怪我を負っている用心棒であふれかえっているサクラの店に入っていく。

 数時間前は雑多な商品で満たされていた店内も、物資をすべて対ゾンビに回したのか、蝗害(こうがい)に襲われたかのようにすっからかんだ。


 招待され、カウンターの奥に入るとサクラが金庫の中から赤い紙の箱を取り出した。

 血よりも鮮やかな赤色を背景に、特徴的なフォントで印刷されたアルファベットが描かれている。


 慌ただしくハルカが口を出した。


「なに? それどうするの?」

「ソラさんに使ってもらうんです」


 驚愕に見開いたハルカの目が私に向けられる。


「こんな時にサクラちゃんに貢がせて何してんのよアンタ」

「貢ぎ物じゃねぇわ。そのまま弾丸だわ」


 サクラは「はい」と可愛らしく私に赤色を手渡した。

 その重さは、意外と軽い。


「アンタ……それをもってどこに行くつもりなのさ」

「正面玄関」

「正気?」

「さあ」


 ハルカの問いに、私は至極いい加減に返答をした。

 箱を開けると、厚紙によって方眼に仕切られた弾薬が素顔を出す。

 銀の雷管が埋め込まれた金の薬莢は、光に照らされ宝石よりも輝いて見えた。


 リローディングツールと予備マガジンを取り出し、カウンターの上を借りて弾を詰め込んでいく。

 弾薬の規格はぴったりだった。


 2丁のリボルバーもカウンターに置いておくと、サクラがひとりでに装填を始めてくれた。

 先ほどから無駄口を一切叩くことのなく、爪の間を火薬で黒くしてまで懸命に手伝いをしてくれている。


「そういえば。あの貰ったリボルバー、随分と助けられたぞ」

「そうかい。感謝するなら、後でその異世界の銃を見せてほしいんだけど」

「生きてたらな」

「……」


 ハルカは口を真一文字に結び、一息吐いた後に言った。


「サクラ。ちょっとソラに話があるから席を外してもらえるかな」

「えっ……?」

「なに、取って食うわけじゃないから安心してほしい。ソラもいいよね?」


 私は首を縦に振ると、妙に張り詰めた空気が周囲を満たした。

 サクラが不安そうな顔をして出ていくと、店の奥には私とハルカだけが残される。


「……」

「……」


 がちゃがちゃと、マガジンと弾が立てる音だけがしばし響いた。

 沈黙。気まずい。


「何も言わないで、どうしたんだ」

「っ、いや、……そうだな、聞きたいことがあってな」


 念を押すように、ハルカは言葉で誤魔化しながら私に探りを入れるような視線を向けた。


「さっきの約束は、ちゃんと守ってくれるんだろうな」

「……約束?」

「その、異世界の銃のことだ」


 私はなぜだか、得体のしれない妙な違和感を感じた。


「いったい、何の話をしているんだお前」

「……何でそんなに死に急ぐような真似をしているんだ。命が惜しくはないのか」

「そりゃ死にたくないけど、もう二人に頼まれてんだよ、ゾンビをとにかく殺せって。……あとで後悔したくないから、とりあえずやれることはやるさ」


 するとハルカは、一瞬だけ目を伏せて


「上層に行くのなら、これを持っていくといい」


 カウンターの内側にある引き出しを開き、二重底を取り外すと、黒光りする長い銃身を取り出した。

 束ねられた二本のバレル、艶のある磨き上げられた木製の曲銃床、2つの引き金。


 上下二連式のショットガンだ。


「保安官用の装備をいざという時のために隠しておいたんだ。使い方はわかるか?」


 ハルカは躊躇うように弾薬を取り出し、私に銃と弾の両方を渡した。

 受け取る。

 ハンドガンとは比べ物にならないほど、ずっしりと重く、そして美麗だった。

 ショットシェルはプラスチックケースではなく、紙薬莢装弾である。


「私からも約束してほしい。死なないでちゃんと戻ってくるんだぞ」

「……いいんですか?」

「将来の顧客を守るためだよ」


 ハルカは目を背けて言った。

 憂いの混じった綺麗な横顔に、無理をした笑いが浮かぶ。


「なあに、本体は現状復帰で返してもらうし、弾薬代は無利子でいい」


 そういって、彼女は私の肩に手を置いた。

 ……台無しだよ。



       ○



「まず肩幅に足を開いて。右手はグリップ握って、左手は先台の下に手を添えて重さを支える。ストックを胸と頬に付けて」


 空撃ち用のショットシェルを装填した上下二連ショットガンを構え、たった一度だけ使い方のレクチャーをしてもらうことになった。

 正直、こんなことをしている余裕はないと思うが、簡単なミスをして死ぬのもイヤなので頭をフル回転させながら一語一句を脳みそに入れていく。


「ストックの後ろは大胸筋の上、鎖骨に触れないくらいの場所に置いてね。弱すぎてもダメだけど強く押し当てすぎると筋肉の動きで狙いが外れるから」


 いぶきは私の背中側に回り込むと、私の体に直接触れて姿勢の変更を促した。


「窮屈にならないくらいに脇はたたんで、そのまま背中は少し丸めて。膝も少しだけ曲げる」

「……本当にこんな体勢でいいの?」

「これだと構えながら歩けるから、ゾンビと戦うなら有利。死ぬなよ」


 私は構えを解いて、銃身を折るとショットシェルが排莢された。


「あとは、これも持っていけ」


 ハルカが持ってきたベルトを使って体にショットガンを吊るしてもらい、ショットシェルホルダーを腰に一本装着する。


 ショットガンの弾は合計で16発。ハンドガンの弾は15*7+1で合計106発。

 加えて、リボルバーの弾が合計12発。

 どうして私に関わった人は、私に期待を寄せるのだろうか。

 集まった火力の量はゾンビに対し過剰な気がする。

 死地に送る人間は、慢性的に足りていないとでもいうのだろうか。


「よし! 行って生きて帰ってこい!」


 ハルカは私の背中を強く叩き、乱暴な鼓舞を送った。

 私はそれに応じて、店を後にした。


「じゃあな」


 ショットガンで重くなった歩幅で店を出ると、本を片手に持ったサクラがこちらに向かって走ってきた。

 反射的にハンドガンに手が伸びるが、すんでのところで体は止まった。


「ソラさん!」


 サクラは臆することなく、唐突に口を回し始めた。


「いいですかよく聞いてくださいね。大声とか物音とか、血の匂いとかにもゾンビは反応します。できるなら絶対に見つからないようにしてほしいんです、今は無理ですが、もしもの時のために覚えておいてください」


 私は困惑した。


「まて、一体どうしたんだ急に」

「だって…‥ソラさんって全然ゾンビのことわかってないじゃないですか。それじゃ死んじゃいますよっ」


 こほんとサクラは咳払いをして。


「続けますよ。……ゾンビは痛みを感じません。基本的には頭部を破壊しないと、ずっと動き続けます。攻撃するときは、殴ったり噛みついたりしてきます。力も強いです。攻撃に躊躇も戸惑いもないです。できるだけ寄せ付けずに、素早く頭を破壊してください。こちらは不利になればなるほど、体力が減っていきますが、ゾンビは疲れることはないです」


サクラは汚れた手で懐中時計を取り出し、時間を確認した。


「あと、何でかは知りませんが、ゾンビは夜に活性化します。今がその時間です、注意してください」

「活性化するとどうなる?」

「基本的には、動きが早くなります。注意してください」

「……なるほど」


 私は大きく息を吐いた。

 限界ギリギリに近い戦い方をしていた私だが、これ以上に危険な戦いを強いられるということだ。

 新しい武器をもらったが試射する余裕もありゃしない。

 降り積もる不安と不確定要素。だけども迷っている時間なんてありはしないのだ。


 サクラが持っている本は、多少古いが珍しく硬いカバーの表紙で覆われていて、作りもしっかりしているものだった。

 私は冥途の土産にとばかりに、尋ねてみる。


「これは――魔術についての教本です。昔に来た異世界人が、記憶を頼りに書いた原本の、写しの、日本語訳だそうです」

「……ややこしいな」

「この世界には、異世界人についての逸話が数多く残されているそうです。世界の各地に色々な話があります。私たちが使っている技術の多くは別世界の人間からもたらされた、なんて言ってる人もいます。私はそれを知りたいんです。こんなところで、死んでる場合じゃないんです」



       ○



 重武装の音を鳴らしてシキの元に戻る。

 何か小言を言われそうな気がしたが、彼女は私の姿を見ても何か言うことはなく、ただただ部屋の隅で震えていた。


「……おい、どうしたんだ」

「何か、が、来てる。――私こんなの知らない、怖い……」


 シキは意味も分からず、雷を怖がる子供の用に両腕を抱いて小さくなっている。

 気休めにと私は声をかけようとした、その時だった。


 再びの地響き。

 この日三度目の爆発と、獣のような咆哮が、この村を襲った。

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