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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<魔剣士シルベール編>第18話「力の亡者」

魔剣士シルベールと僧侶フェイト、2人の冒険パーティー。


北の”狂戦士の国”バルスタッドへの旅の途中。シルベールはある館の2階に美しい女性を目にするがー。


2人の旅は、終着地に近付く。第18話、王道系のハイファンタジーです。

 新興国バイアルド首都<ホールベイア>


ごった返す、という言葉が似合う大都市。


様々な石造りがまさに建設ラッシュ、古くからの街並みではないので当たり前と言えば当たり前。


荒野から、造り上げたのだから。



 ゆえに、全て新しい。


勢いだけで全て何とかなっていると言えなくもない。


まだ、時間が必要なのだ。洗練させるには。



 シルベールとフェイトが街に入り数日。


この街に目的があった訳ではない。ただ、この勢い有る世界を眺めるのは悪くなかった。


まさに、世界中の野心が集まっているような錯覚すら覚える。


一獲千金、ドリーム。功名心。人生のやり直しに、人生の賭け。


何でも、許される気がする。


現に、貧しい者も多く集まるし、何かから逃げて来たものも、多い。


路地裏は危険だが、未だに定まった組織が無いので、意外と安全だ。


奇妙な話だが、ルールの無いところは、ルールが生まれるのだ。




 数日、緩やかな時間を過ごしていた2人。


だがある日、少々身なりのイイ男性に声をかけられる。


「アンタら、南で、海賊退治やった2人だろ…?」


―――――――――


 「そうだが、それが何か。」


「悪い話をしに来たんじゃない。城の者だ。といっても、なかなか信用されないと思うが。」


「そうだな。」


「かなりの腕と見た、腕の立つ奴を募っている。アリーナに出る気は無いか?」


「…興味ないな。」


「多額の賞金。何より、名誉になる。」


シルベールは少し眉を顰める。


「バルスタッドのアリーナが開催されると?」


「いや。バイアルド初の、アリーナだ。」


「…初耳だ。」


「こっちが国になっちまったんで、バルスタッドのアリーナへ出場権は無くなっちまったんだ。まあ、そりゃそうだ。王族になりたいだの、姫を嫁に寄越せだの言うわけだから。」


「ふうん。」


「何故、バイアルドでもアリーナが開かれるのです?」


フェイトが口を挿む。


「そりゃ、我ら南の国も北の国も、元は“バイアルスタッド”。狂戦士の国だ。戦いに誇りある事には変わりない。だが、バルスタッドのアリーナとは随分変えるらしい。国家の威厳をかけて、バルスタッドと並び立つことを示したいんじゃないかねえ。」


「…それは、城の者、だから言える事ですか?」


「嬢ちゃん、手厳しいな…。まぁ想像に任せる。ただ、やるとなっては、手練れが揃わんと話にならん。イキってるだけの奴が俺ツええ言っても、バルスタッドが鼻で笑う。」


「では、バルスタッドの戦士が逆に出場しに来たら?」


「奴らのほうと同じだろ。神官が魔法で嘘は見抜く。なんせ、神託にはルーンタトゥーも意味ない。」


「なるほど。」


「募集は城で行っている。参加に金はかからんが、命の保証は出来ない。ただし、我が国は北の国とは違う。ギブアップ後に攻撃は許されん。回復の僧侶も付く。らしい。」


「らしい、か。」


「どうだ。出ないか?王は、世間で評判になっている冒険者に声をかけるよう指示を出した。お前らも、その1人。」


「光栄だが、興味ないな。」


「…気が変わったら、ぜひ。彼のツええところ見たくないか?お嬢ちゃん。」


「シルベールは強いけど、アリーナ向きじゃないから…。」


フェイトはきっぱり言う。


「…逆に少し悔しいんだが。」


少し、シルベールは不服だった。


―――――――――


 翌日、2人は北の国へ向け、旅立った。


アリーナは、興味ない。


北へ向かうのは、好ましくは無いが、シルベールの意向だ。


知る必要が、在る気がして来た。


異母弟ルピナス…その弟の母、アネモネ姫の生まれ故郷について。


父、アリエス・メイフィールドが国賊と呼ばれる国について。



首都を出る。完全整備されてはいない幾多の道。


北へ向かう街道も、完全とは言えないが、多々生まれている。



そんな、道半ば。


―――――――――


 北へ向かう程、森の比率が高くなってきたと思う。


かと思えばまた荒野だが、また、森。


この地方で、先に北に国が生まれたのは必然のような気もする。



 この日は、深い霧に覆われた。


低めの山々に挟まれた地だったが、川霧なのか。判らない。


霧の中を、特に暗い中をむやみに歩くのは、冒険者としても旅人としても無謀である。


だから、周囲の安全が確かめられる大き目の岩の陰で、2人は荷を下ろした。


―――野宿。まぁ、いつものこと。



 でも、ほどなくして。


霧が薄まって来た。


少し遠いが、山裾に、古びた屋敷が見える。


雨雲が近づいて居る。



 不気味と言えば不気味。人が居るやら居ないやら。


「あまり、行きたくないかも。」


「そうだな。不気味な感じがする。」



反対側の山裾が煙って来た。遠目に見ても判る、雨。


「…安全が確認できるまでは、離れるなよ。」


「勿論、背中にくっついてるわ。いつも通りに。」


シルベールは、剣に手をかけながら、館へ向かう。



 近付いて行くと、もうすでに草に覆われているが、かつては道であったであろう生え方。


と言う事は、今は、使われていない。


「入らない方がイイかもな。雨宿りだけ、しよう。」


「うん…。多分。」


冒険者の勘。いや、経験則。


それでも、ホールぐらいは覗こう。


2人は、更に近づく。



 今度は、大きな碑があった。矢印まである。


<3代、アリーナチャンピオン 偉大なるエンゲルベイズの館>



「…バルスタッドの、チャンピオンか。」


「でしょうね。3代目って、何年前かしらね?」


バルスタッドには、古い狂戦士の歴史がある。


強者が崇拝され、権力を持ち、全てを手にする国である。



空気が湿って来た。


渋々、更に館に近付く。



 「…シルベール。邪悪な気配がする。やめよう?」


シルベールは魔剣士であって、僧侶ではない。


魔力を感じることは出来ても、正邪は判らない。


だが、全くもって、同感だった。


雨の方が、マシだろう。


シルベールも、引き返そう。そう思った。“見てしまう”までは。



館の、右。2階の、窓。


窓に手を当て、シルベールを見る、女性。


儚げに、美しく。上品。年上だろうか。20歳半ばというところ。


窓越しだが、服装は貴族風に見えるし、髪を結いあげて、清楚な美女に見える。



目が、吸い寄せられるようだった。


ひと目で恋に陥ったとか言うわけではない。


彼女の唇が、彼に向けて動いていたから。


何を言っているか判らないが、何かを、切なく、悲しく、訴える。



 「入るぞ。フェイト。」


「え…本当に?」


「助けを求めている女が居るようだ。吸血鬼か、亡霊か、囚われ人か、罠か知らないが。」


フェイトが言いたいことは、もうシルベールも承知の上だ。


「うん。判った。助けられる人なら…助けましょう?」


シルベールは、相棒の言葉にうなずく。



そして、雨がたどり着くより早く、2人は扉に手をかけた。


古く…さび付き…最早、最近開いた形跡もない、大きな扉を。


―――あの女性は、少なくとも、生者では無さそうだな…。


シルベールは、剣を抜いて、扉を開いた。鍵もかかっていない、扉を。


重く、きしんだ音がした。


―――――――――


 入ってすぐに、暗い、入り口のホール。


夕闇が迫り、窓から入る僅かな光以外ない。真っ暗ではないが、ほの暗い。


いや、すぐに明るくなった。


壁にかかっている燭台が、次々に炎を灯した。


後ろの扉が、大きな音を立てて勝手に閉じた。


部屋の中を、白い煙のような顔が、浮かんでは、叫ぶ。



フェイトは、叫ぶ代わりに、聖印を強く手にした。


「“ホリー・フィールド!”」


フェイトの周りを、直径3m程の白き光が包む。勿論、シルベールもその中にギリ収まる。



「いやはや、ココまで堂々と怪異が起きる館は初めてじゃないか?」


「ゴメン、気持ち的に余裕ないの!」


「はは。」


2人を狙うというワケではない。


ホールに転がったガラスの破片や石ころ浮き上がっては、床に落ち。


誰か判らないが、男女の声が聞こえる。



―――出して、助けて、還らせて―――


―――助けてくれ――ここはもう、イヤだ――



その声をかき消すが如く、大きな、威圧感の有る男の声が響き渡る。


―― 黙れ ――


ホールが沈黙し、すすり泣きのみ聞こえる。


―― 嬉しき事よ  剣士  強きモノ―――


―― 歓迎しよう、遠慮は要らぬ ――我に、我に挑め ――


―― 勝てば、全てくれてやる ――この屋敷ごと ―― 酒を、飲め ――


―― 女を抱け ―― 好きなだけ、好きな女を ―― 金を ―― 好きなだけ 積め



――― ただし、負ければ、お前も ワシを讃え 屋敷に住まえ ―――


――― 死を受け入れ 客をもてなし ――― 


「断る。」


――― 断る事など、出来ぬよ ―――


ホールに、小さき悲鳴が響き渡る。




 地下から。多分、地下から。


大きな威圧感がせりあがってくるのを、2人は感じ取った。



ホールの床が歪み、渦巻き、何かが出てくる。


「小細工なしだな。その点だけは嫌いじゃないが。」



大きな、大きな骨だった。


2m以上ある。只のスケルトンではない。体中に、細い針金のようなモノが巻き付いていた。


その針金が、何かを模したものである事はすぐに分かった。


“筋肉”…だ。


圧倒的な、筋肉…だ。


その上から、無骨で容赦ない強度の部分鎧を付け、両手用の巨大なメイスを持っている。



「…第3代のチャンピオンとやら、か。」


―― 讃えよ ――― ワシは 全て ほしい ! 永遠に!


シルベールは、盾と剣に魔力を流す。目線で、フェイトを部屋の隅に下がらせる。


アンデットには、光属性が良かろう。


盾も剣も白く輝いた。 



針金の筋肉が、メイスを高々と持ち上げる。


シルベールは、悠長に待つほど気長ではない。


「翔斬撃!」


すぐに、光の斬撃を。


美しい三日月の形の光を、邪悪な大男に飛ばした。



だが。


その光は、針金の筋肉に触れたとたん、粉の様になって、消えた。


僅かな衝撃は伝わったらしい。大きな骨は少しだけ後ずさった。


――― おおお、面白き 力 そう来なくては! ―――


「シルベール!ルーンタトゥー!」


針金が、青白く光る。


如何にして手に入れた力か、その針金は、あの虫と同じように光り、シルベールの斬撃を粉にしてしまった!



骨の大男は、その反り返った体の勢いそのままに、メイスを振り下ろす。


直感する。


受けちゃダメだ!



シルベールは、右に転がり、避けた。


怖ろしい破壊音が響き、石の床タイルを砕き、陥没させる。



―――ひぃぃい―――


ホールに響く、誰かの小さな悲鳴。


「コイツに捉われた、魂たちか!」


骨の大男は、誇らしげに笑いながら、メイスを再び掲げる。


――― 強きは、全てを手にする それがバルスタッド ―――


「魂まで自由にしていい権利などあるものか!」


――― 貴族の娘を手に入れたぁ 子を産ませる前に 自害したが ―――


――― 次の年も だ 金も 酒も 地位も ――


――― 次のチャンピオンなど まがい物 ワシこそが 王に相応しき 男お ―――


――― 見ておれ ワシが また 返り咲き ―――



「亡者が!欲にまみれた戦士の、何処に栄誉がある!」


シルベールは、その、最早神速ともいえる剣を走らせ、骨の太ももに当たる位置を切りつける。


堅い、金属のぶつかり合う音。


…斬れない!


シルベールは舌打ちして飛び退く。


彼の居た位置には、すぐに、受けることを許されない巨大な金属の塊が振り下ろされた。


「フェイト!」


「待って!」


シルベールは、女を頼った。


正直言えば、勝てる見込みが無い。


魔剣士の魔力を打ち消され。生身でない針金の化け物では、剣技を用いて急所に差し込むことも出来ない!


「シルベール!炎!!」


「炎だな!! “炎剣!!”」


―― 無駄な ことを ―――


「私を気にしないで!最大火力で!!」


シルベールは、信じる。信じている。何時でも、この女を。


フェイトは小さく呪文を唱える。「“レジスト・ファイア”」


シルベールの盾から、剣から、吹き出す最大火力の炎。


「炎斬撃!!」


巨大な炎の塊が飛ぶ。


同時に駆け寄って来た巨漢は炎をものともせず、振りかぶった。


前回りに、足元をすり抜け、背後に回る。


「炎斬撃!!」


もう一度、炎の塊を飛ばす。



―――あああ、炎があああ―――


魔力の炎は、周囲に居た亡霊も容赦なく、燃やしていく


だが、だが…。


―――あああ、やっと還れる―――


亡霊は、恨みはしなかった。



「どうやって、殺した相手の魂を捕らえているのか知らないが…。」


――― 亡者など、増やせばよい! ―――


「貴様も亡者だろうが!バケモノが!欲に捉われた!真の亡者が!!」


――― 逃げ惑うしか出来ぬモノのたわごと! ―――


「そうか!?次は、お前が砕ける番だ!!」


巨大な骨が駆け寄ってくる。


此処は、ホールの隅。ボクシングで言う、コーナー。


逃げ場は…!



「翔斬撃!!」


シルベールの飛ばした斬撃は、オトコの首を―――切り分けた。真っ2つに!


――― はああ な なぜ ルーンタトゥーの 針金 が ―――


「その液を作っている虫が、炎を嫌うから!!」


フェイトが叫ぶ。



2回の強烈な焔で、針金は解けていた。


正確には、針金が自体が溶けたのではない。針金のように繋がっていた何かが、“解けた”のだ。


筋力代わりに幾重にも巻き付いていない、関節を。首をシルベールは狙った。


倒れた大きな骨に、シルベールは追撃を容赦なく、見舞う。



ホールの燭台の炎はとうに消え、代わりにホールを明るく照らすのは、魔剣士が部屋中に放った焔。


燃え出す…。


閉まっていた扉は、既に壊れて、外の湿った空気を流し込んでくる。


シルベールは、フェイトの手を引いて、外へ飛び出した。



振り返り、炎斬撃を、館の至る所へ打ち込む。


燃えろ。燃えてしまえ。


欲に凝り固まった醜い魂の館など、消えろ!



シルベールは、右手の2階を見た。


焔にガラスが割れ、部屋の中は既に、オレンジに染まっている。


女性の姿が見えた。


彼女は、燃えながら、外に手を伸ばしていた。


シルベールとフェイトを見る。


微笑んだ、そう思う。



「貴方に、自由を。美しい人。」


2人は、雨の中に燃え落ちる館を振り返らず、その場を離れた。


帰りがけ、シルベールは、第3代なんたらと書いてある石碑を通り過ぎざまに切り砕いた。




雨に煙る、北の山々の峰を見る。


バルスタッド、首都バルディス。 王城パントハイムに隣接されたアリーナ。


そこに、欲望の源がある。



―――続く。


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