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ホッグ・ノーズ -Bygone days-  作者: ひろひさ
梅竹義人の憂鬱

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4/17

覚醒の白き騎士

 総理の会見から1週間が過ぎた。やはり世界は大いに荒れ、各国ともに義人と優人、2人の情報を日本に求める。しかし、総理はこれを頑として押し退け、未成年者であるにも関わらずその情報を求めるなど言語道断であると逆に評判落としの策を講じた。 

 これが一定の効果を奏したのか、トーンダウンした国が出てきたのも事実である。


 総理がなぜ秘匿から一転、公表に至ったのかというと、義人たちに寄生した地球外生命体、他3匹の存在が笹川家を含む周辺の防犯カメラの映像から明らかになったからである。1匹は現場付近で死亡しているのが確認され回収されたが、残り2匹の行方は未だ不明。そのため、能力者及び地球外生命体による人命の危機が容易に想像されたからでもあった。


 この迅速な対応と諸外国に対する強気な姿勢が国民に受け、内閣支持率は鰻登りとなる。今や総理は時の人となった。


 一方その頃、義人はというと、面会謝絶を解かれ、寝ているのか起きているのか判らない。ギャグマンガ時空の住人となってしまった優人の見舞いに顔を出し、残りは能力研究と身を守る為の修行を行っている。


 今日も筋トレ―!!


 この1週間、義人の放課後は一変した。月曜から金曜まで佳歩の送迎で『陸上自衛隊富士駐屯地』まで行くのが日課となり、そこで筋トレや逃げ方、避け方の訓練、そして自身に宿った能力の研究を行う。


 彼は何ができるのか。言葉だけでなくその研究資料を内閣直轄の研究機関として新たに設立された『超常現象研究所』は集めている。


 義人はこの時間が何よりも楽しかった。自宅でも自主的にトレーニングを行うほど、のめり込んでいる。


 筋トレはやればやるほど成果はすぐに肉体の変化へと現れ、『触腕を出す』。『触腕を硬化させる』。『クモやヤモリのように壁や天井を歩き回る』。『アームキャノンを放つ』など自身の能力を研究員の前で披露すれば喜ばれ、CQCや逮捕術を学べないのは不満ではあったが、逃げること。避けることの重要性と下手な反撃は法的に不利になると説かれ、納得してナイフや銃、複数人を相手に襲われた時の対処法などを体に覚えさせていた。お陰で彼は失っていた自分に対する自信と誇りを取り戻し、彼の生成する4本の触腕には無限の可能性があることを学んだ。


 そして何より、道中での佳歩との会話が楽しかった。共通の趣味であるアニメや漫画、ゲームや小説、映画やドラマの話。これが一番の楽しみだ。


 さらに彼は彼女の隣にいても恥ずかしくないよう見た目にも今まで以上に気を使うようになる。そして引き出しの少なさを痛感し、話し方の勉強や話題探しも行った。勉強もした。少しでもいい大学に行けるよう、褒めて貰えるよう努力をした。相手にされる訳がないと解ってはいたものの、何もせずにはいられなかった。走り出したら止まらない。とにかく、がむしゃらだったのである。


 こうして時は着実に進んでいき、20日の誕生日を迎え、義人は16歳となった。






 12月21日金曜日。午後9時3分。


「どうすっかな……」


 巨大なベッドが部屋の中央に鎮座するホテルの一室で右腕に髑髏と蛇の、背中には龍の入れ墨を入れた男がベッドに腰掛け佇んでいる。割れた腹筋を見せつけるかのように上半身は裸で、下はジーパンを着用していた。


 髪は側面を刈り上げたオールバックのような短い金と黒。顔は小さく、目には獰猛な肉食獣のような鋭さがある。


「だりいなぁ……」


 男に背を向ける形で横になっている全裸の女性。長い茶色の髪が美しい顔を覆い隠すが、その表情はあの世の責め苦を受けたように酷く歪んでいた。腹が割れ、血を垂れ流し、白いシーツを赤く染めている。内臓はかろうじて中に留まっているが、とても生きているようには思えなかった。室内には死の臭いが充満し始め、その不快臭が脳に到達し、苛立ちを覚える。


 この力のせいだよなあ……。


 右の前腕に力を込めると、筋肉が盛り上がり、巨大な鎌が腕から生えた。獲物を切り裂き、突き刺し、食らい付く。まるでカマキリの鎌だ。


 死んだ彼女とはクラブで知り合った。この体になってから酔わなくなったものの、性欲をぶつける相手欲しさに暇潰しも兼ねていつものように顔を出す。声を掛けると邪険にされることなく意気投合。トントン拍子で話は進んでいき、体を重ねることになったのだが、避妊具を使わなかった結果、彼女は適合者ではなかったため、凄惨な最後を迎えることになる。


 めんどくせぇなあ……。


 また捕まるのか。そんなことを考えていると、突如インターホンが鳴り響く。


 なんだよ、こんな時に……。部屋間違えてんじゃねえよ、馬鹿が。


 そのまま黙っていると、もう一度呼び鈴が押された。


「チッ」


 ぶち殺されてえのかっ!!


 一気に頭に血が上り、ドアに駆け寄り有無を言わさず殴り殺してやろうかと息巻いたところでふと、上手くやればこいつに罪を擦り付けられるんじゃないかと思い直す。


「…………」


 なら、話は別だ。裸足のままドアへと近づく。すると突然、頭の中の何かが囁いた。こいつは同族であると。男は鎌を背に隠し、ドア越しに声を掛ける。


「——何の用だ」


 迷っている暇はない。俺を殺しに来たんなら返り討ちにしてやる。


 そう覚悟を決めてはいたものの、ドアの前の何者かは落ち着いた声で優しく語り掛けてきた。


「お楽しみのところ申し訳ありません。お困りかと思いまして。助けに来ました」


 ――若い男の声だな……。


 声の感じからひょろっとした線の細い男を想像する。


 勝てるな。


 男は慢心し、気が大きくなる。


「わりぃけど、こっちからは開けられねぇんだわ」


 ドアは自動施錠。支払いを終えないと出られないようになっている。


「問題ありません。『——開けてください』」


 何言ってんだコイツ。


 すると、ドアが開錠された。


「!?」


 男はゆっくりと距離を取る。背後に隠した得物の長さはナイフ以上。直剣未満といったところだ。


 ドアが開き、謎の男が姿を現す。身長は175センチ程度。細身。女受けのよさそうな顔をしている。


 なにモンだ。コイツ…………。


 長めの黒髪に切れ長の瞳。黒のチェスターコートに白のパーカー。そして黒のスキニーパンツを着用していた。そんな男の隣にはセーラー服にスクールコートといったいで立ちの清楚な少女が虚ろな表情で突っ立っている。


「武器は仕舞って頂けると助かります。戦いにきた訳ではありませんから……。——うわっ。これは酷い」


 にへらっと笑う表情にコイツもこちら側の人間かと判断する。


「悪かったよ。俺も突然のことでビビっちまってさ。ピリピリしてたんだよ。解るだろ?」


 そう言って両腕を上げ、右腕の刃をゆっくりと仕舞った。


「それがあなたの能力ですか」


「他にもあるぜ。なんなら見せようか?」


 ただのハッタリではあったが、優男の関心はそこではない。


「いえ、大丈夫です。時間もありませんし、早く問題を片付けましょう」


 少女の手を引き、スタスタと中へと入ってくる。


 なんだ? クスリでもやってんのか?


 目の焦点が合っていない様子に男はそう考えた。


「ああ。コイツをどうにかできんなら早くやってくれよ。礼は弾むぜ」


 コイツの目的は金ではない。今までの経験からなんとなく解る。仲間が欲しい。ただそれだけ。でなきゃコイツはここには来ない。


 それぐらいのことは男にも理解ができた。


 問題はその方法だ。どんな能力を隠し持っているのか。男の関心が彼にも伝わったようで、優男は再び笑みを浮かべる。


「金なんて要りませんよ。自分は仲間が欲しいだけなので。仲間を助けるのは当たり前でしょ?」


 その問い掛けに男は白い歯をギラリと見せた。


「そうだな。仲間を助けねぇようなヤツは男じゃねぇ。そんなタマなし野郎。俺は嫌いだね」


「ですよね。では、始めます」


 そう言って掲げた両腕から白い触腕が3本ずつ伸びてくる。2本は注射針のように、もう1本はミミズの化け物のように口を開いた。


 何をする気だ?


 男は思わず覗き込む。


 1本は左上腕部に、もう1本は腹部に刺し、そして最後の1本はシーツの血にその口を付けた。すると女の体に薬剤を流し込み、同時に浸み込んだ血液を吸い取っていく。


「おおっ!! スゲぇ!!」


 みるみるうちに赤い血の色から純白のシーツへと戻っていき、裂けた腹も塞がっていった。


「マジかよ。お前、スゲぇなぁ!!」


 思わず感心すると、優男は嬉しそうに笑みを返す。


「ありがとうございます。でも、本番はここからですよ」


 そう言うと、2つの再生を終えた優男は1本だけを残して回収し、「起きろ」と事切れた女に指示を出す。


 いや、まさかな……。


 そう思ったのも束の間。事切れていたはずの女がゆっくりと上半身を起こしたのだ。


「おいおいおいおいッ!! マジかよッ!! スッゲーな!! おいっ!!」


 目を大きく見開き、その瞳を輝かせ、先程まで近づこうともしなかった彼女の元に大股で歩み寄る。顔を見ると、やはり少女のように生者のそれとは違う色をしていた。


「生き帰ったのか!?」


「まさか」


 優男は首を振る。


「一時的に動けるようにしただけです。簡単に言えば従順なゾンビですね。とは言っても、噛まれても感染したりはしませんが」


 クックックと優男は笑い、男も白い歯を覗かせた。


「いや、スゲーよ!! 何言ってんだよ!! めちゃくちゃスゲーじゃん!! ありがとよっ!!」


 気付けば男はガッと優男の手を握り、固い握手を交わす。


「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」


「そんじゃ、俺たちはこっから早いとこオサラバして……えーっと、そうだ。お前、名前は?」


 尊大な物言いに気を悪くする様子を微塵も見せることなく、優男は口を開く。


「そうですね。お互い、情報が少ない方が何かと都合がいいでしょう。自分のことはどうぞ、『4番』とでもお呼びください」


「ヨンバン? ああ、他に2人居るからか」


 さすがに普段ニュースを見ないこの男も人類初の能力者については自分のこととして目を通していた。


「はい。そうですね」


「するってえと、俺が『3番』か? なんか嫌だな。3番って……。どうせならこう……もっとカッコイイ方が……。そうだな……。『3号』……。サンゴーなんてどうだ!?」


「3号? まあ、いいんじゃないですか?」


 馬鹿の考えることは理解できない。そう4番は内心答える。


「お前も『ヨンゴ―』にしろよ! ぜってーそっちの方がカッコイイって」


「では、4号で」


 どっちでもいいよ。4号は静かに鼻から息を吐き出した。


「でよー、ヨンゴー。これからどうする?」


 3号は完全に優男のことを信用している。


「そうですね……。彼女、一人暮らしですか?」


「え? ああ、どうだったかな?」


 服を着始め、さあ? と首を傾げた。


「困りましたね。警察に動かれるのはマズいんで。大事なことなんですけど」


 確かになーと、腕を組んで思い出そうと試みる。


「んーと、そうだなぁ……。ああ、思い出した!! コイツ、一人暮らしだ。ここ来る前にウチに来るかって話になったから。たぶんそうだ」


 そうだ、そうだと3号は頷く。


「それは良かった。それじゃあ、彼女のウチだけで済みそうですね」


「何すんだよ?」


 まったく頭を働かせない3号に4号はいい加減、苛立ちを覚え始める。


「何って、決まってるじゃないですか。この子の親を殺すんですよ」


「ん? ――ああ!! そりゃそうか!!」


 捜索願とか出されたら面倒だもんな。


 ようやく理解した3号に優しく微笑む。


「そうですよ。それに……」


「それに?」


「この子はこれだけ可愛いんですよ。母親もどんな顔か見てみたいじゃないですか……」


「ああ……。確かに……」


 4号は彼女のその柔らかな頬を撫で、慈しむように髪を梳く。そして、それは気になると3号も同意する。


「あと、単純に彼女の部屋でもう一発、ヤリたいんですよねぇ……」


 ハハハッと笑う4号に再び3号も邪悪な笑みを浮かべた。


「ハハハッ!! ド変態だなお前!!」


「軽蔑します?」


 そんなの決まってる。3号は再び犬歯を光らせた。


「んな訳ねーだろ。それぐらいじゃないと、こっちも困るってもんよ!!」


「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」


 2人の間に妙な絆が芽生えようとしている。


「そんじゃ、行きますか」


「ああ、待ってください」


 部屋を出ようとする3号を急ぎ制止した。


「なんだよ。まだなんかあんのかよ」


「彼女に服を着せないと」


 右手でベッドの上の彼女を指し示す。


「なんだよ。自分で着れねーのかよ」


 かったりぃなぁと態度に表す3号にその理由を説明する。


「彼女はまだ上手く体を動かせないと思うんですよ。なので、こっちでやっちゃった方が早いんですよね」


「なるほどね。そんじゃ、ちゃっちゃとやりますか!!」


 2人の男はテキパキと女性に服を着させていく。そしてそのまま、3号の車に乗り込んだ。行先はもちろん少女の家だ。ホテルからは従業員が忽然と姿を消す。

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