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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<魔剣士シルベール編>第16話「真珠の首飾り、2つ。」

魔剣士シルベールと僧侶フェイト、たった2人の冒険パーティ。

終着点に近付いた2人が立ち寄った賑やかな町には、少々、薄暗い秘密があった。

 魔道国ツァルト、エディ王妃離宮。


ココには、王妃エディと3人の子供、侍女たちが暮らしている。


4歳になる王子ルウェットが木漏れ日の中庭を、駆けまわる。


美しい王妃は日向で椅子に座り、子供達の遊びを見守っている。



 侍女の1人が、お茶とお菓子を持って近づいて来た。


「エディ様、シルベールからの手紙なんですけど。」


「私に伝えていい内容なのね?」


陽だまりに咲き誇るような美貌の侍女は、恥じらいながら、「は、はい。」と言った。


「シルベール、バイアルドに着いたそうです。アテンドルまで、国1つです!」


高揚した言い方だった。


「ようやく、あのバカが帰ってくるわね。」


「はい。」


「2年半。きっと、イイ男になって帰ってくるわ。カレンティ。アナタの所に。」


「はい!」


「バイアルドは確か、最近真珠で有名ね。首飾りでも、おねだりして御覧なさい。」


「えー、まー、うーん、しちゃおうかな…。」


「いっぱしの冒険者になっているなら、それぐらい平気でしょ。」


エディ妃は、紅茶の香りを楽しみながら、目を閉じてそう言った。


―――――――――


 バイアルドは<ルートリア大陸>…通称エビ大陸とかシュリンプランドとか呼ばれるこの大陸の、内面に接する新興国。


幾つかのクランが点在する国を持たない地方であったが、北のバルスタッドに対応する為クランは手を結んだ。


初代の王となった者は、バルスタッドのアリーナに単身乗り込んで好成績を収めた勇者である。


即位から15年。未だ40歳になるかならぬか、まだまだ治世を続けられそうである。



 各クランを公平に公平に要職に就け、倹約を旨とし、権力者に無駄金を回さない。


さらに、一部の決議には合議による多数決を取り入れた。


王は現王退位後、血筋に関わらず、各クランの勇者から選ばれる。合議には、条件付きで王を追放する権限まである。


この時代、この大陸の中にあって最も先進的な政治を取り入れていた。余りに清き王として、民の自慢であり、誇りであり、未来である。



 そして此処は、そのバイアルドの中でも、内海に面する大きな港町。


清濁混合のカオスな部分はあるが、勢いと魅力、活力に満ち、人々も生き生きしている。


ハズなのだが、最近、少々難題を抱えている。



 此処の内海は、ひっくり返したΩ記号の形をしており、非常に穏やかで格好の漁場である。


海岸から浅瀬が続き、真珠貝の宝庫で会ったことが10年ほど前に明らかになった。以来、大陸の真珠、その需要を一気に奪い取った。



 此処は、パールヘブン。元々は、ダルトブラという名があったが、今は誰もそう呼ばない。


金に惹かれて、商機に誘われて、様々な連中が集まって来た。


…海賊までも。


―――――――――


 シルベールとフェイトは、一番先に目に付いた大きな冒険者の宿に入った。


少々値が張りそうだが、止むを得まい。



 扉を開けてすぐ、異様ともいえる活気に圧倒される。


「うわ、すごいねここ…シルベール。」


「ああ、離れるなよ?」


寄り添って入る。恋人か若い夫婦にしか見えない。



 マスターの目線が誘う空いたテーブルに着く。


座席を確保して安心するのもつかの間、「お2人の為に一曲いかがですか」、「奥方の為にアクセは如何」、「長い夜のための薬など要るかね?」次々と声を掛けられる。


町全体が、商機なのだ。恐ろしい。


2人は少々げんなりしたが、それでも、暗では無く陽に活動する人々の雰囲気はキライになれなかった。



 少し場に慣れてきたころ、2人は壁の一角を占領する数々の貼り紙…依頼書を見た。


多くは警護だ。野盗が出るらしい。


隊商の護衛、未開地商品開拓の護衛、船に乗り込んで護衛。


折衝中のボディーガードなんてのも、ある。


ひと際大きく貼り出されているのが、「海賊退治・生死問わず・前金なし」


金額は大きい。10000gだ。全額、後払いだが。


「フェイト。海賊退治と行こうか。」


「え?うーん、私たちだけで?」



 後ろで、少し笑い声が聞こえた。


「はは、辞めとけ、にいちゃん。命と恋人失うのがオチだ。」


「そうだ。綺麗なオンナ…多分。じゃねえか。胸は今一つだが。」


相変らず、綺麗な顔は前髪で隠れている。


「そうそう。魔術師ギルドすら動かないんだ、冒険者じゃなぁ。」


「盗賊ギルドは、お仲間かも知れんしな。」


「おっとそっちはそれ以上言うな。」


「わははは!」


その内の1つ、ないし2つ、もしや3つ。シルベールは気に入らなかったらしい。



「この依頼、受ける。」


「え…? でも」


「コイツらが馬鹿にした俺たちの力、見せてやろう。」


「あははは、やってみな!後悔するぜすぐに!」


シルベールは、フェイトの手を引いて席に戻った。


フェイトは、シルベールが自分のことで怒ったであろうことは嬉しいのだが、少々複雑だ。


色気の無さは自覚している。ボリュームに自信は無い。2人で挑むのが無謀というのは当然。シルベールの特異な力を知らない人間にとっては、タダの細身の剣士でしかないだろうから。


嬉しいけど…。



シルベールが機嫌の悪い時はすぐわかる。眼に見えて無口になるから。


彼の機嫌が少し落ち着くまでの間、フェイトは店の中を静かに見渡していた。


「ねえ、シルベール。海に出て海賊と戦うのは、無謀だと思うの。」


「出来るさ。バリスタより遠く斬撃を飛ばしてやろう。」


「ううん。そうじゃなくて。陸で戦おうよ…。私、ゼッタイ背中にくっついてるから。」


「どういうことだ…?」


フェイトは上を指さした。部屋に上がろうという事だ。


マスターと幾ばくかの話をして、その後、2人連れ立って上に登る。


―――――――――


 久しぶりに同じ部屋となるが、勿論、部外者が想像するようなことは何もない。


いや、もう、何もないとまでは言えないかも知れない。少なくとも、心は。



「…私たちがマスターに海賊の事聞いた後、2人、酒場から出て行ったの。」


「ほう?」


「盗賊風の男、2人。」


「ギルド?」


「かも。」


このバイアルドには、まだツァルト盗賊ギルドの支配が完了していない。


魔術師ギルド“魔術の塔”も、同じくだ。混沌の最中にある。



「言いつけられた、って訳かな?」


「そんなとこ。」


「どうなる?」


「明日あたり、路地を歩いてたら脅されるかな?」


「ほお。」


フェイトの話を、今日も、シルベールは疑うことも無く、聞き入った。


―――――――――


 2人は、翌日すぐに船に乗り込むのではなく、まずは、街並みを散策した。


新しい建物や建設中の建物が多く、石材が積まれている所も多数。


独特の白っぽい石材は町の雰囲気にとても似合っている。


至る所にマーケット出来る広場があり、中には馬車で買い付けている大口の客もいる。



 2人が貝殻を加工した飾りを見ていると、ひとりの男が近づいて来た。


「へへ、昨日、宿に居た姉ちゃんたちじゃねえか。」


「は、はい…。」フェイトは距離を取りつつ答える。


「昨日は悪いことしたな。お詫びに格安の、裏の品を見せてやるからよ、気に入ったら買えよ。港の方にも、市が有るんだ。」


「え、でも…。」


「ツええカレシが居るんだから怖がるこたぁねえっだろ?俺はナイフしか持ってねえぞ?」


ナイフが安全かどうかは別として。


「俺は普通に武器を持っていくが。」


「ああ、別にかまわんさ。さぁ、こっちだ。」


無精ひげの四角いカンジの男に、付いて行く。


首筋から胸、肩にタトゥーがあるようだ。呪術的な、タトゥーが。



「ほい、ここの倉庫が、イイ品を扱っている。」


倉庫はガランとしている。水の跡やごみを見れば、朝には使われていたと思えるのだが。


「何もない。」


「あるじゃねえか。イイ女と、売れそうなオトコが。」


無精ひげの男は、ぱっと駆け出して、距離を取った。


左右と、倉庫の入り口に人影。


「騙したな!?」


「まぁ、人生経験だと思って学べ!」


左右に5,6人、後ろには4人ほどいる。ガラガラと、戸を閉める音もする。


だが左右の男達は、すぐには近づいてこなかった。


左右の男、その中の2名ほどが、口元に短い竹の筒を持っていく。


音も無く、シルベールは太ももに小さな痛みを感じた。フェイトもだ。


針だ!



「へへ、眠れ。目覚めた時は、イイコトの真っ最中だ。姉ちゃんよ。」



シルベールが、剣を走らせる。後ろの4人に向かって走らせる。


白い月のような眩い光で、一瞬で4人斬り崩れた。


フェイトに下衆な犯罪を伺うヤツらなど、シルベールにとって生かす価値はない。


「な、何故眠らない!?」


「それは、こうなることを予想していたからだろうさ。」



返す刀で、右の一団には雷が飛んだ。ルーンタトゥーを警戒して、多めに魔力を走らせている。


「な、なんだコイツ!魔法!?」


左の一団は、倉庫の奥、手前とバラバラに逃げ出す。


「逃がさん!」


シルベールが2方向に放った雷で。誰1人動かなくなった。



 モノ言わなくなった亡骸。男達は、皆、短剣を持っていた。


柄に刻まれているのはサソリ。


―――――――――


 ―――数刻後。


港で別な倉庫の扉がいきなりバラバラに切り落とされ、暗かった倉庫内に光を差し込ませる。


剣を右手に下げた男が。左手に盾を掲げながら入って来る。



 ここは、ドッグらしい。


何本もの丸太があり、奥には船が見える…。


武装船だ。バリスタが積まれている。威圧的な旗が掲げられている。


有ろうことか、最先端のハズの、火薬式大砲まである。


―――海賊船。



「陸にある船、実は初めて見たぜ。」


男達が剣と弓を構える。矢が飛んで来る。


シルベールは慌てずに、光で盾を巨大化させた。当然、フェイトも範囲内に。


矢は次々と弾かれ、地に落ちる。



 矢が無駄と知ると、すぐに男達は剣を持って走り出した。


活かしておけるはずもない!この港の、闇の部分を知った者を!



―――魔剣士は、斬撃を得意とする。


…だから、向かって来た誰も、シルベールまで辿り着けず、死んでいった。


後方に居た、数人は逃げ出したが、倉庫をいつの間にか囲んでいた、謎の男達に捕らえらた…。



「昨夜…私の話を聞いた後で、“郵便屋さん”で助力を頼むって言ってたよね? 誰に…?」


シルベールは、海賊を捕らえた男達に近付き、自分の持つダガーを見せた。


シルベールの短剣には、“食いあう竜と蛇”の文様がある。



「後は頼む。シルベールが感謝していたと…叔父上に伝えてくれ。」


彼らは黙って頷いた。



 そう。ツァルト盗賊ギルドにも、願ってもないチャンスのはずだ。


元々、あの町に潜んで、様子を伺っていた事だろう。


海賊と商人の一部が手を組んで、真珠を吊り上げていたなどと言う醜聞。


海賊船が、実は港のドッグから出ていたなどと言う醜聞。


あの町の地図を塗り替える最高の好機に違いない。


―――――――――


 いつもの様に仕事をこなし、今回は多額と言える賞金を受けとる。


勿論、山分けだ。思い通りの買い物や食事をし、街を堪能してから、旅立つ。



 そして今、街道を、2人は歩いている。


「シルベールのお母さまが、若い頃、盗賊だった…のね?」


「ああ…驚いたか…?」


「で、でもシルベールは貴族なんでしょ…?」


「まぁな…。」


「シルベールの母様なら、お綺麗なんでしょうね…。それで、貴族のお父さまの目に留まった…とか? ふふ、まるで“盗賊姫”。ふふっ。」


当たりだ。冗談のつもりだろうが。



ああ。昔なら、こんなふうに、誰かに助力を依頼する、出来なかったかも知れない。


でも、長い旅で、コイツが、俺に教えてくれた。


1人じゃ何もできないことを。


誰かの力を借りることで、多くの道が開けることを。



<シルベール。研鑽を積むんだよ。戦うだけじゃなく、守れるように。>


13の時。旅立ちを決めた時に父に言われたこと。


今なら、何かを答えられるだろう。そう思う。




 シルベールは指輪から“郵便屋さん”を出す。


簡素な一言を添えて、市で買った、真珠のネックレスを包んで、飛ばした。



続いて彼は、全く同じネックレス取り出した。


先程の自分の行動を見ないように目を背けていた、もう一人の大切な人の首に、さげた。


フェイトは驚いた顔でシルベールを見上げる。



―――――――――


 あくまでも結果的にだが。


結局、シルベールとフェイトは、たった1日で、海賊問題を解決して見せた。


<すげえな。どんな奴らだ?>


<若造さ。魔剣士と、僧侶のカップルさ…>


<魔剣士?>


<剣に魔法を宿して戦うんだとよ?>


<怖ろしく切れる女と、何でも斬る男の2人組だ…。>



こうして。


パールヘブンを一日で変えてしまった2人の噂は。王の耳にも入る事となる―――。



―――続く。


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