第四幕 死または再生 第一場 弟 箕郷の初恋の詩
王城の一室では、吟遊詩人が招かれていた。あまり声を張らず、あたかも子守歌のような歌い方で、主のために歌っている。
南嶺王子、箕郷の居室である。
箕郷はバルコニーに出て欄干に頬杖をつき、ぼんやりとその歌を聴くともなく聴いていた。己の想いを代弁する歌を捧げてもらっている割には、箕郷の表情はどこか他人事のようだった。
そのまま深く暗い地底へ
沈みそうな長い夜に
掠れた声で歌いながら
竪琴を爪弾く姉さんが好き
奏でられる哀しい音色と
びんと震える白い弦に
細い指もろとも
絡まれて 囚われて
ずっとそばにいられるから
春に蝶を追い
夏に水と戯れ
秋に木の実を拾い
冬に窓に文字書くぼくを
静かに眺めているけれど
碧玉色の大きな瞳は
いつも彼方を見ているね
ぼくにはそれが少し淋しい
暗い森の奥深く
霧のなかに分け入って
泡の軽さでステップ踏んで
散策をする姉さんが好き
溢れる緑の木漏れ日と
森の精の歌声と
群れ集う野性の友に
囲まれて 愛されて
まるで女神のように見えるから
箕郷は、捉えどころがなければないほどに、まるで引かれるように、姉を想う気持ちを募らせていた。
夏のように攻撃的でもあり、秋のように排他的でもある。
冬のように閉鎖的でもあり、春のように抽象的でもある姉ーー
四季に喩えてみるならば、四季そのものの属性を持つような柊筮が、自分の全宇宙だと、生まれたばかりの恋心を育みはじめていた。
この世に女神がいるならば、神秘のロッドを左手に持つ彼女こそが世界を廻してるのだとさえ、甘く思う。
(貴方が悪夢の虜ならば、ぼくは貴方の虜となろう)
そんな自分の、若く無鉄砲な恋慕に、自分自身が酔い痴れているとは思ってもいない。
(闘い護れぬものならば、せめて共に滅びよう)
箕郷は、未だ静かに唄い続けている吟遊詩人に背を向けて、今宵の満月に向かって誓うのだった。
運命の輪の舵をとれ、時であり季節である人よ。
庭の萌える緑を見よ、すでに春は訪れた。
もはや冬に戻ることはあり得まい。いま、すべてが動き出す。




