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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第529話 DYING ROBOT その三十

 特別合同課外授業二十八日目の朝。

 生徒達は、八又(はちまた)産業のロゴが入ったクルーザーに乗っていた。乗客定員一千二百名、四万トンと美食丸よりも小さい高速船であり、生徒達には色褪せて見えた。

 それぞれにきれいな部屋が割り当てられ、着替えが用意されていた。蛇口をひねれば温かいシャワーが出てくる。食事は大食堂で無料で提供された。怪我人は手当され、ゾンボとなった乗員ロボ達はメンテナンスを受けて徐々に復活してきている。

 美食丸と同様にショッピングモールやレストラン街はあるが、ほとんどの店は閉じていた。シャッターが降り、照明が落とされた商店街は、必要以上の寂しさを生徒達に与えた。


 もう彼らが愛した美食丸は存在しない。復活したローション生命体ソラリスにより、海に沈められてしまったからだ。その美食丸の代わりにやってきたのがこの船だ。彼らはこれからこの船で、浅草への帰路につく。長い特別合同課外授業は終わった。家に帰れるという喜びに船は沸いたが、それも一瞬だった。船は物悲しさに包まれていた。


 船のオープンデッキに立ち、鏡乃(みらの)はぼんやりと肉球島を見ていた。昨日まで島を覆っていた霧はすっかりと晴れ、代わりに無限に続くような青い空と青い海に挟まれていた。これは肉球島が現実に存在するという証だ。

 船から港を見下ろすと、大勢のスタッフが作業をしているのが見えた。主な内容はソラリスの解体。全長六十メートルの巨大ロボは、ロボローションに取り憑かれてソラリスとなった。すでにローションは消滅したようだが、油断はできない。政府のスタッフによる確認作業が始まっていた。



 鏡乃は昨日の出来事を思い返していた。掌山の山頂から見たソラリスと紅子の戦いを。まさに神話の戦い。最終決戦。人間が入り込む余地などないかに思えた。しかし、人間は勝った。ソラリスの魔の手から、人類は救われた。

 ちゃんこ部が山頂から港に帰ると、泣き崩れるマリーを見つけた。アンアンマンとして戦いに参加したアンテロッテは、マリーに駆け寄ると思い切り抱き締めた。


「お嬢様ー!」

「アンテロッテー!」


 マリーはアンテロッテの胸の中で号泣した。子供のように泣いた。二人の縦ロールが絡み合い、一つのデカロールになった。マリーは中学生の代表として、ずっと気丈に振る舞ってきた。けっして弱みを見せることなく、冷静に、優雅に立ち振る舞ってきた。小さいながらに、誰よりも冒険を繰り広げてきた勇者として、皆を導く立場にあった。

 だが、蓋を開けてみれば単なる中学生だった。まだまだ幼い少女といってよい。彼女に与えられた重責は、その小さな肩に乗せるにはあまりに大きすぎた。だから泣き喚いても、誰もそれを恥ずかしいなどとは思わなかった。逆に感謝した。皆のために、これほどのことをやってくれたのだと感謝した。


 その隣では、マリーの相棒小梅が二人のマッチョの前に立っていた。


「押忍! 館長! 師範!」


 小梅は胸を張り、拳を握り締めた腕を交差させて叫んだ。


「小梅 よくがんばった」

「おで うれしい」

「押忍! ありがとうございます!」


 小梅は目に涙を滲ませたが、けっしてうつむいたりはしなかった。二人のマッチョの教えは、小梅を最後まで立派に立たせた。


「わぁ! マリー! 小梅! よかったね!」


 鏡乃はそんな二人を誇らしく見守った。


 鏡乃は港を探し回った。倒れた美食の巨人の残骸の影に隠れて、輪を作っている集団が見えた。


「鏡乃山! あそこにいるッスよ!」

「いってくるッス!」

「ごっちゃんです!」


 ちゃんこ部に促されて鏡乃は輪の中に入った。そこにはマヒナとノエノエが立っており、数名の生徒が膝をついていた。一人は生徒会長茶柱初火(ちゃばしらういほ)。一人は帰宅部部長茶柱江楼(ちゃばしらころ)。二人の姉にして茶道部部長の茶柱茶鈴(ちゃばしらちゃりん)は、桃ノ木朱華(もものきしゅか)の両肩に手を添えていた。そして朱華の膝の上には……。


「紅子!」


 鏡乃は駆け寄った。小学二年生の少女は、朱華の膝の上で眠っていた。特別合同課外授業十一日目で姿を消した時と、まったく同じ姿の紅子だった。


「紅子……」


 鏡乃は紅子を抱き上げて思い切り抱き締めたい衝動に駆られたが、朱華の膝の上で寝息を立てている姪っ子の安心したような表情を見た瞬間、自身もケツの力が抜けてへたり込んでしまった。


「紅子……」


 鏡乃はそっと紅子のおでこを撫でた。紅子は少しくすぐったいような仕草をして、鏡乃の手を握った。その手の小ささに鏡乃は驚愕した。ついさっきまで巨人となってソラリスと戦っていた少女の手は、記憶よりも小さかった。

 鏡乃は、少女に背負わされた過酷な運命を思った。近代ロボットの祖、隅田川博士と荒川博士の間に生まれ、量子兵器の攻撃によってこの世を幽霊のようにさまよってきた紅子。それが黒乃とメル子との出会いによって彼女の時間は再び動き出した。

 そしてやってきた肉球島で、またもや量子兵器の餌食になってしまった。なぜこんな目に遭わなくてはならないのだろうか? いったい紅子の運命とはなんなのか?


「わっかんない、鏡乃にはわっかんない」


 思い悩む鏡乃の肩に、マヒナが手を置いた。


「鏡乃。大変だったな」

「うん……」

「もう安心していいんだぞ?」

「うん……」

「紅子はどうする? アタシが先にヘリで浅草に連れて帰ろうか?」

「うん……」


 鏡乃は心ここにあらずで、気のない返事しか返ってこない。朱華は紅子をしっかりと抱き締めなおした。


「紅子ちゃんは、ミラちゃんとウチで浅草に連れて帰ります。せやろ? ミラちゃん」

「ええ? ああ、うん」


 鏡乃はしきりに周囲を見渡していた。


「ねえねえ、マヒナ」

「どうした?」

「クロちゃんは? メル子はいないの?」

「黒乃山とメル子ならもう帰りましたよ」


 ノエノエがあまりにしれっと言ったので、鏡乃は度肝を抜かれた。


「ええ!? クロちゃんもメル子も帰ったの? なんで!?」

「知りません」

「なんで鏡乃にも紅子にも会わないで帰っちゃうの!? 鏡乃達が心配じゃないの?」

「そんなことは家に帰ってから、存分に問い詰めてくれ」

「ええ!?」


 鏡乃の頬は、風船のように真っ赤に膨らんだ。



 港に八又産業の船が到着した。スタッフに誘導され、生徒達が船に乗り込んでいった。ここで一つ、重大な取り決めが伝えられた。それは『肉球島で製造したロボットは日本には連れていけない』ということ。これは生徒達に大きな衝撃を与えた。


「なんでだよ!」

「島に置いて帰れってのかよ!?」

「せっかく作ったのに!」

「大事な仲間なんだぞ!」


 ロボット作りは、特別合同課外授業の大きな目的だ。このために皆計画を練って島までやってきた。新たな仲間が増えるのを夢見てやってきたのだ。この問題は生徒達を失望させた。

 そもそも肉球島は存在そのものがグレーなのだ。領有がはっきりしない海域にあり、領土問題を抱えている島だ。それが、今回のソラリス事件で世界に大きく取り沙汰されることとなった。政府としては、『そのまま』『現状維持』『当たり障りない』対応に終始せざるを得なかったようだ。

 つまり、肉球島で生まれたものは、外に持ち出さないという決定だ。生徒達がいくら騒ごうが、この決定が覆ることはない。生徒達は、泣いて愛しいロボットとの別れを惜しんだ。


 そして翌日の朝、船は出航した。





 鏡乃達ちゃんこ部は、メインデッキから離れていく肉球島を見つめた。この二十八日間の旅はとても長かった。美食丸での生活、ロボット作り、遭難、ハイデンとの戦い、ソラリスとの決戦。あまりに多くのことが起きた。

 この生活が長すぎて、浅草での生活がどうだったのか、思い出すのに苦労するほどだ。ボロアパートに帰ったら、テレビのリモコンの場所は覚えているだろうか? 学校の教室にいったら席を間違えないだろうか? 日直の当番は誰からだったか?

 恐らく心配はないのだろう。すぐに元通りの生活に戻れるはずだ。そのころには、肉球島の生活を思い出せなくなるのだろう。人間の記憶などけっこういい加減なものだ。だが、忘れてはならないこともある。それはこの島に置いていく、彼らのことだ。


「おーい!」

「元気でなー!」

「またくるからなー!」

「待っててねー!」


 生徒達が口々に叫んでいる。港に大勢のロボット達が整列していた。皆、船に向かって手を振っている。戦車部の戦車ロボ、漫研の中二美少女ロボ、落研の座布団運びロボ、茶道部の織部ロボ、怪盗部の女怪盗ロボ、サッカー部のスカイラブロボ、野球部のノックロボ、新聞部の配達ロボ……皆いる。

 鏡乃はその中で、一際大きなロボットを見つけた。


「あれ? あれ!? ええ!? あれは!?」

「どした、鏡乃山」

「なんッスか?」

「なんかいたッスか?」

「みんな見て!」


 鏡乃は指をさした。そこには二メートルを超える巨躯ボディの力士ロボが立っていたのだ。ボディはところどころ焼け焦げた跡があるが、元気に手を振っていた。


「見て、新弟子ロボ! 見て!」

「アレは、弟弟子ロボデス! 弟弟子ロボは生きていたんデス! オーイ!」


 ちゃんこ部は懸命に手を振った。森の中からロボキャット達も姿を現した。生徒が作ったロボット達は、ロボキャットとともに島の再建に尽力することになる。それがこの島に残された彼らの使命だ。


「弟弟子ロボー!」

「俺らはずっと仲間だからなー!」

「遊びにくるッスよー!」

「島を頼むッスー!」

「ワアアアアア!」


 船は走る。港は遠ざかる。やがて、お互いの姿は見えなくなった。遠ざかるにつれて、視界を支配する緑の割合は減り、青が占めるようになった。

 ロボット達はこの島で、灯火を絶やさずに生きていけるのだろうか。


 DYING ROBOT〜消えゆく光〜完









 特別合同課外授業三十日目の夕方。

 鏡乃と朱華と紅子はボロアパートの前にいた。出掛ける時に持っていった荷物はない。美食丸とともに海の底に沈んでいるからだ。手ぶらでの帰宅となった。懐かしい我が家ではあるが、鏡乃はむしろ怒っていた。


「フンスフンス! もう! クロちゃんもメル子も、迎えにもきてくんない! プンスプンス!」


 鏡乃は二階の黒乃達の部屋を横目に、一階の自分達の部屋へと向かった。


「ミラちゃん」

「どしたん、シューちゃん」

「ウチが先に部屋を開けておくから、ミラちゃんと紅子ちゃんは黒乃さん達に挨拶してきてーな」

「ええ!? なんで? あとでいいよ! フンスフンス!」

「ええから!」

「ええ!?」


 言われるがままに、鏡乃は紅子の手をひいて階段を上った。二階の角部屋、いつもの扉。鏡乃はドアをノックもせず、勢いよくぶち開けた。


「帰ってきたよ!」


 部屋から溢れ出てきたのは懐かしい姉の匂い、食べ慣れた料理の香り。いつものとおり、黒乃は床に寝そべりケツをかき、メル子は夕食の準備をしているのだった。


「よ〜、おかえり」

「お帰りなさい、鏡乃ちゃん、紅子ちゃん」


 いつもの光景、遠い景色、いつもの日常、待ち侘びた日々。帰ってきた。


「約束どおり、ちゃんと紅子を連れて帰ってきたな」

「紅子ちゃんの面倒をよくみてくれましたね」


 黒乃とメル子は視線を合わせずに言った。順序では紅子が優先されるべきだろう。だが、鏡乃は姪っ子を押し退けて姉の大平原に飛び込んでいた。


「ただいま!」


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