↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの中のお嬢様に転生したら、嫌味しか言わない護衛騎士が、十二年わたしだけを見ていたらしい  作者: 八重
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/65

キャラ作り

「ねえ紬、昨日さ、なんで私の名前知ってたの?」

 次の日の中庭。唐揚げをつまみながら聞くと、紬はきょとんとした顔をした。

「出席のとき、先生が呼んでいたでしょう」

「あ、そっか」

 なんだ。そりゃそうだ。

 ちなみに、呼び捨てでいいと言ったのは紬のほうだ。私も「紬」と呼ぶことになった。たった一日で、名前で呼び合う仲。私、けっこうコミュ力あるのでは?

◇

「それで、咲良。このゲーム、やってみたい?」

「え、いいの!?」

 思わず身を乗り出す。お弁当箱がひっくり返りそうになって、慌てて押さえた。

「でも、それ紬のゲームでしょ。私がやっちゃっていいの?」

「あなたにやってほしいの」

 紬は、なぜかとても真剣な顔で言った。

「じゃあ、まずはあなたを作るわね」

「私を?」

「この世界で動く、あなたの分身よ」

 紬が画面をすいすいと操作する。キャラクター作成の画面が出てきた。わ、本格的。

「生まれは……そうね。公爵家くらいが動きやすいかしら?」

「公爵家!? いきなり超お嬢様じゃん」

「身分が高いほうが、できることが多いもの。領地もあるし」

「なるほど……領地経営……響きが最高……」

「特技は何がいい?」

「えっ、選べるの? じゃあ鑑定! ゲームといえば鑑定だよ。レアアイテムとか、いいものと悪いものが見分けられるやつ!」

「レアアイテムを見分ける力? いいわね、付加しておくわ」

 紬は楽しそうに、画面に何かを書きこんでいく。

「外見はどうする? そのままでいい?」

「うーん……」

 私は自分の真っ黒な髪をつまんだ。地味。とても地味。せっかくのファンタジーなんだから。

「髪の色だけ、ピンクにしたい!」

 画面の上で、紬の指が、ぴたりと止まった。

「……ピンク?」

「うん。なんかね、ピンクがいいなって。桜みたいな、やさしいピンク」

 自分でもよくわからない。でも、ピンク以外は考えられなかった。

 紬は、少しのあいだ黙っていた。長い睫毛が伏せられて、表情が見えない。

「……あんまりいないから、目立つわよ?」

「いいよ、目立ってなんぼだよ!」

「……そう。ふふ、そうね」

 紬は小さく笑って、また指を動かし始めた。その声が、ほんの少しだけ震えていた気がした。

「名前はどうする?」

「えー、迷うなあ。かっこいいのがいいけど、自分の名前とかけ離れてると感情移入できないし……」

「じゃあ、こういうのはどうかしら」

 紬が画面を見せてくれる。そこには、こう書かれていた。

 ──サラフィーナ。

「呼ぶときは、サラ。あなたの名前と同じ響きよ」

「……え、めっちゃいい」

 サラフィーナ。サラ。

 口の中で転がすと、まるでずっと前から自分の名前だったみたいに、しっくりきた。

◇

「それから、これ」

 キャラ作りが終わると、紬は携帯ごと、私の手に乗せた。

「え、待って待って。携帯ごと? それはさすがに困るでしょ。連絡とか」

「困らないわ。この携帯、これしかしてないの」

「これしか……?」

「ええ。だから、あなたが持っていて」

 手のひらの携帯は、思っていたより軽くて、ほんのりあたたかかった。

「……わかった。大事にする。めっちゃ大事にする」

「ありがとう、咲良」

 紬は、あのやわらかい笑顔で言った。

「あの世界を、よろしくね」

◇

 その夜。

 叔母さんたちがお風呂に入っている隙に、私は物置部屋──もとい、自分の部屋で、布団にもぐりこんだ。

 紬の携帯の画面を、そっとタップする。

 ゲームが始まった。

 最初に聞こえたのは、赤ちゃんの泣き声だった。

 画面の中は、豪華な部屋。天蓋つきのベッドのそばで、男の人と女の人が、小さな赤ちゃんをのぞきこんでいる。

 男の人は、金の刺繍の服を着た、背の高い人。桜色の髪を後ろになでつけて、琥珀色の目をしている。女の人は、栗色の髪をゆるく結った、やさしそうな人。ベッドの足もとでは、薔薇色がかった栗色の髪の、五つくらいの男の子が、背のびをしてのぞきこんでいた。

 赤ちゃんの頭には、ほんのりピンク色の産毛が生えていた。

 ……あ、これ、私だ。

 女の人が、赤ちゃんを大切そうに抱き上げる。その目には、涙が浮かんでいた。

 男の人が、震える声で言う。

『この子の名前は──サラフィーナ。我がローゼンベルク家の、宝だ』

 ゲームのキャラなのに。ただの画面なのに。

 どうしてだろう。

 抱きしめられた赤ちゃんを見ていたら、胸の奥が、じんわりとあたたかくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。