第一幕 王女誕生 第四場 侍女リシア 柊筮との対面
翌朝、柊筮と名付けられた御子の世話をするよう言いつけられた侍女のリシア・シャーロは、真新しい衣服や替えの寝具などを腕いっぱいに抱えながら、頬を紅潮させて怖がりもせず、魔の子に見惚れていた。
昨夜、誕生したばかりの赤子であるはずだが、もう、掛けられていた掛布から細い手足が飛び出している。三つになるかならないかぐらいの美しい幼児が、そこにいた。
それさえも自分だけが知っている秘密かと思うと、畏れるというよりも惹きつけられてやまないのである。
彼女は天蓋付きの豪奢なベッドに眠る柊筮を起こさぬように気を付けながらも、いつしか歌うように呟いていた。
噂なんてあくまで噂
心優しい城主さまが
御子を殺せと命じたなんて
だってこんなに美しく
こんなに高貴な顔立ちは
今まで見たこともないくらい
噂なんてあくまで噂
魔力の強い異界の生命が
災いの種になるなんて
だってこんなに邪気がなく
こんなに神に近い空気は
感じたこともないくらい
リシアは、香炉に爽やかな香を焚きしめ、湯桶にたっぷりと湯を入れる。少しばかり入れ過ぎて、湯が縁から飛び出しそうになる。
それを慎重にベッド脇まで運んでくると、改めて主の寝顔を見入った。
『まるで天使のようだ』などとよく言うが、正真正銘、本当の妖精である。そんな主に仕えることができるなんてと、リシアはふるふるっと感極まって身震いした。
あらわす言葉が見つからずに、リシアは畏れながらも指を伸ばしてみた。
石膏のように滑らかな肌だ。
それに絹のように艶やかな髪。
耳はといえば、先の方が尖っている。
いつまでも眺めていたかったが、リシアは自分の勤めを思い出した。起こさないように、そっと、起こす。
「柊筮さま、朝ですよ」
するとーー
氷雪の妖精が、ゆるゆると目を開いた。
長い氷の睫毛に隠されていた、醒めるような碧玉が現れる。
「あぁ……」
リシアは、思わず感嘆の息を洩らした。無感情に見つめてくる妖精の視線に、胸が締めつけられるようだ。
(ヴァモスが恐れていた、邪眼って、このこと……)
だが、リシアは、呪われるというよりは、魅了される心地よさの方が勝っていた。
瞳の奥に運命の軌道が見えるようで、目を逸らせない。
夢見にまどろむ唇が、今にも語るようで身動きできなかった。
「……小さな、聖なるご主人さま」
リシアは、畏れげもなく、柊筮に語り掛けた。
今日から私は貴方の僕。貴方の思いで私は息づき、貴方の思いで息絶えましょう。
すると、リシアの胸中が読めたかのように、妖精の子はゆっくりと起き上がり、ふっと微笑むと、その手をリシアの頬に伸ばした。
「リシアと申します。以後、お見知りおき下さいますよう」
窓も開いてはいなかったが、リシアの結い上げた長い金髪が、そよいだ。
リシアは目を閉じ、今一度、誓うのだった。
御子を狙う邪霊の爪には、この身を楯と捧げましょう。
ひたすら気高く美しく、貴方が成長されますように、と。




