第二幕 〔目覚め〕の兆し 第五場 魔術師ヴァモスの苦悩
「あぁ……どうしたらーー!」
魔術師ヴァモスは、今宵何度目かの苦しい叫びを噛み殺した。
「伝えるべきか? 秘するべきか?」
自問自答しては頭を抱え、意を決してはまた『いや、いやそれは』と頭を振る。
(心を悩まし戸惑う前に、伝えるべきなのだろうか……)
ヴァモスは、柊筮の姿を思い浮かべた。人間でいえば10歳くらいの、透き通るような少女の姿。凛として気高く、怜悧で聡く、怖いほどに美しく、そして圧倒的に孤高だった。
ひとつ下の箕郷王子といるときも、侍女のリシアといるときも、寄せ付けない帳をまとっている。
それが、決して拒否ではないとわかるのが、ヴァモスには逆につらかった。
(あれ……そういえば)
ふと、何かに気づいた。
(箕郷さまとは一歳違いのはず)
姉さま姉さまと、無邪気に絡んでくる弟王子を、邪険にするでもなく、だが構いもしない姉王女の姿を、バルコニーから見かけたことがある。今まで気にも留めなかったが、箕郷の方が背も高くはなかったか。
(男子だから、かもしれないが)
生後すぐに一気に現在くらいの背丈になったのに、そういえばそこで柊筮の成長が止まっている。
(……)
ヴァモスは思いめぐらせた。
(取り替え子の意志に関わらず、内なる魔力は次第に目覚める)
(いや、一気に爆ぜるか?)
(引き延ばせても阻止はできない)
それにーー
(遠い未来のことでもない……)
強い魔力は制御が為されなければ世界をも滅ぼし兼ねない。自分自身でそうと認識していなければ、混沌の渦に呑み込まれてしまう。
(とはいえ、己の真相を知れば知ったで迷宮となるーー)
ヴァモスは、ついと立ち上がった。うろうろ室内を歩き回り、ふと窓辺に近寄っていく。
今夜はやけに月が明るい。隠しておきたいことのすべてを、晒されてしまいそうだ。
あの、丘の遺跡の園で、呪術をかけて亡き者にしようとした、あのとき。己を模した藁人形を拾い上げ、似ても似つかぬ様相に呆れたように笑ったのかと思っていたが……。
ヴァモスは、あのときの柊筮の微笑が脳裏に焼き付いて離れなかった。
他人の口から聞く前に、一度はこの手にかけようとしたわたしが伝えるべきなのかもしれない。そう思う傍から、あの微笑が浮かんでは消えた。
あの子は誰の手も取らないのかも知れなかった。




