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ホッグ・ノーズ -Bygone days-  作者: ひろひさ
梅竹義人の憂鬱

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3/17

藤川佳歩の困惑

 車を走らせ約20分。2人は義人の家に到着した。


「はい。到着でーす」


「ありがとうございます」


 そう言って義人は車を降りる。住宅街の一軒家、持ち家。自宅前に駐車可能な庭が有り、築うん十年。駅まで徒歩は遠すぎるものの、頑張ればいける。そんな距離。

 

 昭和の時代に建てられたことだけはハッキリとしているこの古い外観に義人は初めて恥ずかしさを覚えた。


 こんな家に藤川さんを上げるのかよ……。


 義人はボストンバッグを下げ、横に並んだ佳歩にチラリと目を向けた。


「すみません。古い家で……」


「何言ってるんですか。むしろ、うちの実家と良く似ていて、とても安心しましたよ。今時の綺麗な家だったらどうしようって思ってたぐらいなんですから。おんなじような感じで良かったです。ホッとしました。落ち着きますよ」


 かわいっ。


 屈託のない笑顔を向けられ、思わず、天使だ……。と内心喜んでいる義人であったが、彼女の実家は確かに古いがこの家よりも遥かに大きく、長い歴史を感じさせる立派な風格がある。とても周りの家々と同じような大衆住宅ではない。


 さらに初めて見るような感想を述べているが事前資料として外観、家までのルートは完全に頭に叩き込んであった。現在、父親は会社に、弟と妹は学校に居ることも把握済みだ。


 お目付け役が藤川さんで良かったと心底思いながら義人は鍵を回し、玄関の重い扉を開く。すると、


「ガシャン!!」


 という耳障りな金属音を立てて扉が中途半端なところで止まり、開かない。横から覗くと、鈍く光る1本の鎖が扉の開放を阻害していた。


 なんだよ、まったく……。藤川さんが送ってくれるって電話しただろ?


 めんどくさいなーと思いつつ、義人はチャイムを鳴らす。


「ただいまー!!」


「ああ、ごめんねー!! いま開けるから」


 すると、奥からパタパタスリッパを鳴らし、義人の母親がやって来た。


「すみません……」


 義人は頭を下げ、扉を閉める。


「いえ、当然です」


「?」


 そう言った彼女の言葉を義人はすぐには理解できない。


「はい、お待たせしましたー」


 玄関が解放され、義人はようやく我が家へと足を踏み入れる。


「ただいまー」


「はい、おかえりー」


 母親の恰好が家族に見せるラフな物ではなく、一見して来訪者の存在を告げる装いであった。


「初めまして。わたくし、本日より義人さん、並びにご家族の皆様のフォローを勤めることになりました藤川と申します。以後、よろしくお願い致します」


 玄関に入るなり、折り目正しく白い名刺を両手で差し出す。


「頂戴いたします」


 彼女の纏う雰囲気が変わり、驚く義人をよそに大人たちは話を進めていく。


「どうぞお上がり下さい」


 そういってスリッパを彼女の足元へとそっと置く。


「ありがとうございます。失礼致します」


 佳歩は靴を脱ぎ、上がり框のスリッパへ足を通すとゆっくりとしゃがみ、脱いだ靴を揃え、爪先を玄関の方へと向けた。


「……」

 

 その一連の動作がとても優雅で美しく、思わず白百合の花を幻視する。


「どうぞこちらへ」

 

 母親はぼさっと突っ立ったままの息子を無視し、客間が無い為、佳歩をリビングへと通す。


 なんか大人だ……。


 関心しつつ義人も横着に靴を揃えながら脱ぎ、2人の後を追うのであった。




 狭いリビングで3人は使い込まれたテーブルに母子で並び、その前に佳歩が座る。 


「それでは再度、改めて政府の方針とご家族の皆様の今後についてご説明させて頂きます」


「はい。よろしくお願い致します」


 母親は答えた。


「ではまず初めに政府の方針ですが、現在確認されている情報を元に政府は国内及び諸外国には義人さんのような超人は存在しないと結論を出し、義人さん並びに笹川優人さんを世界初の超人と認定致しました。ですが、これが公になれば国内は元より諸外国に不要な混乱を招くと考え、政府はお二人の存在を秘匿することと致しました」


「はい……」


 母親の声色に緊張の色が混じる。


「とは言ってもどこかに拘束、監禁するといったことはございませんので、ご安心ください。そもそも、お二人の力に耐え得るだけの施設はございませんし、建設の予定もございません。建設をするのにもコストが掛かりますし、そういった施設を造る方がかえって存在を公にしてしまうようなものですので。ですのでご家族の皆様には安心して今まで通り、こちらでご生活して頂ければと思います」


「そうですか……。良かった……」


 心の底から安堵したようで、母親は顔の緊張を僅かにほぐす。それを見て初めて母がそこまで心配していたのかと知り、どこか浮かれていた自分に罪悪感を覚える義人であった。


 そっか。そうだよな……。もしかしたら引っ越せとかって言われるかもしれなかったんだもんな……。


 そんな親子の姿を見た佳歩は自然と優しい声を掛ける。


「ご心配でしたよね。息子さんの身に突然こんなことが起こってしまって……」


「ええ、もう本当に。どうなることやらって感じで……」


「そうですよね。前例はありませんし、相手は国ですもんね。機密保持の契約の件もありますし……。どうすればいいのか。どうなるのか。不安でしたよね」


「はい……。もう本当に……。一生分の苦労が一遍に来たような、そんな感じで……。正直、生きた心地がしませんでした……」


 母親は大きなため息をつき、張り詰めた空気を僅かに緩める。


「ご心労お察し致します。ですが、ご安心ください。我が国は法治国家です。なんの罪も犯していない人間を無理やり閉じ込めたりは致しません」


「はい。それを聞けて、安心しました」


「…………」


 ようやく二人は笑みを零す。それに釣られ、義人の顔も僅かにほころんだ。


 フッ……。任務成功……。


 佳歩は心の中で静かに呟く。


「それでは本日はお父様もいらっしゃいませんので、今後の義人さんのお体のケアであったりだとか、まあ……その、能力の研究ですね。ご協力頂けるようでしたら金銭も発生致しますので、契約書の取り交わしもしなくてはなりません。どのように進めていくかという点も含めて、そちらのお話はまた後日でということで、よろしかったでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


 能力の研究……!!


 ようやく聞けた心躍るワード。白衣を着たメガネの研究員たちの驚く顔を想像し、義人は心の中でひっそりと破顔した。


「それでは日程の方なのですが……急で申し訳ありませんが、今週の土曜日などはいかがでしょうか? 主治医も同席してのご説明となりますので、また日程調整をさせて頂くかもしれませんが、いかがでしょう?」


「はい。それで大丈夫です」


「それではまた詳しいことが決まり次第、ご連絡させて頂きます」


 するとそこで、彼女の携帯が着信を告げる。


「申し訳ありません」


 一度断ってから床に置いていた鞄から携帯電話を取り出す。着信相手は上司からであった。


「申し訳ありません、上司からで。少しよろしかったでしょうか」


「はい。もちろん」


「ありがとうございます。失礼致します」


 佳歩はゆっくりと立ち上がり、椅子を中にしまい、廊下に出てから受話器ボタンを押す。


「はい。藤川です」


 彼女が部屋を離れ、肩の力を抜いたのも束の間。疑問符だらけの顔で戻ってきた佳歩は訳が分からないといった声で二人に問い掛けた。


「すみません……。テレビを点けてもよろしいですか?」


 取り繕っているのであろう。上げた口角が怒りで痙攣を起こしている。


「ああ、はい。テレビですか? 何チャンですか?」


 義人はリモコンの赤いボタンを押す。しばらくした後、画面に映像が映し出された。首相官邸会見室だ。テロップには『総理、緊急記者会見』とある。

 

 まさかな……。

 

 義人はそんな馬鹿なと思い浮かんだ最悪のシナリオを否定する。福山総理が壇上に姿を現した。テレビの音が世界を支配する。


「只今より、福山内閣総理大臣による記者会見を行います。始めに総理から発言がございます。それでは総理、よろしくお願い致します」


 感情を抑えた女性の声がテレビから流れてきた。


「はい。えー皆様、こんにちは。突然のことで驚かれたかと思われますが、我が国の国防に対する重大な懸案事項が発生致しましたので、緊急に会見を開くことに致しました。えー、まず初めにお伝えしたいことは、これからお伝えします情報は現時点で判明している事実を全て、余すことなくお伝えすると共に、今後の対策も併せてお伝えさせて頂きます。ですのでどうか、くれぐれも国民の皆様におかれましては、詐欺や誤情報に踊らされることなく、政府が発信する正しい情報を元に、冷静に日常生活を送って頂きたいとお願い申し上げます」


 キーボードを打つ音が徐々に小さくなっていく。


「えー、本日、午前11時23分。日本政府と致しましては、超人、いわゆる人知を超えた能力を有する新人類が誕生したことをここに認め、発表させて頂きます」


「え?」


 義人の口から間の抜けた声が漏れる。


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