第二幕 〔目覚めの兆し〕 第二場 柊筮 わが身の不思議
柊筮は高い尖塔の屋根の上、尖塔飾りに掴まりながら軽々と、夜のなかに立っていた。
その、すらりと伸びた背丈と四肢は、時の流れが狂っているとしか言いようがなく、“赤子”というより既に“少女”であった。
今日もまた、静かに夜は更けていく。
飛びかう小さな妖精の羽音が、常夜灯の灯りを揺らしている。
空に向けて手を差し伸べる。指先に星たちが、かしましく降りてくる。
だが、柊筮は、どことなく苛立たしげに溜め息をついた。集まった星たちが、さらさらと掻き消えていく。
(父さまも母さまも、誰も知らない)
頭のなかにときおり響く、古い言葉と思われる呪文の詠唱だとか、怪我したところに手を翳せば、裂けた傷がその瞼を閉じていくだとか……
(物語にみた魔法と同じだな)
侍女のリシアも気づいてないはず、いや、気づかれないようにしている。
柊筮は、まだ幼く儚い夢色の羽根を羽ばたかせて、ふうわりと地上へ降り立った。緋色のトーガの裾が、少し遅れて閉じていく。
両手を後ろ手に組み、小石を蹴るようなステップで歩き出す。
独り言のように、詩を詠むように、ぶつぶつと独り言ち始める。
「老狼は相談相手、栗鼠は道化た慰め役」
心を許せる友たちだ。
「白い牝馬は親友で、黒い豹はわたしの恋人」
ふと、柊筮は歩を止めた。
(黒豹……こい、びと……)
なぜか、甘い痛みを覚えて唇を噛む。
だが、また物思いに耽りながら、明るい月明りの下、地に着くか着かぬかの軽い裸足で湖のほとりに辿り着くと、ふいに両腕を天へ差し上げ、語りのように歌い始めた。
「月の輝く紺色の夜に、澄んだ湖面でわたしは踊る」
南嶺のものではない言語と抑揚で、淀みなく歌い続ける。
さあみんな 跪け
病める者には快復の朝を
貧しい者には豊かな卓を
希え さらば進ぜよう
集え この手で授けようぞ
しん、と、湖面は凪いだままで、応えるものもない。向こう岸の下生えのなか、石の陰で地の精がぴくっと目を覚ましていたとしても、気づかない。
柊筮は、また綺麗な眉根をきゅっと寄せると、上げていた両腕を、まるで吐き捨てるように振り下ろした。
(だけど……)
この力は、いったいなんなのだろう。
鬱屈として俯いた先で、長い銀髪が揺れていた。南嶺国ではあり得ない髪の色だ。
「ヴァモスにでも、訊いてみるか……いや、あいつはちょっと……」
殺されかけたことがある。
別に恨みになど思っていないが、あれ以来、あっちが委縮しているように見える。
(ただ、疑問に答えてほしいだけなのだが……)
あの若い魔術師のことだ、わかりやすく狼狽しそうだ。
「ふぅ……」
結局いつもこうやって、ぐるぐると自問自答して終わる、消化不良な日々が続いていたのだった。




