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『せ』のつく自由業始めました  作者: 旭日暮きと
オタ喪女聖女、爆誕。
6/13

06. おやすみなさい

やっと1日が終わる……

結果。

大きめの鍋いっぱいに作った黄金雑炊は、食べ盛りの男たちのおかわり三連戦により呆気なく空となった。レニーがおかわりを一回に留めてくれなかったら多分もっと早くなくなってた。南無三。


未だに何とか動かせる井戸から追加で水を汲んできて、綺麗に空になった器に注いでやるとそれすら美味そうに男たちは飲み干す。


「美味かった……」

「足りねぇ……」

「母ちゃん……」


おい待て誰が母ちゃんだ。こんな汚ならしいゴロツキ生んだ覚えねぇぞ。


それにしても、この世界にコンソメ味が存在しないのかはわからないけれど、あの黄金雑炊がこんなに大好評になるとは思わなかった。空腹は最大の調味料というやつなんだろうか。ここ数日ろくすっぽ食べてないと言っていたし。

でも、でもなんだかなぁ……あんなどこまで行っても擬きでしかない味付けの雑炊であんな幸せそうにされたらなぁ……


「母ちゃあん……」


まだ言うか。

ぐすっと鼻を啜る男にため息が出そうになる。やめろ、世の中にはまだあんなもんより美味い食べ物はいくらでもある。だからあれが最上級みたいな顔をするな。罪悪感で胸がズキズキするだろ。


「美味しかったわ、カゴネちゃん。貴女料理人か何かなの?」

「あんなの私の国じゃいくらでも作れるよ。寧ろあれって結構劣化版だからね?」


身も蓋もないが現実ははっきりと告げておく。私の料理の腕は人並みだ。変な勘違いをされては困る。

レニーはあからさまに驚いた顔をした。


「うそっあれで?」

「調味料とか代用したからね。同じ材料でももっと美味く作れる人なんかザラにいるし」


信じられない、と表情で物語るレニーに良心がズキズキと痛む。ごめんね事実だから。可愛げのある物言いとか出来ないから私!


「あ、でも卵はほんと助かったよ。お礼あんなんで良かったの?」

「充分よ!いいもの食べさせて貰ったわ。ね、レシピとか教えて貰えない?」

「あーごめんちょっと難しいかも」


主にコンソメとかコンソメとかコンソメに関して。


「似たようなものなら出来るかも知れないけど……私この国の台所事情知らないからなぁ」

「あらっなら今度私の家に来て一緒に作ってくれない?」

「レニーの家?」


ごめん、想像出来ない。身なりは悪くないから良いとこの出かな?何となく庶民にしてはちょっと浮世離れしてる気がする。


うーん、と唸っているとテーブルの方からガナルが声を掛けてきた。


「そいつは元騎士団だからな。結構裕福な暮らししてる筈だぜ」

「騎士団!?」

「元ね、元」


驚きの情報に目を白黒させる。やけに姿勢が良いとは思ったけれど、なるほど鍛えられていたからか。でも薄手の衣服を違和感なく着こなしているから、細身の体型であることは間違いないと思うんだけど。


「ちょっと腕触っていい?」

「良いわよぉ♪なんならガナルあんたも触る?」

「さっき鳩尾に一発貰ったから充分だっての」


ノリノリで差し出された右腕に恐る恐る触れてみる。細……?あっいや、私より太い。ちゃんと男の人の腕だ。二の腕は……うわ硬い!筋肉ついてる!実用筋肉だ!


「えー着痩せ詐欺にも程がある……」

「褒め言葉と思って受け取るわね。痩せてるって言えばカゴネちゃん、貴女も大概顔色悪いわよ?ちゃんと食べてるの?」

「食う分には問題なく毎日食ってるよ」


足りないのは睡眠だ。ここ数日ろくすっぽ寝てない。人手不足だったからなぁ何せ……あはは、明日から職場どうなるんだろ。私抜けたら誰が困るかなぁ。仕事出来ない癖に態度だけデカい年上後輩が地獄見ればいいのになぁ。


「ちょっとカゴネちゃん、顔怖いわよ」

「あはははははは、気のせい気のせい」


目が死んでるのは自覚してる。現代人の闇だ、放っておいてくれ。


「それはさておき、レニーの家だっけ。私は別に構わないけど。どうせ行く宛てもないんだし」

「あら、そう言えばカゴネちゃんって何処から来たの?見慣れない服を着てるし」


今更か。

面倒なのでガナルたちにしたのと同じ説明を繰り返す。


「遠い遠いところから遥々誘拐されてきた」

「やだっまさか人身売買!?騎士団にはまだツテがあるけど相談しようか?」

「やめて」


思わず本気で拒絶する。

だってあれじゃん、騎士団ってモロ王族直属じゃん?居場所がバレたら何されるかわからん。主にあの第一王子(笑)に。

レニーがどこまで信用出来るかわからないし、お宅訪問も考えた方が良いのかなぁ。


私の短くも本気の拒絶を受け取って、何やら思案顔になったレニーは一つ頷いて微笑む。


「わかったわ。とりあえずアイツらには黙っておきましょ。それよりカゴネちゃん、貴女これからどうするの?まさかここに住む気?」


レニーに聞かれて今まで考えないようにしていたことを考えさせられる。正直この家の状態を思えば住めたものではないが、雨風を凌げると思えば安いものではある。掃除と片付けをすれば内装は何とかなりそうだし。

しかし問題は今現在の居住者たちと、建物自体あちこちにガタが来ているという点だ。いつから放置されているのか知らないけれど、嵐でも来ればどうなるか保障はされない。


「コイツらの生活が少しはマシになるっていうなら、カゴネちゃんの登場は歓迎出来るんだけど。それでカゴネちゃんに何かあったらいよいよ私も実力行使しない訳にいかなくなるし」


眉を下げて困り顔でバキボキと両手の指を鳴らすレニーに、彼の背後の男たちから血の気が引いていく。

正直レニー(という名の防波堤)がいれば大丈夫なんじゃないかなー、という気持ちと、信用するには不十分すぎる、という気持ちとで半々なのが私の本音なのだが、この世界のお金を持ち合わせていない身としては住処に贅沢を言えないのもまた事実だ。


「レニーんとこで世話してやれねぇのかよ?」


ジャスパが言う。こいつさては根はお人好しだな?さっき率先して食器洗いに行ったのもこいつだったし。


「カゴネちゃんさえ良ければ、うちは全然構わないわよ?ただ、私今妹と二人暮らしでね。ちょーっとそういう意味でお招きするには微妙な事情があるのよ」


ふむふむ、妹さんは人見知りかな?でも言い方からしてそれより面倒な事情がありそうだし、好意に甘えるにはレニーともまだ面識が浅すぎる。普通の暮らしをしてそう、という点ではここより断然安心出来そうなんだけど。


「いきなりお邪魔したら妹さんをびっくりさせそうだし、今日のところはここで休むわ。これからのことは明日考えるし」


適当に言ってレニーのお宅訪問はやんわりお断りする。


「んー……そうねぇ。明日また様子見に来るから、その時カゴネちゃんが無事でいなかったらアンタたち覚悟してなさいよ?」


振り返って自分たちを見るレニーの顔を見て、ガナルたちは頬を引きつらせる。こちらからでは彼の表情を窺い知れないんだけど、それで良い気がする。美人が凄むと怖いって言うし。


とりあえずレニーは信用出来そうかな、と軽く結論付けて彼の牽制は信用しておくことにする。


「言われなくてもそんな貧相なおっかねぇ女襲ったりしねぇよ!」


余計なことしか言わないガナルは余程股間に一撃貰うのがお望みと見た。




* * *




ないよりはマシだから、とレニーは羽織っていたカーディガンを私に渡して帰って行った。そんなに肌寒くはないけれど有り難く受け取って、肩から膝下まで覆えるほどの長さのそれを被って家の一角で眠りにつく。反対側に離れて固まって眠る男共は私をおっかなびっくり遠巻きにしているようで若干腹が立つが、こちらに何もしないのなら言うことはない。


それにしてもこちらは何とか一晩眠る場所は確保したが、城に残してきた芹奈ちゃんは大丈夫だろうか。連絡先でも交換出来たら良かったんだろうが、生憎この世界に電波が通っていないのはこの家に辿り着いた時確認済みだ。完全に溜め込んだ推しを眺める為だけの媒体と化したスマホの電池も、いつ切れてしまうかわからない。あまりバッテリーを消費したくないし、男共に騒がれるのも面倒なのでアラームはオフにした。


もしも私と芹奈ちゃんの両方が本当に聖女だったら、なんかこう都合のいい聖女パワーでテレパシーでも使えたら良いのに。

芹奈ちゃん……芹奈ちゃん……聞こえていますか……今……あなたの頭に直接語り掛けています……

なーんて、


『こいつ、脳内に直接……!?』


「!!!?」


ガバッ!!と壁に預けていた体を起こす。いきなり飛び起きた私を男たちが揃ってビクッ!と驚いて見るが、知ったこっちゃない。


『ネ、ネタが通じた……だと……!?』

『いやあの反応するとこそこなんですか籠音さん。ていうか本当に籠音さんですか?』


耳ではなく頭の中に直接響いてくる声は、間違いなく芹奈ちゃんのもの。


『えー冗談だったのに……マジでテレパっちゃった』

『やっぱりこれテレパシーなんですか?うわぁ……』

『いやほんと、うわぁだよね……こっちからやっといてなんなんだけど』


聖女パワー、ご都合か。

というか頭の中に直接声が響くって、物凄く変な感覚。慣れないと知恵熱が出そうだ。


『にしても芹奈ちゃん、このネタ知ってたの?』

『合ってましたか?従兄弟のお兄ちゃんがこういうの好きで』


同類の気配を察知。芹奈ちゃんは非オタか、まぁ仕方ない。


『概ね正解だよ、ありがとう。それで、そっちは問題なさそう?』

『はい、とりあえずお城の物凄く豪華な部屋に案内されました。ここを使って良いって言われたんですけど……』

『けど?』

『……広すぎて、落ち着かないです』


何となく想像出来た。よくあるお姫様とか王族が使ってる私室のような部屋を宛がわれたんだろう。それは確かに一般庶民には居心地が悪い。


『まぁ、滅多に出来ない経験と思って受け入れようかと思ったんですけど。流石にメイドさんまで付けられるとどうしたら良いかわからなくて』


メイド!

至れり尽くせりとはこのことか。

本気で困惑しているのは芹奈ちゃんの声色でわかるが、何にせよ酷い扱いを受けているようではないみたいなのでそこは良かった。

とりあえず、役に立つかはわからないけれどアドバイスはしておく。


『多分、メイドさんに関しては諦めた方が早いと思うよ』

『そんなぁ……』


メイドと書いて仕事人。そんなイメージがある。まして王族に仕えているようなメイドさんなら、仕事はきっちり仕込まれたタイプの人たちだろうと思う。

しかし、芹奈ちゃんが豪華な部屋と専属メイドさんで調子に乗るタイプの子じゃなくて本当に良かった。だったら金輪際存在を忘れて生きることを決意しなくてはならなくなるところだった。


『そういえば、籠音さんは今どこにいるんですか?ご飯とか食べれました?』

『食べたよー。城下町の外れにある家にご厄介になってるから、とりあえずは大丈夫』


嘘は言ってない。


『そうですか、良かった』

『芹奈ちゃんも、一応あの駄王子とかには気を付けてね』

『はい、正直あの人はちょっと……』


私がいなくなってからも何かあったのか、それとも私に散々扱き下ろされた場面を見たからなのか、芹奈ちゃんの声は駄王子に対する微妙な感情が滲み出ている。

まぁ知ったこっちゃないんだが。駄王子の場合身から出た錆という言葉がしっくりくる。私がいなくてもいずれボロは出ただろう。


『まぁ何にせよ、連絡を取れる手段があって良かったよ』

『冗談みたいな手段ですけどね』

『ないよりはマシだよ。これからも定期的に……そうだね、何もなきゃ夜にでも連絡取り合おうか』

『はい、お互いに状況が知れたら安心しますしね』


主に身柄の保証のされていない私の心配だろうか。年下に気遣われてはおねーさんとしては情けない。早いとこ確実な寝床と生活手段を確保しなくては。


『じゃあ、また。おやすみぃ』

『おやすみなさい』


思いがけない脳内通話を終えて、私はもう一度カーディガンを被って眠りに就く体勢に戻った。

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