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ホッグ・ノーズ -Bygone days-  作者: ひろひさ
パルプ・フィクション

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21/22

イコライザー

 義人と大使の会談当日。12月28日、木曜日。午前2時23分。東雲邸。1人の赤子が産声を上げた。


「ああ……、産まれた!! 産まれたぞッ!! これでついに揃った!! 超人部隊の完成だ!!」


 泣き叫ぶ我が子。16人目の超人を4号は天高く掲げ、邪悪な笑い声を上げた。


「お疲れ、胡桃。これで決戦の準備は全て整った」


「お役に立てて……、嬉しく思います……。旦那様……」


 それだけ言うと、疲れ切った彼女のことなど、もう眼中にはないようだ。早速産まれたばかりの子供に触腕を刺し、強制的に成長させる。


「さあ、早くコイツを育てて、最強の殺戮兵器にするぞ!! 来たる31日!! この町を地獄の炎で焼き尽くす!!」


 安っぽい敵役のようなセリフを由美、琴葉、文乃、胡桃、恵、綾乃。そして部屋の隅に控える4つの影が、その言葉を脳の奥底に刻み込む。その日、世界は大きな変革の時を迎えると。


 4号は笑う。彼は白い天井に向かって笑い続けた。






 12月31日、日曜日。午前9時59分。義人は佳歩が用意した1Kのアパートで天井をぼんやりと眺めていた。


 駄目だ。やる気が出ない。


 周りの家々もしんと静まり返り、年末の空気を存分に味わっている。義人も筋トレメニューを一通りこなし、冬休みの課題に取り掛かろうとしたのだが、途中で集中力が途切れ、畳んだ布団の上に横になっていた。


 勉強なんてしたところでなぁ。もう意味なんてないだろ。この作業になんの意味があるんだ。


 別に大学へ進学する訳でもない。高校ももう行くことはできないだろう。そもそも高校へ進学したかった訳でもない。ただ、それが当たり前だったからその流れに乗っただけだった。だが、今の自分は違う。これからどう生きていくのか。この力とどう向き合っていくのかを真剣に考えて行動しなくてはならない。


 このまま総理の下で技術協力員。内閣府特命広報官として働き続けるには学歴が必要なのだろうか。そもそもそんなことを望まれているのだろうか。自分はこれから何をしていけばいいのか。


 うーんと悩みながら足をバタバタさせていると、携帯が着信を告げる。佳歩からだ。


「はい。もしもし」


 なんの用だろう。まさか、デートのお誘い!? なんてあり得ないとは思いつつも僅かばかり期待し、通話ボタンを押す。しかし、佳歩の声色はそんな幻想を打ち砕くものであった。4号が動いたのだ。


 急げ!!


 義人は部屋着から黒のコンバットウェアに着替え、バラクラバをポケットに突っ込む。そして106号室の部屋から飛び出すと、ちょうど黒塗りの車がやって来た。それに流れるように飛び乗ると、車は中央署に設置された作戦本部へと向かう。4号は義人との会話をご所望だ。






 通称、4号。本名、冴島幸助さえじま こうすけ。年齢、34歳。1974年11月8日生まれ。ドラッグストア勤務。身長体重共に中肉中背と評される見た目をしており、超人化前は両親とともに同居していた。


 彼には両親の他に2歳年下の弟がおり、彼は東京の大手企業のグループ会社に勤務。先月の11月11日に2年間交際していた女性と結婚。当初は不仲ということもあり、式への出席を拒んでいたものの両親からの説得で渋々承諾。この時ほど彼は『一体自分は何をしているんだろう』という今まで経験したことのないほどの劣等感を感じ、己の無力さ。無能さを恥じる。そんな時、彼は異能に目覚めた。異能は彼を変身させる。まるでさなぎから羽化した蝶のように美しく、その見た目さえも。





 午前10時25分。義人が作戦本部に到着した。


「お待たせしました」


 次の電話は午前10時半に掛かってくるとのこと。なんとか間に合った。そう安堵したその時、設置された白い固定電話がけたたましい着信音を静まり返った会議室に響かせる。どこからか入ってきた冷たい風が義人の傍を通り抜けた。予定よりも早過ぎる。それは義人が中央署にやって来るのを待ち構えていたということだ。確かに顔は割れている。警察官数名が外の様子を確かめるため、急ぎ部屋を出た。


「梅竹さん」


 そんな中、佳歩は声を掛ける。


「はい」


 義人は駆け寄り、受話器を持ち上げた。


 この向こう側にあの白い触腕。自分の頭を撃ち抜いたヤツがいる。しかもどういう訳かこちらの動きが筒抜けだ。


 緊張しつつも冷静に、相手に舐められないよう意識し、声を発した。


「もしもし」


「やあ、ヒーロー。初めまして。予定よりも少し早いけど、問題ないかな?」


「もちろん。構いませんよ」


 捜査官らもこの会話を録音し、聞いている。何かあれば義人に指示を出すつもりだ。


「それは良かった。それじゃあさっそく、本題に入ろうか」


「本題、ですか」


 やけに早いな。


 焦っているようには感じられない。本人の性格なのかと義人は想像する。


「そう、本題。今から10人の超人を市内に放つ」


 その瞬間、室内がざわめいた。捜査官が関係各所に連絡を始める。


「スタート地点は、もちろんこの家。俺が今どこにいるかぐらい、把握しているんだろう?」


「東雲家ですか」


 ルートもすでに確認済みだ。いつでも飛び出せるよう、足に自然と力が入る。


「そう、正解。で、この超人たちに俺はとにかく暴れろという命令を下した。だからまずはそうだな。この家のご近所さんたちが死ぬことになるのかな?」


 誰かが周辺住民を避難させるよう指示を出す。


「それで、自分はそれを止めればいいという話しなんですね?」


 男の目の前で戦い、肉を斬り、地面に血を撒き散らす。そんな光景を見て高笑いする下種野郎の顔を想像する。


 虫図が走る…………!!


 義人はこの男のことを心の底から軽蔑した。


「そうだね……。いや、5人だ。5人だけでいい。5人仕留めたらこのうちに来てくれ。最後は俺と、1対1で勝負をしよう」


「解りました……」


 何が1対1だ……。速攻で捻り潰してやる…………!!


 義人の目に決意が宿る。


「それじゃあ、よーい。スタート」


 義人は電話が切れると同時にマスクを被り、部屋を出ると、そのまま窓から飛び降りた。


「梅竹さん!!」


 佳歩の呼ぶ声は届きはしたが、止まることはできない。この状況をなんとかできるのは自分しかいないと理解しているからだ。


 10人中、5人でいいってことは、実際に動かすのは5人だけってことなんじゃないのか!?


 例えそうでなくても自分が触腕を使って市内を最短距離で突っ切り、東雲邸へと向かう。そして無力化。これが被害を最小限に抑える最適解だと信じていた。


 待ってろよ!! クソ野郎!!


 触腕を周囲のビルへ貼り付けながら、義人は町を縦横無尽に駆け抜ける。

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