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『せ』のつく自由業始めました  作者: 旭日暮きと
オタ喪女聖女、爆誕。
4/13

04. うるせぇ黙って米を食え。

書いてます。書いてますよぉ……

テレレッテッテッ♪

テレレッテッテッ♪

オタ喪女!即席クッキングー!


まずはあばら家で発掘して綺麗に洗った2つの鍋に水を入れます。片方は火にかけ、片方には研いだお米を投入し、暫し浸します。ちなみにお米の研ぎ汁はあらゆることに応用が効くので、別の容器に入れて捨てずにとっておきます。


お米を浸している間に取り出しましたるは、現代社畜の鞄に忍ばせてあったコンソメポテチ(ミニサイズ)!常備している携帯非常食が切れた際にコンビニに立ち寄ったら無意識に購入していたものが役に立ちます。私はのりしお派だったけれど、今この瞬間は思考が停止していた購入当時の自分を褒め称えたいと思います。


コンソメポテチが入っていたプラスチックの容器を取り出し、ポテチ本体だけを戻して袋の中で粉々に砕きます。すり鉢があれば良かったけど、贅沢は言えません。それはそうとして小腹が空いていたので2、3枚ほど摘まみます。コンソメポテチはたまに食うと美味い。


さて、粉々に砕けたコンソメポテチを広げたポケットティッシュの上にまんべんなく敷き詰め、上からまたティッシュを重ねて軽く力を込めて押し、油を吸い取ります。本当はキッチンペーパーみたいなものがあれば良かったのですが、やはり贅沢は言えません。

ポケットティッシュの繊維が砕いたポテチの欠片にくっつかないように注意して、沸騰している鍋の中にはいどーん!……とは、しないでサラサラと流し入れます。

コンソメの味がよく溶け出すようにぐるぐるとかき混ぜ、少し味見をします。薄い。塩胡椒で整えます。え?何故塩胡椒があるかって?なに簡単、世の中物騒だから小瓶で2つ目潰し用に持ち歩いていただけのこと。我が家のおばあちゃんの知恵袋である。


そこそこ味が整ったところで釜戸から外し、お米の鍋も火に掛けます。鍋でご飯を炊くなんて中学の調理実習以来で自信がありませんが、やるしかないので二の足は踏んでられません。

はじめちょろちょろなかぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな。

お米を釜で美味しく炊く為の呪文です。現代では活用する機会がないに等しい呪文ですが、先人の知恵とは馬鹿に出来ないもの。釜ではなく鍋炊きなのでどこまで通用するかわかりませんが、あとは祈るしかないでしょう。


「腹減った……」

「何でこんな良い匂いすんだよ……」


後ろのテーブルでぐだっと待っている野郎共から力ない声が上がる。数日まともに食ってないところにコンソメスープ擬きの匂いはさぞ腹にしみることだろう。ざまみろ。


コンソメスープ擬きの方は砕いたポテチも入っているだけあってスープとしてはアレだが、味は塩胡椒のお陰で何とか整っているので使える。問題はメインディッシュになるものがないのでご飯だけで何とかしなくちゃならないところだが、この状況で贅沢なんか言わせない。とにかく出来るだけ腹いっぱいにさせることを優先する。でもなぁ……


「せめて卵とか葱があればなぁ……」

「あら、卵ならあるわよ?」


鍋の前でため息を吐いたところで、背後のやたら近い距離でハスキーボイスに囁かれた。

低くて男らしいのに、女性らしい柔らかい雰囲気と声音。そしてあまりに違和感のないオネェ口調。


突然のオネェ降臨にぴゃっと肩をすくませ、ギギギ、と錆びたブリキの如く首だけ動かして振り返る。と、切れ長の瞳をにっこりと細めたやたらキラキラしい金髪ボブカットのイケメンフェイスが、互いの吐息がかかる距離に出現していた。


「ぎゃああああああっ!?」

「あらっ失礼しちゃうわね。お化けでも見たみたいに」

「いや大差ねぇだろ」


余計な一言を洩らしたガナルが鳩尾に拳を貰って沈む。うわ、痛そー。握り締められた拳はがっしりした漢の拳だった。確実に私のものより殺傷能力が高い。


咄嗟に驚いて鍋の前から飛び退いた私に改めてオネェが近付き、極めて女性的な仕草で顔を覗き込んでくる。突然のオネェ出現とイケメンのゼロ距離来襲に心臓はバックバクだ。表情筋が引きつってしょうがない。

そんなことはお構いなしにオネェは微笑んでくる。負けた。いろんなものが。


「こんなむさ苦しいトコにお嬢さんがいるなんて珍しいわね。コイツらに何もされなかった?」


荷物ひったくられたところを文明の利器使って来襲しました。あとお嬢さんて年じゃないですアラサーです。

とは、言わずに黙ってコクコクと頷いて見せると、「そ」と満足気に離れてオネェは背筋を伸ばす。うわ背ぇたっけぇ。スラッとした立ち姿が見事に様になってる。清潔感のある白いシャツに長いベージュのスカートが見事に似合って……スカート?いや駄目だ何も言うまい。


「アタシはレオナルド。レニーって呼んでくれたら嬉しいわ」

「か、籠音です……」


イケメンオーラと美女オーラが混在した何かに圧倒されて言葉が出ない。辛うじて名前だけ告げるとレニーはにっこりと微笑んだ。眩い。


「カゴネちゃんね。可愛い名前だわ。見た通りここはコイツらの根城みたいになっててね、たまに顔出して食料分けてやってるんだけど。久々に来たらまさか貴女みたいな女の子がいるなんて驚いたわ。しかも何だかお料理作ってくれてるみたいだし」


あっ料理!

レニーの言葉で思い出して慌てて鍋の前に戻ると、ご飯の方は吹き出す寸前だった。危ない危ない。

少し火を弱めてもうちょっと炊く。だいたい2分くらいかな。


「いい匂いね。これは何かしら?」

「お米を炊いたもので、えーっと私の故郷じゃ大体ご飯って呼んでるかな」

「コメ?あれって非常食じゃないの?」

「確かに昔は非常食にもしたらしいけど、お米は普通炊いて食べるよ。お肉とかお魚とかのおかずと一緒に食べると止まらないんだよね」


炊きたての白米に添えられた焼き魚や生姜焼き。考えただけで腹が減る。タレの染み込んだご飯はそれだけでも充分美味い。


「でもさっきは卵があればって言ってなかった?」

「おかずになるものがないから、単純にご飯だけでお腹いっぱいになるレシピにしようと思って。でもやっぱり具材がないのは寂しいし、だったら個人的には卵があったら嬉しいなーと」


まぁ卵って基本異世界だと高級食材だよね。…………あれ、そういえばさっきレニーなんか言ってなかった?


「じゃあはい、この卵使って頂戴?」


にこやかに私の手を取って渡してきたのは紛うことなき卵。見た目も大きさも手触りもまんま鶏卵だ。この世界には鶏もいるのか。

じゃなくて!!!!


「えっ?えっ?ここって卵って高級食材じゃないの?」

「もちろんそれなりにお高いわよ?でも私の知り合いに卵農家がいてね、たまに少し融通して貰ってるのよ」


頬に片手を添えて嬉しそうに語るレニーは本当に眩い。いやそうじゃなくて。


「いいの?こんなあばら家クッキングで消費させちゃって。美味しく出来るかもわからないんだよ?」

「あら、勿論良いわよぉ。その代わり、少しご相伴に預からせてくれるかしら?」

「それはまぁ、構わないけど……」


ヤバい、ちょっとハードルが跳ね上がった。野郎共に食わせる分には多少味がアレでも文句は言わせないつもりだったが、こんな麗しオネェ様の口に入るからにはもっとマシな形に仕上げなくては。


しかしどうする。今の材料じゃコンソメスープ擬きの味は多少濃くするくらいのことしか出来ない。

……………………………………………………腹を、括ろう。


諦めてレニーがニコニコと見守る中、片手で卵を割って手早く溶き卵にする。箸は流石になかったからスプーンで代用だ。

ご飯の炊き上がりを確認すると、中学振りの鍋炊きにしてはなかなか上出来な仕上がりになっていてテンションが上がる。

火を止めてから一口別のスプーンで掬ってふぅふぅと冷まし、いざ実食。素晴らしい。少し柔らかいけど芯も残っていないし、いい出来だろう。炊きたてほかほかの白米様だ。


鍋蓋を取ったことで広がる炊きたてご飯の香りに、野郎共の喉がごくりと鳴る。ふはははは、凄まじい飯テロじゃろう。まだまだお預けじゃ。


ご機嫌に次なる工程に移ろうとすると、すぐ傍で私の調理風景を見守っていたレニーが、片手で口元を塞ぎながらキラキラとした目で真っ白に輝くご飯を見つめているのに気が付いた。


「………………」

「………………」


……し、しょうがないなぁ。


綺麗に洗われたお茶碗サイズの器を手に取り、一杯分のご飯をよそう。

スプーンを人数分用意して、野郎共が座るテーブルの真ん中にどんっと置いた。

その場の全員が浮き足立って再びごくりと唾を飲み込む。


レニーを含めた全員にスプーンを渡して、私は腕を組んだ。


「試食だよ。これ以上は流石にあげられないから、全員一口ずつ味わって食べな」


私の言葉に野郎共は顔を見合わせる。どうする、と戸惑う野郎共の隙間から手を伸ばし、躊躇いなくレニーが最初の一口を掬い取った。


ほかほかとまだ湯気が立ち上るご飯をじっと眺め、期待に頬を染めながら、ぱくっとレニーはご飯を口に入れた。その様子を、スプーンを片手に握り締めたガタイのいい野郎共が固唾を飲んで注目する。なんだこれシュールか。


レニーは最初は熱さに驚いたものの、何度もよく噛んで味わううちに、その目は真ん丸に見開かれる。


「……美味しいわ」


ぽつりと呟かれた感想に、私はぐっと拳を握る。嘘ではないだろうことは、彼の表情を見ればわかる。


レニーの様子をじっと見ていた男たちは、彼の言葉にまた顔を見合わせて、握り締めていたスプーンで次々にご飯を救い取っていく。ぱくっ、ぱくっと各々口に入れるや否や、驚きに満ちた表情でご飯の残る器を見つめる。


「美味ぇ……」

「食ったことねぇ」

「マジで米かよ……」


語彙力のない感想を洩らす野郎共にちょっとだが鼻を明かしてやった気分だ。米を非常食としか思っていなかった奴らに革命をもたらしてやったのだから。


惚けーっと炊きたてご飯の余韻に浸る男たちに背を向け、こちらは最後の仕上げにかかる。日本の伝統食の真髄を見よ、と言いたいところだが材料が材料なのでどこまで行っても擬きでしかない。せめて紫蘇や葱があれば良かっただろうが、ないものねだりはキリがないし、レニーが卵をくれただけでも充分だ。


そこそこ味の整ったコンソメスープ擬きに炊けたばかりのご飯を投入する。焦がさないようにゆっくりとかき混ぜ、全体的にとろみがついてきたら卵を鍋の中心から外側に回すようにそっと入れていく。ぐつぐつと煮立つ鍋にふわりと黄色いものが広がり、卵のいい匂いがボロボロの家屋いっぱいに広がる。


ぐうううう。

誰かの腹の虫が鳴った。

振り返るとレニー以外の男たちは揃いも揃って明後日の方向に目を逸らしており、いっそわかりやすいほどに誰と誰と誰と誰の腹が鳴ったのか教えてくれていた。


思わずくすりと笑ってしまってから火を止める。卵はふわとろ、コンソメポテチと塩胡椒でシンプルに味付けをした黄金雑炊の完成だ。


冷めないうちに人数分の器によそい、未だにテーブルで呆けている野郎共の前に並べてやる。

空腹加減に関しては野郎共より格段に軽い為だろう、1人正気を保っていたレニーがいち早く器の中身に反応する。


「何かしらこれ。お米なの?」

「そ。お米をもうちょっと水分多めに煮込むとお粥とか雑炊って食べ物になるの。こっちのが消化吸収に良くてね、こいつら普段から碌にご飯食べてないみたいだからこっちのが良いでしょ」


あと、水で量かさ増ししてコンソメと塩胡椒の味付けで色々誤魔化す目的もあったり。本当にレニーが卵持ってきてくれて助かった。ただコンソメっぽい味のするお粥と卵の入った雑炊じゃ雲泥の差ってものがある。


テーブルにはもう席がないので、行儀は悪いが私はキッチンの壁際に立って食べさせて貰う。


「さて、文句は聞かないよ。食いたくなきゃ食わなきゃ良い。但し捨てるなり粗末にしたらそれなりに覚悟はして貰う」


以上、と締め括って一足先に頬張らせて貰う。うーん、微妙。不味くはないけど美味くもない。やっぱりコンソメポテチベースだと厳しかったか。


まぁ食べれなくはないので腹に収めていく。腹が減っては戦は出来ん、と昔の人は言った。その時代の人からすれば白米に卵の黄金雑炊なんて卒倒ものの贅沢品だろう。慎むべし慎むべし。


ぱくぱくと淀みない手つきで食べていく私の様子を見て、最初に手をつけたのはやっぱりレニーだった。好奇心に煌めく瞳で雑炊を一口掬い、ぱくっと口に入れる。


その瞬間、レニーは大袈裟なまでにキラキラと目を見開き、白い頬をうっすらと紅潮させた。


何も言わずに一口、二口と雑炊を口に運んでいくレニーの様子を見て、ガナルが生唾を呑んで目の前の器に手をつける。

そして一口食べる彼に続いて、残りの三人も各々雑炊を口に運ぶ。


カチャ、と躊躇いがちにつけられた最初の一口が、一瞬の間を置いてガツガツと器の中身を一気に掻き込む音に変わる待て待て待て、いくら流し込みやすい雑炊でも喉に詰まらない訳じゃないぞ。


慌てて水を用意しようとする私の前に、ずらっと空の器を持った男共が並ぶ。おかわりってかこのやろう。


「え、待ってレニーも?」

「だって美味しいんだもの」


語尾にハートマークが見えましてよオネエさん。


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