表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
136/137

<魔剣士シルベール編>第17話「ルーンタトゥーの秘密」

魔剣士シルベールと僧侶フェイト、2人きりの冒険パーティー。


2人が迷い込んだ森には、知りたくもない、何かが居る。

 荒野の広がる、バイアルド中央部。


乾燥地に混ざって森が所々広がる。森はバイアルドの命の源であり、神聖な場所でもある。



 南のバイアルドと、北のバルスタッド王国には、祖先を同じくする両国には、共通の伝統がある。


それが世に名高い、「狂戦士」。またの名を、バーサーカーという。



 只、死を恐れぬ蛮勇と言うのではない。彼らの戦いは実に合理的である。


そうでなければ、大いなる過去において、古代魔法王国の猛攻に相対することなど出来なかっただろう。



 その戦い方と言うのが、全身にルーンタトゥーを施すというものだ。


完全防御までは行かないが、かなりの退魔効果を持つ。


極限まで己を鍛える蛮勇と、退魔のタトゥー。



 そして、それを支えているのが、古よりこの地で権力を持つ、<魔女>である。


彼女らは、森の秘儀にて、ヒミツの薬品を多種にわたり練り上げ、戦士にタトゥーを施す。


戦士以外にも呪術や薬品の調合を依頼する者も後を絶えないが、最大の顧客は、バーサーカー達である。ルーンタトゥーの効果はその緻密さと秘儀の技量による。



 世界最高の魔女は、無尽蔵で潤沢な金を溜めており、一族の後進や数少ない弟子に秘術を伝えるのだ…。


尚、魔女は女に限られている。施術できるのは、老婆だけである。らしい。


―――――――――


 夜、魔剣士シルベールと僧侶フェイトの2人は森に迷い込んだ。


冒険者にとって、森は危険でまた、魅力ある所。少なくとも、荒野よりは良いと言うモノも居るが、荒野の方が視界は開けている。



 迷い込んだのだ。これは不可抗力と言える。


この森には数か所、侵入を警告する杭が撃ち込まれていたが。


森は広いのだ。知ったことか。



 地元の民も、バーサーカーも、殆どの者は近寄らない。


魔女が所有を宣言する森だ。ヒミツが多々隠されている。ためらうことも無く、侵入者を排除する。



 森を彷徨い少したって、フェイトは、不快な音の主をすぐに見破った。だが、見破ったとてどうなるモノでもない。


不快で大きな羽音。恐ろしい羽音。


ギガント・ビーの群れが、襲って来たのだ。


1匹でも、通常の人間なら、恐怖に逃げ出す。…生きていればだが。


30cmの体長。そして、5cmもある、毒針。


通常サイズのスズメバチに追われても怖いというのに。



 シルベールの剣から、巨大な焔が渦巻いた。


恐怖の群れを焼き落す。


森の中で炎とは、だれも望まない。そこに居る者にとっては巨悪である。


だが、この怖ろしい群れを一瞬で排除するにはほかに方法は無かった。


直後だ。シルベールには、殺意が感じ取れた。


フェイトには、悪意が感じ取れた。


張りつめる森の空気。



 「し、シルベール!逃げよう!」


森の怒りに恐れをなし、2人は逃げる。


…だが、どっちから来た!?どっちへ行けばいい!?



「星が見える所まで逃げよう!」


2人は、再び駆け出す。


もしや。よもや。


数々の冒険を潜り抜けたはずの2人にとって、最大の危機かも知れない。


まだ、至る所で、ハチの羽音は聞こえている!



「きゃ!!」


フェイトが、転んだ。


いや、転んだのではない。


フェイトは、ものすごい速度で引き摺られて行く。


シルベールは、瞬間、その方向の奥へ斬撃を飛ばして、「斬った」。


フェイトの体が止まる。


ムチのような、何かが蠢いて引っ込むのが見えた。



木が…。


巨木が、ずりずりと、他の木を押しのけながら、移動してくる。


根は巨大な虫の足の様に蠢き、幹には、そのゴツゴツした文様が老人のような顔を作っていた。


動く、巨木。


「も、森の王!トレント!?」


四方から、枝が触手の様に伸び、2人を捕らえようと追ってくる。


シルベールは、見えぬ程の速度で剣を振るう。


衝撃波が、枝を薙ぎ払う。だが枝は、すぐに再生していく。


「コイツ!炎じゃないと、無理だ!」


「だ、ダメだよシルベール!もっと怒らせる!」


2人は最早、方向も何もないが、逃げるしか手立ては無かった。



 走る。とにかく、悪意から、怒気から逃げる。


「フェイト、怪我は大丈夫か!?」


手荒く引きずられのだ。多少の怪我は当然あるだろう。


「だ、大丈夫だよ!わたし、僧侶だから!」


ロクな回答ではないが、シルベールは強く手を握って、共に奥へ走る。




 だから。


逃げ伸びた先で見つけた、ほんの少しの地面の割れ目…。


そこから内部に広がる空間を見つけた時、入ってみるしかなかった。


奥に広がる、洞窟へ入るしか、なかったのだ。


巨木が来ないであろう、地下へ。


ハチが入って来ないかどうかは、希望的観測と言うか、賭けでしかなかったが。


―――――――――


 静かな洞窟だった。


2人は息を殺し、周囲を最大限の警戒を持って伺う。


此処なら、火をつけてもトレントは来ないだろう。


松明を灯す。


だが、すぐに必要なくなった。



 その美しさに、2人は息をのむ。


ついさっきまで逃げて走るばかりの2人だったが、その全てを忘れる程、美しい光景だった。


洞窟の壁と言う壁、天井という天井。


星の様に、夜空が瞬いている。


今で言えば、壮大なプラネタリウム。



 真っ暗である筈の洞窟に、青い蓄光。


「綺麗…。」


こころ奪われるフェイト。しかし、彼女はすぐに、その正体に気付いた。


星の瞬きは、動いていた。



フェイトは松明を壁に近付ける。


…虫!?


青い燐光を放つ虫が、飛び回っている。


外見はカナブンに近い。小さな甲虫だ。


まだ、奥に洞窟は続いているが、それどころではない!!


「し。シルベール!虫!!虫が!!」


「こ、コイツ等なんだ!?まさか肉食か!?」


虫は、間違いなく2人にまとわりついている。


いや、言いたくないが既に、体に引っ付いている。


肉食ならば、もう噛まれているだろう。


「に、肉食じゃないけど、間違いなく寄ってきてる!」


フェイトの見立てでは、自分よりシルベールに寄ってきている。


「シルベール!シルベールに寄ってきてるよ!!」


「こんなんにモテても意味ねえな!洞窟を出るぞ!」


再びハチやトレントに追われるかもしれいが。やむを得ない。生理的にも。



 しかし…彼らが背を向けて走り出せない事態になってしまった。


奥から。


いや、すぐ目の間に、現れたのだ。恐ろしい獣が。



ソレは、青白く光っているため、あっという間に判別できた。


4つ足の、獣だ。


「虎!?」


外見は、虎の様だった。しかし、牙が…巨大な2つの牙が、突き出ている。


サーベルタイガー。不慣れなパーティーなら手に負えない魔獣。通常の虎に比べ大きさは1,5倍。その牙は、鉄の鎧すら壊す。


シルベールは、松明を足元に捨て、盾と剣に魔力を流す。


蒼白く輝く、シルベールの月の魔力。



その瞬間、シルベールの視界は度を増して悪くなった。


虫共が、顔面にすら無数にはい回る。



だが、そんなことは虎には関係ない!


巨大な虎は、その僅かな距離を駆けだす。


…襲って来る!



シルベールは、虫に阻まれた視界の中でも冷静に、剣を振るった。


「翔斬撃!」


三日月の光が、虫に当たり、虎へ届く。


勝利を確信する。



―――!!


月の斬撃は、確かに虎へ届いたはずだ。


だが、まるで霞んで消えるように、魔力は粉の様に散った。


「ば、バカな!俺の魔剣を!」


「シルベール!盾を!!」


フェイトの言葉は、掻き消えずシルベールに届いた。


目の前の巨大な爪をギリギリ盾で弾く。


弾いたのだ。



しかし、いつもと違い、その盾は小さい。


いつもなら、魔力で、ラージシールドの様に膨れる光の紡錘形が。


せいぜい、スモールシールド。


だが、弾く事は出来た。



「シルベール!この虫!魔力を吸ってる!!」


「なんだと!?」


「シルベールの魔力を吸ってるの!斬撃は無理!」


冗談だろ!?本当はそう叫びたかった。


でも彼は知っているのだ。相棒の分析力は、賢者より、神託より、信じられる。


では、どうする!?



「シルベール!炎!!」


そうだ、それしかない。


シルベールは、盾に、剣に、炎を纏わせた。


飛ばすのではなく、纏わせた。


虫が、離れる。魔力とは言え、炎は嫌がるらしい。


向きを変え、虎が再び飛び掛かる。


盾にあまりに重い衝撃。


ギリギリ耐える。しかし、本来ならここで突き立てたかったタイミングで、剣を動かすことも出来なかった。



シルベールはの剣技は、筋力値ベースはない。


父母のせいにしたくはないが、幾ら鍛えても、マッチョな筋肉はつかなかった。細身にしなやかな、速さの筋肉しか、つかなかった。


シルベールの剣は、魔力に依存しているのだ。早さと、魔力。


それは盾についても同じこと。衝撃を吸収していたのは、バネの様な筋力でも、鋼のような分厚い肉でもない。魔力だ!


魔力を吸われている状態では、熊よりでかいサーベルタイガーの衝撃を吸収するのが、やっとだ!


剣に回す力などない!



「シルベール!気を付けて!この虎に魔法はきっと、効かない!その青さは虫と同じ!」


その理由など知る由もない。だが、この虎は確かに青い。虫と同じ光だ!


どうやって? どうやって勝つのだ!?



虎は、その無尽蔵にも思える体力で、あっと言う間にその弾かれた姿勢を立てなおし、飛び掛かってくる。


もはや、剣に回す魔力は殆どない。虫よけに、僅かにくすぶる程度の炎。


感触を確かめる余裕も無いが、足だの腰だのには、きっとまだ、虫が無数に取り付いているのだろう。



そして、まさか、まさか。


虫は、今現在も俺の魔力を吸い続けているのか!?



「シルベール!今から虫を追い払うから!」


シルベールには、フェイトが何を言っているのかよくわからない。


だが、信じる。


それまではー!



虎の一撃を、先程より魔力を込めて、弾く。少しでも、態勢を崩してくれ!



「“イメージ・サウンド!!”」


フェイトが呪文を唱える!


フェイトは、一度耳にした言葉を、単語を、音を記憶している。



周囲に、いや、フェイトの背後で、大きな羽音が聞こえる。


想像したくない、怖ろしい30cmの蜂の群れ為す音!!



その瞬間だ。洞窟は、暗くなった。


虫たちが、息を潜めた。光るのを辞めた。


同時に…シルベールは、自分の魔力が膨れるのを、感じ取った。



ぶん、っと振るった剣は、長さはそのまま、切れ味のみを増した。



「“シャープネス!”」


虎の体が、宙を舞い、シルベールを押しつぶそうとする。


盾で受け流すように左に避ける!魔力を取り戻したシールドは、態勢を崩す必要なく虎の攻撃を退けた。


シルベールはその瞬間にショートソードをその首筋に突き刺した。


虎の、咆哮。


怒りの咆哮は、すぐに、小さくなり、消えて行った。


倒れた虎の体は、まだ青く光り続けている。




「フェイト。助かった。お前のお蔭だ。」


「ううん。私一人で何とか出来るワケないでしょ?」


微笑んで、2人は抱き合おうとしたが、互いに、相手の顔、姿を見て、即座に離れた。


そして、駆け出し、洞窟を逃げ出した。



―――――――――


 2人は、少々走って見つけた川に飛び込んだ。


此処にワニが居ようと、何とかするからとにかく飛び込んだ。



互いの体から離れて、虫がプカプカ浮き出している。


髪!服!カバン!


幸い、大慌ての2人に、ワニは寄って来なかった。


カナブンサイズの為、耳や鼻などに潜り込んだヤツまでは居ない。それだけは不幸中の幸い。


言うまでも無いが、全裸にならざるを得ない。



2人は全力で、身から虫を追いはらった。


少し下流で魚が跳ねているのは、美味しいご馳走が流れて来てるからだろう。



背中合わせの2人は、一息ついて、ようやく互いにハダカであることを意識したが…。


―――。


禁を破り、くるりと振り返って抱き合うには余りにも、ロマンスもムードも何もない。


2人は、とにもかくにも。びしょ濡れの服を着直した。




 幸い、ハチは追って来ない。トレントも同じく。


「虫の、“ニオイ”のせいかも。森の生き物のニオイだから。」


「嬉しいような悲しいような、分析だな。」


「今、洗い流しちゃったわけだから…。即、抜けましょう!」


フェイトは、星を見た。


美しい星空は、今だけは虫の群れに見えて、イヤだった。


「あっちが南西。行きましょ、シルベール。」



「ああ。そう言えば、久しぶりに逃げ惑ったな。」


…実は、フェイトも少し思っていた。


この2年半。何度、“逃げる”冒険があったことか。


「あはは…!」


フェイトは笑って、笑いながら、少し涙を浮かべた。


―――――――――


 近隣の街、「クゥワンロ」。


冒険者の宿、酒場。



「…森でハチに追われた?トレントに追われた!?」


「それがどうかしたか?」


酒を進めて来た、ルーンタトゥーをした男達が、驚いた表情を見せる。


「いや…よく…帰って来たな。」



シルベールは、男達に酒を勧めながら聞いた。


「どういうことだ?」



「ああ、魔女の森にはルーンタトゥーの原材料があるらしいんだが、絶対の秘密でなあ。奴らが森に入る時は、何やら体に塗って入るんだそうだ。」


「そうそう、そうしないと、蜂やらなにやらに襲われるらしいぜえ。」



虫が寄って来ない、塗り薬?


ルーンタトゥー…魔力を弾く、秘術の素材?


結局、虎が青かった理由だけは判らないが、フェイトの想像では、あの虎にとって虫が非常食である可能性…または、洞窟の奥に虫が湧く水場があったのかも知れない。幼虫が山ほど浮いている、水場が。



「ハイ、おまちどお。ここらの名物さ。」


シェフのお任せコースは、豪華な肉料理と共に、大きめのパン。そして、たっぷりの蜂蜜。



シルベールとフェイトは顔を見合わせて、苦笑いした。



―――続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ