無くした切符2
思わず欠伸が出てしまいそうな、秋の陽光を背中に受けながら、安っぽいシートの上で志木は右手に握られた切符を眺めていた。もちろん欠伸など出ようはずもない。
「これはあの時の忘れものなの?」
コンビニで買ってきたペットボトルを握り締めながら、間ケ部が呟く。もし志木の鞄から出てきた切符がこれ以外のものだったなら、きっと目の前で伏せ目がちな表情を崩さない女性を傷つけることはなかった。
「忘れものじゃない、無くしたと思っていたんだ」
薄青色の切符は所々擦れていたが、十分に印字された文字を見てとれる。印字された日付は志木と間ケ部が一年前に出逢った日だった。東京都営地下鉄のとある改札内で、切符を無くした志木は駅員であった間ケ部に、話しかけていた。
「きっと祐司はあの時電車に乗って行ったあの子に切符を持ってもらっていたんだろうって思っていた」
下唇を噛みながら、間ケ部は目線を上げる。その目には、世界中の悲しみが凝縮されたような、一抹の光がかかっているようで。
「祐司があの駅に初めてあの子と来た時に、私はあなたに恋をした」
志木の手に握られた切符は本来の役割を忘れて、ただ一人、息をしている。
「あの子に向ける祐司の柔らかい笑顔が好きだった、それが私に向くことなんてないって思っていた、仕事ばかりの毎日に、たった一目見れた日にはただただ幸せだった」
言葉を区切った間ケ部は空を見上げる。霞がかかり始めた秋空に、東京では珍しい赤とんぼが飛び交う。
「そんなあなたが切符を無くしたって私に話しかけてきたとき、本当は心臓が止まるくらいに嬉しかった…例え祐司が…」
続きの声を間ケ部が発するまで、志木は二度その表情を盗み見ていた。塞き止めることが出来なかったのか、嗚咽とともに声が聞こえる。
「祐司が…駅のホームで泣いていたって」




