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『せ』のつく自由業始めました  作者: 旭日暮きと
オタ喪女聖女、爆誕。
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05. 聖女召喚、本庄芹奈の場合

1話目の芹奈ちゃん視点

私の名前は本庄芹奈。どこにでもいるありふれた現代女子高生…………だった筈。

なのに、そんな私がある日の部活帰りにいきなり真っ白な光に包まれて気付いてみれば、どこかのヨーロッパ風のお城の広間のような場所に座り込んでいた。ゴシック様式に近いような、でもそれにしてはもう少しシンプルで、でも豪華な装飾が散りばめられた空間……とじっくり周囲を観察してしまったのも、現実逃避に近かったのかも知れない。


真っ白いマントのような、いやあれはローブっていうんだっけ?とにかくそれを羽織った日本人とは思えない顔立ちの人たちが、ずらっと私を取り囲んでいたのだから。


状況について行けなくて、喉の奥でひきつった悲鳴を押し止める私を他所に、真っ白な集団は諸手を上げて歓声を叫んだ。


「聖女様ばんざああああああい!!!!」

「やったぞ聖女様だ!応えてくださった!」

「これでまた我が国は安泰だ!!」


男の人ばかりの野太い歓声に混じって聞こえる言葉に、私の頭はより一層混乱する。

聖女?何のことだ?

私は一般家庭の出だし特別な教育なんかも受けていない。誓ってどこにでもいるありふれた女子高生だ。

聖女と言えばゲームとか小説に出てくる、やたら博愛主義で清らかで守ってあげたくなる筆頭の清楚系ヒロインみたいなイメージしか湧かないんだけど。と1人悶々と考えていたら、私と真っ白な集団の間にもう1人女の人が座り込んでいるのに気が付いた。


長い黒髪をアンダーポニーにまとめ、地味な色のジャケットに膝丈くらいのスカートを履いた後ろ姿は、どこにでも居そうな働き詰めの女の人の装いだ。あえて一言添えるなら、お洒落の道を諦めてる気がする。


と、女の人がきょろきょろし始めたかと思えば、こちらを振り向いてばちりと視線がぶつかった。

化粧っ気のない顔は血色が悪く、目元にくっきり浮かぶ隈と生まれつきと思われる鋭い目が私を捉えて大きく見開かれる。


何事かに気付いたような表情をする女の人に声を掛ける前に、隙間なく詰まっていた真っ白な集団の中央が突然揃って道を空けた。


何故、と思う間もなく、その真ん中をやたらきらびやかな装いの金髪イケメンが歩いて来た。背中辺りまで伸ばした綺麗な髪を一つ括りにして肩に垂らし、黒と深みのある赤を基調にした衣装で細身の身体を包んだその人は、上等な白いファーのついたマントの裾を少し引き摺ってこちらに歩いて来る。


女の人が目に入っていないのか、私だけを真っ直ぐに見て近付いて来たその人は、たおやかな動作で跪いて見せた。


「なんとお可愛らしい方だ……ようこそ聖女様、私はこのアイデムタル王国の第一王子、ザイハーツと申します」

「ほ、本庄芹奈……です……?」

「セレナ、名前まで可愛らしくていらっしゃる」


恥ずかしい台詞に頬が赤くなるのを感じながら、つい普通に名乗ってしまった。というか外国の人相手なら苗字と名前は逆にしなきゃ伝わらないんじゃ、と一瞬思ったけれど問題なく伝わったようで良かった。セレナじゃなくて芹奈だけど。


いやいやそれよりも、この人は私に面と向かって『聖女』と呼び掛けてきた。やっぱりさっき叫ばれてたのも私のことなんだろうか?いやでも、じゃああの女の人は何なんだ。


混乱を極める私のことなどお構い無しに、王子と名乗ったイケメンは私の手を取って立ち上がる。


「さぁ、どうぞこちらへ。詳しいお話を致しますので、どうか緊張なさらず」

「え、は、はい、あの……?」


終始自分の背後で座り込んでいる女の人の存在など意に介さず、王子は私の腰に手を添えて強引に歩き出した。いやいやいや、待って!この女の人も絶対私と同じ境遇な筈だから!

どうにか王子様を引き止められないかと思考を巡らせた一瞬、


ダンッ!!


勢いよく床を踏みつけるような音が響いて、と思った瞬間王子様が突然後ろに引っ張られたように体勢を崩した。彼に連れられて歩いていた私も必然的に一緒に倒れ込みーーーそうになって、誰かに左手を引っ張られて何とか持ちこたえる。

結果、王子様は1人で顔面から大理石の床に倒れ込んだ。


結構な勢いで床に激突した王子様も気になりつつも、私は左手を引いて転倒を阻止してくれた誰かを振り返った。

手を握る柔らかい感触で薄々わかってはいたけど、そこにいたのは冷えきった目で王子様を見るあの女の人だった。その片足は王子様と私が通っていた場所のすぐ傍にあって……って、座った体勢であれだけの音を立てて踏みつけたのなら、結構あられもないポーズを取ってたと思うんですけど!?お姉さん膝丈とは言えスカートですよね!?


信じられない思いでお姉さんを見下ろすと、立ち上がって体勢を整えた彼女はにこやかに笑って私に話し掛けた。


「巻き込んでごめんねー。怪我はなかった?」

「えっはい、大丈夫です!」


素直にそう言うと、お姉さんは満足気に笑った。

そしてピンと指を立てた手のひらを振ると、キリッとした笑顔に切り替えてとんでもないことを言う。


「じゃ、私行くから!」

「えっ行くって?」

「こんなとこ1秒だっていたくないもん。君は見たとこ庇護対象みたいだし、多分悪いようにはされないんじゃないかな?」


いやいやいやいやいやっ!!

確かに私だけは丁重に扱われそうな雰囲気だったけど、どこだかわからない場所に1人ぼっちにはなりたくない!見ず知らずのお姉さんでも同じ日本人というだけで安心するし、何よりお姉さんは状況を理解している感じだ。出来れば一緒に居て欲しい!


ビッと親指を立ててバチンとウィンクを決め、「グッドラック!」と言ってお姉さんが立ち去ろうとしたその時、復活した王子様が立ち上がった。

怒りと床にぶつけたせいで顔を赤くした王子様は、感情に任せてお姉さんを捕らえるように周囲に命令をする。それだけでは飽きたらず、彼女の少し不健康な容姿を引き合いに出して散々に貶して睨み付ける。


その風貌から何となく彼女の労働環境を察していたのもあり、同じ女として私も流石にカチンときた。

でもそれ以上に、お姉さんは心底王子に対して呆れ果てたようだった。


怒りをあらわにする王子を煽るように鼻で笑い見下した視線を向け、神経を逆撫でるような声音で馬鹿にしたような言葉を選ぶ。冷静さを欠いた王子とどこか冷静に怒るお姉さんの対立は、誰が見ても後者に軍配が上がると思う。


やたらと口の回るお姉さんに乗せられるように、墓穴を掘るような幼稚な発言しか出来ない王子。更にお姉さんのスイッチを入れる一言を放ってしまった。


「っ……そもそも貴様など呼んだ覚えなどな、」

「実際喚び出されてんだよこちとらよぉ!!!!」


ダンッ!!!!とこちらにまで響くような地響きを伴って、再びお姉さんの足が大理石の床を踏みつけた。

成す術なく見守るだけの周囲も、ひきつった顔で体を仰け反らせる。


ただでさえ鋭い眼光を宿す瞳は瞳孔が開き、顎を上げて完全に見下す体勢を取ったお姉さんは王子の胸ぐらを掴んで引っ張り上げる。身長差などお構い無しだ。 完全にヤ●ザに絡まれた箱入り坊っちゃんみたいな構図に見える。


ドスの効いた低い声で捲し立てるお姉さんの言葉を聞く度、王子の顔からは色が失せていく。それと同時に、さっきまでのと合わせたお姉さんの怒声の内容を理解するにつれ、私の中でも段々と状況が整理されて感情が凪いでいく。ああそうか、信じたくないけど、ここは、この世界は、私は―――


ぼんやりと目の前の光景を見ていた私は、お姉さんが王子の胸ぐらを突き放したことで我に返った。

真っ白な顔色で立ち尽くす王子に、「はんっ」と鼻を鳴らしてお姉さんは自分の荷物を持ち上げる。そのまま出ていこうとするお姉さんに、私は慌てて駆け寄った。


「あ、あの!」


呼び止める私の声に、言いたいことを言ってすっきりしたのか、先程までの剣幕は欠片も残っていない寧ろ爽やかな表情でお姉さんは振り返る。


「わ、私、本庄芹奈です!」


王子には名乗ったけどお姉さんには名乗ってない。とにかく何か言わなきゃと口走ったけれど、先が続かず詰まってしまった。コミュ障か!


だらだらと汗を流して固まる私に、ふ、とお姉さんは笑い掛けた。


「籠音だよ。深沢籠音」


かごねさん。

頭の中で反芻する。


「籠音さん、どこか行く宛てがあるんですか?」

「さぁ……でもまぁなるようになるでしょ」


あっけらかんと答える籠音さんは、本気で何も考えていないようだった。さっきまでの罵声のバーゲンセールはなんだったんだ。


正直ここまで容易く籠音さんに転がされる王子に保護されたところで安心出来ない気がするし、そもそも自分は本当に聖女なのかとかその辺りの保証もないので不安は拭えない。

だからと言って籠音さんと一緒に出ていく度胸もなく、その場で足踏みするしか出来ない自分に正直ため息しか出ない。


「とりあえずその辺ぶらついてみるさ。帰るの諦めたくないし。あ、私のせいで芹奈ちゃんの肩身が狭くなっちゃったらごめんね?」

「いえ、そんなの全然!けど私だけ……」


私がここに残る選択をしようがしまいが、籠音さんが出ていくことに変わりはない。けれど私が我が身可愛さに、とりあえず最低限衣食住が約束されていそうなここに残ったとして、出ていったこの人に万が一のことが起こってしまったりしたらと思うと引き止めた方が良いんじゃないかとも思えたりする。王子を説得するのはとてつもなく面倒くさそうだけれど、正論で攻めれば多分イケる。


私も一緒に出ていくとしても、きっとこの人の足を引っ張ってしまいそうだし……と俯いて考え込む私に、籠音さんは眉を下げて笑う。


「あんなボンクラ王子だけどさ、君に酷いことはしなさそうだから。けど私が嫌だってだけで。でもまぁ、嫌になったらいつでも言ってよ。私も出来る限り力になって見せるから」


気休めではあっても嘘ではなさそうな言葉に、私は顔を上げる。

そうだ、さっき籠音さんは言った。「帰ることを諦めない」って。

私だって帰りたい。籠音さんが外に出て帰り道を探すのなら、私はもう一方から探した方が良いんじゃないだろうか。王子がいるってことはここ、もしくは向かおうとしていた場所は王宮だと思う。もしも私に本当に聖女めいた力があって、何か彼らに貢献出来るとしたら、調べ物くらいはさせてくれるんじゃないだろうか。


少しだけ道標が見えてきて、握った両手に力がこもる。


「…………わかりました。とりあえず、私もここから始めてみます」


まだまだ不安なことは沢山あるけれど、見えてきた希望で蓋をして考えないようにする。

けれど籠音さんにはお見通しだったようで、彼女は優しく私の頭に手を置いた。


「お互い頑張ろうね」


これが年上の余裕というやつだろうか。

なんの根拠も保証もない励ましに、今は縋る他なかった。


そうして今度こそ出ていった籠音さんを見送って、頑張るしかないんだ。と、自分に言い聞かせた。

頑張るしか、ないんだ。






まさかその日のうちに、籠音さんから思いもよらない形で連絡を寄越されて驚くのは、別のお話。

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