第四幕 死または再生 第五場 運命の女神の独白/第六場 南嶺との決別
我いま手にしたこの糸で
如何なる運命を紡げども
柊筮になんら恨みなどなく
哀れむ心で絵もままならぬ
第六場 南嶺との決別
霧が香る。夜が明ける。
柊筮は、溜息交じりに身を起こす。草木の露が頬にかかり、湖面をわたる朝の風が悪夢の寝汗を拭い去っていく。
森の奥の湖畔の四阿、その近くに柊筮は倒れていた。一糸まとわぬ姿だったが、もとより人の子ではない。見かけた者がいたとして、驚くのは裸身だからではないだろう。
(誰がわたしを生かすのか)
柊筮は頭を抱え込んだ。
(誰がわたしを求めるのか)
ただ、はっきり判ったのは、恐ろしいほどに明らかな運命の輪の止まらぬ軋みだった。
何のために生かされたのかは皆目わからなかったが。
靄が晴れていく。朝の光が息づいてくる。南嶺の城に朝が訪れる。
目撃た者がいたとは思えないが、報せた者がいたらしい。投身した王女の身を案じて、塔の高みから人の声が降ってくる。捜索の手がここまで来るのにさほど時間はかからないだろう。
これ以上、誰のために生きるのか、柊筮にはわからなかった。
だが、ひとつだけ、はっきりとしたことがある。
恐ろしいほどに明らかな、胸の裡の孤独と安堵。
(独りで、生きて、いいんだな……)
もう、誰のことも気にせずに、独りで居ていいのだ。それで、いいはずなのに。
(あぁ、そうだ……)
ふと、思い出すのは、泣き崩れていた魔術師の姿だ。
(ヴァモスは大丈夫だろうか)
真面目過ぎるあいつのことだ。悔やむあまりに気が触れなければいいが……。
運命の輪は廻りはじめた。その軌道からは逃れられない。
柊筮は、城とは反対の、踏み込んだことのない森の方へと歩き始めた。
銀の頬にぽろりと零れたものがあったが、拭おうとはしなかった。




